第9話 魔物って何?
今回は設定の説明回です。
そしてペット生活スタートです。
「はい、今日からここが君の家だよ」
そう言って連れてこられた場所は木材で造られた一軒家。断熱材があるようには見えない、そもそも屋外であっても別に暑くも無いし寒くも無い。
どちらかと言えば暑い部類に入るかもしれないが特に汗をかくほどでも無い。いや、俺カニだから汗かかねぇけど。この妹ちゃんも元気そうだし、恵まれた気候の土地なんだろうな、きっと。
似たような木造の家が建ち並び、畑もポツポツと見られるものの規模は家庭菜園並みで、あまり大きな畑は無い。
それよりも目立つのは軒下に吊るされたイノシシやシカといった動物達。そのどれもが腹を裂かれ、内蔵を抜かれている。
あの時のイノシシもこうやって吊るされたんだろうなぁ。なんて思うと感慨深いというものだ。
「はい、ここが君の部屋」
家に入った後、俺はすぐに小さなガラスケースに入れられた。中には砂と水が入っている。
砂は床面が隠れる程度、水は平たい貝殻をひっくり返して器にした物にちょびっとだけ。
てかこの水槽、流石に小さ過ぎない?パッと見10センチ四方の立方体じゃない?ねぇ妹ちゃんて生き物飼った事ある?生体が収まれば大丈夫だと思ってる系?
いや、まぁ…贅沢は言うまい。俺の巣穴よりは広いさ、うん。
それに砂だって敷いてくれてるし、少ないけど水だってある。…て、これ真水じゃないですかね?俺がサワガニ特性持ってなかったらヤバかったんじゃ?
あー、さてはあれだな、海水は面倒になって諦めたな?
んー…まぁ良いか!煮えたぎった油を用意されるよりは遥かに天国だ!
【「観賞用として飼われる」達成】
【進化先が追加されました】
お?次の進化の選択肢が増えたか。ペットとして人気のあるカニってことか?なるほどなー、安全が確保されるならペット生活も有りだな。
なんて考えていると足音が近付いてくるのを感じて体が強ばる。
この重い足音はあの時のお姉ちゃんでは無い。と、なれば。
「おー?カーラ、帰ったのか。お前俺のヤビーポンプ勝手に持って行ったろ?カーラじゃあまだ腕力が足らないだろうに。何か捕れたか?」
出た!父親だな!?酒のツマミに我が同胞達を食らった男!
無精髭の似合うナイスミドルだからって油断の出来ない敵だ!
「ただいまー。うん、1回使っただけなのに疲れたよー。でもねー、カニさん捕れたよ?見て見てー、小さいカニー」
「ん?スナガニか。1匹だけじゃ腹は膨れんぞ?」
「違うの、この子は飼うの」
「はーん、カニをねぇ、こいつだって貴重な食料なんだぞ?」
「むー…分かってる…けどぉ」
「はぁ、分かったよ。このカニが弱るかカーラが飽きるまでの間だけだからな」
「…はーい」
この父親、この水槽見てから条件付けやがったな、そりゃこんな環境じゃすぐ弱るだろうさ、普通のスナガニならな!俺は逞しく生きてやる!
お前の酒のツマミにだけはならないからな!おっさんに食われるくらいなら可愛い女の子に食われてやる!
「あら、カーラ。どこ行ってたの?」
あ、お姉ちゃんも来たみたいだ。イノシシ事件の時の俺の命の恩人。まぁ…向こうにその気は無いだろうけど、食われるならせめてこの子か妹ちゃんでお願いします。
…いや、死にたくねぇけど。
「あのね、砂浜までカニ捕りに行ってたんだよ」
「ばか!1人で行ったの!?魔物が出たらどうするの!?」
「えー、魔物なんて出ないよぉ、見た事無いもん」
「魔物は普通の生き物に化けてる事があるらしいのよ」
ほう、魔物とやらは擬態能力があるのか、逃げる為?捕食の為?よくは分からないけど、俺も魔物っぽい奴には出会した事無いなぁ。
なんて思っていると姉妹の会話に父親が割って入ってきた。
「それは誤解だな。魔物というのは元々は魔力を持った普通の生き物で、段階を経て魔物へと進化する。…と、いうのが有力な見解だ。昔魔物が発生した時の進化の瞬間を見たという者が何人か居たらしい」
ん?普通の生き物?進化?…おやおやおやぁ?
なぁんかそういう生き物に覚えがあるぞぉ?
「え?それはおかしいよ。魔力っていうのは人間にだけ宿る力でしょ?高い精神力を持っていて祈る事が出来る動物、つまり人間にしか発生しないって聞いたよ?」
へー、そうなの?お姉ちゃん博識だねえ、妹ちゃんは話に付いて行けずに退屈そうにしちゃってるよ。暇なら餌ちょうだいよ、ねえ、餌、ギブミー餌。
「その辺りの理屈は知らねぇよ。俺は学者でも何でもねえからな。人間の心を持った野生の生き物でも居れば有り得るんじゃね?」
ほへー?人間の心を持った野生の生き物ね?
……いや!俺じゃん!?え?何?俺魔物だったの?
いや、今はどうでも良いわ。餌くれよ。
「もー、お父さんはまた適当な事言って……あら?カーラが捕ってきたのってそのカニ?スナガニなんて良く捕まえれたわね」
お?お姉ちゃん近付いて来た。俺の意思が届いたか?お腹空いたんだよ。
「そーだよー、私が捕まえたの。可愛いでしょー。えへへー、育てるんだー」
それを聞いたお姉ちゃんは違う部屋に消えた後、少しして戻ってきた。その手には何やら…ん?あ、あれ肉だな!ひゃっほー!
「お姉ちゃん、その肉の欠片みたいなの何?」
「イノシシの内臓を少しだけ切り取って来たの。私達が食べないとこ」
「…残飯じゃん。えー、私のカニにそんなのあげるの?」
こら!余計な事言うな!さあ、早くください!動物の肉なんて久しぶり過ぎてもう内臓でも何でも良いわ、むしろ柔らかいのは有難い。
「カニは何でも食べるからこれで良いのよ」
そう言いながらお姉ちゃんは俺の水槽に肉の欠片を入れてくれた。
そうそう、分かってんじゃねぇか、へっへっへ。こちとら今まで砂に付着した何かの死骸の残骸の慣れ果て食ってたんだぞ?イノシシ肉とか最高だわ。
そっさく鋏で契って口に入れる。その途端口の中に広がる芳醇な臭みが……いやまっず!くっさ!内臓くっさ!…でもまぁ…食えるわ。カニすげぇ、人間だったらこんなん1口で吐くとこだわ。
まぁ、内臓の臭みよりも驚いたのはお姉ちゃんの独り言だったんだけどね。
「それにしても、カーラも変な子ね。自分の分のカニを育ててから食べる気なのかしら。まぁ、良いけどね。ここ置いておいても邪魔だから早く大きくなってね?」
うえぇぇええ?あ、そうか、さっきの父親との会話聞いてねぇんだ!
【「食用として飼われる」達成】
【進化先が追加されました】
やかましいわ!ズワイガニだろ!これ絶対追加された進化先ズワイガニだろお!
「あ、魔物で思い出した事あるんだがな?」
あ?父親が何か言ってんな?でも俺それどころじゃねぇんだわ。せっかくペットになったのに食われる危険性が発生してんだわ。
「昔な、討伐された魔物を飢えに耐えかねて食った奴が居たらしいんだが…いくつかの肉が混ざった様な不思議な味で、かなり美味しかったらしい」
なんじゃそりゃ。まぁ俺ならサワガニの味とスナガニの味両方するかもしれんけどな?……あれ?んん?つまり…そういうこと?
…俺、やっぱり魔物かもしれん。
はい、これで何となくネコ魔王の思惑も分かってきましたね。
それにしても更新遅くてすみません。もうちょっと早く書けるようになりたいですなぁ。
さぁ、主人公はズワイガニになるのでしょうか?次回で分かるかもしれませぬー。