第24話 勝利の女神?
サンショウウオ戦決着回!
…なのですが、物語が動く回でもあります。
目の前ではロベリアとサンショウウオが相対する。俺の健闘も虚しく、二人の攻防はなおも熾烈を極めていた。
とは言っても見た目にはロベリアの圧勝だった。ヤシガニをそのまま巨大化させたようなロベリアは攻守兼ね備えたキリングマシーン、ギロチンを装備した動く要塞だ。
対するサンショウウオは鈍足で緩慢、攻撃手段は噛み付きのみであるにも関わらず牙すら無い。おまけにスマイルフェイスのゆるキャラだ。
しかしそれでも押されているのはロベリアなのだ。
何故か。そんなのは決まっている、デカいからだ。一撃で仕留め切れないサイズの化け物が常時再生するからだ。
いくらロベリアが同じくらい大きくて圧倒的に強くとも体力が続かない。徐々に劣勢になっていくのは当然の結果だと言えた。
弾を使い切った俺はただの早いだけのカニ。この戦いに参戦する攻撃手段すら無い。
俺の手札は自慢の瞬足と怪しいタコ足の鎧のみ、はてさてどうしたものか。
『あるじぃ?…弾丸て金属じゃないとダメなのかぁ?』
どういう事?その辺の倒木や岩でも弾丸にしろって?口径に治まるサイズの弾丸になっちゃうから直径30mmの木片とか石礫になるだけだと思うぞ?
『えーとなぁ…土とか…砂とか…なんていうか…砂利?』
ふむ?砂かぁ、でも言うほど重く無いし、強度も無くない?どゆこと?
『私もなぁ…説明は…難しいんだけどなぁ?劣化ミスリル合金は…その、砕け方が地味というかなぁ…潰れるような感じに割れただけ…だったし…な?』
ほほん?つまり、砂とか固めて弾にして派手に砕こうぜ!ってこと?
『ふひひ、そ…そう。そしたらな?細かいの…たくさん…な?』
まぁ、こうしてても仕方ないしな、採用だ!男は度胸、何でも試してみるものさ。
とうあ!地面に向かって弾丸生成!
【砂岩と砂利のキャニスター弾、1つ生成】
ホワッツ?何それ?カニのスター?ハッハッハ、正にミーの事じゃああぁりませぇんかぁ。カニ界のスーパースターたるこの俺様に相応しい弾が出来たようだなぁ?んん?
『ふひ、ふひひひ…。主は、自分に相応しいのが砂の弾で…い…良いのかぁ?ふひひ』
それストレートに傷付くやつ!とはいえ砂にはスナガニ時代にお世話になったからな、邪険にも出来まい。くぅ…本当に俺に相応しいと思えてきてしまったじゃないか。
『で、狙いはどうするんだぁ?あるじぃ?』
ん?分かってんだろ?砂ぶつけるとしたら当然アレだろ?
『ふひひひ、目…だなぁ?ふひひ』
ふふふふ、その通りさー。砂を目潰しに使うのはもはや様式美と言えよう。
『ふひ、ひひひひひひひ……ひゃっはぁー!良いぜぇ、良いぜぇ主様よぉ!溢れ出る小物臭が痺れるぜぇ!流石は我が主様だぁ!』
よし、褒め言葉として受け取ろう。
さぁ、撃ち方用意!派手に行ったれやぁ!発射ぁ!
『ひゃぁっはああぁあ!ふぁいあぁああ!!』
砲塔から撃ち出された弾丸を見て驚いた。まぁ、射出された弾丸を目視出来る自分の視力にも驚くがそれは今更なので置いておこう。
弾丸は完璧に円筒状で、砂を固めた様な石で形成されていた。
そしてどうやらその石の部分はただの薄いケースの様だ。射出された後そのケースは簡単に割れ、中から砂利が散弾の様に噴射されたのだ。
高速で撃ち出された砂利はサンショウウオの目の辺りに浴びせられた…が、しかしやはり砂利では質量も強度も今ひとつ足りないようだ。浅い…そして少ない。
ダメか…と、そう思いかけた時、俺の目に映った光景は意外なものだった。
サンショウウオが暴れ、苦しみもがいている。そしてしきりに自分の目を掻こうとするのだが…いかんせんその前足は短か過ぎて上手くいかない。
『ふひ?これ…もしかして…』
ああ、細かい砂利がいくつか目に刺さってるな。しかも残ったまま再生しちゃってる。これは相当な不快感だろう。いっその事潰して全再生させたいに違いない。
そしてやはりサンショウウオも自分の目を1回潰してから再生させようとして近くの岩に顔をぶつけ始めた。
『あるじぃ、これ意外と有効打なのではぁ?』
だな!ならば砂弾全装填だ!弾丸生成!
【砂岩と砂利のキャニスター弾、5つ生成】
よっし、畳み掛けるぞテルマ!
『よしきたあるじぃ!ひゃぁっはあぁ!形勢逆転だぁ!』
そこから先は一方的な暴力だった。
俺は持ち前の瞬足でサンショウウオとの距離を保ち、ひたすら砂利をぶつける。サンショウウオは苦痛に苛まれながらも暴れるがロベリアがそれを押さえ付ける。
…これは、あれだな。なんか虐めてるみたいに見えてしまうな。
事実これを人間に置き換えたら実に胸くそ悪い光景だろう。
とはいえ今はやらなきゃ自分たちが殺されるのだ。こっちにも決め手が無い事には変わりが無い…が、流石の再生力オバケでもこれを繰り返せば弱っていくはず。
さあ!追い詰められたのはお前の方だぞサンショウウオ!弾の材料は地面にまだまだ転がっているからな、撃ち放題だ。
不利だと思われた持久戦だったが勝利の女神はこちらに微笑んだな。…いや、アドバイスくれたのはテルマなんだから勝利の寄生虫か?まぁ、どっちも大差あるまいて。
なんて、勝利を確信したその時だった。
その勝利は予期せぬ形で訪れた。…訪れて…しまった。
俺には見えていた。木々の間を抜けてこちらに近づいてくる4つの人影が。
しかし大した事では無いとも思っていた。今更人間に負ける事も無いだろうし、相手は4人だ、俺らに気付いたらきっと逃げ出すに違いない。
目の良い俺ですらまだその人影の顔を確認出来ないような距離、人間が俺たちに気付くのにはもうしばらくかかるだろう。…と、そう思っていた。
その人影が…3つに減るまでは。
一人消えた?カニである俺の視力を掻い潜る速度で動いたっていうのか?そんな事が可能だろうか?何か仕掛けがあるのでは?…いや、見失ったのは事実だな。
俺の視力を上回る速度で動く相手だ、見てから避けたのでは遅い。そう理解した瞬間、俺は本能でその場から飛び退いていた。
その次の瞬間だ。サンショウウオの胴体が上半身と下半身に綺麗に切断され、ロベリアの鋏脚が片方地面に転がった。
ロベリアが反応して後ずさったのは地面に転がる自分の鋏を確認した後だった。
そしてその傍らに立っていたのは一人の男、歳は20台後半といった所だろうか、身にまとった鎧は防御力よりも動きやすさを重視した簡素な造りで、真っ白な金属であるにも関わらず光沢は無く光を反射しない。むしろ光を吸い込んでいるような不気味さすら感じた。
その男の手には同様の金属で造られた一振りの剣。刀身と柄が別れておらず、全てが一つの金属から削り出しで造られているように見える。
いや…あれは金属じゃないな、骨…か?
そう理解した途端寒気がした。あいつは普通の人間じゃない気がする。
出ましたー。人間です。ここまで強い人間は初登場なのではないでしょうか。
作者はB級モンスターパニックが好きなのでモンスターを強く書きがちだったりします(笑)