透明人間
とある学校で少年は悟った。自分がすでに死んでしまっていることを…。
というのは嘘です。
俺は透明人間になったらしい。俺の姿は周りのやつからは認識されていないが、俺自身はものに触ることができる。
「せっかく透明人間になれたんだから、何かするか。」
俺は小さくつぶやくと、教室に入った。相変わらずの賑やかな教室をとりあえず散策することにする。人にぶつかると存在がバレてしまうから、なるべく人が通らないところを慎重に。
バサッ
どうやら肩に教科書があたってしまったらしく床に散らばってしまった。周りのやつらは驚いて目を見開いている。なぜならアイツらには誰もいないところで教科書が勝手に落ちたように見えているからだ。
「このまま心霊現象を起こしてクラスのやつらにイタズラしてやろう。」
俺の心に小さな魔が差した。
朝礼の時に俺は黒板消しを地面にさり気なく落とした。チョークの粉が教室に舞う。そして俺はその粉を両腕で風を起こして動かす。
「か、風が吹いてる…!?」
みんなが怯える姿を見て俺は笑いをこらえるのが精一杯だった。授業をしている先生の耳元で小さくささやいたり、寝ている生徒の髪の毛をあたかも浮遊しているかのように動かしたり、俺は透明人間ライフを十分に楽しんでいた。
「これはきっとアイツの呪いだ…。」
一人の生徒がつぶやく。その意見に他の人たちも賛同したかのように首を縦に振る。呪いなんて外道な言葉で片付けないでほしい。これはれっきとした透明人間の悪戯なのだから。
「アイツ、死んで俺たちに復讐をしてんじゃねーだろうな。」
死んで?俺の頭の中に「死」というワードがエコーする。
「死んで、復讐…。」
そうだ。俺は透明人間じゃないんだ。俺はもう死んじゃってるんだ。俺はイジメを受けていた。クラスのみんなからきらわれて陰湿なイジメを受けた。先生も助けてくれなかったし、親も放置した。だから俺は死を決意した。それで屋上から飛び降りたんだ。
「透明人間じゃなくて、亡霊なんだ俺。」
俺は不思議と喪失感におそわれた。自殺をしておきながら後悔をするなんておかしいかもしれない。それでも、自ら命をたつことほど虚しいものはないということを、身にしみて実感させられた。
金星の本日の天気は晴れです。
今日は僕の友達(?)カタールさん(あだ名)の誕生日だな。