第21話 忘れじの学び舎
今回はようやくのラブコメ回です☆
いや…これ本当にラブコメ回なんですかね…。
カマキリの時のカオリという名前はうろ覚えだったが、タコを鎧の素材にした時のサトルという名前には覚えがあった。
クラスの男子の名前ならば覚えている、特にサトルはクラスでも印象深い奴だ。柔道部に所属しているガタイの良い男で早弁の常習犯。弁当以外にもおにぎりを常備している腹ペコ男だ。弁当を食べた後に購買へパンを買いに行く姿も度々見かけていた。
あの大ダコがあのサトルだとしたら、カオリもクラスメイトだったのではないだろうか、だとしたらこの世界で出会ってきた魔物達は皆クラスメイトだったりするのか?
はてさていったいぜんたい何故こんな事になっているというのだろうか。
せめて説明とか、出来れば帰る為のルールみたいなのとかないんですかね?いきなりこんな世界に放り込まれて、カニにされて、どうしろっちゅーねん。
いやはや、皆お互いがクラスメイトだって知らずに殺し合ってるのかねぇ。やだやだ、仲良くしようぜぇ仲良くよぉ。
そういえば、クラスメイトってことはリョウも居るのだろうか?人間だった頃はよく宿題写させてもらったけなぁ。俺の数少ない友達だし、生きてると良いけどなぁ。
イケメンのあいつの事だ、きっとこっちでもイケメンなモンスターになってるに違いない。頭も回る奴だし、まぁ…何とか生き残ってるだろうさ。
そもそも、名前が一致したからと言って本当にクラスメイトが魔物に転生してるなんて確証も無いんだ、やっぱり考えるだけ無駄なのかもしれないな。
『…ふひ、ふひひひ。あ、あるじぃ…?確かめれば…良いんじゃないのか?』
おお、テルマ。そりゃ確かめれるならそうするが、無理じゃね?
『ろ、ロベリアの…あねごに…聞けば』
……あ。確かに。
でもなぁ、最初に筆談しようとした時は攻撃されたんだよなぁ。んー、まぁ今なら信頼されてるだろうし大丈夫かねぇ。
ロベリアはよほど海が怖かったのか、さっきからもうずっと俺にベッタリくっついて歩いている、正直歩き辛いが…信頼されてる証でもある…のかな。
でもどうせなら人間に戻れてからにして欲しい。巨大なヤシガニガールにくっつかれても嬉しさよりもやや恐怖が勝るんだよなぁ。
俺達は今川沿いを上流へと歩いている所だ。俺にとっては来た道を戻っている事になる。サワガニ時代のホームグラウンドだ。
特に行く宛も無いから最初の場所に戻っているだけだったりするのだが、こういうのはスタート地点に何かしらのヒントがあるものだ。…根拠なんて無いけども。
さてさて、周りに敵の気配も無い事だし、そろそろ本題に入るとしましょうかね。
俺が足を止めるとロベリアが不安そうに周りを見渡す。いやいや、可愛いけども怯え過ぎじゃないですかね?やはりロベリアは元々は気の弱い子だったのかもしれないな。
強くなった気でいたのにもっと強い奴と出会してしまったせいで元の気質に戻っちゃってる感じ?まぁ無理も無い、俺だってもう海には近付きたくもない。
俺は近くに落ちていた石を拾うと地面に文字を書く。
『ダイジョウブ?』
カタカナなのは直線が多くて地面に書きやすいからだ。
ロベリアは鋏が大き過ぎて字が描き辛いのか少しの間わたわたした後、歩脚を使って地面に文字を描き始めた。
『ヘイキ』
どう考えても強がりだが、強がりが言えるのなら少しは落ち着いたのだろう。
本題に入っても大丈夫かもしれない。
とは言っても筆談では世間話は辛い、ここは要件だけをまとめるしかあるまい。
『カマキリ → カオリ』
『タコ → サトル』
『ナマエ クラスメイト』
ここまで書いた所でさっきまでくっついていたロベリアが露骨に少しだけ遠ざかる。
ロベリアは…何か知っている?前みたいに俺を攻撃するような意思は無いようだけど、動揺しているのは明らかだった。
うーむ、ここは自分の名前でも書いてみせようか。
『オレ → 』
ん?俺の名前、何だっけ?ベートカ?いやいや、それはこの世界でのコードネームだ。俺の…人間だった頃の名前…何だっけ。
『ロベリア ナマエ ナニ』
もうこうなったら直球勝負!直接聞いてしまうのが手っ取り早いってもんさ。
……しかしいくら待ってもロベリアは硬直状態、全く動く気配がない。もしかして俺と同じように自分の名前忘れているのだろうか。
『ナマエ ワスレタ?』
ロベリアは少し考えたような素振りを見せた後大きく頷いた。
あー、なるほどねー。こっちの世界に来た奴は自分の名前忘れるのかー。…何で?自己紹介防止のため?いやいやまさかね、そんなバカな話も無いだろう。
『カエル ホウホウ ワカル?』
この質問をした後、ロベリアは一瞬怯えたような仕草を見せたが、少ししてから逆に安心したかのようにまた俺にくっついて来た。
何でだ?俺が帰る方法知らないと安心するのか?何なんだ?え?全く状況が分からんのだが、結局どうしたら良いんだ?
混乱する俺を余所にロベリアは地面に文字を書き始める。
『ワタシ ハンニン チガウ シンジテ』
良し、何の事かは分からんが女子だな!俺に好意持ってくれてる女子だ!それはほぼ確定したと言っても良いだろう!それだけ分かれば大収穫だ!
まぁ、それはそれとして気になる言葉があるな。
『ハンニン ナニソレ?』
『クラスメイト ハンニン イル』
え?ええええええ?帰る方法聞いて犯人が居るって答えてくるって事は何かい?クラスメイトの中にこの異世界転生の原因となった犯人が居るって事か!?
『ソレ ダレ?』
と、なれば気になるのはこれしかあるまいよ!てか何でロベリアは知ってるのに俺は何も知らずに異世界転生してんの!?不公平じゃね!?
『ワカラナイ デモ ダンシ』
ほほう、男か。ならあのカマキリは除外だな。
『シンジテ シンジテ シンジテ シン』
おおい!怖いわ!何同じ言葉書き続けてんの!
『シンジル』
良し!ロベリアが止まった。全く、お互いに命助けあった仲だろうに、今更何言ってんだかなぁ、こいつは。
って、おいおいおい。ちょっ、待って!抱きついてくるなぁ!純粋に怖いわ!だから人間に戻ってからにしてくれぇ!俺今歩脚減ってるんだぞ!重いわ!
ロベリアが俺を離してくれたのはそれからしばらく経った後の事だった。
…重さで歩脚がまた一本折れた。
これは余談だが、折れた歩脚はタコの鎧に補強されて問題無く動くようになった。
それなら失った脚も何とかならないか…と思いやってみたところ、失った脚があった場所に歩脚サイズの触手が生えてきた。
俺はもう…カニじゃないのかもしれない。
ベートカ君が情報無しで異世界に放り出されたのは爆睡してたからだよぉ!自己責任だよぉ!
さておき、ベートカ君もようやく事態を把握しかけてきた感じになりました。