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第11話 モンスター

間が開きまくりで申し訳ございません!


 俺のペット生活継続が決まった次の日の早朝。

 まだ太陽も登っておらず、村がようやく少しだけあからんできた時間の出来事だ。

 水槽内の水が僅かに震動し、違和感で目が覚めた。

 こんな小さな震動に気付けて目が覚めるのは危険の察知に優れた小動物くらいなものだろう。その証拠にこの家の人間は一人も起きて来ない。


 とは言っても俺は地震大国日本で育ってきた身だ。地震なんて日常茶飯事だし、「あ、揺れたなー」くらいにしか思っていない。

 この世界の建築技術は知らないけど、流石にこんな微振動で家が崩れたりはしないだろう。気にせず二度寝と洒落込む方が得策というものだ。


 これが某恐竜映画の世界であれば水面に波紋がたつのは恐竜が近くに居る演出となりえるのかもしれないが、そんなフィクションな物語に感化される俺では無い。

 ジュラシックなタイトルなのに白亜紀の恐竜ばかり出てくる世界とは違うのだ。この揺れはきっと小さな地震で間違いない。たぶん震度1くらいのやつだ。



 しかし次の瞬間俺の予想は大きく覆されてしまった。

 一際大きな縦揺れとともに地鳴りがし、木材が割れる様な乾いた大きな音がしたかと思ったら人間の悲鳴まで聞こえてきてしまった。


 揺れたのは一瞬、これは流石に地震では無い。この家は…無事な様だ、しかし流石にこの家の者も目が覚めたらしく慌てて起きてくる。どうやらけっこう近い場所で事件があったらしい。



「お父さん!今の音何!?」


「知らん、俺も今起きた所だが…山賊か…あるいは…とりあえず武器だけは持っとけ。カーラはまだ寝てんのか?大事な物だけ持って隠れるよう言っておいてくれ」


「うん…分かった」



 やはり民家を襲った「何か」が居るようだ。少ししてこの家の家族達は皆装備を整えて集まりだした。


 父親は…え?銃?この世界にもあるのか…ちょっと意外だな。ファンタジー感薄れるから弓使えよ、弓。

 口径が広くて砲身がやや長めなシンプルな感じ。砲身が折れる様に開いて弾込めるやつに似てるかも。海外の映画で見た事ある気がする。

 とは言ってもあれもどうせ魔法の道具だろうし、実際に弾を込めるのかどうか分からないけどな。どうせ弾は魔力弾みたいな感じなんだろ?…めっちゃワクワクするやん。


 お姉ちゃんが持ってきたのはやはりイノシシ事件の時にも持っていた太い弓、これも魔法の道具で、魔力を込めると女の子でも軽々と引けるやつだ。

 それと腰にはうっすらと光る丸めたロープの様な物…あ!あの時のシャイニングバインド!イノシシを捕縛したやつだ。携帯時はあんな感じなのか。

 俺の命の恩人ともいえる魔法道具様だからな、シャイニングバインド様にはもう感謝しかないってものさ!あざーっす!


 そして俺の飼い主であるカーラ様は…確か大事な物持って隠れる役目だったけ?通帳やカード?は無さそうだよなぁ、普通に金品とか貴重品かな。

 しかしまたもや俺の予想は大きく外れ、カーラ様が抱えていたのはなんとも可愛らしいお人形。甘ロリなお洋服が優雅さを一層際立たせて……てオイ!

 それお前の私物だろうが!確かに大事だろうけど!それ私物だろ!?

 あぁ…ダメだ、カーラ様目蓋重そうだ。お眠さんだ。もうすぐ起きる時間とはいえ無理矢理起こされたら眠いよね、頭働かないよね。分かる、超分かる。



「え?ちょっと、カーラ、何持ってるの?」


 あー、ほらー、さっそくお姉ちゃんに突っ込まれてる。


「ふぇー?大事な物だよー?」


「違…、今非常事態なの!もー…良いわ、その人形も売ればけっこうな値段付くから。それ持って隠れてて」


「えー…これは売っちゃ嫌だー」


「嫌ならちゃんとお金を持ってき…きゃああ!」


 お姉ちゃんの言葉を遮る様にして家の中に木片が飛び散って来る。その木片はさっきまでこの家の壁だった物だ。風穴の空いた壁の向こう側に見えた物を見て俺も叫びたい気持ちでいっぱいになった。…いや、叫んでも泡しか出ねぇけど。


 ソレは淡い青紫色をした硬質で分厚い鋏状の物体。

 見た目こそ甲殻類特有の鋏脚に見えるが異常なのはその大きさだ。人間の胴体を一撃で切断出来そうなその大きさに冷や汗がダダ漏れる。…いや、汗出ねぇけど。

 俺の位置からは全体を見る事が出来ないが明らかに人知を超えた化け物だ。

 この世界に来て初めてのモンスターとのエンカウントが甲殻類とは、よくよく甲殻類に縁があるものだ。



「いやぁ!あああああ!やだ…やだ…いやあああ!」


 あ、ダメだ、お姉ちゃんパニックになってんな。表情が恐怖一色で染まってる。いや、まぁ、無理もねぇけどな。あんなん見て正気保ってる方が希だわ。

 メキメキと音を立てて家の壁を破壊する巨大な甲殻類の化け物とか、モンスターパニック物のB級映画でならありそうなシチュエーションだけどな、実際に目の前で起こるとなると頭が変になりそうだ。

 …え?何で俺は割と平気なのかって?そりゃお前、俺が何回死線越えて来てると思ってんだよ。俺からしたら殆どの生き物皆化け物だわ。

 むしろ俺くらい小さい生き物ならどさくさに紛れて逃げれるかもだし、今回は人間よりも生存率高いかもしれん。



「落ち着け!家の中に居たら瓦礫で埋もれるかもしれん!外に出るぞ!」


 父親の言葉にハッとしたお姉ちゃんは恐怖を堪えながら妹の手を引っ張る。しかし妹…カーラも思考が止まってしまっている様で小刻みに震えるだけで動こうとしない。恐怖のあまり逃げるという考えに思考が辿りついていない。

 なるほど、これが蛇に睨まれた蛙の心境か。


「カーラ…お願いだから…逃げようよ…ねぇ」


 お姉ちゃんも怖いだろうに、目に涙をいっぱいに溜めてカーラを引っ張っていくがその手には力がこもらないようだ。


 そんな二人を正気に戻したのは一発の銃声だった。

 父親が二人を庇う様に立ち塞がり、甲殻類の化け物に向かって発砲していた。

 しまった、発砲の瞬間を見逃した。実弾なの?魔力弾なの?まぁ、例の如く銃を握る父親の手が僅かに発光してるし魔力っぽいかな?超見たかった。

 反撃を喰らったその大きな鋏脚はこの家から少し遠ざかったようだ、俺の水槽の位置からはもうよく見えない。



「早く行け!!」


 父親の怒鳴る声に応える様に慌てて家を飛び出す姉妹。…いや、俺どうすんのよ。瓦礫に埋もれるのは御免被りたいよ?俺なんて大きめな木片一つ当たるだけで致命傷よ?


「あの二人だけは…守らねぇとな」


 おう、そうだな、サワガニ大量に食い殺してる割にはなかなか良い父親してんじゃねぇか。でも自分に酔って独り言で格好つけてんのは良いとしてさ、俺も助けてくんない?ほら、水槽倒してくれるだけで良いからさ。あとは勝手に逃げるからさ。


 あ!あの野郎、壁の穴から外に出て行きやがった、戦う気か?

 …俺はどうしたら良いんだ?誰も居ない家に一匹やで?家崩れたら俺死ぬよね?脱出…するべきか。

 はてさてどうやって?進化したら水槽破壊して出れる?いやいや、良く考えたらこんな小さな水槽なら自力で出れるんじゃね?

 水槽の高さが約10センチ、俺の甲幅が約3センチってとこか?脚伸ばせば…あかんか、ちょっと足りんわ。んー、踏み台でもあれば…て?あれ?そうだよ!水入れ用の貝殻あるじゃん!

 何だよ…初めから脱出簡単だったんじゃん。


 さっそく貝殻を持ち上げると水槽の側面へとセット、さぁ!いざ行かん!自由の大地へ!水槽の縁に脚が…届いた!行ける!行けるぞぉ!

 ふはははははは!ペット生活も悪くは無いが飯が不味い上に自分がオカズの一品になりかねないからな!こんな場所さっさと立ち去るに限るのさ!



 俺の小さな体では玄関からは出られ無い、しかし今はあの化け物が空けた穴がある。父親の後を追って外に出て、後はこっそり退避すればミッションコンプリートさ。

 正直イノシシやイタチから逃げるよりも遥かにイージーだと思う。



 家の外へと飛び出した俺の目に、朝の日差しが染み込んでくるのを感じる。何日かぶりの外だ。そして、その朝日はモンスターの姿も照らし出す。


 やはり思った通りの甲殻類、人間の成人男性よりもやや背丈があり、全長で考えればかなりの巨体になる。俺みたいな小動物からしたらもうビルを見上げる様なものだ。

 なんて、建物に例えてしまったのには大きさ以外にもう一つ理由がある。

 それは、そのモンスターの背中には人間の家の屋根が乗っていたからだ。

 おそらく最初に襲った民家から屋根を奪ったのだろう。…種族的には「借りた」と言うべきなのかな?そう、そこに居たのは巨大なヤドカリだった。

 同時に地震の正体も判明した。近くの家が掘り起こされる様にして倒壊していたのだ。掘り起こして、壊して、屋根を借りていた。貸す方はたまったものじゃない。



 魔物、進化、ヤドカリ。

 スルーして逃げるつもりだった俺の足は止まっている。

 あのヤドカリは…もしかしたら…いや、まさかな、流石にデカすぎだろ。

 仮にあいつだったとしてもこんなの近付けないし、もし人違い…いや、魔物違い?だとしたら踏まれて即終了だ。君子危うきに近寄らず、触らぬ神に祟り無しってな。

 やはりここは逃げるべきだな。



「きゃあああああ!!お父さん!お父さん!」


 ん?この声は…お姉ちゃん?その近くには父親が倒れており、地面を赤く染め上げていくのが見てとれる。まだかろうじて息はあるみたいだが、すぐに手当しないと不味いだろう。

 だからと言って今の状況が好転するはずも無いのが現実。

 妹のカーラもただ泣き叫ぶのみで何も行動がとれていない。お前に捕まったサワガニ達だって似たような物だったんだぞ?足掻け、生に縋りつけよ。


 今までさんざん命食ったろ?今度はあんたの番さ。自然ってそういうものよ?

 この村は狩猟を生業にしてるんだ、自分達が狩られる立場になったって文句は言えんだろう。ここにいる姉妹だってそうさ。

 人間の命だけが特別だなんて思わない方が良い。

 元人間のカニが言うんだ、説得力あるだろ?


 まぁ、生きていればどこかで会う事もあるだろう、じゃあな、元飼い主さん。




 ……なんて、割り切れたら楽なんだけどな!

 あーもう!元人間だからかどうしても気になってしょうがないわ!

 おい!進化だ進化!はよ進化させろや!



あの恐竜映画はね、面白いですよねー。子供の頃無印のやつ何度も見ました。

ヴェロキラプトルだとか言っておきながらサイズはユタラプトルで特徴はデイノニクスだったりするラプトルさんはシリーズ通して良い味出してますよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 正気保ってる方が希だわとか言ってるやつが1番正気を保っているという大きな矛盾w ところで、何に進化できるんでしたっけ(おい)
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