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ナナフシ少女

今回はナナフシさんのターンです。

例の如くダイジェスト気味にお送り致します。


 ◆  ■  ◆  ■



 私はどこにも居ない。

 自分の主張なんて無いし、主張したって私に発言力なんて無い。

 趣味は?そう聞かれても答える事が出来ない。

 得意な事は?…うん、そうだね、他人から興味を持たれない事…かな。


 目立ちたく無い。良い意味でも、悪い意味でも、目立つ様な事はしたくない。

 人に話を合わせる事も無いし、自分からも喋らない。

 何か話しかけられても「あ…えと…あはは…」と困った言動を見せると向こうが『あ、こいつに話しかけても無駄だ』と諦めて去って行く。


 やはり私はどこにも居ない。

 自分の中にすら自分が居ない。私は…そんな人間だ。

 人間社会にコミュケーションが必須だというのなら私は人間なんて辞めてしまいたい。



 そんな私にも幼馴染みが居る。

 …いや、ただ単に昔から知ってるだけで友達だとは言えないけど。

 幼馴染みの名前はカオリ、私とは違っていつも友達の輪の中に身を置いている。

 たまに一人で居る時を見かけるが、常に周りを見渡し人の輪に入りたがる。誰も居ない時だけ私に少し話かけ、他の友達が現れるとすぐに去っていく。


 いわゆるキョロ充ってやつなんだと思うけど、ぼっちの私からしたら人に話し掛けに行くだけでも凄いと思う。

 私だって好きでぼっちになってる訳じゃない。ぼっちである自分を変えようと思う気概すら無いだけなのだ。


 …言ってて更に落ち込む。私って本当に何も無いんだな。



 ……… …… …

 …… …

 …



 今思えばそんな私がナナフシに転生したのも納得してしまう。生きる為だけに身を隠し、誰にも知られず朽ちていく。それは間違いなく私そのものだ。


 教室に現れた大きな喋る猫が一クラス分の生徒を丸ごと異世界に転生させた時でさえ、私は…自分の事なんてどうでも良かった。

 原因の女生徒が罵倒されていた時も。あの子が犯人なのか、そんな事しそうには見えなかったけど、意外だなぁ、名前なんだったけ。くらいにしか思っていなかった。

 その子の周りに人が集まり、それは人垣となる。あの子の目にはクラス全員が敵となり迫っているように見えた事だろう。


 それよりも、私の興味は違う事に移ってしまっていた。

 罵倒を浴びせる人達の中にカオリの姿もあったのだ。カオリはきっと周りに話を合わせて混ざっていただけだと思うけど、私には…それが酷く悲しかった。

 昔から一人になりがちな私に声をかけてくれるのはいつもカオリだけだった。本当は…優しい子なんだ。



 ……… …… …

 …… …

 …



 人間を辞めてから初めて自分の特技に気付いた。

 動かず、目立たず、ただ静かにやり過ごす。私にはナナフシの才能があるかもしれない。

 ……だからどうしたというのか、だいたいなんなんだ、ナナフシの才能って。


 ナナフシになった私の進化の経路はエダナナフシ、アマミナナフシときて最後にチャンズ・メガスティック。

 ナナフシの種類や生態なんて知らないけど、ステータスの説明文に毎回【外皮は固く歯応えが悪い、中身も少なく食用には向かない。塩漬けにするレシピがあるらしい】なんて書かれているのが不思議だった。

 ナナフシなんて食べるくらいならポッキーでも食べてた方が良いと思う。


 私は順当にサイズアップを繰り返しただけの大きなナナフシでしか無い。…チャンズ・メガスティックは大き過ぎて自分でも驚いたけど…。

 そんな私には目立たない以外の能力は無く、動かずじっとして過ごし、葉っぱを食べるだけの毎日だった。

 誰にも関わらず、何も考えず、ただ葉っぱを食べていた。

 自分の性には合っていると思う。けどそれが楽しいかと言われれば話は別だ。

 正直飽きるし、たまには誰かと話がしたい。そして私は気付いたのだ、私はカオリに話しかけられるのが楽しみだったのだと。



 ……… …… …

 …… …

 …



 そしてとうとう上位の魔物?とかいうモンスター化を果たした私は…やっぱりただの大きなナナフシでしか無かった。

 人間を三人縦に並べたような長さのナナフシをただのナナフシと呼んで良いのかどうかは疑問ではあるけれど、大きいだけで弱いままの私はやはり隠れて生きる事になる。


 隠れて生きる私には考える時間だけは豊富に用意されていた。

 何故…小さい生き物に転生させた私達を大きな魔物に進化させるのか。喋る猫の思惑は命の重さを私達に教える事では無かったのか。

 これでは捕食される側では無く捕食する側になってしまう。

 そして元の世界に帰る方法は異世界転生の原因を作った生徒を食い殺す事、つまり魔物同士で殺し合えという事になる。でも…何で食べる事が条件なのか。

 食用に向かないはずの私にも食材としての説明文がある事を考えると初めから魔物同士の争いを想定していたという事になる?

 喋る猫は自らを「食の魔王」と名乗った。食を司る…魔王なのだ。

 …では、あの猫は魔王として配下を集めようとしているのか?…そんなはずは無い、せっかく増やした配下を同士討ちさせて減らすなんて事はしないだろう。

 …そうなると、同士討ち自体が…目的?



 ……… …… …

 …… …

 …



 私が初めて対峙した魔物はカマキリの姿をしていた。それ以前にも魔物は見かけた事はあるけれど、隠れている間の私はまず見つかる事が無かった。

 では何故カマキリには見つかってしまったのか?それはカマキリも隠れていたからだ。花に擬態したカマキリに気付かずに、近くを無防備に歩いてしまい見つかった。


 …戦って勝てる訳も無いし、正直生き長らえたい理由すら希薄な私はオロオロと戸惑うばかりで戦闘行為も離脱行為もとれずにテンパってしまう。

 そうだ、私は目的の女生徒では無い事を説明しよう。

 そう思った時に初めて気付いた。自分の名前が…分からない。あの猫の魔王の仕業だと思うけど、何の為に?…犯人探しを難しくする為だと推測するとやはり魔物同士の殺し合いが目的?って、そんな事考えている場合では無い。私はいったいどうすれば良いのだろうか。


 どうしようか悩んでしまい答えを出せずにいた私にカマキリの鎌が振り下ろされる。

 しかしその鎌は私の体では無く、近くの地面に降ろされていた。そして鎌で地面に文字を書き始めたのだ。


『 シ ズ カ ? 』


 そうだ、私の名前はシズカだった。

 …このカマキリは私を知っている?目立たないこんな私を知っている人物、それも私の雰囲気だけで推測してしまえる人物。

 私も地面に文字を書いてみる事にした。


『 カ オ リ ? 』



 ■  ◆  ■  ◆



塩漬けレシピなんて無かった、良いね?

さておき、これがナナフシさんの経緯になります。


次回は主人公のカニ、ベートカ君に戻ります。

はてさて、再び海側に抜ける訳ですが、次は何が出てくるのでしょうか。

…強敵予定です。

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