第26話 勇者が連れて来た者
二日続けて投稿できました。
今回は物語が動く回でもあります。
そういえば、あの勇者何で攻撃して来なかったんだろな?
あれか?ヒーローの変身中は攻撃しないっていう美学がこの世界にもあるんかな?
『ふひ…ひひひひ、あるじぃ…どう見ても、ヒーローは向こうだぞぉ』
な、なんだとぉ!……いや、否定できねぇわぁ。
で、でもあいつの鎧とか剣とか明らかにあれ材質骨だろ!あいつも十分悪役だろ!?
骨装備のイケメンと肉装備のカニならどっちもどっちじゃね!?
『そ、そんなことより。い…良いのか?あるじぃ、勇者の仲間が来たみたいだぞぉ』
あー、もう!絶望を上乗せすんじゃねぇよ!勇者だけでもどうにもならんのに、どんな奴らだよまったく!空気読め!
勇者以外は…みんな女だな、大人の女性一人と小さい女の子二人。
大人の女性は華奢でしなやかな体に黒いローブを纏い、腰には布で出来た小袋、そして手には長い杖。なるほど、随分と分かりやすく魔法使いな見た目だ。
そして…小さい女の子の方は…え?いやいや、流石にこの子は忘れないわ、何でこんな所に…というか、何で勇者と一緒に居るんだ?
そこに居たのはスナガニ時代に俺を捕獲した女の子、カーラだった。
しかしその隣りに居るもう一人の女の子はカーラのお姉ちゃんでは無い。カーラよりも少しだけ背が低く、豪華なロリータファッションに身を包んだ女の子だ。
そしてその女の子の無表情な顔にも覚えがある。覚えはあるが…あの時に比べてデカ過ぎる。しかも何で自律して動いてんだ…あのドール。あれも魔法道具だったのか?
そう、それは紛れも無くカーラのお人形だった。
球体関節が独りでに稼動してカーラと歩を合わせている姿は人によっては恐怖を覚えるだろう。まぁ…ドールオーナーなら嬉しいのかもしれないが…俺には分からんな。
そしてそのドールが手に持っている物にも驚いてしまった。ドールの背丈とは不釣り合いな厳つい弓。あれはカーラのお姉ちゃんが使っていたものだ。
それと同時に理解した。勇者を制止していたのはそのドールだ。つまりカーラがドールに勇者を止めさせたという事だろう。
カーラは…こんな姿になった俺でもちゃんと分かってくれたんだな。あの時のスナガニが今の俺だって事を。
「あの時のカニさん。んーん、ベートカ…で良いのかな?」
カーラが俺に話しかけてくるのだが、伏し目がちに喋るその声色からは以前の様な元気が見られない。あの放火魔の鳥、ナパームが残した爪痕は余程深かったのだろう。
「皆…皆ね、村にナパームを呼んだのはロベリアで、ベートカはロベリアの手下だって…言うの。ベートカを村に連れて来た私はね……たくさん…叩かれたよ。お姉ちゃんは…私を庇って…もっと…たくさん………もう…ひっ…く…ぅぁぁ…ぁあぁ…ぐすっ…」
そう…か、復讐に来た…か。それで勇者連れて来た、と。
人間やめたつもりで居た俺でも言葉に詰まって呆然としてしまう。カーラに殺されるような事があっても…反撃は出来そうにない。
しかしカーラの口から出た言葉は意外なものだった。涙を堪え、吐き出すようにしてカーラが叫ぶ。
「私!……私ずっと言ってたのに!違うよって!私見てたもん!ちゃんと…ひっく……ベートカの事、見てたもん!」
カーラはその後また泣き出して言葉が出なくなってしまった。カーラの言いたい事を補足してくれたのは隣に居た魔法使い風のお姉さんだった。
「…ふぅ、ベートカ、だったかしら?人の言葉は分かるのよね?…その子は村人に迫害されていた所を私とラフロイグで保護したのよ。魔力が濃い子だったし、弟子にしようかしら…なんて思ってコツ教えたりとかして…て、まぁ、そこは本題じゃないわね」
お姉さんは唇に指を当てながら「つまり…」と呟き言葉を探す。
「人里には置いておけないから連れて来たのよ。言ってしまえばそれだけね」
お姉さんがそれで言葉を切ってしまった事で勇者…ラフロイグがため息混じりに会話に入ってきた。
「リベット、それでは不足だ。カーラの話ではナパームを追い払ったのがベートカだって話だったろう。俺らはその真偽を確かめに来た」
「あら、ラフロイグがたった今殺そうとしてたのがベートカじゃないのかしら?先走って魔物を皆殺しにしようとしてたあなたに言われる筋合いは無いわ。脳筋勇者さん」
「人間を食べた魔物に慈悲をくれてやるつもりは無い。それにベートカには剣戟が当たらないという情報も有った。俺の斬撃を避けれたらそいつがベートカだ」
「それが脳筋だと言うのよ。見習い騎士とあなたでは剣速が違い過ぎるじゃない」
「だが…こいつはちゃんと避けたぞ。だからこいつがベートカだ」
「…はぁ、まぁ良いわ。今はそれで良い」
…いやいや、良くねぇわ。こっちはそれで死にかけてたんだぞおい、なぁおい、なぁって、クラスメイトも一人殺されてんだぞ。
カーラを助けてくれた事には感謝するがこの勇者は好きになれそうにない。
「さて、用があるのはベートカだけだ。ロベリアは斬ってしまって構わんのだろう?」
構うわ!俺が何の為に戦ってたと思ってやがる。やはりここは徹底抗戦しか無い。俺を殺すつもりが無いのなら囮になるのはやはり俺だ。
なんて息巻いていた俺だったがこの窮地を救ってくれたのはまたもやカーラだった。息を調え直したカーラがラフロイグを止める。
「んーん、ロベリアは…ベートカを守りたいだけみたいだよ。ベートカに危害を加えない限りは人間を襲うつもりは無いって」
ん?何でカーラはロベリアの事が分かるんだ?っていうか、それが本当ならロベリア俺の事好き過ぎじゃね?
「プルメリア…あ、この人形が…ロベリアとお話出来るって言ってる」
カーラのその言葉に驚いたのは俺よりもラフロイグだった。俺はというと、実は一つ心当たりがある為逆に納得してしまっていた。
「魔物と意思疎通出来るのか!?」
「あ…うん。プルメリアの道具の一つがね。何故かロベリアと融合してて、プルメリアからロベリアの意思が伝わってくるの」
「それなら…俺にとってはベートカよりもロベリアの方が貴重な存在かもしれないな。魔王の事について何か知らないか?」
なるほど、そういえばラフロイグは俺とも意思疎通をはかろうとしていたな。
まぁ、それもそうか、魔王を倒して終わったと思っていたのにこの魔物騒ぎだ、魔王が生きているんじゃないかと思うのも頷ける。
だが残念だな!俺らは魔王なんて知らないんだよ!
「あのね、魔王は封印された振りをして異世界を物見遊山してたらしいよ」
ロベリアさん何で知ってんのぉ!?
君が知らないのはね、授業中寝てたからだよ?
さておき、勇者の名前、魔法使いの名前、ドールの名前、色々出てきましたね。
ちなみにドールに名前を付けさせたのはリベットさんの指示です。