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第14話 カニである前に一人の…

遅くなりました!

今回は読者様からリクエストもらった生き物の登場です。



 カニは水を蓄えていないと呼吸が出来ない。

 炎に囲まれた村の中で俺の体は乾き、呼吸も困難になり、泡を吹く。

 そんな俺の乾きを癒したのは…人間の…真っ赤な血液だった。

 巨大ヤドカリが人間を持ち上げ、切断し、俺にその血液を浴びせたのだ。

 水よりも粘り気のあるその液体は俺の体に纏わり付き、俺の体を赤く染め上げる。



 何が起きたのか、理解するのに時間がかかり、俺の思考は止まっていた。


 その行動が俺を助ける為だと気付いた時にはもう、二人目を切断し、その血液を退路の火を消す為の道具として使っていた。



 火を放ったあの鳥は食べる為に人間を襲った。

 このヤドカリは俺を助ける為、そしてここから逃げる為に人間を襲った。


 別にそれを責めたりするつもりは無いし、責める事なんて出来ない。

 食べる為、生きる為、その為の狩りは当然の事だと思う。小さなカニとして常に命の遣り取りをしてきた今の俺ならそう思う。

 少なくとも、カニとしての俺はそう思う。


 …でも俺は、割り切れない。



【摂取した魔力が現在の貴方の容量を超えました】

【一段階特殊成長します】

【サイズMに成長しました】


 体がパリパリとヒビ割れ、古い殻が剥がれていく。

 脱皮と共に新しい脚が生えると、ヤドカリは俺から手を…いや鋏を離し、自分の体に乗せた。脱皮直後で弱くなった俺の体を掴んでいるのは不味いと思ったのだろう。

 それにしても…魔力?いつ摂取したんだ?魔力を持つ生き物は高い精神力を持つ生き物で、人間や魔物…人間?


【絶命に至る致死量の出血を浴びた事で人間一人分の魔力を取り込みました】

【現在の貴方の小さな器では魔力を受け取り切れません】

【溢れた魔力を同居人が取り込み貴方の眷族となりました】


 同居人!?な、何?同居人って何!?


『………ぁ……ぅ…』


 どこからか声が聞こえたがその声はあまりにもか細い上に言葉として成り立たない。


【眷族】

【ウェステルマン肺吸虫】

【サワガニ、モクズガニ、イノシシ肉等の生食によって人に寄生する】

【肺に寄生し咳、血痰、胸痛等を引き起こす、最悪死に至る】


 寄生虫かあぁぁあい!そりゃ同居人だわ!許可してねぇけどな!

 え?何?サワガニ時代から居たの?俺って中間宿主だったの!?

 …いや待てよ、俺イノシシ生食してたわ。その時!?

 寄生虫なんて眷族にしちゃっても嬉しか無いわ!


 …まぁ、今はどうでも良いか。なんか自我薄そうだし。

 今重要なのは俺に脚が生えた事だ。自分の意思で行動出来るようになった。

 ならば俺はどうするべきか、カニである前に一人の人間としてどうあるべきか。


 ヤドカリの方はこのまま俺と逃げてしまえば大人しくなるはず。しかしその場合この村は全滅するだろう。

 と…なれば、この場を収める為の最善策はあの鳥を何とかする事だ。



 後ろ脚で抱え上げた銃を甲羅に乗せて胴体を伏せる。

 歩脚で体の向きを変え、化け鳥に照準を合わせる。

 鋏脚でヤドカリの体にしがみつき、衝撃に備える。

 標的は民家の屋根の上、逃げ惑う獲物を見下ろし悦に浸っている。


 魔力を摂取した時に自分の魔力も感じる事が出来た。俺ならこの魔法道具の銃も撃てると確信している。あの化け鳥に一泡吹かせてやる。…実際に泡吹いたの俺だけどな。


『…すこし……みぎ…』


 え?え?右?こ、これくらいか?自分で体を動かしてるはずなのに体の動きを誘導されているような感じがする。何これ怖い。


『……3……2…』


 お?おお!?おーけー!おーけー!ウェステルマン肺吸虫だっけ?ズレを修正してくれたのか、なかなか話の分かる奴だな、流石俺の眷族だ!


『ふふ…ふふふふふふ……1…』


 よっし!任せろ!…ファイア!!


 銃に魔力を流すと魔力が火薬の役割を果たし、爆風は螺旋を描いた推進エネルギーへと変わり、弾丸に回転が生まれた。

 撃鉄、雷管、ライフリング、それらの力を魔力で行っているようだ。

 そしてその力によって射出されたのは鉛の実弾。けれども化け鳥へと向かったその鉛は頭や胴体等の急所では無く羽根を掠めただけだった。


 何だよこれ、科学力が足りないから魔力で補っただけのただの銃じゃん。

 しかし納得は出来た。何に対してか?それは銃があるにも関わらずカーラのお姉ちゃんが弓を使っていた理由だ。

 この銃は機構の補助として魔力が使われるだけの素人向けの武器だったに違いない。誰が使ってもある程度の性能を持つ武器といったところだろう。

 それとは逆に弓は威力を上げる為に魔力を使い、機構自体は弓のまま。つまり純粋に弓の技能が必要になる玄人思考の武器だ。

 父親よりもお姉ちゃんの方が強かったんだなぁ、道理で娘達だけの狩りを許す訳だ。


 おっと…今はそれどころじゃ無い。化け鳥こっち睨んでるやん!

 ヤドカリは俺を乗せたまま既に村の外へ向かって走り出してるけど、鳥からは逃げれないだろうなぁ、さっきの一撃で致命傷を与えられなかったのは痛い。


『……これで…いい…おもう』


 お、テルマ!けっこう喋るようになってきたな。というか、何で言葉が分かるんだ?眷族だから?まぁ、俺としては話し相手が居るのは嬉しい限りだ。


『…てる…ま?』


 ウェステルマン肺吸虫とか呼びにくいし可愛くないし、何より虫感あり過ぎてちょっとなぁ。嫌か?


『…うれ…しい……ふふ、ふふふふふ』


 お、おう…喜んでるなら何よりだ。よし、それはそれとしてもう一発だ!あの鳥にもう一発撃ち込んでこの村から追い出そう。


『……たま……ないよ?』


 単発銃かよ!撃ち終わったらただの鉄パイプじゃねぇか!


『…どうせ…かてない…』


 うおおおお!化け鳥羽ばたいてるじゃん!すぐ来ちゃうよ!…ってあれ?襲って来ない?それどころか村から逃げてくな。飛び方もフラフラしてるし、慌ててる?


『とぶ…ための…はね…うった』


 風切羽狙ったのか!機動力奪われて人間にも勝てるか怪しくなったから逃げたってところだな、ヤドカリと違って防御力は低そうだからなぁ。

 にしても、テルマって寄生虫にしちゃ頭良過ぎないか?


『きせい…してるし…けんぞく…だから…あるじの…ちしき…すこし…かりてる』


 ほほーん、何にしても助かったぜ!テルマが居て良かった!


『よか…た?…わた…し…きらわれ…もの…じゃ?』


 んんー、俺にもメリットあるし、お互いにメリットのある状態は寄生じゃなくて共生って言うんだぜ!これから宜しくな!


『……ふふ、ふふふふ、ふひ…ふひひ』


 んむ、嬉しそうな事だけは伝わったわ。



 ……… …… …


 こうして化け鳥は去り、村も全滅は免れ、俺とヤドカリは村から離脱出来た。

 まぁ、何とかなったにはなったが…これからどうなるかは分からない。

 生き残った人間達はあの化け鳥から逃げる為にここを離れるだろう。今は飛行能力に支障が出ているがそれもいつまで療養しているか分からない。

 そしてそれと同時に噂は拡散するはずだ。魔物が再び現れた…と。


 これからは魔物の討伐とかで命を狙われる事もあるだろう。

 だが俺はそんな事よりも、あの姉妹が無事だったのかどうかだけが気掛かりだった。



ニューヒロインは寄生虫。ウェステルマン肺吸虫です☆

…この作品はどこに向かっているのでしょうね(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] 虫とヤドカリとサワガニ…… もうどうなっていくんですかこの作品()
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