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第1話 一口サイズの命

新しいの始めました。

読んでいただけたら嬉しいです。

ブックマークしていただけたら更に嬉しいです。


 人間なんて残念な生き物だと思う。


 ルールに守られるのはルールに縛られるのと同じ事。

 役割が有り、やりたくも無い勉強をして、将来はやりたくも無い仕事をして、面倒で複雑な書類と格闘して、明日の為に寝る。


 真面目な人間から利益を奪おうとするのも日常茶飯事だ。

 そう、宿題を忘れた時の俺が正にソレ。友達の宿題を写しても全く心が痛まない。まったく…なんて卑劣な生き物だ。


 何より異性にモテるかどうかはルックスに大きく左右されるにも関わらず運ゲー。そんなのクソゲーも良いとこだ。

 ルックスで得をしてる友達の宿題なんて写して当然の権利だと主張したい。

 その点、野生の動物なら強ければモテる。強いオスほど男性ホルモンが増していき、より強そうな見た目になっていく。



 では人間をやめたいか?…答えはもちろんNOだ。


 人間ほど娯楽の多い生き物はいない。

 野生の動物はスマホ無しでどうやって生きているんだ。全くもってナンセンス。

 人間じゃないとゲームのコントローラーも持てないし、漫画のページだって捲れない。仮にページが捲れても文字が読めない。ゲームも漫画も無し?全くもってナンセンス。


 某アイドルゲームで推しのSSR実装に一喜一憂しながら生きて行く。俺の人生なんてそれで満足さ。将来は課金のために仕事だって我慢しよう。



 そして何より、地球において人間は食物連鎖のトップだ。

 それはつまり地球の支配者は人間である、と言っても過言じゃない。

 わざわざ支配者の座から降りたいとは思わないのが普通だろう。


 屋根と壁のある家とかマジ最高。

 捕食されないって超素敵。


 大事な事だからもう一回言わせて?


 捕食されないって超素敵!




 ◆  ◆  ◆




 日本は正に飽食の国だ、食べ物に溢れている。

 消費されずに棄てられてしまう食べ物だって多い。

 そのためか感覚が麻痺してる人達が多い事も否めない、食べ物を粗末に扱い面白がっている人達までいる始末だ。


 とは言え、まぁ、俺に出来るのは昼飯の弁当を残さず食べる事くらいだけどな。母さんに感謝、冷凍食品にも感謝だ。

 そして腹を満たせば眠くなる。午後からの授業は眠気との戦いになる事もやむを得ない。


 …… …


 …ああ、やっぱり眠気には勝てなかったよ。

 まさに秒殺とはこの事だろう。ノートに立派なミミズが描かれていく。

 時折目が覚め、ノートを取り直そうと試みるが新しいミミズを描くだけとなる。

 諦めよう。睡魔と戦うなんて無謀だったんだ。


 目蓋が…重い…。



 俺の眠気がピークを迎えたその時だった、窓の外が急に明るくなり教室が騒がしくなった…気がする。

 何故曖昧かって?眠気がピークだって言ったでしょう?

 次の出来事が一瞬過ぎて寝惚けた頭では理解が追い付かなかったのだ。




 ……… ……… …… …


『食の探求者たる民よ、我は………』


 ここは…夢?あれは…巨大なデブ猫?


 ……… ……… …… …




 気が付くと眠気も吹き飛んで視界も良好、実に清清しい。

 昼寝の後って妙に爽やかに感じるよね。高い空、木々のざわめき、流れる水の音、マイナスイオンが染み渡るような気がする。

 全くもって異常無し。やはりさっきのは夢だったんだ。



 ……って、え!?いやいやいやいやいや!!

 待って!いくらなんでも視界良好過ぎない?

 前を向いてるはずなのに真上も真横も見えてるんですけど!?

 それに教室に居たはずなのに今俺巨大な岩の上に居るし!


 ああ…そうか、これまだ夢の中ですね?

 だって歩こうとしても体が上手く進まないし、夢の中ならよくあるもんね、こういうの。足が上手く前に出ないんだよね。うん、あるある。

 前の足と後ろの足がぶつかって歩き難かったりね、あるある。


 ……ねーわ!!


 前の足!?後ろの足!?え?四本あるの!?

 ちょっと一本ずつ動かして確認してみましょ…。

 …1…2…3…4……5?…6?…7!…8本ある!?

 そりゃ足ももつれるわ!俺どんな夢見てんだろう。自分の夢にマジで引く。

 手も合わせたら全部で10本かー、こりゃもう化け物だわ。


 手、手なー、実はさっきから鮮やかなオレンジ色のハサミっぽいものが視界に映ってるんだよなぁ、見ないようにしてたんだけどなぁ。

 まさか…ねぇ。自分の意思で動いたりなんて…。

 はい、開いてー、はい、閉じてー……うん、動くやん!


 え?待って!今俺本当どうなってんの!?

 この手でもスマホって反応する!?


 自分の事を確認しようとしたその時、不思議な物が俺の目の前に出現した。

 それはゲーム画面のウィンドウ。ステータス画面というやつだ。ゲーム好きな俺にとってはよく見知った物だが、空中に出現するとなると違和感しかない。

 そしてそこに書いてあった文字が俺自信にとどめを刺した。



【サワガニ サイズS】

【淡水に生息するカニ、陸生にも適応している】

【素揚げや唐揚げにして殻ごと食べる事が可能】

【お酒のおつまみや子供のおやつとして人気】



 うおーい!待って!何これ!ステータスっていうか…アイテムの説明文じゃない!?

 しかも食材アイテムだよね!?ゲームだったら川付近でランダムで拾える感じのアイテムだよね!?効果音とともに「サワガニ 一匹獲得」って感じの!


 冗談じゃない!いくら夢でも冗談じゃない!

 カニになっただけでもホラーなのに、油でカラッと揚げられてなるものか!



 他にも何か情報を集めなくては、いくらカニになろうとも俺は人間だ。

 スナック感覚でお手軽に食べられるのなんてごめんこうむりたい。

 何か…ん?


 その時、視界の端で動く物を見付けた。今の俺の視界の端ってなると…ほぼ後方になる訳だが、まぁ、それは置いておいて、体を少し動かして後方を確認すると、そこに居たのは今まで見た事も無いほど巨大な化け物だった。

 自分の背丈と並ぶ程の大きさ、体は硬質でやや黒っぽく、八本の歩脚と二本の鋏脚を携えたキリングマシーン…って、あれサワガニだわ、同胞だったわ、サイズ同じなら兄弟の可能性すらあるわ、ビビって損したわ。

 自分が小さいんだから大抵の物はそりゃ巨大だよね。


 まぁ、例え夢の中でも兄弟にはフレンドリーにせなあかんでしょう。


「へい!ブラザー!」


 いや、声出ないけど、泡しか出ないけど。想いくらいは伝わるでしょう。

 ほら、ブラザーも両手上げて応えてくれてるよ。はははは、カニって意外と可愛いな。



 その次の瞬間、ブラザーの隣に降り立つ謎の羽毛生物。背中と羽は鮮やかな青色で、お腹はオレンジ色の綺麗な鳥。

 あー、この鳥知ってるかも。凄くカワセミっぽい。


「あ」


 カワセミのクチバシがブラザーの体を挟み込んで一口でパクリ。


「ブラザーァァアアア!!」


 そんな!こんな簡単にブラザーの命が終わるなんて!サワガニがこんなにも無力だなんて!ブラザーの犠牲は絶対に無駄にしないよ!俺がブラザーの分まで生きてみせる!


 ……あ、カワセミこっち向いた。あー、つぶらな瞳で可愛いなぁ。

 あはははー、近付いてくるー、流石は空飛ぶ宝石、絵になるなぁ。


 ……じゃねーわ!!次の標的確実に俺だわ!

 逃げなきゃ…逃げ……あー!足が絡まって上手く走れないー!

 何でこんなに足多いんだよ!可動域も狭くて全然進まないし!

 カニって何でこんな不便な……ん?カニ?


 試しに足を横向きに動かしてみた。

 動く…滅茶苦茶スムーズに動く。可動域が広いし他の足にぶつからない。

 そうか!俺今カニだったわ!カニが横歩きするのって意味があったんだな。


 そうと分かればこっちの物だ。全力で横移動して後は岩の隙間に隠れてやる。

 横に移動してるのにちゃんと進行方向も確認出来る。カニの視界は実に広い。

 その視界に景色が高速で流れていく。速い!カニがこんなに速いだなんて知らなかった。これなら逃げきれるはず、いや、余裕で逃げれる!


 はははははははははは!…は?


 突如隣に現れたカワセミさん、何故?俺速かったよね?何で追い付かれたの?


 まぁ、後になって考えればその理由は明白で、サワガニの小さい足でいくら高速移動しても鳥の速さに勝てる訳無いんだよね。こんな目立つ所で鳥に見つかった時点でゲームオーバーだったと、それだけの話。


 だがまだだ、俺は人間だぞ。可愛い小鳥ちゃんに負けてたまるか。

 カワセミがクチバシをこちらに向けた瞬間、俺は華麗にステップを踏んで走る方向を変えた。フェイントをかけるカニなんて流石に自然界には居るまい。


 カワセミのクチバシは俺の胴体から狙いを外す事になり、俺は今度こそ勝利を確信した。…しかし、種族の壁というのはあまりにも残酷だった。

 カワセミは素早く軌道を修正すると俺の足の一本をパクリ。そしてそのまま持ち上げられてしまった。

 地面が遠ざかる恐怖、そして今から生きたまま食われるという恐怖。


 恐怖に駈られた俺はもう必死だった。どうやって逃げれば良いのだろうか。

 もう逃げる術など無いように思えて絶望に打ちひしがれる。サワガニはなんて弱いんだろう。足なんてくれてやるから逃がしてはくれないだろうか。


 あれ?そう言えばカニの足って確か…自切出来たよな?


 やり方は本能で理解出来た、カワセミに捕まった足を切り離して地面へと降り立つ。

 しかしここで安心してはいけない。歩脚は残り7本だが…大丈夫まだ走れる。

 動きを読まれないようにフェイントをかけ続けてジグザグに走る。

 走る時、切り離した足の付け根がジンジンと痛んだ。足一本無くなったにしては軽い痛みだが、カニに痛覚があるって本当だったんだな。それとも俺だけ特別なのか?

 と言うか、何で痛みがあるんだ?夢じゃないのか?

 この痛みも、そしてこの恐怖も…とても夢だなんて思えなかった。

 ここでようやく理解した。これは…現実なんだと。



 岩の隙間まで逃げ込んだ所で、カワセミはようやく諦めてくれたようだ。

 カワセミがこの岩場から飛んで離れて行ったのが見えた。

 見えた…が、カワセミが近くの木の枝に止まったのも見えてしまった。

 俺が出てくるのを待っているのか、それとも他のサワガニ待ちか。



 俺が恐怖から解放されたのはカワセミが小魚を捕まえて満足して飛び立った後だった。



読んでくださり感謝の極みでございます。

まだモンスターすら出ていません。普通の小鳥にボコボコされております。

まぁ、サワガニですからね。一応進化していく予定ですので彼を応援してあげてほしいです。

ちょっと長めの話になる予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ひいいいッ!? 凄まじい臨場感! 恐怖と戦慄のサバイバルホラー! 凄いです。視点がもうマジ、カニさん! 。・゜・(ノД`)・゜・。 すっごい面白いです!
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