第12話 ミルキークラブ
主人公の進化回です!
さぁ、主人公は何に進化するんですかねぇ。
【通常進化】
【モクズガニ】【ミナミオカガニ】
【特殊進化】
【バンパイアクラブ】【ズワイガニ】【オオホモラ】
【今進化しますか?】
よっし!進化先出た!さぁー、何になるか?いやいやもう決めてるけどな。この局面でただのカニに進化したって意味無いでしょうよ。
名前から察するにどう考えてもオオホモラはモンスターだ。名前がちょっとお腐り系女子を彷彿とさせるが今あの巨大ヤドカリに対抗出来るのはこいつしかいない!
さてさてどんなモンスターになることやら、あの巨大ヤドカリは単純に巨大化を繰り返した様なパワーファイターに違いない。
俺はスナガニ経由してるし、きっとスピード系のモンスターになるはず。パワーにはスピード!これ王道でしょ!いける!いけるぞ!
俺はオオホモラになるぞぉ!!
そう決めた途端に淡く光るサークルが俺を囲い、体も淡い光が包み込む。
巨大ヤドカリも元飼い主達も呆然とその様子を眺めて固まっていた。
もちろんそれが狙いだ、俺に注目を集める事で巨大ヤドカリの注意を人間から逸らす。ああ…俺も献身的になったものだなぁ。
しかし、標的を俺に切り替えずにただ見てるって事は俺を警戒してるのか、それともやはりあの巨大ヤドカリはあの時の…。
おっと、俺の体が変化していくぞ。やはり思っていた通り体が巨大化していく。これは初めての感覚だ、ふふふふ…大きくなるぞぉ、分かる、俺はきっと最強の魔物になる!
……ん?あれぇ?…成長止まったな。いったいどれだけ大きくなったんだ?
んん?んんんんん!?あっれぇ…高さ的には人間のスネくらい?かなぁ?いやいや、最初はSサイズだとはいえもうちょいさぁ…ねぇ?
いやぁ、何度人間と見比べてもそんなもんのサイズ感だわこれ。しかも俺を見つめるお姉ちゃんの顔が引きつってませんかね?え?俺いったいどんなモンスターになったの?
【オオホモラ サイズS】
【深海に生息する大型のカニ】
【蒸して食べるのが一般的、ミルキーな味わい】
【後ろ足が上に上がっており物を掴む事が出来る。ややキモい】
……カニじゃねえかあああああ!
しかも何だよ!ややキモいって!つまりアレか?お姉ちゃんの顔が引きつってんのって深海のキモいカニが陸上に現れてドン引きしてる顔だったのか!?
【サワガニとスナガニの特性を引き継ぎました】
水陸両用で高速移動出来る深海のキモいカニって事か!?
それもうある意味モンスターじゃねえか!全く望んでない方向性だけどな!
しかもこの説明適当過ぎだろ、特性を引き継ぎましただけじゃ分かんねぇよ。
【サワガニ特性】
【淡水適応】
【陸上適応(要水分補給)】
【生命力上昇】
【脱皮回復】
【視界拡大】
【スナガニ特性】
【海水適応】
【陸上適応(要水分補給)】
【高速移動】
【危険察知】
【脱皮回復】
【視界拡大】
【オオホモラ特性】
【深海適応】
【道具装備】
【脱皮回復】
【視界拡大】
詳細出るんかい!てか重複能力多すぎませんかね?まぁ、全部カニだし仕方無いのか?
こうなってしまったものは今更どうしようも無いしな、今はあの親子を助けてやるとしますかねぇ、…ねぇ……ね?いやいや、どうやって?
俺ただのカニですけど!?今からでも逃げちゃう?あ、あ、巨大ヤドカリこっちに姿勢向けてきやがった。やる気か?やる気なのか?
どうする!?どうする!?あいつ移動速度はそこまで早くはなさそうだけど、体格が違い過ぎると足の速さなんて覆されてしまうのは今までの経験上良く理解している。
この体格差だ、一歩のリーチに差があり過ぎる。んん?一歩の…リーチか。そう言えばオオホモラになってから随分と脚の長さ変わったよな。
試しに脚を動かしてみると俺は自分自身に対して驚いた。
スナガニだった頃と同じ感覚で脚が鋭敏に可動するのだ。
今は脚も身体も重いはず、それなのにスナガニだった頃と比べても遜色無い速度で脚が動く。これは…もしかしたらカニの限界を超えた速度が出るのでは?
スナガニの速度でオオホモラの長い脚を高速稼動させる事が出来るのであればそれはもはやカニでは無い。なんかこう…キモい何かだ。
………ダメだ、言ってて自分への精神ダメージが凄まじい事になってる。
いや!それでも今は落ち込んでる場合じゃない!
俺の速さなら巨大ヤドカリを撹乱出来るかもしれない!そう、これは絶望では無い!希望なのだ!そしてもう一つ希望がある!
それはオオホモラ特性の【道具装備】。
この特性があれば念願の魔法道具が使える可能性がある。
と言うのも俺はどうやら魔物らしいし、魔物は魔力を持つらしいのだ。
つまり、魔法道具が使える!…と、思う。
そうと決まれば狙うのは当然アレだ!父親が持ってた銃!
やっぱり男なら憧れるよねぇ、剣と銃は男のロマンですよ。ふへへへ、それが魔法のアイテムともなればスルー出来ようはずも無いというものさ。
さぁ!銃寄越せぇええええ!!
走り出した俺の目に映ったのは一本の矢。俺を目掛けて飛んで来たその矢はお姉ちゃんが俺に向けて放った物だった。
まぁ、そりゃ当然だろう。目の前で進化したんだ、俺だってあのヤドカリ同様で魔物だと認定されたはず。その魔物が自分の方に向かって来たら攻撃するのは当たり前だ。
しかし、甘い。それはあまりにも甘い。柿の糖度を超えるくらい甘いってものさ。
何で柿に例えたかって?サルカニ合戦に掛けたのさ!
まぁ…ダダ滑りする俺のトークは置いとくとしてだ。俺に矢など当たるはずも無いのだよ。見えてるからね、矢が放たれてからずっと、その軌道が手に取る様に分かる。
カニの視力で捕捉して、ただ横に移動するだけで矢は虚しく地面に突き刺さる。矢を見てから避ける事が出来るのだ。フェイントかけて射たって当たらない。
その後も何度か矢を射てくるがその全てを華麗なサイドステップで躱し続ける。
くふ、ぷぷぷぷ。ふはははははは!!
縦横無尽に駆け回るこのオオホモラ様に恐れ慄くがいいわ!
「え?え、え、当たらな…きゃああああ!!いやぁ!気持ち悪い!」
ぐふ!かはぁ!…くそ!完璧にでっかいゴキブリに遭遇したみたいなリアクションじゃねぇか。まさか精神攻撃仕掛けてくるとはな。
女の子に気持ち悪いと言われるこの辛さ、元人間の俺にはダメージがデカ過ぎるってものさ…ぐすん。…な、泣いて無いもん!カニだから泣かないもん!
父親の元まで駆け抜けた俺は銃を奪うと後ろ脚で背中に担ぎ、颯爽と人間達と距離を空ける。流石に俺の戦闘力じゃ踏まれただけで死ぬからな。
それにしても、この真上に上がった後ろ脚便利だな。ホールド感抜群だわ。どうよ、甲羅の上に銃を背負ったカニとか、超格好良くね?
さぁ!勝負だ、巨大ヤドカリ!俺の銃で風穴空けてやるぜ!
……あれ?おかしいな、狙いが定まらないぞ。
それどころか向きの調整すら出来ない。んん?ん?ん?
おや?何で地面にカニの脚が散らばってるんですかね?
ほわっと?………おう!じーざす!!あれ俺の脚じゃねぇか!!
歩脚がほとんどちぎれてるってどういうことだおい!
俺はただ走っただけだぞ!全力で走る以外の事はしてな…い……あ、そういう事かぁぁああ!スナガニの全力疾走にオオホモラの脚が耐えきれなかったんだ!
くっそ!どうすんだこれ!完璧に詰みじゃねぇか!
「うわぁ…脚取れてジタバタしてる。キモいけど、アレから先に片付けなきゃ」
俺に弓を構えるお姉ちゃん。これはダメなやつだ。もう何も抵抗手段無い。
もう煮るなり焼くなり好きにしやがれ。あ、蒸すのが一般的な調理法だったっけ?はぁ、人間を助けようなんてするんじゃなかったわ。素直に逃げるべきだった。
そういや件の巨大ヤドカリさっきから大人しいけど、どうしたんだろ…う…な?なああああ!!!俺の頭上に移動してるぅ!?
え?何で?プレスして殺す気なのか?カニ煎餅なのか!?
「え?キモい方を…庇ってるの?何…で?」
キモい方って言うなぁ!!って、え?これ庇ってるの?
言われてみれば確かに攻撃の意思は感じない…かも。
下から巨大ヤドカリを見上げた時、俺はその正体を理解した。背中に被った民家の屋根製のヤドの内側が見える。ヤドカリの腹部には模様が入っていた。見覚えのある模様。
何故この模様がヤドカリ自身の模様になったのかは分からない。だって、この模様は俺がこのヤドカリにあげた物に付いていた模様のはずだから。
そう、それはアンティークカップに付いていた花模様。
巨大ヤドカリの青紫色の体に馴染んで淡い紫色になった花の模様。
あの時のヤドカリで間違い無い。やはり花柄模様が良く似合う。晴れ着姿の女の子の様だ。大きさが変わっても俺の感想はあの時と同じだった。
─────……
後にこのヤドカリ型モンスターは人間達からロベリアと呼称される事になる。
ロベリア、紫色の可愛い花。花言葉は悪意。
俺がその名を知るのはもう少し先の話だ。
やっとヒロイン(?)の名前出せました。
とは言っても作中でこれが馴染むのはまだまだ先ですが。
いやぁ、主人公キモいですねぇ…。