第15話 ロベリア
やっと主人公達の名前が出せました。
長かった!長かったです!
あ、ややグロ注意です。
……… …… …
「見つけました!ヤドカリ型の魔物です!」
「目撃情報との特徴一致!コードネームロベリアと断定!」
「鳥型の魔物が近くに居ないか警戒しろ!」
「コードネームナパーム、見当たりません!引き続き警戒します!」
「良し!ロベリアを討伐せよ!」
「了解!」
…
俺と巨大ヤドカリは山の木々の中に身を隠してひっそりと生活していた。
巨大ヤドカリは相変わらず何考えてるか分からないし、正直近くにいながらにして別々に行動してたけども。まぁ、それでも俺が離れすぎると着いてくるからやはり俺に対して仲間意識がある事だけは間違い無いんだろうな。
巨大ヤドカリも敵対する人間さえ居なければ大人しいものだ。なんとか平和なカニライフ、もといオオホモライフを送れるかと安堵していた時に奴らは現れた。
西洋風なフルプレートアーマーを纏い、剣や槍を携えた騎士っぽい奴ら。パッと見十人くらい?どう考えても討伐隊、統率とれてるし野良の冒険者って感じでも無い。
…というか、討伐隊早すぎない?けっこう近くに大きな街があるパターン?
そりゃ巨大ヤドカリ…んー、奴らが名前つけてくれてたしロベリアで良いか。
ロベリアは体が大きい上に民家の屋根なんて被ってるものだから目立つ、高さだけで人間と同等、全長で考えると小さめな民家がそのまま歩いてる様な佇まいになる。これで目立つなっていう方が無理な話というものだ。
それにロベリアは地上を歩いて移動する訳だからそんなにすぐには遠くに行けない。遠くに行ってしまう前に急いで討伐しようって腹積もりなんだろう。
それで正式な騎士隊が急いでやってきた、と。
なんだよもー!俺はただ平和に生きたいだけなんですけど!?
……いや待てよ、あいつらロベリアの事しか言って無いな。
俺が魔物だって知ってるのはあの元飼い主の家族達だけだ。ロベリア見捨てて俺だけ人里離れて生活してれば平和なんじゃね?
こっそり…目立たないように…そーっと居なくなれば。
「あ!後ろ脚が上に上がったキモいカニ発見!特徴一致、コードネームベートカです!情報にあった通り銃を所持しています!」
「足が早いらしい!逃がすな!」
「了解!」
ちくしょー!俺の情報も漏れてたー!この銃だって捨てきれずに持ってるだけであってもう球も入って無いし見逃してくれよぉー!てかキモい言うな!
って…ん?俺の情報が…漏れてる?
あの父親は化け鳥…えーと、ナパームで良いのかな、ナパームがとどめ刺してたから、あの姉妹が少なくとも片方は生きてるって事か?お、おお、このタイミングで分かるのは複雑だがちょっと嬉しいな。二人とも生きてるなら更に嬉しいのだが。
なんて、感傷に浸ってる場合でも無いか。それで…俺に付けられた名前はベートカ、ねぇ。もっと格好良い名前無かったんですかねぇ。
…名前と言えば、俺の元の……ん?あれ?今何を考えてたんだっけ?まぁ、忘れるなら大した事じゃあるまいよ。
今はこの武装集団なんとかせにゃならんからなぁ。
とは言え俺に出来る事と言えば逃げる事だけだけどね。
「ベートカを仕留めろ!行け!」
「…了解!」
一人の騎士が剣を構え、こっちに向かって走り、剣を掲げ、そして振り下ろす。
…え?何そのテレフォンパンチ。渡り鳥はノーモーションで嘴振り下ろして来たよ?当てる気あんの?ただでさえそんな重たい鎧着てるんだからもうちょい考えろよ。
まぁ、当然の事ながら振り下ろす剣の軌道を確認してからの回避余裕でした。つまりそんな遅い攻撃はたとえノーモーションでも当たらない。
「え!?消えた!?」
おいおい、俺が移動した事すら視認出来てねぇじゃねぇか、兜のせいで視野狭くなってんじゃねぇの?
んー、全部で十人か?あの時の渡り鳥より圧倒的に少ないんだよなぁ、正直負ける気がしない。…とはいえ勝てる気もしない。
俺の攻撃じゃ騎士達にダメージなんて入らないだろう。相手が疲れて動けなくなるまで待つか、あるいは本当にロベリア置いて一人でダッシュするかだな。
騎士達が重い鎧を脱いで全員で囲んで来たら俺はゲームオーバー、そうならないのはロベリアが居るからだ。ロベリア相手に鎧無しは無謀だろうからな。
一緒に居るだけで守られてる、今更ロベリアを裏切るのは無しだな。
はてさて、それならどうしますかねぇ。
「く!一人じゃベートカを捉えきれません!こちらに応援願います!」
まぁ、そうだろう。応援呼ぶよなぁ。
残りの騎士達は指揮官ぽい奴以外はロベリアを囲んでる状態だ。
俺みたいなモンスター化前の雑魚魔物に割く人員は惜しいのだろう、それに武勲を上げるのであればやはり狙いたいのは大物、ジャイアントキリングと洒落込みたいものだ。
騎士達が見合って「おい誰が行くんだよ」「おまえ行けよ」みたいな雰囲気が伝わってくる。実際には言って無くても分かるよ、そういうのは。
そんな中、指揮官ぽい奴が声を上げる。こういう時に指揮官いないとグダグダするからね、大事だよね、指揮官。今は要らんけど。
「ベートカ討伐に加勢せよ!そいつもいつ進化するか分からない!…良し、お前行け!」
「りょ、了解!」
指名された騎士がこちらに向かって来る…が、しかし俺の所に辿り着く事は無かった。
騎士の首を守っていた兜のプレートがひしゃげ、本来守るはずの首に食い込み、血流を止め、神経を潰す。応援に来た騎士は倒れ、痙攣を起こして絶命した。
西洋の甲冑、フルプレートアーマーは隙間等ほぼ無く、機動力と引き換えに高い防御力を獲得した鉄壁の鎧で有り、斬撃に対して強いと言われている。
その一方で、金属に覆われた甲冑は打撃等の衝撃に弱いという欠点も有る。
しかし、この騎士を葬ったのは斬撃でも打撃でも無い。
大型のヤシガニの鋏の力はライオンの顎の力に匹敵するとまで言われている。ならば人間よりも大きなヤドカリならどうだろうか。
人間が着れる程度の厚みしか無い鉄板など…いともたやすく挟み潰してしまうだろう。
ロベリアのリーチは意外と長い、鋏の構造はヤシガニと酷似しており、鋏脚を伸ばすと体の大きさが倍になった様に感じられる程だ。
包囲していた騎士達なんてとっくに射程内にいたって事になる。今まで大人しくしていたが殺そうと思えばいつでも殺せた訳だ。
「う、うわああ!こ、こいつ急に好戦的になったぞ!」
あー、俺を狙ったからだな。ロベリアは何故か俺に固執してるから、俺の方に向かった増援を潰したんだろう。モテる男は辛いですなぁ、はははは…はは。
…何度も言うけど…人間だった頃に人間にモテたかったわ!
『ふひ…ひ…ごめんよ…きせいちゅう…で…』
ふあ!?ああ…テルマか。てかお前も俺の事好きなのか?
『ふひぃ!?…ふふふ…ひひ…ひ…きせいちゅうのぶんざいで…きもちわるくて…ごめんよ…あるじぃー…ふひ…ひひ』
いやいや、てか俺も今はキモい部類のカニだしな。それに好意を持たれるっていうのは種族を越えてても嬉しいものさ。
『ふ…ふふふ…ふふふふふ…あるじぃー……』
お、おお?喜んでる…のか?
「取り乱すな!ロベリアの攻撃に合わせて鎧に魔力を通すのだ!いくら魔物とて魔力強化された鎧は簡単には潰せまい!」
おっと、和んでる場合じゃないわ。指揮官の台詞から察するに奴らが着けてる鎧は魔力を通す事で頑丈さが増す類いの物だという事で間違い無いだろう。
常に魔力を通すっていうのはしんどいからね、必要最小限の魔力で必要な時だけ必要な分の強化を施す。うん、流石は訓練された騎士達だ。敵ながら感心…て、あれ?
指揮官の指示では攻撃に合わせて…っていう話だったのに、騎士達は小刻みにガタガタと震えて魔力で煌々と輝いている。それ全力で魔力消費してない?
「か、かかか覚悟しろロベリアぁぁ…」
「これでお前の攻撃なんて…も、もう…ひぃあ!こっち見た!?」
あ、これアレだわ、こいつら実戦経験浅いわ。手の空いてる騎士を適当に集めて編成したなこれ、急いで集めた弊害出てるやん。
実戦に出れた!名を上げるぞ!ヒャッハー!って思ってたのに、仲間が呆気なく無残に死んでビビってる状態だ。これはもう詰みじゃないですかね?
それでもやはり魔力強化は伊達では無いらしい。
ロベリアが騎士を掴み、もう一度潰そうとしたがギチギチと音が鳴るだけで潰す事が出来ずにいた。…あー、いや徐々に凹んでいってる、時間の問題だわ。
「う、うあああ!!し、死ぬ!殺される!助けてくれ!」
騎士達はみんな恐怖で固まり動けないでいる。皆真っ青な顔で「次は自分かもしれない」なんて思ってるに違いない。
しかし…やはりと言うべきか、こんな時に頼りになるのは指揮官の存在だった。
「仲間がくれたこの時間を無駄にするのか!攻撃始め!」
指揮官が激を飛ばすと騎士達は我に返り武器を構え直した。
皆、自分の弱さを恥じ、もう助からないであろう仲間の命を無駄にしたくないと奮起する。この戦いを通じて騎士達は成長を遂げたのだ。
まぁ、もう手遅れだけどね。
ロベリアに掴まれていた瀕死の騎士は死にたくない一心で鎧を強化する。それこそ死に物狂い、火事場のクソ力も出し惜しみせず、血管がブチ切れる勢いで魔力をフル回転させてロベリアの鋏に抗っていた。これはもう騎士の魔力が切れるまで挟み潰す事は出来ない。
つまりロベリアは今、使い捨てのハンマーを握っているのと同じ事なのだ。
後はもう単純に一方的に、騎士を使って騎士を殴るという地獄絵図が描かれていく。
ロベリアの頑丈な体は人間の筋力だけでは傷を付けるのは難しい。決定打を与えるには攻撃にも何かしらの魔力強化が必要となるはずだ。
奴らがその攻撃手段を持っているのかどうかは知らないが、甲殻類を相手にするんだ、攻撃の強化は必須だろうし、手段が無いとは思えない。
とはいえ防御の魔力強化を止めれば一撃で即死する。経験の浅い騎士達には攻撃に転ずるタイミングというものが掴めない。
騎士達の半数以上が倒れ、立っている騎士は二人だけ。
いや、俺の相手をしてる騎士と指揮官足せば四人となる。
え?俺の相手をしてる騎士はどうしてるのかって?
あんな攻撃余所見してても当たらないわい。
「くっそ!何で当たらないんだ!…は!幻覚魔法!?」
いや、ちゃうわ、ただの横移動だわ。
「……撤退だ!」
お、指揮官が撤退命令出しましたな。もしかしてこれって威力偵察兼ねてたのかな。
「ぐあああああ!!」
あ、撤退命令聞いて安心して油断した奴がロベリアに殺された。
ダメですよ?基地に帰るまでが行軍ですよ?
今回は直接俺らの命を狙って来たんだ。同情の余地は無いな。
それでも追い討ちを掛けようとするロベリアを止めて残った人間達は逃がしてやる事にした。何故かって?今回は同情では無い。奴らの逃げる方向を確認する為さ。
奴らは魔物を魔力を持った獣が進化したものだと認識している。元人間だとは思っていない。ならば逃げ方など気にはしないだろう。
真っ直ぐ最短で逃げ帰るなら、そっちの方角に大きな街があるに違いない。
人間から逃げるにしろ敵対するにしろ方角くらいは知っておきたいのだ。
はい、というわけで、カニ君はベートカ。ヤドカリさんはロベリアです。
ロベリアの方はフライングで先に書いてましたけどね。
ちなみに、この世界では魔物に種族名はありません。
同一種族の個体が居ないのが理由です。