第18話 虫の名は
一ヶ月以上も間が開いてしまいました。
更新してない時にも見に来てくれる人が居るという有り難さ。
申し訳無いのと同時に嬉しさもありますね。頑張ります。
カマキリと距離を置いたまま睨み合いを続ける。
カマキリも動かないし、ロベリアも動かない。
ただ…静かに睨み合っていた。
今の俺はカニ戦車だ、大砲でも撃ってみるか?
いや…あいつの速度を考えると当たるとは思えない。と言うか試し撃ちすらした事が無いのだから当てる自信なんて微塵も無い。
そもそも下手に動かなければこちらの勝ちは確定しているのだ。
既にカマキリの位置は把握している。もう不意打ちは喰らわないし、俺の横にはロベリアが居る。カマキリも近付いては来ないだろう。
そしてあのカマキリには遠距離攻撃は無い…と思う。
つまり俺が大砲で牽制しながらロベリアが近付けば終了。これはもう答えの見えた詰み将棋だと言える。
それは相手も承知の上なのだろう。ゆっくりと後ずさっていく。
戦うよりも逃げる事を選ぶのは当然だ。あのカマキリの走力ならロベリアを振り切れる。俺ならカマキリに追い付くけど単独で近付きたくはない。
逃げに徹するのであれば俺の大砲さえ避けていれば良いのだ。それは相手も同じ事を考えているはず。誰だって死にたくは無い。
でも逃げられてもう一度潜伏されたらそれはそれで面倒だなぁ…なんて考えていた矢先に事態は大きく動いた。全く予想していなかった事が起きたのだ。
何故今の今までソレに違和感を覚える事が無かったのだろうか?
ソレは少し離れた樹木から降ってきた大きな枝、自然に折れて落ちてきたにしてはあまりにも不自然な大きな枝。長さだけならロベリアの全長と良い勝負だ。
そんなものが木に張り付いていれば普通は違和感があるだろう。しかしソレが実際に動くまで認識する事が出来なかった。
そう、枝が動いたのだ。動く枝…となればもう俺の知識ではあいつしかいない。
枝に擬態する有名な虫、ナナフシ。モンスター化したナナフシの魔物がそこに居た。
こちらもタッグを組んでいるのだ、他の魔物がタッグを組んでいてもおかしくはない。
それにしてもこの局面でナナフシとは…いったいどうすれば良いんだ。くっそぉ、ナナフシかぁ。…ん?ナナフシ?いやいや、ナナフシって何が出来るの?
ナナフシって身を守る為に擬態してる弱い虫でしょ?いくら大きくても手足も身体もくっそ細いんですけど?あれ?もしかしてアレって無視しても良いんじゃない?
『あ…あるじぃ~、カマキリ…動いたよぉ~』
お、おお、テルマか。うん、大丈夫、それは気付いてる。
ナナフシが姿を現してからゆっくりと距離を詰めて来てるね。
しかし何故だろう?ゆっくりではあるけど…あんなに堂々と近付いてきたら流石に迎撃余裕なんだけど?
『ふひ…ふひひ、撃っちゃう?撃っちゃうぅ~?』
う~ん、ナナフシがどう動くか気になるから注意を逸らしたくは無いんだよなぁ。
『い…良いよぉ、あるじはナナフシ警戒してて良いんだよぉ、ひひ、ふひひひひ、わた…私が…照準合わせて撃つよぉ』
え?出来るん?まぁ、テルマは寄生虫なんだから俺に干渉出来ても驚かんけど。
『ふひ…ひひひひひひひひ。ひゃぁっっはぁああああ!!主のデカくて太くて硬い大砲はこの私が派手にぶっぱなしてやんよぉぉおおお!!』
卑猥!卑猥だよぉ!あ、ああ~、身体が勝手に反応しちゃうよぉ!砲塔が!俺の立派な砲塔が勝手に~って、寄生虫とカニの下ネタで誰が得するんだよ!
『ふひひひひ……ふぁあああいやあぁああああ!!』
テルマの掛け声とともに放たれた弾丸は実に簡素な形状で洗練さの欠片も無い無骨な物だった。空気を裂くというよりかは空気を雑に散らして弾道もブレる。
それでも弾丸は確実にカマキリへ向かって飛翔していくのが分かった。
…自分で撃つよりもテルマに砲手任せた方が精度良いんじゃね?
なんて、人間だった時も球技とかで狙った場所に球飛ばせなかった俺としてはそう思ってしまうのだが、それでもやはりテルマでも弾道は僅かにブレてしまうようだ。
直撃には至らずカマキリの腕を片方吹き飛ばすに留まった。
ここで一つ疑問が残る。あのカマキリの走力なら弾丸を避ける事も出来たはず。
それなのに撃たれる事自体が想定外だとでも言わんばかりに咄嗟の回避行動が出来ず対応が遅れたような印象を受けた。
その証拠にカマキリは狼狽えて羽をバタつかせながら後方へと下がっていく。
『あるじぃ…ナナフシは…良いのか?』
はっ!ナナフシ!そういえばナナフシはどこだ!?
いや、見てたよ!?カマキリ見ながらナナフシも同時に見てたよ!?カニの視野なら同時に両方見れるもの、ちゃんとナナフシも警戒してましたよ!ええ、もちろんですとも!
そう…間違いなくナナフシを見てた。なのにナナフシを見失ってしまった。
ナナフシは何故現れたのか、そして何故ナナフシが現れてからカマキリが無防備に移動し始めたのか、そのナナフシは何故何もせずにまた姿を消したのか。
…ふむ、なんとなく分かったかも。
ナナフシは敵の注意を逸らすだけの役割りなんだ。ナナフシ自体に戦闘力は無いとみた。
そしてナナフシは視認された状態からでも再び潜伏可能な程の高度な擬態能力者で、隠れる事に特化してる魔物なんじゃないかな。
ナナフシは戦えないから戦闘はカマキリがやる。
しかしカマキリは一度視認されたら相手の視界から逃れた後じゃないと隠れる能力が発揮されないとみた。擬態能力はナナフシに劣るのだろう。
だから劣勢になった時はナナフシが注意を逸らし、カマキリが再び姿をくらましての奇襲攻撃。忍者的なコンビネーションタッグといったところか。
しかしカニの視界の広さを理解してなかった点が敗因だな。
そう考えれば全て辻褄が合うというものだ。
カマキリは擬態能力で姿を消したつもりでいたのに俺にピンポイントで砲撃されて驚いた。自分の腕が吹き飛んだのだからそりゃパニックにもなる。
身体の欠損程度であそこまで取り乱すのなら心はまだ人間を保ってるってことかな。
しかし…心が人間のままなのだとしたら何故危険を侵してまで魔物同士で殺し合いをしようとしてるんだ?何か意味が…?
『あるじぃ…あるじぃ~!カマキリ放置で良いのかぁ~?』
あ、いけないいけない。…んー、いや…でもなぁ、あえてトドメ刺す必要はあるのかな?同じ境遇なのかなぁって考えると同情してしまうよなぁ。
鎌は片方落としたんだし、戦力も落ちてるわけだからもう無茶もしないだろうよ。
『あ…いやぁ~でも既に姉御がな~』
…あ、ロベリアがカマキリの足捕まえた。ふむ、あれはもう詰んでるな。完璧にカマキリ終了のお知らせだわ。狼狽え過ぎてロベリアの接近に対応出来てない。
しかし…ロベリアはやられたらやり返す奴ではあるけど、深追いはしないタイプだと思っていただけに少し意外だな。積極的にトドメ刺しに行くとは思っていなかった。
俺にロベリアを止めれるはずも無い。カマキリは死んだな。と、そう思っていた俺の予想は外れる事となった。
カマキリの窮地を救ったのは一匹の細長い虫。ナナフシだ。
ナナフシは突然カマキリの近くで姿を現し、カマキリを強引に引っ張る。
ロベリアに捕らえられていたカマキリの足は引きちぎれ、ナナフシはカマキリの身体を引きずりながら森の中へと消えていく。
一度視界から消えてしまえば俺とロベリアにはもう追う事は出来ない。いくら目が良くても擬態能力はそうやすやすと見破れるものでは無いだろう。
そうなる前にロベリアが二匹まとめて仕留めるものかと思っていたのだが、ロベリアはその光景を黙って見つめていた。
もしかしたらロベリアも本当は優しい奴で、俺には分からない葛藤を抱えているのかもしれない。
後に残ったのはロベリアが掴んでいたカマキリの足と、俺が吹き飛ばしたカマキリの鎌だけ。戦いに勝利した喜びは無く、それらは後味の悪さとしてこの場に残る。
まぁ…でもね…それはそれ、これはこれなのだよ。
カマキリの鎌は素材として回収して砲弾の補充しておきましょうかね。
こっちだって生きるのに必死なのですよ。人情で飯は食っていけない訳ですよ。
鎌を拾い上げて弾丸生成発動!
【カオリの甲殻の硬芯徹甲弾、1つ生成】
……ん?カオリ?人の名前…みたいだな…。
クラスに居た気がするな、そんな名前の奴。
さて、マイペースな主人公も流石に何かに気付き始めた感じでしょうか。
いや、彼の事だからあまり深く考え無いでしょうけど(笑)
この物語はまだまだ長いですよー。けっこう長編になる予定です。