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第3話 大量カニ破壊兵器

今回はファンタジー要素を盛り込んでます。

そしてフラグも盛り込んでます(笑)


 余裕、全てにおいて余裕。この世の全てはここにあるのだ。



 お一人様用の岩陰を手に入れ、サワガニ生活を学んだ俺に死角は無い。

 他のサワガニの侵入も許さない、ただちに追い払う。

 そう、ここが…こここそが俺のベストプレイス!


 ……まぁ、適当に逃げ込んだ岩陰に誰も居なかっただけなんだけどね。

 それでも自分が生きていくのには十分な居住性だ。


 岩だらけの浅瀬は隠れ放題、水にも食料にも困らない。

 一時はどうなることかと嘆いていたが、攻略法さえ分かればサワガニ生活は意外とイージーなのでは無いだろうか。


 サラサラと流れる清らかな水で半身浴を楽しみ、岩の隙間からチョロチョロと流れ落ちる水はさながら打たせ湯の如し。良い、実に良い。

 ゆらゆらとゆらめく藻だって極上の…いや、これは妥協だわ。もっと良いもん食いたいわ。


 そうそう、例えばこういう、ね。高級食材の定番の、ね。カニのあ…し…ほわぁ!?

 え?え?ほわい!川に流されてきたけど何なん!?何でカニの足流れてきてんの!?

 は!俺の足!…あ、ちゃんと七本あるわ。一安心…じゃないわ!

 どういう事!?何で上流からこんなん流れて来たの?

 …美味そう、いや、いやいやいや、俺は共食いなんてしない!しないぞ!

 …しないけど、これはもうただの足だし、良いよね?

 自分も食われたんだ、仲間意識などもう消え失せたわ。



 んー…ちょっと硬いかな。かじってみたけど、これは硬いね。

 それならこう、岩の隙間にこの足を差し込んで、テコの原理で…よいしょお!


 小気味良い音を立てて割れたカニの足、中から出てきた綺麗な身!これこそが人間の知恵!って…そうだよ、俺人間なんだからカニ食べても共食いじゃないよ。

 うん、違う違う。じゃあいただきまーす。


 …


 ほ、ほあぁぁ、甘…うま…これは控えめに言っても今まで食べたものの中でも上位に入る旨さ!やっぱカニは美味い!



【「共食い」達成】

【進化先が追加されました】


 お?進化先増えた!?…って!だから共食いちゃうし!俺人間だし!

 そういえばこのカニの脚何で流れてきたんだろな?




「フゴオ!ゴォフ!」


 ん?何?動物の鳴き声?上流の方から聞こえて来たような?

 ちょっと覗いてみましょうか。いざとなったら岩の下に隠れれば安全だしね。



 豚の様な鼻、太い牙、茶色い剛毛、脂肪に覆われた丸い体型…あれは。

 イノシシだ!な、何でこんな所にイノシシが?

 いや、でもイノシシが居たって別にサワガニに害無い…よね?


 俺の期待を他所にイノシシは近くの岩をすくい上げると岩の下に居た何かをむさぼり始める。一心不乱に何かを食べている。

 そして少しして上流から流れてくるサワガニの足。


 わーい、カニの足また流れて来たー。って、これあかんやつ!!

 何?何なの?イノシシってサワガニ好きなの?食料的な意味で!

 うわー、岩のシェルター無意味やん。てか俺は岩だと思ってたけどイノシシからしたただの石ころも同然やん。簡単に退かされてるやん。


 離脱する?いや、もう遅い。今出て行ったら食われておしまいだ。サワガニの速度では逃げ切れない。同じサイズの生き物同士なら早い方だろうけど、イノシシには勝てない。

 ならばどうするか?ふふん、その答えは一つしか無い。


 神頼みだ!


 そのまま上流に行ってくれるように祈るしか無い。こっちには来ないでくれ!

 岩陰の奥に引きこもり神に祈るのだ!未だかつてここまで本気で神に祈った事があるだろうか?いや、無い!神様でも仏様でも良い、我を救いたまえ!



 その時、突如俺の体に優しい光が降り注ぐ。……あれ?神に祈りが届いた?

 天から降り注いだこの光に祝福を感じざるを得ない。

 え…光?今岩陰に居るはずの俺に何故光が降り注ぐのかしら?



「フゴオ!プギィィィ!」


 ひいやぁぁぁああああ!!イノシシ居るぅ!!


 岩退かされてるよ!詰んだよ!この世には奇跡も魔法もありゃしないよ!

 ここがファンタジー世界なら異世界転生した俺に突然素敵な力が目覚めてイノシシを撃退する流れだろ!?さぁ!早く!早く我に力をぉ!!



 そう願った次の瞬間、その願いは形として現れた。

 イノシシの前足、正確には前足の足首に光輝く魔方陣の様に見える輪が出現し、その輪が急速に縮むとイノシシの前足を縛り上げた。

 その輪から無数の光の蔦が生え、地面に根付きイノシシを拘束する。


「フゴオ!!ゴフ!ゴフ!」


 イノシシは興奮して暴れるがその光の輪が外れる事は無かった。

 暴れるのに巻き込まれて踏まれでもしたら困るのでもうちょっと離れた岩陰に身を隠し、現状を再確認してみる。


 何度見てもイノシシが魔法っぽい何かで拘束されているようにしか見えない。

 …これは、俺がやったのか?そうか、そうかそうか。なるほどな!よし!この技をシャイニングバインドと名付けよう!ふははははは!




「あ、お姉ちゃん、見て見て、くくり罠にイノシシかかってるよー」


 ん?人の…女の子の声?初めての人間。ってか、これ日本語?

 岩陰からそーっと顔を出すと川沿いを二人の女の子が歩いて来るのが見えた。

 一人はお姉ちゃんと呼ばれたパッと見で十五歳くらいの女の子。手には体に似合わぬ程に武骨で太い弓を持っている。

 そして妹っぽい方は十歳くらい?手にはお人形、甘ロリな洋服のドール。正直持ち主よりも服豪華じゃないですかね?君はそれで良いのかい?



「あら、本当ね、ここに仕掛けておいて正解だったわね」


 仕掛け?…あぁ、はい。ですよねー、この姉妹が仕掛けてたのねー。俺の魔法な訳無いですよねー。というか、俺の知ってるくくり罠とだいぶ違う。

 何がシャイニングバインドだ恥ずかしい、ごめんなさい、消えてしまいたい。


 それにしても、二人とも日本語だけど、ここ日本なん?

 …いやいやいや、あんな風に光るくくり罠なんて日本のどこに売ってんだ。ホームセンターにアレあるの?あるなら中二病患者大歓喜やで?

 それに二人とも金髪だし、どう見ても日本人には見えない。髪染めてるとしたらグレるの早すぎる。そんな子に育てた覚えはありません!

 …育ててないけどな。


 どう考えても異世界、だよなぁ。



「でも、カーラは家で待ってても良かったのに、そんなお人形まで持ち歩いて、汚れるよ?それ大事な物でしょ?」


「そうだよ、だからこの子にもこの綺麗な川を見せてあげたくてー、えへへー」


「もぅ、魔物が出たらどうするの?」


「出ないよー、魔物なんて山賊よりも遭遇率低いらしいじゃん?山賊すら見たこと無いんだから魔物なんて居ないよー」



 ふむ、なるほど。この世界には魔物が居る、と。ファンタジー世界確定だな。まあ、それはあの魔法のくくり罠見て確信してたけども。

 つまりは魔法もあるし魔物も居る、という事になる。

 しかし魔物の数は少ない、と。うん。実際に考えたらそりゃそうだよね。

 魔物っていうくらいだから普通の動物よりも強いはず。となれば生態系のピラミッドの上の方の存在だ。数が多いはずが無い。強い奴ほど数は少ない。

 そして同時に、人を積極的に襲わないのであれば統率してる魔王的なのも居ないのでは無いだろうか。ファンタジー世界で有りながらわりとリアルな世界なのかもしれない。



「魔王が討伐されてからは魔物も減ったらしいけど、居なくなった訳じゃないのよ?」


 魔王居たんかーい!俺の推理の時間返せよちくしょう。

 てことは何かい?勇者とかも居そうだなぁおい。

 普通なら異世界転生した俺が勇者になるんじゃないですかねぇ?何でカニ何ですかねぇ?あの時教室で何が起こったか覚えてたら何か分かったのかねぇ。



「はいはい、分かりましたーよーだ。それじゃあイノシシはお姉ちゃんに任せるから私はサワガニでも集めてるね」


「あら、良いわね。お父さん喜ぶわよ」


 …ほわっと?サワガニを?あー、お父さんにね?これはアレ だな?酒のツマミ的なやつだな?油でカラッと揚げるやつだな?分かるー、美味しいよねー。



 …いや待て!俺今正にサワガニだわ!一難去ったばっかだぞおい!

 女の子にお持ち帰りされるのは良しとしよう。だが油のお風呂はごめんこうむる!

 どうする?どうしたら良い?生き残る為の選択肢は?


 …ん?妹ちゃんイノシシの居る場所から離れて行くぞ。つまり俺から離れていく。

 ああ、そりゃそうだわ。俺はここから動かないのが正解だ。

 今からお姉ちゃんがイノシシ仕留めるんだから、近くでサワガニ捕りなんてしてたら邪魔になるもんな。



 さて、そうと決まったら俺はお姉ちゃんのイノシシ狩りでも見学してようか。

 女の子の細腕で弓引いてイノシシの厚い脂肪を貫通出来るものかねぇ。


 なんて思ってたけど、うん、心配無用だったようだ。

 女の子が持つにしてはやたらと太い弓、成人男性でも引ける人はあまり居ないだろうと思われるソレを女の子が軽々と引いていく。

 弓を握る手が僅かに発光している。あれが魔法なのだろう。

 この世界の魔法は道具に依存していて本人の魔力的なもので引き出している。という事で合ってるのかな。手から火出したり光線出したりするよりも現実的かもしれない。


 弓から放たれた一本の矢はイノシシの脇に深く突き刺さり、イノシシは活動を停止した。

 お姉ちゃんは深くため息をついた後、イノシシの血抜き作業にかかる。

 シャイニングバインド、もとい光るくくり罠が自動でイノシシを上方へと引っ張り吊し上げる。その際にもお姉ちゃんの手が光っていたからこれも魔法なのだろう。

 滑車とかロープとかがいらない。道理で女の子だけでイノシシを捕りにこれる訳だ。


 血を抜いた後はシャイニングバインドがイノシシの手足を縛り合わせ、そこを弓で引っ掻けて持ち上げる。あの弓は筋力の増強か何かだろうか?便利過ぎる。



「お姉ちゃーん、終わったー?私もいっぱい捕れたよー」


 そこへやって来た妹ちゃん。手には四角い透明なケース、あんなもの持ってたか?

 いや、それよりも気になったのはそのケースの中でうごめく大量の同胞達。ガシャガシャと足をばたつかせるサワガニ達を目の当たりにして軽く目眩を起こしそうになる。


 ああ…どうか安らかに成仏してください…。



「たくさん捕ったね。あれ?お人形は?」


「あ、危ない危ない」


 慌てた様子で人形を取りに行く妹ちゃん。どうやら近場の岩の上で座らせていたようだ。まぁ、流石に人形抱えたままあんなにサワガニ捕れんわな。




 そうして嵐の如くやってきたイノシシ事件と姉妹事件は幕を閉じた。

 姉妹が帰って行ったのを見てようやく一息、こんなイベント二度とごめんだ。


 油断させておいてまた来たりしないだろうな?

 そう思い岩陰から外を再確認した時、妹ちゃんが人形を置いてた場所にキラリと光る何かが落ちているのを見つけた。

 もしかしたら魔法道具を落としていったんじゃないか?それならゲットしない手は無い。

 サワガニに使えるのかどうかは分からないけどね。



 しかしその期待は全くの大外れ。危険を覚悟で確認しに行ったのに落ちていたのは人形サイズの可愛いアンティークカップ。エスプレッソ用のカップにも見える。

 花柄をあしらった可愛い深めのカップだ。どう見てもおままごと用。


 何かの役にはたつかもしれない、かな?かぶって身を守ったり、とか。


カニの天敵って色々居るけど人間もなんですよね。

美味しいですもんね。仕方ないね。


妹ちゃんの名前はカーラ。

持ってるケースも魔法の道具です。携帯時はコンパクトなキューブ状。

しかし物を入れた状態での収縮は出来ません。

そんな虫の良い話はございません(笑)

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