第20話 ディスペアー・ビーチ
夜中に投稿、今回はタコ戦となります。
たこせん…美味しそうですね。
砲塔から打ち出されたもの、それはカマキリの鎌を加工して造られた弾丸、弾丸というよりは槍に近く、ジャベリンとなってタコへと飛んでいく。
槍の様な硬芯徹甲弾は空気を切り裂きタコへと穿たれ、タコは大きく後ろへ揺らいだ。
狙ったのは眉間、それはタコの急所だ。あの大ダコの弱点が普通のタコと同じであれば眉間を貫く事で絶命するはず。
『ふひ、ふひひひ、や…やったか?』
おいいぃぃぃいい!それ言っちゃあかんやつ!やれてないフラグのやつぅ!!
案の定大ダコは身体を起こすと眉間に刺さった弾丸を引き抜いた。
…引き抜いた?つまり貫通していなかった?
考えてみれば当然か、触手の長さだけで10メートルはあろうかという巨大なタコに対して俺の体高は成人男性の半分ほど、全長でも人間サイズだ。
そんな俺の大砲はぶっちゃけライフルのような物。ミズダコを爪楊枝で締めようとするような物なのだ、冷静に考えたら無意味にも程がある。
しかし逆に考えればそんな攻撃で怯んだという事は大ダコの弱点は普通のタコと同様眉間で間違いないだろう。…まぁ、それが分かった所でもう打つ手は尽きているのだが。
……テルマ、どうしよう?
『………ふひ』
はい、無理ゲーって事ですね、分かります。
さらばロベリア、君の事は忘れない。達者でな。
え?見捨てるのかって?いやいや、無理でしょう?流石に無理でしょう?
眉間を撃たれた事で大ダコはご機嫌斜め。海岸に上がり触手八本総動員。今まで舐めプしてたのがよく分かる。ロベリア相手に舐めプするような奴の本気モードにどう対抗しろというのかね?ね?無理ゲーでしょう?
『…あ、あるじぃ。あれ、ふひひ、あ…あねごが』
え?…あ。そうか、なるほどなぁ。ゲームでもあったな、こういう事。
怒らせた方が戦いやすいタイプのモンスターな。
先程までロベリアが大人しかったのは海に引きずり込まれまいとしていたからだ。タコが海岸に飛び出て来た事でロベリアは再び攻撃態勢へと転じる。
大ダコは俺への怒りでロベリアから一瞬だけ意識を逸らしてしまったのだ。
ロベリアはその隙をずっと待っていた。一瞬だろうと見逃すはずもない。
ロベリアは自分を拘束していた触手を押さえ付け、鋏で強引に挟み潰して切断してしまった。ヤシガニの力があればこその力技だろう、俺の鋏じゃビクともしないはすだ。
後はロベリアが逃げ出してくれさえすれば二人で逃げられる。
…だと言うにも関わらずロベリアはその場を動かない。いや、動けないのか?ロベリアを拘束した触手は大ダコ本体と切り離されてなおもロベリアを離さない。
吸盤が吸い付き、引き剥がす事が出来ずにいた。触手の力も衰えてはいない。タコという生き物はつくづく化け物だ、悪魔とか邪神とか言われるのも頷ける。
俺が動かなければロベリアはこのまま食べられてしまうだろう。
…はぁ、俺の早さなら今からでも余裕で逃げれるんだけどな。仕方ないね、男の子だもん。女の子置いていけないよねぇ。
『ふひひ、砲撃は…任せろぉ』
あいよ、俺は走る方に専念するわ。
スナガニの力を得た俺の走力は同サイズの生き物の中でなら最速と言っても過言では無い。ゴキよりクモよりゲジよりも遥かに早い。…対抗馬がキモ過ぎるのはご愛嬌。
本来逃げる為のこの走力、今は戦う為に使いましょうや。
いざ!突撃!パンツァー・フォー!
『ひゃっはぁー!この速度で行進間射撃しろってぇ!?主は無茶言うぜぇ!』
撃つ時はほぼゼロ距離だ!ほうら!もう着いたぞ!
俺の突撃に合わせて振り下ろされる触手、俺の足がいくら早くとも関係ない、こちらから向かっていくのだから反応速度の速い敵が相手なら迎撃されて然り。
こちらのミスリル合金の装甲とタコの触手、どちらが強いかな!?
…なぁんてな、巻き付かれて鎧ごとバキバキにされるオチなのは試すまでも無く分かるわい。そもそも捕まった時点で動けなくなってお終いだ。
そう、捕まったら終わりなんだ、相手の触手は全て回避しなければならない。逃げに徹すれば回避は出来るが今はそういう訳にはいかんのだ。
忍法、空蝉の術!
ふははははは!お前が捕まえたのは俺の鎧だけだ!せいぜい気を取られろ!
その隙にロベリアの元へ向かわせてもらう!……って、あっれぇ?鎧一瞬で粉々やないかい!鎧うっすいなぁ、キャストオフしてなかったら今頃粉微塵だわ、こっわぁ。
そして大ダコもデコイだと気付いたようだ、少しは時間稼ぎになったようだがすぐに二激目の触手が飛んでくるのが見えた。
『ひゃっはぁ!私の出番だなぁ!』
砲塔から放たれたミスリル合金の徹甲弾が大ダコの触手に当たり攻撃を弾く。
『あ、…ごめんなぁあるじぃ』
しかし触手を完璧に弾き返す事は出来ずに軌道を逸らすだけで精一杯。それでもテルマの射撃には意味があった。
軌道の逸れた触手は俺の胴体では無く左の鋏脚と前方の歩脚へと絡み付く。ならばカニとしてやる事は一つしかあるまい。
脚なんぞくれてやるわ!キャストオフだ!
掴まれた脚を自ら切り捨て、なおも前進した俺はロベリアの元へと辿り着く。
ふへへへへ、着いたぜロベリアぁ、惚れ直したか?
『あ、あるじぃ?あねごに巻き付いた触手は…どうするんだぁ?』
この触手な、あいつの本体からは切り離されてるから…こうするのさ。…鎧生成発動!
ロベリアに巻き付いていた触手が解け、今度は俺の身体に巻き付いてきたかと思うと俺の全身を鎧としてコーティングし始める。
触手一本分とはいえ俺の身体なんて簡単に覆ってしまった。タコの触手は筋肉の塊だと聞いた事がある。その筋肉の塊が俺の鎧として凝縮され、凝固されていく。
まぁ…見た目は蠢く呪いの鎧感あるが、致し方あるまい。
鎧となったタコの触手は俺の意思で伸縮するので関節まで覆われ、呪いの鎧どころか俺自体が呪われた生き物みたいになってしまってるが…致し方…あるまい。
大ダコは流石に困惑したのか俺たちから距離をとり、海へと戻って行く、俺を得体の知れない相手と判断したのだろう。不味いと思ったら引く、なかなかに慎重な奴だ。
しかし無理も無いだろう。大ダコからしたら自分の身体を吸収したかのように見える謎のカニと、自分にダメージを与える事の出来るヤシガニのセットだ。
海中ならまだしも陸という不利な状況下でリスクの高い戦いはしたくあるまい。
まぁ、実際はこのまま戦ったら死ぬのはこちらなので正直助かる。
さて、またアイツが襲ってくる前に海岸から離れましょうかね、やはり海は怖い。今回は陸だったから良かったものの、海中ならとっくに死んでると思う。
内陸へと進む俺にロベリアが付いてくる。その様子はどこかしおらしかった。
頻繁に海を警戒し、俺から離れようとしない。
いくら強くとも内面は女の子…ってことなんだろうな。
【サトルの鎧、生成完了】
タコ足を纏ったカニ、もうなんか邪神が誕生してしまったかのような趣きになってきましたね(笑)