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魔王と少女

作者: コモルー


(いま)より(はる)(むかし)それはそれは残虐非道(ざんぎゃくひどう)魔王(まおう)()りました。

 魔王は()まれながらにして最強(さいきょう)(ひと)(くに)だけでは飽きたらず、(もり)獣人族(じゅうじんぞく)(うみ)人魚族(にんぎょぞく)にも戦争(せんそう)仕掛(しか)けて世界征服(せかいせいふく)しようと(たくら)んでいました。


 しかし、あるとき一人(ひとり)少年(しょうねん)()()がった。


 少年は人間(にんげん)勇者(ゆうしゃ)となって森の獣人族と海の人魚族と協力(きょうりょく)し魔王に(たたか)いを(いど)んだ、数々(かずかず)の死闘(しとう)(すえ)(かろ)うじて魔王を退(しりぞ)ける(こと)成功(せいこう)しましたとさ...


「たかが人間(にんげん)風情(ふぜい)がぁぁぁぁあ!!!

 この屈辱(くつじょく)()して(わす)れん、(かな)貴様(きさま)らを(ころ)して世界を()()(おさ)めて()せるからなぁぁ!!」


魔王はそう()うと(しろ)屋上(おくじょう)から(とび)()りて雨降(あめふ)(かわ)()ち、濁流(だくりゅう)(なか)姿(すがた)()した。


「クッソウ...まんまと()げられたか、絶対に魔王、お前を()して世界に平和(へいわ)()(もど)すからな!!」


勇者は(つよ)(こぶし)(にぎ)ると(おおかみ)の獣人と女性(じょせい)の人魚と(とも)魔王城(まおうじょう)(あと)にした。


数日後(すうじつご)、すっかり雨が()がって(くも)()()から(うつく)しく太陽(たいよう)(ひかり)()()(ころ)今年(ことし)十才(じゅっさい)になる白髪(はくはつ)(あおい)(ひとみ)(おんな)()ユイは雨で()まった洗濯物(せんたくもの)(あら)いに(くろい)(うし)クロと一緒(いっしょ)にの川へ()ていた。


「さ~て、お洗濯しますかぁ」


ユイは洗濯物の()ったカゴを牛の背中(せなか)から()るとカゴをもって川辺(かわべ)()りると、カゴから石鹸(せっけん)と洗濯物を()()していつも洗濯板(せんたくいた)()わりに使(つか)っている(ひら)たい大きな(いし)(ちか)づく。

 するとそこには、(くろ)(かみ)(おに)のような二本(にほん)(つの)(するど)(きば)口元(くちもと)から(わず)かに(かお)をのぞかせている、ボロボロの(ふく)()(わか)男性(だんせい)(たお)れていた。


「お(おにい)さん大丈夫(だいじょうぶ)ですか?!」


ユイはあわてて男性に()()(からだ)()さぶる

が、男性は()()じたまま(うご)かない。

 ユイは男性の胸に(みみ)()てると心臓(しんぞう)(うご)いており、口元もよくみると弱々(よわよわ)しいが(いき)もしている。


「よかった、まだ()きてる...」


ユイは安心(あんしん)して(むね)(なで)()ろすとクロを呼び男性をクロ背中に頑張(がんば)って乗せて(いえ)()かった。


「うっ...ううっ...んっあああ!!っあ、はぁ...はぁ...はぁ..」


魔王は目が()めて上半身(じょうはんしん)(いきお)()()こすとそこはボロボロのベッドの(うえ)で何故か小さな女の子がベッドの(となり)自分(じぶん)()(にぎ)(ねむ)っている。


「ここは?...」


魔王は自分のいる部屋(へや)をキョロキョロと(わた)すと、部屋はお世辞(おせじ)にも綺麗(きれい)とはいえず所々(ところどころ)

(かべ)天井(てんじょう)には(あな)()いており、(いま)にも(くず)れそうな部屋だった。

 しかし、そんな見た目には(はん)してクモの()(ほこり)はほとんどなくきちんと掃除(そうじ)された部屋でもあった。


「う~ん、パパ...ママ...大好(だいす)き...」


(あぶ)ない!!」


ちょうどそのとき、女の子の体がベッドからズレて(ゆか)(たお)れそうになり、魔王は握られていた手を引寄(ひきよ)せて女の子をベッドの上に()せる。


「ああビックリした!!」


女の子は蒼瞳を見開(みひら)き魔王の金色(きんいろ)の瞳をじっと見つめる。


「大丈夫かい?」


「あっ、ありがとうございます!!」


女の子は慌ててお(おれい)を言うと、ペコリと(あたま)を、下げた。

 そして自分が魔王の(あし)()っている事に気付(きず)

とベッドから飛び降り「ごめんなさい、ごめんなさい」と頭を勢い良く下げたり上げたりしている。


「ふふっ...」


魔王は女の子の(あい)くるしい姿(すがた)(おも)わず()みと(わら)いがこぼれた。


(なに)かおかしかったてしょうか?」


女の子が不思議(ふしぎ)そうに顔を(のぞ)かせると魔王は微笑(ほほえ)みながら言う。


「ゴメン、あまりにも(きみ)可愛(かわい)かったつい、笑ってしまったのだよ」


「そっ、そんな可愛だなんて...()めても(なに)()ないですよ!!」


女の子は顔を(あか)らめながら、()()しに後ろを向く。


「ああ、(べつ)に何か()しくて言った(わけ)じゃない、ただ本当(ほんと)の事を、言っただけだよ。

 それと(たす)けてくれてありがとう...」


女の子は誉められることに()れていないのか(さら)に顔を赤らめ、両手(りょうて)で顔を(かく)してしまう。


ドンドン!!、


そのとき、ドアをノックする(おと)が聞こえ、女の子は「はーい」と返事(へんじ)をしてドアを()けた。

 すると、見るからに裕福(ゆうふく)そうな格好の(ふと)った男の子が(いや)笑顔(えがお)で立っていた。


「やあ、ユイ...(かね)用意(ようい)してあるんだろうなぁ」


「レノン様?!、今日はこんなボロ屋にお()でいただき恐縮(きょうしゅく)でございーー」


バン!!


ユイと言われた女の子が言葉(ことば)をいい()える(まえ)

レノンと言われた男の子はドアを強く叩き、ユイは()(ちぢ)(おび)える。


(ぼく)ちんはそんなことを聞きに来たわけじゃないんだなぁ~ユイちゃ~ん、僕がユイちゃんに()してあげた金貨(きんか)百枚(ひゃくまい)(かえ)してもらいに来たんだよ」


「レノン様ちょっと()って下さい?!、()かにレノン様から金貨をお()りいたしましたが、お借りした金貨は一枚だったはずですぅ!!」


ユイは必死(ひっし)(うった)えるがレノンは取り()わず、部下らしき男性を呼び契約書(けいやくしょ)を持って来させた。


「ユイちゃ~ん、これを見てもまだ金貨一枚と言うの?」


レノンが(ひろ)げて見せた契約書には間違(まちが)いなく金貨百枚となっていた。

 しかし、まるで後からゼロを()()した(よう)()いてあるが...


「そんなぁ...」


ユイは(ひざ)から(くず)()(なみだ)()かべる。


「あの~お取り()み中すみませんがその契約書どっからどうみても後でゼロ書いてますよね?」


魔王は契約書を指差して、太った男の子に言った。


「貴様!!、この領地(りょうち)息子(むすこ)であるレノン様が(うそ)ついていると言う「そうです」」


レノンがいい終える前に魔王は断言(だんげん)した。


「お前らこの不届者(ふとどきもの)()らえろ!!」


「ハッ!!」


レノン部下と見られる兵士達(へいしたち)が魔王を捕らえようと掴み掛かってくるが魔王の目にはあくびがするほど(おそ)く見え、ヒラリ、ヒラリ、と水を掴むようにすり(すりぬ)ける。


「ええい!!(かま)わず殺せ!!」


レノンの命令(めいれい)に兵士達は(けん)()き魔王に(きり)りかかるが、魔王は剣を、かすらせる事なく()けきり兵士達を家から(そと)()い出した。


「何をもたもたしておる!!、そうだ魔法(まほう)だ、魔法の使用(しよう)許可(きょか)する。

 早くアイツを殺せ!!」


兵士達が魔王から距離(きより)をおき、後ろにいる兵士が呪文(じゅもん)を、(とな)え魔王もろとも、ユイ自身(じしん)も、()()む火の玉を(はな)った。


「ユイちゃんで合っているのかな?、僕の後ろに下がっていて危ないから」


魔王は(やさ)しい声でユイ言うと手で後押(あとお)しするように家の中へユイを押す。


「この程度(ていど)の魔法で僕の(まも)りは(やぶ)れないよ」


魔王は手の平を兵士達に向け不可視(ふかし)の壁を(つく)り魔法を(ふせ)ぐとお(かえ)しに(ばい)の数の火の玉を作り出し放った。


ドドドドドドドドッ!!


おびただしい数の爆発(ばくはつ)()きて土煙(つちけむり)が辺りに立ち込める。


「あのお、殺しちゃったのですか?」


ユイが恐る恐る魔王に(たず)ねた。


「いや、(おど)しただけだよ」


土煙が(かぜ)(なが)されて周囲(しゅうい)景色(けしき)鮮明(せんめい)になると、まるで(たましい)()けたように兵士が口をポカーンと開けて立っていた。

 魔王は馬車(ばしゃ)に、隠れて(ふる)えているレノンに近くと(つち)(かぶ)った契約書を(ひろ)い上げる。


「レノンとやら、契約書に書かれた金貨は(かなら)用意(ようい)する。  

 だから今後(こんご)一切(いっさい)()()ユイに(かか)わるな、いいな?」


「はいぃぃぃぃ!!」


レノンは涙と鼻水(はなみず)で顔を()らしながら従者(じゅうしゃ)()り起こして蜘蛛(くも)()()らす勢いで()(かえ)って行った。


「ふぅ~、これでよし!」


魔王はまるでゴミの掃除が終わったように言うと、少し(こま)った

顔でユイを見る。


「少し(こわ)がらせてしまったね、ユイちゃん。

 僕を助けてくれてありがとう、お礼と言って(なん)だけどこの契約書は僕がもらって行くね」


魔王は最後笑顔でユイに言うと。まるでそれが当たり前のように(きびす)を返し(ある)く。

 一歩(いっぽ)また一歩と歩く(たび)に火の玉によって(けず)れた地面(じめん)(もと)(もど)っていく。


「待って下さい!!」


ユイは魔王に飛び付き行かないでと歩みを止めさせる。


「私、まだお礼言ってません。  

 私、まだあなたの名前(なまえ)聞いてません!

 私、私...」


魔王はユイと向き合い優しくユイの頭をなで、困った顔をする。


「僕は自分の名前が分からないんだ、それに僕は魔族だ」


ユイが涙目で魔王の顔を見ると、いつの間にか消えていた角や牙が生えて川で拾ったときの姿(すがた)()わった。


「ええ、分かっています...

分かっていてあなたを助けました」


「何故ですか?!、僕はユイちゃん達人間の(てき)なんですよ?!」


魔王は(おどろ)いて(こし)を落とし視線(しせん)をユイに合わせる。


「私は、今は天国にいるパパとママにもし困った人が(たと)え何処の誰であろうと助けるように(おそ)わりました。

 あなたをただ助けたかった、それだけじゃダメですか?」


ユイは上目ずかいで魔王を見る。


ユイの可愛姿に、魔王は(ほほ)を赤らめそっぽを向く。


(あら)めて言うけど、僕は魔族(まぞく)だよ」


「はい!」


記憶(きおく)()いんだよ」


「はい!」


記憶戻(きおくもど)ったらユイちゃんを殺すかも()れないんだよ」


「そんなことは無いです、だってさっきも私を助けてくれたではありませんか?、それに...」


ユイは()り返り一歩一歩跳()ぶ様に歩くとお(しり)の前で手首(てくび)を握って振り返り。


「私、魔族のあなた嫌いじゃ無いですよ」


まるで背後(はいご)(はな)()くような可愛い笑顔を魔王に向ける。


「よ~ぉし、そこまで言われちゃこのまま()る訳には行かない。

 僕にユイちゃんを(まも)らせてくれ、あと僕に名前を付けてくれないかな。

 例え記憶が戻ってもユイちゃんの思う僕であるように」


ユイは人差(ひとさ)(ゆび)(くちびる)に当てて少し考えると、一人で(うなず)き視線を向ける。


「じゃあ、今日からあなたの名前はシンでお(ねが)いします。

 例えシンさんが、凶暴(きょうぼう)な魔族になっても私はあなたが優しシンさんに戻って来れるように()()じているっと言う意味(いみ)を込めて」


「そうかぁ...シンが僕の名前なんだね...

じゃあ僕も(ちか)うよ、例え僕の記憶が戻っても、ユイちゃんの()()じるシンであり続けると」



こうして(むら)(はず)れに魔王と少女(しょうじょ)の不思議な生活(せいかつ)(はじ)まったのだった。

 しかし、そんな魔王と少女の生活は(なが)くは続かなかった。


「一、二、三、四、五、っとよしっ、これが今回の魔物(まもの)討伐(とうばつ)の金貨五枚だ」


「ありがとうございます」


シンはここ数ヶ(すうかげつ)村の周囲(しゅうい)に出る魔物を狩ってレノンの詐欺(さぎ)とも言える借金(しゃっきん)を返していた。

 シンは受付(うけつけ)におかれた金貨を(ふところ)仕舞(しま)って元気(げんき)のいい()さくなオッサンに礼を言うと受付を後にして今日の金貨五枚でユイの借金が無くなるこのときに最悪(さいあく)事態(じたい)が起きた。


「みんな大変(たいへん)だぁ!!」


体のあちこちから血を流した兵士が建物(たてもの)の中に(とび)び込んできた。


「その怪我(けが)はどうした、ジョン!!」


受付のオッサンにジョンと言われた兵士は(いき)を切らせながら()える。


「ま、魔族が...魔族が()めてきたああああ!!」


兵士は言い終わると力尽(ちからつ)きたように気を(うしな)って(たお)れた。


「「「「うぁあああ!!!」」」」


兵士が倒れた瞬間(しゅんかん)に人々(ひとびと)はパニックになり、出口(でぐち)我先(われさき)にと()()ける。


「おちつけぇぇえええ!!」


シンは耳を(ふさ)ぎたくなるような(おお)きな(こえ)(さけ)び、人々に冷静(れいせい)さが戻った。


「オッサン、このジョンは何処(どこ)の守りを担当(たんとう)していたんだ?」


(たし)かジョンは(ひがし)森付近(ふきん)だったと思うけど...まさかシン...行く気か?」


「ああ...どのみち魔族は倒さないといけないし、東の森にはユイちゃんがいる!!」


シンは目にも止まらぬ速さで村を()()け、ユイの元に向かった。



「あっ、あったぁ!!」


ユイは東の森の中で最近(さいきん)発覚(はっかく)したシンの大好物(だいこうぶつ)シュカの実を(さが)していた。

 シュカの()はリンゴ(ほど)のサイズの黄色(きいろ)果物(くだもの)(あじ)はブドウに近く、偶然(ぐうぜん)見つけたシュカの実をシンに()べてもらった所、シンの味覚(みかく)大当(おおあ)たりしシンの大好物になった。

 ユイは木に(のぼ)り必死になってシュカの実に手を()ばすが後少し(とど)かず(ちゅう)()ぎるだけに終わる。


「あとちょっと...」


「これが()しいのか?」


突然(とつぜん)何者(なにもの)かの声が聞こえて目の前のシュカの実をちぎりとる。


「ありがと「グシャ!!」」


ユイが礼を言うと何者かはシュカの実を握り(つぶ)した。


「ごめんごめん、つい力が(はい)ってしまってね」


ユイが声の方に顔を向けるとコウモリの(つばさ)()やし、

竜の尻尾(しっぽ)ぶら下げた魔族の男が不自然(ふしぜん)なほど(ほそ)(えだ)に立っていた。


「おっと、(あし)(すべ)ってしまった」


魔族の男は足で太いシュカの木をへし()り、ユイは地面まっ(さか)さまに()ちた。


「きゃぁぁぁぁああああ!!」


「ユイぃぃぃぃいいいい!!」


シンはユイを地面すれすれでキャッチし背中から地面を削るように滑って(おく)の木に衝突(しょうとつ)してやっと止まった。


「ユイちゃん大丈夫か?」


「シンさん...怖かったよおおお!!」


ユイはシンの(むね)(かお)を埋めて泣く。


「よ~し、よし、怖くない、怖くない、僕がユイちゃんを守るからね」


シンがユイの頭をなでていると、魔族の男がシンめがけて()りを()ってくる。

 シンは空いている手で蹴りを()け止めるとそのまま地面に(たた)きつけ、魔族を中心(ちゅうしん)にすり(ばち)(じょう)に地面が陥没(かんぼつ)した。


「ユイちゃんに手を出す(やつ)(ゆる)さねえ」


シンはユイを(かか)えて立ち上がり、魔族から距離(きょり)をとる。


「ユイ、この東の森から村に向けて魔族が攻めてきているらしい。

 ユイは村に避難(ひなん)して待っててくれ」


「私は「()()、出来るな...」」


シンはユイにその続きの言葉言わせないように強く言った。


「分かりました...シンさん、必ず()きて私の元に帰って来て」


ユイはシンの頬にキスをし村へ向かって走る。


「ヒュウー、ヒュウー、(あつ)い事で、俺はそんなお前を生かして帰す気はねえがなぁ」


シンは刀を(さや)から()き魔族の男向けて(かま)えた。


「ユイちゃん、いや()()にキスされたからにはお前を倒し、攻めてきた魔族、魔物、全て倒して村を守る!!」


「やれるものならやってみな、俺は新魔王陛下(しんまおうへいか)右腕(みぎうで)ラード!!。

 世界征服の初めとしてこの村を破壊(はかい)しつくしてやる!!」



シンとラードの戦いは一方的だった。

 シンは魔法で牽制(けんせい)しながらラードの(すき)をうかがい切り込んでいくが、ラードは新魔王の右腕を名乗(なの)るだけあり、シンの牽制程度の魔法じゃ(きず)一つ付けられず、わざと両手を広げかかって来いと言い、挑発(ちょうはつ)()ったシンの全力の斬撃(ざんげき)薄皮(うすかわ)一枚切ることなく刀が折れた。


「さぁ、さぁ、どおした人間!!、この程度なのか?」


ラードは(くだけ)()った刀が()空間(くうかん)でシンの胸ぐらを掴み自分がやられたときの培以上の力で地面に叩きつけた。


「グァァァアア!!」


シンが口から血を()刹那(せつな)()をおいて地面がすり鉢状に陥没する。


「もう終わりですか?、口ほどにない」


ラードは動かなくなったシンを見下ろし(つば)を吐き捨てた。


「さ~て、あのユイっていう子にこいつの首を持って行ったらどんな反応(はんのう)するのかなぁ~、泣き叫ぶかなぁ~(おこ)って向かってくるかなぁ~。


 た・の・し・み 」


ラードがわくわくしながらシンの死体(したい)に近づくと突然死体が起き上がりラードの胸ぐらを掴んでラードにやられた更に培以上の力で叩きつけた。

 もはやその衝撃(しょうげき)は地面を陥没させるだけにとどまらす村に届く程の地震となった。


「きゃぁぁぁぁああああ!!」


「何が起こってるんだ?!」


(かみ)逆鱗(げきりん)じゃぁあああ!!」


「大丈夫です!!」


緊急避難所(きんきゅうひなんじょ)村役場(むらやくば)子供(こども)たちやお年寄(としよ)りが(さわ)ぎ立てる中ユイだけは冷静に場をなだめてた。


(みな)さん大丈夫です、この衝撃はきっとシンさんが魔族や魔物と戦っているから()れているだけです」


「ユイちゃん、ここから東の森は近くはない。

 ここまで衝撃がくるってことは、魔族はかなり強いって事だ、しかも聞いた話だと魔族は一人じゃない。

 さすがにもうシンさんは「パシッ!!」」


弱音(よわね)をはいた少年(しょうねん)にユイは容赦(ようしゃ)なく平手打ちをかました。


「死んでない、シンさんは強いもん。死なないもん!!」


ユイは目を真っ赤にして涙をながしながら訴えた。

 その気迫(きはく)と少年が言ったとおりシンの生存(せいぞん)絶望(ぜつぼう)()する村人(むらびと)は目を()(あきら)めの空気(くうき)(ただ)う中村役場の(とびら)が大きく(ひら)く。


「まだ諦めるのは早い!!」


太陽の光を背に受けながら一人の少年が力強く宣言(せんげん)する。


「俺達は魔王討伐を(かか)げる勇者だ!!。

 早速聞こう、魔族どうだって?」



シンはラードを一撃(いちげき)で倒したあと森の中にいる魔族、魔物、を狩り(つく)くして行った。


「みんな逃げろ、旧魔王陛下だぁ!!

 グァァァアア!!」


ギロ!!


シンは完全な魔王の姿で新魔王軍を殲滅(せんめつ)していく。


「グァァァアア!!」


「助けてくれ!!」


「死にたくない!!」


様々な、悲鳴(ひめい)が聞こえるがお(かま)い無しに倒し、蹂躙(じゅうりん)する。


「やはりノースだったか...」


シンは勇者に倒されず逃げのびた旧魔王軍四武将(きゅうまおうぐんよんぶしょう)の一人、黒龍人(こくりゅうじん)のノースを金の瞳で睨み付けた。


(われ)は逃げたのでない勝機(しょうき)(うかが)っていただけだ、お(ぬし)こそ勇者に(やぶ)敗走(はいそう)した弱者(じゃくしゃ)ではないか」


ノースはシンを指差して(さげす)(ののし)る。


「そうだ、あのとき魔王だった()は何も分かっちゃい弱者だったのさ。

 ()は勇者に()けて当然(とうぜん)さ」


ノースは驚きあまりたじろぐ。

 ()()プライドの(かたまり)とも言って良いほど他者(たしゃ)を見下していた魔王が自分が間違(まちが)っていたと(みと)めたからだ。


「認めるな...認めるなぁァァアアア!!」


ノースから黒い魔力(まりょく)(あふ)れだし巨大な竜となった。


貴様(きさま)の気まぐれてどれだけの部下(ぶか)が死んだと思ってやがる!!  

 貴様の退屈(たいくつ)(しの)ぎて我の息子は死に、貴様の命令で(つま)は死んだ!!

 死んで行ったもの達は無駄死(むだじ)にだったと貴様本人が認める気かァァアアア!!」


ノースは怒りを地面にぶつけ地面にいくつも大穴(おおあな)が空く。


「許さん、許さんぞ魔王!!

 貴様を倒して、いや殺して世界を支配(しはい)して亡き者達に(ささ)げる(にえ)にしてやるわぁァァアアア」


ノースの咆哮(ほうこう)大地(だいち)を揺らし(かぜ)を起こしまるで天変地異(てんぺんちい)のような景色(けしき)を作りだす。


「ノース...憐れだな...自分がしたことはと言え怒りで己を見失うなど憐れとしか言いようがない。

 死んではやれぬがせめてもの(つぐな)いにお前の攻撃は全て()けない!!」


「グァァァアア!!」


ノースが()え前足をシンに振り下ろす。

 シンは一切防御(いっさいぼうぎよ)せず受け頭から血が流れる。


「次はこっちの番だ!!」


シンはノースの頭まで飛び地面に叩きつけ、また一つ大きな穴が地面に空く。


「ギシャャャャァァアアアア!!」


ノースはシンを尻尾で掴み地面に何度(なんど)も叩きつけると上空に(ほお)()(ほのお)のブレス吐いた。


「グォォォオオオオオ」


赤い極太(ごくぶと)の炎が空を真っ赤に()め上げ(はる)彼方(かなた)山脈(さんみゃく)が真っ二つに(わか)れる。


()ってえ...ノース、(わる)いがこれ以上受けてはやれない俺の勇者に使えなかった切り(ふだ)で終わらせてやる」


シンはノースのブレスで無くなった左腕(ひだりうで)と左足に魔力を(そそ)いで再生(さいせい)させると手のひらを胸のまえで合わせ合掌(がっしょう)すると手の隙間(すきま)から黒い光がこぼれ手の隙を広げるにつれて(たま)(かたち)となりソフトボール位の大きさになるとノースに向けて放った。


「サヨナラノース...」




         【”タルタロス”】




黒い光の玉はノースに近づき突然ノースを飲み込む程のおおきさになり、ノースは黒い光へ飲み込まれると玉は急速(きゅうそく)(ちぢ)み小さな(てん)となって消えた。


「これで終わったか「グサッ」」


地面に降りて安心したシンを背後から勇者が聖剣(せいけん)(つらぬ)いた。


「おまえは...そうか...」


シンは怒りの表情(ひょうじょう)で聖剣を()()している勇者をみて自分の終わりを(さと)る。


「(今までたまった付けの精算(せいさん)するときがきたか...)」


シンは最後の力を振り(しぼ)り自分の体から聖剣を抜くと近くの木に背を(あず)けて(すわ)り込む。


「なあ、勇者...二つだけ、(たの)みを聞いちゃくれねえか?」


「見逃せって言うなら無理(むり)な話し出ぞ!!」


勇者は怒りと(にく)しみの目をシンに向ける。


「チゲエよ...今まで俺が殺したすべての命の冥福(めいふく)(いの)グァァァアア!!」


勇者はシンの(かた)に聖剣を突き刺した。


「お前がそれを言うなァァアアア!!

 お前が(あそ)びで殺した人達の冥福なんざ祈るんじゃねえ!!」


勇者は聖剣でシンと後ろの木を刺し止めるとシンを力一杯(ちからいっぱい)(なぐ)った。

 両手で何度も何度も殴った。

 そして肩で息をし小さな声で「いうな...」っと(つぶや)く。


「これくらいでぇ...お前達の気がすんだとは...思っていない...

 俺は...それだけ許さねえ事...を...してきたからなぁ...はぁ...はぁ...はぁ...」


シンは()れ上がった顔で無理(むり)やり笑顔を作ると目を閉じる。


「もし...村で...ユイ...っていう女の子に出会ったら...いっといてくれねえか?...シン(つみ)(つぐな)(たび)に出たと...そしてその...罪を償ってまた会いに行くと...()してる

()()「バサバサバサバサ!!」」


シンが言い終わると同時に勇者はシン首を跳ね、音を書き消すように一羽(いちわ)(とり)夕暮(ゆうぐ)れの大空(おおぞら)()ばたいた。


その後勇者達一行は村に攻めてきた魔族と魔王を倒したと村人に報告(ほうこく)すると、魔王討伐に、村人の歓喜(かんき)の声が(ひび)く中、一人の女の子が勇者に「シンさんは?」っと(たず)ね魔族と魔物の大群(たいぐん)(せま)る中一人だけ逃げずに戦ったゆ()()生死(せいし)に村人の歓喜の声は(おさ)まった。


「旧魔王...いや、勇者シンは旅に出た、過去(かこ)の記憶を取り戻し自分が犯した罪を償うために旅にでたーー」


勇者は話した、シンが旧魔王であること、そして新魔王と戦いこの村だけでなく世界を(すく)った事。

 村人達は驚いた、記憶がなかったとは言え()()優しいシンが残虐非道と言われた魔王であり自らの非道と(あやま)ちを認め償うと言ったことに。


後日東の森を調査(ちょうさ)した調査団は驚いたと言う。

 勇者達の報告では森は完全に破壊されており再生は難しい事と言われていたのにそこには前よりも、もっと豊かな森林(しんりん)が広がっておりあの戦いの痕跡(こんせき)は一切無かったのだ。

 そして。(とき)が流れるにつれシンは残虐非道の魔王としてはなく、魔王から世界を救った勇者として(かた)()がれて行くことになる。




十五年後...


「「「「ユイさん結婚(けっこん)してください」」」」


すっかり美しく成長したユイに平民(へいみん)貴族(きぞく)、少年、青年、紳士問わずユイはプロポーズされていた。


「ごめんなさい...私には()きな人がいるのだからあなた達の気持(きも)ちには(こた)えられないの」


ユイわ胸まえで祈る様に手を(むす)び答える。


「「「「(ズキューーン!!)」」」」


そんなユイの姿に男たちはまた()れ直すのであった。



「ユイちゃん、また男を振ったんだって?」


場所は変わり、ユイが働いている居酒屋(いざかや)でマスターがユイに話しかけた。


「はい、マスター、私はもう十年近く前から好きな人がいるとアピールしているのまだ()りずに結婚しようとか、(めかけ)に、なれとか、何番目(なんばんめ)の妻にするとか言って来るのですよ」


「まあ、君のような、美人には当たり前の事だと思うがね、むしろ二十五歳なって結婚せずに男達からモテモテのユイさんが(すご)いと思うけどなぁ~」

 

カランカラン♪


「「いらっしゃい~」ませ~」


「ユイ!!、どうしても俺と結婚しないなら...


  死ねぇえええ!!」


ユイ達が出入口に振り向くと刃物(はもの)を持った男がユイに降られた(はら)いせ殺そうと()し掛けて来た。


「うおおおおおお!!」


「助けて!!シンさん!!」


男がユイに刃物を振りかざしきりユイは思わず目を閉じると、いつまでも痛みが襲いかからないことに疑問(ぎもん)を持ち恐る恐る目を開けると、一人の十代半ばのフードで顔を隠した少年が刃物を持った男の腕を掴み止めている。


「やれやれずいぶんと人気者(にんきもの)になってしまったなユイ()()()


フードを、被った少年は素早(すばや)く男の腹を殴り気絶させるとドアの外に放り投げた。


「久しぶりだねユイちゃん、僕が誰だかわかるかな?」


少年はフードをとり顔を(あらわ)にすると十五年前に比べて多少幼(たしょうお)さなさが(のこ)るが(まぎ)れもなくシンだった。


「シ~~~ン!!」


ユイは涙を流しながらシンに飛び付き、数回足を浮かせて回ると小さな声で何度も何度も「会いたかった」、「本当に会いたかった」と呟く。


「ユイ、僕は罪を償ったあと神様頼んでまた君のいる世界に生まれたんだよ、十五年も待たせてごめんね」


シンはユイから離れると片膝(かたひざ)をつきユイの蒼瞳を真っ直ぐ見る。


「ユイ、僕と結婚してください!!」


シンはポケットユイの瞳と同じ色の宝石(ほうせき)が付いた指輪(ゆびわ)を取り出しプロポーズする。


「はい...こちらこそよろしくお願いいたします」


ユイは涙を流しながら最高の笑顔で答え、シンに口付けする。


「遅すぎよ!!」











 







 



 

 








初の短編小説書ききったことに凄い達成感を感じております。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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