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僕らはみんなアンダーグラウンド

作者: 雨雲


「僕らはみんなアンダーグラウンド」


ひとつ、物語でも語ろうか・・・・

ここはまだ誰にも知られていない世界。

もちろん、日本の内閣総理大臣も世界中の大統領も知るわけがない・・・。だって、おとぎの国なんだから。

この世界に招かれる資格があるのは子供だけ、真っ白で綺麗な純粋で無邪気な心を持った少年少女だけ。

誰もが認める純度100%のハートの持ち主。

え、そんな子いないって?

残念ながらいるんだなぁーコレが。

それはこの僕!

まぁ、嘘だけどね。子供だけというのは本当だ。

・・・他に例外はいたけど。


この世界のことを話すと、自分でおとぎの国とか言っときながら全然おとぎなんかじゃない。変な世界だ。

鉄筋コンクリートなんかでできたビルやアパートがそこら中にある。・・・・ほとんどが横倒しになって海に沈んでいたり、緑が生い茂って、木の苗床になっているけど。文字通り、コンクリートジャングルだ。


あと、ずっとこの世界は晴れている。ずっとだ。

太陽が沈まず、1日中、いや半永久的に地上を照らし続けている。昼しかないので時間感覚が狂ってしまう。

この世界は、元いた世界とは違いすぎる。

法則も環境も原理も何もかもがめちゃくちゃだ。


そしてこの世界には、元いた世界と全く異なるおかしな生き物がたくさんいる。澄み渡る青い空を飛ぶ虹色のウナギ。妖精みたいな羽を生やして空をふわふわと飛んでいる。

雑草をおいしそうにむしゃむしゃと食すスライムみたいな物体?生物?色は様々でとてもカラフルだ。

入道雲だと思って眺めていたら空飛ぶ羊の群れだったこともある。

あと、目立つのは、気持ちよさそうに海を泳ぐワニ人間。こいつは、面積ギリギリの黒い海パンをはいて、爛々とした目で縦横無尽に泳ぎ回っているからちょっと気持ち悪い。

悪くはないやつだけど僕はあまり関わらないようにしている。

どの生き物も僕の見たことがない生物ばかりだ。


上を見上げると、どんなに遠くからでも見えそうなほど大きな巨木が、この世界の中心であるかと言わんばかりに居座っている。僕はこの木を勝手に「世界樹」と呼ぶことにした。

この世界に迷い込んで早1年、僕はこの変な世界、通称「アンダーグラウンド」で生きていた。


え?僕がどうやって、この世界に来たかって?

ああーそっか、そこからまずはなさないといけないよね。よし、面舵一杯。まずは、この僕がどうやってこの世界に来たのかを語ろうじゃないか。

そしてこの1年間どうやって生きてきたのかを・・・。

どうかご静聴をお願いします・・・・。

初めは・・・そうだな。世界樹に行った所まで話そう。


あれは、たしか―――――


――――――――――

「◇×●□!風呂掃除と洗濯、とっととやっちまいな!」

「・・・はい、お母さん」

僕は、覇気のない返事をして、フラフラと洗濯物を集めて洗濯機の場所へと向かった。

背の高い、女性が僕に向かって怒号を飛ばしている。

彼女は敷き布団を膝まで掛け、畳の上でくつろいでいる。近くにはお菓子、空になった袋が散乱している。

そして極めつけは、片手にお酒を持ってテレビを見ていた。アレは一応・・・僕のお母さん。


ものごころ付く頃から、僕はお母さんに何かあれば、叩かれたり殴られた記憶しか無い。


何かお母さんが気に入らないことがあれば殴られた。

返事をしなければ殴る。

家事が終わっていなかったら殴る。

ゴミが落ちていたら殴る。

お母さんがいらいらしていたら殴る。

偶には、何もなくても殴るときもある。

そういうときは、僕はひたすら頭を抱え、うずくまり「ごめんなさい」

と叫びながら、嵐が過ぎ去るのを待った。


学校のクラスメイトは、心配そうにはしていたが誰も助けてはくれなかった。先生も気に掛けるような素振りはあったが何も解決はしなかった。

学校にいる間は、授業時間以外の時間を図書館で過ごしていた。この時間だけがあれば良かった。

あとは、おとなしくしていれば僕は大丈夫。

そう言い聞かせていた。


そして今日、あの事件が起きた。

周りの子は、”お父さん”と言う人物がいるそうだが、僕は知らない。どうしても気になった僕は軽い気持ちでお母さんに”僕のお父さん”について聞いた。そしたらお母さんはいきなり激怒して僕はいつもよりたくさん殴られた。


「あのくそ野郎の話しは二度とすんな!」


お母さんは、吐き捨てるように最後に僕のお腹を蹴って部屋を出て行った。

目の端に映るお母さんの目からは一瞬だけ涙が流れて見えた。・・・・そんな気がした。

その思考を最後に僕は意識を失った。




















・・・・・あれから何時間経っただろうか。

辺りを見ると、部屋は真っ暗で夕方になっていた。

僕は、ぼろぼろの体を起こしてなんとか立ち上がった。


「・・・うっ!がぼっ、ぼぇえええぇ」


急に吐き気がしてお胸の奥が締め付けられルような感覚に襲われた。

喉の奥からどろどろした熱いものがこみ上げ、吐き出されるのを僕は止めることができずに盛大に床にぶちまけた。赤と黄色が混ざったような粘液が床に広がる。


「・・・おかあさん」


独特な刺激臭が、して鼻の奥を刺すような刺激臭がした。思考がぼんやりしているが、僕はお母さんに何を頼まれていたかを思い出す。


「・・・そうだ、風呂掃除しなくちゃ・・・。また・・・叩かれちゃう」


僕は、鉛のような重い体を動かし、壁にもたれかかりながらお風呂場へと向かった。


「ハァ・・・ハァ・・・」


終わった・・・なんとか、お母さんが帰ってくるまでに終わることができた。コレで叩かれないで済む。

僕は、浴槽の縁に捕まり膝をつく。

浴槽からは、モクモクと湯気が出ていて、顔に当たる。あたたかくて、なんだか安心する。


「・・・おかあさん」


もしかしたらもう帰ってくるかもしれない。

そろそろ、部屋に戻らないと。

立ち上がった時、僕は足の一部に何も力が入っていないことに気づかなかった。濡れた床タイルは不安定な僕の足もとをすくい上げるには十分なほどつるつるだった。

そして僕は、沸き立ての浴槽に盛大にダイブした。

「うわぁぁぁぁぁ――――」

浴槽に、落ちた瞬間何か声が聞こえた気がした。

いや、正確には頭に響いた。


『ようこそ、□×●▼くん、君を招待するよ。新しい世界へ。君は自由だ』


――――あばばばばばばばば

僕は必死にもがいていた。パニックになり、僕は這い上がるため、つかめるはずの浴槽の縁をつかもうともがく。だけど、上に腕をめいいっぱい伸ばし縦横無尽に振り回すが分かるのは僕の両手が空振りしていることだけだ。


だけど、なにかおかしい。さっきからもがいてから結構時間が経っているのに全然苦しくない。

不思議な感覚だ、水中の圧迫感はあるのに苦しくはない。それどころか部屋にいたとき、感じていた吐き気や頭痛。体中の痛みもなかったことに気づいた。


落ち着いて目を開けると、目の前には青くて透明な世界が広がっていた。

それと同時に驚いた。どう見ても僕が沈んだ浴槽なんかじゃない。どこまで絵も広大に広がる”青”。

所々には荒廃したビルのヨナ者も沈んでいる・・・。

ふと、目の端に何か泳いでいる影が見える。

魚だろうか?いや、それにしてもでかすぎる。


「―――――ッ!」

沈んだビルの影から、動いていた影が姿をのぞかせる。

ビルの影からは、緑色の鱗が輝くトカゲののような生き物が見えた。

ワニ・・・かな?いやでも、ワニってやばくないか?!

早く水面に上がろうと水面に向かって、水をかき、全速力で浮上する。

僕に気づいたのか、ワニは僕を見つけたとたんビルの影から飛び出し、こちらに向かってきた。


「―――――ッ!!」


なんだあれ!

もしこの水の中で息を止めなければいけなかったら、僕はこのワニの全体像を見たとたんに酸素を全て失っていただろう。


ワニの体は、まるで人間みたいだった。人間のような手足に面積がきわどい黒い水着を履いている。人間と違う

部分を上げるとすれば肌が緑色であることだ。

そのギャップが余計に気味の悪さを倍増させている。


逃げないと。僕の中の本能が警告した。

この緑色のワニ頭のきわどい水着を履いた全身緑色の変態スイマーから逃げろと・・・。

ワニは、僕目掛けて爛々とした目で僕に向かってクロールで近づいてくる。

僕は、ひたすら上に、できるだけ早く進むように手足を必死に動かした。光の差す方へと向かった。


「プハァ!」


ようやく水面へと顔を出した。上から照りつける太陽がまぶしい。だが今は、感傷に浸っている場合じゃない。

急いで向かい側に見える砂浜に向かって僕は泳いだ。

陸まではあと10メートルほどだ。

チラッと後ろを見るとあのワニは5メートルほど後ろまでに迫ってきていた。


「こわっ!あと、しつこいんだよ」


砂浜にについたら水中よりは動けるはずだ。早く辿り着かないと!僕は最後の力を振り絞り、必死に砂浜へと手を伸ばした。

あと3メートル!

そう思った瞬間、背中からとてつもないプレッシャーを感じた。おそるおそる振り向くと、僕のすぐ後ろには変態ワニの顔面がドアップで迫っていた。


「ぎゃああぁぁ!」


僕は、縮んだバネが弾けたようにのけぞった。もう逃げられる距離じゃない。あとちょっとだったのに・・・

コレはもう駄目だ、僕ココで死んじゃうんだ。どうせなら変態じゃなく普通のワニに食べられたかったな。

ぎゅっと目をつむり、覚悟を決める。

あーめん。


ザッバァァン!

その瞬間、僕の横をすさまじい水しぶきが舞った。

・・・あれ?

まだ・・・こない?

おそるおそる目を開けると後ろにワニはおらず、砂浜へと上陸していた。なにやら、誇らしげな顔をして鼻をフンとならしていた。

ワニは僕に向かって、グッ!っと親指を立てるとまた海へと潜ってどこかへ行ってしまった。


僕は、砂浜へと辿り着くとその場に座り込んだ。


「ふぅー、ひとまず助かった・・・」


心臓がドクンッドクンッと脈打っているのが分かる。

はぁ、こんなこと初めてだ・・・。

お風呂でおぼれかけてたら、全然苦しくなくて、気づいたら海で、目を開けたら変なワニがいておっかけっこした。なんだこれ・・・。

でも何でだろう、内心ちょっと楽しかった気もした。


「プッ、フフフフ・・・アハハハハハ!」

僕は、そのとき生まれて初めて笑った。

全力で運動したことなんていつぶりだろうか。

息がやや荒く、肺にめいいっぱい酸素を取り込む。

砂浜で寝転び、僕は大の字になって力ある限りに笑った。笑っていいのがうれしかった。

寝転がっていいのがうれしかった。

生きていることを許されているようでうれしかった。


「失礼・・・少しよろしいですか?」


どこからか声が聞こえた。おじさんのようなやや低い声だ。辺りを見渡して声の主を探す。

だが、周囲には誰も見当たらない。


「あ、こちらです、もう少し下です」


視線を下へと下げる。

するとそこには、黒いシルクハットを被り、白色のスーツを身に纏ったカエルが立っていた。カエルなのに2本足で立ち、口元には立派な髭を生やしている。その上、妙におしゃれな杖まで持っている。


「君は・・・誰なの?」


「おお、コレは申し遅れました。」


カエルの紳士はシルクハットを脱ぎ、ペコリと頭を下げた。一つ一つの所作がとても丁寧だ。


「わたくしは・・・・。わたくしの名は・・・・」


カエル紳士の口が止まった。

というより、言葉に詰まったという方が正しいだろうか。表情が徐々に困惑する表情へと変化していくのが分かる。

「あれ、私の名は・・・なんだったでしょうか?」

「いや、知らないけど。」

頭を抱えウーンとうなっている、自分の名前すら思い出せないのかこのカエルは・・・。


「申し訳ないが、思い出せないようだ。自己紹介ができなくて残念だ。せめてと言ってはなんだが、少年の名を教えてくれまいか?」


「しょうがないなぁ、僕の名前?えっと、僕の名前はね・・・」


「・・・・あれ?」


おかしい、名前が出てこない、名字どころか名前すら思い出せない。頭の中で僕の名前だけが黒のマジックで塗りつぶされているかのように僕は名前を思い出すことができなかった。


頭を抱える様子にカエルの紳士は、「どうしましたかな?」と心配そうに僕の顔を見上げている。


「ごめん、紳士なカエルさん。僕も名前を思い出せないみたいだ」


「なんと!それではお互いに名無しと言うことですな」

カエルの紳士は、たいした心配事でもないかのようにケロッとした顔で笑い飛ばした。


「よし、決めましたぞ少年」


「・・・何を?」


「コレも何かの縁でしょう。これを機にお互いに名を付け合いましょう」


「そっか、名前がないと不便だもんね。ぼくずっと、カエルさんのことカエル紳士って心の中で呼んでいたよ」


「なんと!紳士とは光栄ですな。ケロケロッ」


こうして僕たちは、お互いに名前を付けることにした。僕は、カエル紳士に『友情』の花言葉の意味を持つ”ミモザ”と言う名を付けた。たしか、学校の図書館で読んだ本に書いてあった。


「ミモザ!ああっ、なんと美的な名前なのでしょう。ありがとう少年、わたくし一生この名を大事にすると約束しよう」


ミモザはこの名を気に入ってくれたようだ。

カエルらしくケロケロと笑い、ぴょんっぴょんと飛び跳ねた。


「さて、次は少年の名だな。わたくしは、恥ずかしいことに少年ほど博識ではない」

ミモザは僕の名前を、必死に考える。頭をひねり体をひねり、考え考え、考えること約10分。僕の名前が決定された。


「よしっ、少年のことをこれからは”アカメ”殿と命名しよう。その燃えるような深紅の瞳という特徴から名付けさせてもらいました」


「アカメ・・・」


「気に入ってくださいましたかな?」


「うん、ありがとうミモザ。僕もこの名前大事にする」


これが僕の名。”アカメ”この世界での名前だ。

こうして僕は、この世界で初めての友だち、ミモザと出会った。


―――――――――――

「そういえば、ミモザ。僕に声を掛けた要はなんだったの?」


「おお、そうでしたそうでした。アカメ殿には聞きたいことがあったのですよ」


「アカメ殿は”上”から来たのですかな」


「”上”?空からってこと?」


「いやいや、空でなく・・・。いや、分からないのならいいのです。」


ミモザは、シルクハットを深く被り顔をそらした。


なにか変なことを言っちゃったかな。

僕がこの世界に来たときは、水の中だったからどちらかというと下からじゃないのだろうか。

そもそも僕は、この世界のことを全く知らない。

だから、知らなくてはならない。


「ミモザ、実はぼくこの世界に来たばかりなんだ。分からないことばかりだから色々と教えてよ」


「もちろんですとも、わたくしとアカメ殿は友人ではないですか。と言いたところですが申し訳ない。実はわたくしもこの世界のことを全く知らないのだ」


「え、どういうこと?」


ミモザは、僕に話しかけるまでの自身の経緯を語り出した。彼も僕がこの世界に来るちょっと前にこの世界で目覚めたらしい。辺りを見て分かったことは、ココは元いた世界ではないということ。

行く当てもなく、ぶらぶらと歩いていたら空が光って近くの水面に七色に光る流星が落ちたのが見えた。

気になったので、流星が落ちた付近の砂浜を探したらなにやら大笑いする僕がいたので、思わず声を掛けた。ということらしい。


「ねぇ、ミモザも人間なの?」


「さぁー、正直分かりませぬ・・・。ここに来た前のことは全く思い出せないのです。」


「そうなんだ」


僕の予想だけど、ミモザはいい人だともう。

いや、カエル?

まぁ、ミモザからは嫌な大人から感じる嫌な雰囲気を全く感じない。なんというか、近くにいると安心できる。


「ミモザ、もし良かったらなんだけど・・・。これからは僕と一緒に行かない?」


正直、この世界に一人っきりは怖い。

できるならば、この世界をミモザと一緒に廻ってみたい。でも、ミモザはいっしょに来てくれるだろうか、こんな僕と。もしかしたら、一人が好きかもしれないしそれとも―――――


「もちろんですとも。わたくしもいま、アカメ殿に提案しようと思っていたところですぞ」


「・・・ありがとう、ミモザ。正直言うと一人じゃ少し寂しかったんだ」


うだうだ僕が考えているうちにミモザは、あっさりとO

Kしてくれた。友だちっていいな・・・

こうして、僕とミモザはこの世界を探索してみることにしたのだ。


最初の数ヶ月、僕たちはこの世界を歩き回ってみた。

そして分かったことがいくつかある。

紙にまとめるとこういうことだ。


・この世界に夜はない。正確には夜が来ない

・この世界では水の中でも全然苦しくない

・この世界にある食べ物は基本食べられる

・この世界の生き物はみんな温厚だ

・この世界で来たのは僕たち二人だけ


この世界は、毎日が発見で面白い。

心の隅で心配していた食料の確保も大変ではなかった。

水は、建物の中の水道の蛇口をひねれば綺麗な水が出てくる。食べ物は近くの林に入れば木の実やキノコなどがたくさん生えている。生でかじっても十分おいしかった。

食べ物がおいしかったら、ミモザは「ブリリアント!」とか「エクセレント!」など、僕の知らない言葉を空に向かって叫んでいた。意外と味にはうるさそうだ。

こんど、暇があったらミモザに料理を食べさせてあげようかな・・・


ここ数日の探索で、僕は寂れた黄色い自転車を発見した。ぼろぼろだったけど、チェーンも付いているしブレーキも効く。試しに跨がってペダルをこいでみると、ギィギィ音は立てるものの、普通に使うことができた。


2人乗りをしてみようと考え、僕はミモザを後ろの荷台に乗せて走った時はそれはもうはしゃいでいた、子供みたいに。


「アカメ殿!わたしは・・・わたしは風になっているぞ!すごい、コレはすごいぞぉ、ケロロッ」


「あぶっ!暴れないでミモザ、た、倒れちゃうよ!」


僕は、慌ててバランスを取りながらミモザに注意を促した。倒れそうなことに気がつき、慌てて体勢を戻した。彼は肩を落としシュンと落ち込んでしまった。


「も、申し訳ないアカメ殿・・・。わたくし、自転車というのに乗ったのは初めてだったので、ついはしゃいでしまった」


こうして、自転車も使えることが分かったので僕たちは遠くからでも十分見える巨木、通称「世界樹」へと行ってみることにした。

ミモザも、世界樹のことは気になっていたようですぐにでも行こうと賛成してくれた。


荷台へと、ぴょんと飛び乗りさあさあと言わんばかりに出発を待ちわびている。このテンションの高さにつられた僕は笑って自転車をこぎ出し、世界樹へと向かっていった。


「しかし、ミモザ。この世界ってほんとに変だよね。さっきも、綿毛に足が付いた生き物がふわふわ飛んでたし」


「わたくしも見ておりましたぞ。足にもカラフルなスライムがひっついていっしょに飛んでいくのが見えましたな」


周りの町並みは、緑に覆われた家や横になったビルばっかりだけど、日に日に新しい生き物を発見する。

世界樹に付くまで僕たちは、この世界の生き物に簡単に名前を付けていくことにした。

たとえば最初に出会った、あのワニは命名「ワニ頭」になった。ほとんど見た目である。

ここに来るまっでに見かけた生き物にも名前を付けた。


様々な色に分かれているスライム『カラフル』


空を飛ぶ七色のウナギっぽい『虹色ウナギ』


入道雲に固まっている空飛ぶ羊『羊雲』


小石が動いたと思ったら岩とくっついた蟻『岩蟻』


そして、さっき見た綿に細い足が付いた「綿り鳥」


などなど、この日だけでかなりの生き物に名前を付けた。ケロケロッと笑いながら、ミモザは鼻歌を歌い始めた。

こんな日々がずっと続けばいいのにな・・・。


―――――――――

「ハァ・・ハァ・・」

「も、もう限界。少し休もう」

出発してからたぶん1時間程、僕は自転車を漕ぎ疲れたので井戸休憩を取ることにした。

「アカメ殿、大丈夫でありますか?いま水をくんでくるから休憩していてくださいな。すぐに戻ってきますので」


「うん、ありがとう。お言葉に甘えて休んでおくよ」

僕が頼むと、ミモザは水をくみに歩いて行った。


「ミモザも自転車をこげたら良かったんだけどな」

ミモザが、自転車を乗った僕を見たとたん私も乗りたい!と鼻息を荒くして主張してきたので乗せてみたことがあった。


結果は、大失敗。ミモザの身長では前に進むどころか、ペダルを漕ぐことすらできなかった。

ミモザの反応?そりゃあ落ち込んだよ。この世の終わりみたいにね。


「なぜだ!神よ、なぜわたしの身長をこのようにしたのだぁぁあ。コレでは風になれぬではないか!」

両手を地面につき、激しく悔しがっていた。

でも、荷台に乗せると気分はすぐに治った。


「さてと・・・」

僕は目的地を見た。ただでさえ大きかった世界樹が、僕の目の前で圧倒的な存在感を放っている。

ここまで来たら、あと数十分あれば辿り着けるだろう。

そう考えていた矢先だった。

背筋をなぞるような不気味な視線を感じた。

周囲を見回すが、誰も見当たらない。

ミモザか?いや、彼なんかじゃない。


「だれだっ!隠れていないででてこい」

僕は反射的に叫ぶ、こうっでもしないと落ち着かなかった。すると、物陰から黒い変な物がいた。

そう、文字通り”黒い変な物”としか表現できない。


その黒い物は体を不規則に揺らしながら不気味なうなり声を上げている。突如、やつの体中に目玉や口らしき器官が出てきたり無くなったりする。


「・・たく・・っち・・な」

「にど・・・・な・・・く・・・は」


なにか言葉を発しているようだったが何を言っているかは分からない。ただただ怖い。

恐怖で肩が震え、呼吸も荒くなる。

動くことができない。

怖い怖い怖い怖い。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

やつが微速でありながら近づいてくる。

だれか、助けて・・・・


バシャ!

上から急に水が降り注いできた。

水が降り注いできた方を振り向くとミモザが、ペットボトルを片手に鋭い剣幕で黒いやつを睨みつけていた。


「おい、貴様!私の友人に何をしている。アカメ殿に手を出したらただじゃおかんぞ!」


「ミモザ!にげて。こいつはなにかやばい、ミモザだけでも逃げてくれ」


「断る!友を前にして逃げることは私の信条が許すはずがない。さぁ、この私が相手だ」


武器なんか持っているはず無いのにミモザは、ペットボトルを片手に怒気を放っている。


「アカメ殿、速く逃げてくれ!アカメ殿なら自転車に乗ってしまえば逃げられる。はやく!」


ミモザはやつにペットボトルに残った水をぶちまける。

黒い物の動きが止まった。しかし、効いているのか効いていないのかが分からない。変わらずに不気味なうなり声は上げていいる。


「・・・さん・・・さ・・」


「・・・●×□▼」

「・・・え、今なんて言った」


やつの最後のうなり声に、僕の中の何かが引っかかった。だけど今はそんなことを気にしている場合じゃない。

はやく、ミモザを連れて逃げないと。


そうだ、自転車に乗って今のうちにミモザを回収してしまえばいい。そうすればこの場を乗り切れる。

・・・だけどコレは賭けだ。

ミモザの元に行くにはやつのすぐ横を通り過ぎなければならない。もしもやつが動き出したら即アウトだ。


だけど迷っている暇なんて無い!

僕は、急いで自転車に乗ってミモザの元へ一直線に突き進んだ。

やつとの距離が徐々に狭まっていく。心臓がうるさい。だけど助けるんだ。友だちを・・・この世界で初めての友だちを。


「みもざああああ!」

必死に叫んだ、彼はうれしそうな表情を浮かべて、手を伸ばしていた。


「ミモザ!つかまれ!」


「――――ッ!」


ミモザが手を伸ばす。バランスを維持しつつも僕はミモザの3本の指をしっかりと絡め取り握りしめる。

この一瞬がスローモーションであるかのように感じた。


「ウオオオオォォオオォ!」

至近距離で黒いやつがここ一番の咆哮をあげる。

鼓膜がビリビリして視界がぶれる。

一瞬ひるんだ隙を見てやつが、手を伸ばしてきた。

だけど、彼の手だけは手放さない、今ココで倒れたらミモザが・・・。


「フンッ、くらうがいい!」

ミモザがとっさに右手に持っていた杖を持ち、やつの目だと思われるところに向かって渾身の一撃をたたき込んだ。


「ギュオオオオ!」

やつは、叩かれた部分を押さえ込み苦しそうにうめき声を上げる。この隙に僕は必死に、ペダルをこいで逃げた。

やつの咆哮がだんだん遠ざかっていく、この咆哮が聞こえなくなるまで、僕はペダルを漕いだ。

やつの咆哮が聞こえなくなってから一体どれほど立っただろうか、目の前に行き止まりになったので、僕は自転車から降り、崩れるように寝転がった。


「ハァ・・ハァ・・」


「だ、大丈夫か?アカメ殿、どこも怪我などしてないだろうか?」


ミモザはおろおろとしながら、僕の体を案じてくれていた。僕は、呼吸をなんとか整えてから体を起こした。


「うん、ありがとうミモザ。怪我とかはしてないよ。しかし、助かったよ。ミモザがいなかったら助からなかったかも・・・」


「ケロロッ、何を言いますか。アカメ殿こそ、私を助けてくれたではないですか。危険を顧みずに助けに来てくれたときは痺れましたぞ」


「でもまさか、ミモザがその杖であいつを殴るとは思っていなかったよ」


「ケロロッ、紳士としてあるまじき行為をしてしまいましたな。しかし、友を守れたのだから安い物ですよ」


ミモザは朗らかに笑って入るが、膝が笑っていた。

正直ほんとにギリギリだった。ミモザが、杖を使ってひるませてくれなかったら捕まっていた。


「しかし、ココってどこだろう、なんか暗いね」


「確かに・・・考えてみればおかしいですな。この世界は1日中太陽が昇っているなのに暗いとはどういうことですかな?」


確かにその通りだ、この世界は一日中太陽が昇り続けているはず。いきなり夜が来るようになったのか?

そういえば、目の前にあるのは行き止まりだな。

・・・なるほど。そういうことか。


「ミモザ、わかったよ。この暗さの正体」


「おお!流石アカメ殿でありますな。その答え、お聞かせ願いますかな?」


「待っていれば分かるよ」


「・・・?」


ミモザは、どういう意味?と頭の上にクエスチョンマークを浮かべていたが、僕に何か考えがあると思ってその場に座り、静かに待ってくれた。


数十分後・・・

まるで、暗闇の絨毯がはがれて行くかのようにあたりから、光の絨毯が敷かれていくその光は、僕たちの所にも迫り、到達して僕たちを照らした。

太陽の日差しは、暗闇に目が慣れていたせいもあったが、いつもよりも輝いて見えた

こうして僕はネタばらしをした。


「日陰だ。ココは日陰に入っていたんだよ。だから暗かったんだ」


「なるほど、だから待っていれば答えが分かると申したのですな」


「そういうこと、そしてココが、僕たちの目的地だ!」


僕がビシッと指を指した先には世界樹の側面があった。何千、何億年もの歴史を感じるほどの莫大な神気を感じる。そして、その木の幹には、今まで真っ暗で見えなかったがたくさん文字らしき物が殴り書きされていた。


どの文字も乱雑に書かれていて読めない文字ばっかりだ。だけど、ミモザといっしょに探して読めた文字が一つだけあった。


『ようこそ!素晴らしき世界アンダーグラウンドへ!』


このとき、僕たちはこの世界が「アンダーグラウンド」と言う名の世界であることを知った。


「アンダーグラウンド・・・」


「アカメ殿、何か分かりますかな?」


「うーん、ごめん。多分わかんない。」


その時だった。今まで青かった空が、七色に輝いた。あまりの光量に目をすぼめてしまう。光が弱まると、流れ星らしき物が、落ちていく物が見えた。

黄金色に輝き、ビルの森へと落下していく。


「あ、あれは!アカメ殿と出会ったときに見た流れ星ですよ」


「じゃあ、もしかしたら、僕たちと似た子がいるかもしれないってこと?」


「可能性は高いでしょう。行ってみましょうアカメ殿」


もし僕と同じ人間なら会ってみたい。この世界に来て1人だと不安に違いないから僕が助けになるなら助けに鳴ってあげたい。


「うん、分かった。いこうミモザ」


僕たちは、自転車に乗り黄金色に輝く流星の落ちた地点へと向かってペダルを踏み込んだ。

読んでいただきありがとうございます!

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