転校
「天城 百合愛と申します。よろしくお願いします」
百合愛は自分でもわかるくらいの暗い声であいさつしてしまったと思った。
だが状況が状況だけに緊張しても仕方がない。百合愛は通う高校を転校することになったのだ。今日9月1日は転校初日だ。青園高校から同じ県立の旭山高校に転校した。
旭山高校の女子の制服はブレザーらしい。青園高校のセーラー服を着ている百合愛はそれだけで浮いていた。
いたるところでヒソヒソ声が聞こえる。
「あの子だろ?例の飛行機事故の生き残り」
「かわいそうだよねぇ、なんて声かければ良いのかな?」
「結構可愛いじゃん、俺好みかも」
百合愛には雑音にしか聞こえなかった。担任の女教師が席を指さす。
「一番後ろの廊下側が開いているわね、天城さんの席はそこにしましょう。今日から天城さんは2年A組の一員ですから皆さんわからないことは教えてあげて下さいね。じゃあホームルームを終わります」
さかのぼること2ヶ月弱前。夏休み目前の7月に青園高校から連絡が入った。百合愛に保護者と一緒に学校まで来てほしいと電話が入ったのだ。
何があったのかと百合愛は思ったが、いつまでも高校を休むわけにはいかない。事態を打開する手立てが見つかったのであれば聞かせてほしかった。
学校に着くと校長室に通された。そこには県の教育委員会の人と校長先生の2人がいた。お互いに向かいあってソファに座った。教育委員会の人が口を開く。
「神奈川県教育委員会の佐久間と申します。今回はこの様な事態になってしまい心中お察しします。早速ですが、天城さんの娘さんの今後をお話したいと思い参りました。お母さまにもご足労願い感謝いたします」
「いえ、お気になさらず。それで、娘はどうなるんでしょうか?」
「教育委員会でも協議いたしましたが、同じ県立の旭山高校に無条件で転校という措置を取りたいと思っております」
百合愛が口を開いた「転校って、いつからですか?」
「9月1日の夏休み明けからとなります」
旭山高校の資料の入った封筒をテーブルに置いて教育委員会の佐久間は話を続けた。
「急な話で戸惑うかも知れませんが何卒ご理解ください」
そう言って話は終わった。
事故直後はふさぎこんでいた百合愛だったが次第に回復していった。まだ悲しみとショックは残っているが、また高校に通えるとだけあって安堵した。
しかし、心の端では自分だけが生き残ってしまった罪悪感の様なものに襲われ心が痛んだ。
「(自分は生きてて良いのかな?)」心の中で呟き、母親と共に家路についた。