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第25話 勇者


「驚いたな…」


 その男は俺を見つめて静かにそう呟いた。


「俺の縮地を見破った…のか?」


 縮地?何それ?いやいや、お前何言ってんの?お前が話かけてんのカニやぞ?ちょっとばかしデカくてタコ足纏ってて砲塔くっついてるけどただのカニやぞ?

 ……あかん、自分がカニなのか自信無くなってきたわ。こんなカニいねぇわ。


「縮地の極意は速さじゃない。相手に悟られずに動く事だ。俺の動きが見えたのか?」


 いやいや、見えて無かったわ。ただの勘だわ。

 っていうかこいつ頭おかしいんじゃねぇの?カニが返事するとでも思ってんの?


「分かってるぞ、お前たち魔物は人語を理解する。ゆえに聞きたい事がある。…お前たち、何故まだ居るんだ?魔王は俺が倒したはずだ」


 ……………ほわぁ!!?

 ちょ!待って?魔王?倒したって言った?え?こいつ勇者なの?

 おいおいおいふざけんなよおい!普通勇者って転生したやつがなるんじゃねぇの?何で転生した俺が魔物で勇者が普通に居るんだよ!

 サンショウウオを問答無用で両断したところを見るにこいつは敵ってことだろ?魔王倒したとか言ってる奴に勝てるわけねぇだろクソがぁ!


「ふぅ…人語は解しても返事は出来ない…か」


 あ、あ、待って待って、剣構えないで!交渉の余地があるならどうか見逃してくだせぇ!お代官さまぁ!

 クラスメイトの仇じゃないのかって?知った事か!サンショウウオは俺らを殺そうとしてたんだからそんな恨みはさらさらございませんよ!


『ふひひ、主の小物臭…好きだぞぉ』


 ああ、ありがとうよ!生きるのに必死なだけだけどな!

 とりあえず勇者様に返事せんとな、つっても筆談しか出来んが。対話する気がある事だけは示さねばならんだろう。地面直接引っ掻いて文字書くか。


『マオウ シラナイ』


 勇者は俺に対話の意志を感じると剣を降ろして興味深げに俺の書いた文字を観察する。…が、直ぐにため息を吐いた。


「やはり魔物の言語は分からんな。話はここで終わりだ」


 うおーい!待ってって!何でまた剣構えてんだおい!


「お前、人を食っただろ。魔力の質で分かる」


 はうあ!奇跡的に会話成立!?いやいや、嫌々食ったけども、あれは向こうが先にだなぁ。って言っても通じませんよねぇ!

 テルマ、避けるのに専念するぞ!砲撃はどうせ効かんだろ。


『う…お、おう…同意見…だ』


 集中、集中だ。俺の危険察知能力と瞬足があればきっと避けれる。…たぶん。

 縮地っつったか?相手に悟られずに動くっていうのが良く分からんが、要は…だ。


 …………今だ!奴の気配が消えた!奥義、ただの横走り!

 俺は目が良いから奴を見失うはずが無い、なのに見失ったって事はだ、そのタイミングこそが奴の技の入りだってことさ、どうよ、この俺様の洞察力。

 スナガニの走力は同サイズの生き物なら最速!素早く右へ移動だ!ふへへへ、流石の勇者様もこの快速カニ戦車の速度は見切れまい!


 …ん?なんか世界が左に傾いてんな…おや?おやおやおや?左脚が1本も動かないぞ?歩脚は3本あるはずなんだけどなぁ?

 ……ふぇ?ふぁぁああ!?左脚が根こそぎ無ぇじゃねぇか!タ…タコ足で補強だ!急げ急げ!って、タコ足鎧もボロボロじゃねぇか!あの一瞬で何回斬ってんだあのチート野郎。胴体にダメージ無いのが奇跡だわ!


 それでも何とか、失った歩脚を補うくらいには鎧から触手が生えてきて体を起こす事に成功した。でも全力で走れるかって言われると…期待は出来ないな。


「驚いた…また躱されたな。マグレでは無さそうだ」


 いや当たってるし!斬られてるし!躱せてねぇーし!

 殺せて当たり前みたいに思ってんだろうなぁこの野郎はよぉ!

 ロベリアの助け…は期待できねぇな。勇者は速さも攻撃力もアホみたいな強さだ。ロベリアの分厚い甲殻も一撃で切断出来るみたいだし、遅いロベリアでは相手にならない。


 …だと言うのに、何でロベリアさんこっちに向かってるんですかね?あんな簡単に鋏脚を切断された時点で勝ち目無いの分かってるでしょうに。

 はぁ…、モテる男はツラいねぇ。


『ど…どうするんだぁ?あるじぃ…』


 ロベリア止めるしか無いだろ?来たって無駄死になんだからさ。


 そう決めた後の行動は自分でも驚くくらいに早かった。足の速さしか取り柄が無いんだ、ここで走れないのでは男が廃る。

 タコ足では思うように走る事は出来なかったが、それでもロベリアに向かって体当たりするくらいは何とか出来た様だ。


 勇者も俺の行動は予想外だったらしい。仲間を助けようとする魔物には出会った事が無かったようだな。勇者の斬撃は空を斬るだけに留まった。

 俺はというと、ロベリアに全速力で体当たりしてサンショウウオの亡骸の所まで押し返す事に成功した。サンショウウオの後ろに隠れなおしたところであまり意味は無さそうだけど、まぁ…何も無いよりはマシだろう。少しくらいは永く生きてほしい。

 願わくば…ロベリアが逃げ切るくらいの時間稼ぎが出来れば俺の人生…カニ生か?どっちでも良いけどな。俺のカニ生も上等な物だったと胸を張れるというものさ。


『主、主、あるじぃー…姉御も…多分だけどな?同じ事…思ってるぞぉ?』


 ふぇ?………ふぇええええ!!ロベリアの殻がボロボロと…って、脱皮!?ロベリア脱皮してる?何で突然!?

 …あ!良く見たらサンショウウオの上半身ボロボロになってる!?そうか、隠れてるフリして食ってたのか。ひゃー、クラスメイトだって分かってて食べますかねぇ。

 普通のカニだった時も魔力摂取で成長したし、他者の魔力を奪うのが成長の近道って事なのかな?魔物っていうくらいだからな、魔力量は多そうだ。


 ただでさえ大きなロベリアの体が更に巨大化していき、失ったはずの鋏脚も復活していた。というか、大きくなり過ぎじゃないですかね?前の倍くらいありません?

 元々体高だけで人間と同等の高さが有り、全長となれば人間なんて遥かに凌駕するサイズだったロベリアがほぼ倍のサイズに、これもう俺上に乗れそうだな。


 …それでも、如何せん脱皮したてでは体に強度が無いはずだ。勇者の攻撃に耐えられるはずも無いだろう。

 ここはやはり速さのある俺のが適任…だとは思うのだけど。脚はボロボロ、タコ足鎧もボロボロ、ろくな弾丸も無い…となれば俺も似たようなものかもしれない。


 ……あ、ある、あるじゃないか。いや、やってみないとどうなるか分からないけど。

 サンショウウオの残りの亡骸に対してスキル発動、鎧生成。


 サンショウウオの体が波打ち、凝縮されながら俺の体に纏わりつく。元々着ていたタコの鎧に吸着し、まるで接着剤の様にタコ足鎧を修復しだした。

 タコとサンショウウオが混ざった鎧を纏うカニ。これは…討伐されても文句言えない見た目になっちまったなぁ。


【マリの鎧、生成完了】

【サトルの鎧と融合しました】


 マリ…。女子だったか。マリは知ってる、クラスでも目立つ奴だったからな。

 弁当食べた後で毎回デザートまで持参して幸せそうに食べていた食い意地の張った奴だ。ちょっとぽっちゃり系だったけど割と男子から人気があったのを覚えている。



 …っと、しんみりしてる場合じゃないな!続けて鎧生成!対象は切り落とされたロベリアの鋏脚だ!これで外骨格も補強されれば再び走れるはずだ!


 ロベリアの、ヤシガニのガッシリとした鋏脚の甲殻がバラけ、俺の甲殻に添う形で補強されていく。具体的には俺の脚と…砲塔だ。

 失った脚はロベリアの甲殻で復元され、その中にタコの筋肉が入る事で新しい脚を形成していく。鎧というか、むしろ自分の体の拡張パーツを付けている気分になる。

 砲塔は俺の後ろ脚から砲塔全体に至るまでをロベリアの甲殻が覆い、補強されると同時に口径が拡張された。

 赤と黒のサワガニカラーは鎧で大半が隠れ、逆にロベリアの青紫色のカラーが目立つ結果となってしまった。俺はいったい何なんだうなぁ。


【アヤメの鎧、生成完了】

【装填可能な弾が30mmから50mmになりました】

【サトルとマリの鎧と融合しました】


 アヤメ…か。ロベリアの本名アヤメって言うんだな。

 やべぇ…思い出せねぇ。目立たないタイプの子か?可愛いと良いなぁ。


『あるじぃ…意外と余裕あるな』


 命を賭ける相手だぞ?可愛い方がテンション上がんだろうが。


やっと出ました、勇者です。

作者的には重要なの勇者のパーティメンバーの方なんですけどね(ネタバレ)

そして勇者が追撃してこない理由は次で(笑)


それにしても、この主人公もはやカニと言っていいのかどうか(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] もはや主人公君かにでは無いなにかですね() なんですかこれ?() クラスメイトの名前が判明していってますねー。 最終的にどうなるのか楽しみです。
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