第23話 水中のサラマンダー
遅くなってしまってすみません。
サンショウウオが想定よりも強くて書いてる本人が困ってます(笑)
確かに撃ち抜いたはずのサンショウウオの眼球には傷一つ無く、元のつぶらな瞳のままで俺を睨んでくる。何故だ?当てたと思ったのは俺の勘違いか?
『あるじぃ…そんなはずはないぞぉ。当てたのは…間違いないぞぉ』
だよ…なぁ…。こいつは…いったい何なんだ。
混乱して鈍った俺の思考回路を動かしてくれたのはロベリアだった。
それと同時にサンショウウオの能力もはっきりと分かる事となる。
もう一度俺に噛み付こうとしてきたサンショウウオの上顎をロベリアの巨大な鋏が粉砕していた。肉はひしゃげ、骨は砕け、サンショウウオは大きく怯み後退する。
サンショウウオがいくら強靭な顎を持っていようともヤシガニの鋏とは質が違う。掴み、砕き、潰し、裁断するのが甲殻類の鋏だ。
…ううむ、何度見ても理不尽なまでの攻撃力。俺も鋏の強いカニを経由して進化するべきだったかもしれないなぁ。ノコギリガザミとか、タスマニアオオガニとか。
『そ…それだと私はつまらないぞぉ…』
おおう、別に今の進化に不満がある訳じゃないぞ。カニ戦車だって格好良いじゃあないか。砲手のテルマには感謝しているぞ!
それにそんな厳ついカニは俺らしく無いしな。…タコ足鎧纏った今の俺は違う意味で厳ついけどな、いや、むしろ怪しいな。
『ふひひ…主、かっこいい。……あ』
あ?…あ!
ロベリアによって再起不能なまでに潰されたはずのサンショウウオの上顎は何事もなかったかのように完治し、再び臨戦態勢へと移行していた。
今度は見間違えるはずも無い、サンショウウオの顎は間違い無く砕けていたはずだ。あいつの能力は回復…いや、あそこまでいくともはや再生の域に達している。
しかも俺達甲殻類の様な条件付きの再生じゃない、その場で瞬時に再生した。
サンショウウオの進化ルートの中に再生力に特化した生き物が居たに違いない。モンスター化して上位の魔物になった事でその能力に魔力が働いているんだ。
これ…どうやって倒せば良いんですかね?
再生力が追い付かないくらい素早くフルボッコ?あの巨体を?…いやいや御冗談を、ロベリアと二人がかりでも間に合わないでしょ。
最善手は逃げ…かなぁ?水場から離れてしまえばサンショウウオは鈍足だ、簡単に逃げれそうな気がする。とはいえ俺はカニなんだからいずれは水場が必要になる。それにロベリアの移動速度考えたらそんなに遠くへは行けない。
…追って来そうなんだよなぁ。
なんて、悠長な事を考えられる状態でも無さそうだ。
ロベリアはなおも攻撃を続けるが、与えたダメージ全てがその場で再生されていく。
ロベリアの一撃一撃は確実に致命傷だと思わせる程の痛々しい傷痕としてサンショウウオに刻まれる。しかしそのどれもが致命傷となり得ない。
そして徐々にロベリアが押されていくのが分かった。サンショウウオが痛みに慣れてきているようだ、あるいはただの痩せ我慢かもしれない。
サンショウウオは痛みに耐えて前進を続けていればいずれロベリアに反撃出来るだろう。持久戦になればダメージが蓄積する分こちらが不利だ。
と、なればここは王道な戦法を取らせてもらうとしよう。
テルマ!合図を出したら撃ってくれ!狙いは…。
『ふひひひ、分かってるぅ、分かってるよぉあるじぃ…。大口開けたタイミングでぶっ放せば良いんだろぉ?口の中にさぁ』
おおう、相変わらず話が早くて助かるよ。
『ふひ、ひひひひ。寄生虫…だからねぇ、主の事は…分かるよぉ』
さあ!狙うのは次のタイミングだ!
………良し!大口開けたぞ!ロベリアに当てんなよぉ!?
『ひゃあっはぁあああ!ふぁいあぁあ!!』
俺の後ろ脚から魔力が流れ、脚と一体化した砲塔から弾丸が飛び出す。劣化ミスリル合金の徹甲弾、貫通力のあるフルメタルジャケット。
狙う的は大きく、更に大口まで開けている。外す訳が無い。
口内に撃ち込まれた弾丸は狙い通りサンショウウオの内蔵を貫き、サンショウウオは苦しみながら再び大きく後退した。
『や…やったかぁ?』
だからそれダメな時のやつぅ!前も言ったろ?それ言っちゃダメなやつ!
『ご…ごめんよぉ』
案の定…と言うべきか。サンショウウオは体勢を立て直してなおも前進してくる。
おいおいおい、内蔵も再生すんのかよ、というか徹甲弾じゃ小さい穴空けてるだけだし大したダメージになってねぇんじゃねぇの?すぐ回復しちゃいそうだ。
劣化ミスリル合金の徹甲弾ってあと何発残ってたっけ?
『…一発だぞぉ』
それをホローポイントに加工したりできねぇかなぁ。
そもそも劣化ミスリル合金ってどんな金属だ?
【劣化ミスリル合金】
【軽く硬い金属であるミスリル銀の合金】
【劣化ミスリル銀は強度に難があるため合金として使われる】
【ミスリル銀は魔力の通りが良く、魔力を通せば劣化ミスリル銀であっても鉄の強度を上回るため軽さと強度を併せ持つ事が出来る】
うお!久しぶりに謎のステータス画面ポップしたな!
って…、軽くて硬い?いやいや…それって…ホローポイントどころか…。
『ふひひ、そもそも弾丸向けの金属じゃない…ね』
ですよねー。いやぁ…道理で…。
『ふひ…ひひ、今まで大した活躍が…無かったわけだなぁ』
はっきり言うんじゃないよ!うう…、くそう、攻撃力低い訳だよちくしょう。…ん?そういえばこれ魔力流せる金属なんだよな。魔力込めて撃ったらどうなるんだ?
『おお…起死回生かぁ?…って言いたいとこだけどなぁ…あるじぃ、既に魔力込めて撃ってる状態…なんだよなぁ』
え?そうなの?自分じゃ気付かなかったわ。
撃つ時無意識に魔力が乗っちゃうのか?まぁ撃つのに魔力使う訳だし、自然に弾にも魔力入っちゃうって感じなのかなぁ。
『強度増すだけ…だからなぁ、気づかないのも…しょうがないと思うぞぉ…』
ああ、あの見習い騎士達の鎧もそうだったなぁ。ん?…じゃあ魔力込めずに撃ったらどうなるんだ?
『砕ける…かなぁ…』
それだよ!次は魔力込めずに撃とう!砕けた破片が体内に残ればダメージ大きくなるんじゃないか!?
『おお…やってみよう。弾に入る分の魔力は…私が遮断してやるよぉ』
よっし!サンショウウオの顔面にぶち込んでやろう!
『ふひひひ、任せろあるじぃ、あんな大きくてとろい的…当て放題だぁ』
いけぇ!テルマ!
『ふぁいああああ!!』
そうして俺の砲塔から撃ち出された弾丸は着弾後サンショウウオの皮膚で止まり、貫通せずに地味に砕け…顔の表面を傷付けた後に何事も無かったかの様に再生した。
…魔力込めた方がマシだったじゃねぇかぁ!!
『ふひ……弾も…空っぽだぞぉ…あるじぃ』
珍しく長期戦です。
そして主人公の攻撃手段が無くなりました(笑)