魔王と少女
今より遥か昔それはそれは残虐非道な魔王が居りました。
魔王は生まれながらにして最強で人の国だけでは飽きたらず、森の獣人族や海の人魚族にも戦争を仕掛けて世界征服しようと企んでいました。
しかし、あるとき一人の少年が立ち上がった。
少年は人間の勇者となって森の獣人族と海の人魚族と協力し魔王に戦いを挑んだ、数々(かずかず)の死闘の末に辛うじて魔王を退ける事に成功しましたとさ...
「たかが人間風情がぁぁぁぁあ!!!
この屈辱は決して忘れん、必ず貴様らを殺して世界を我が手に納めて見せるからなぁぁ!!」
魔王はそう言うと城の屋上から飛び降りて雨降る川に落ち、濁流の中へ姿を消した。
「クッソウ...まんまと逃げられたか、絶対に魔王、お前を倒して世界に平和を取り戻すからな!!」
勇者は強く拳を握ると狼の獣人と女性の人魚と共に魔王城を後にした。
数日後、すっかり雨が上がって雲の切れ目から美しく太陽の光が射し込む頃、今年で十才になる白髪で蒼瞳の女の子ユイは雨で溜まった洗濯物を洗いに黒い牛クロと一緒にの川へ来ていた。
「さ~て、お洗濯しますかぁ」
ユイは洗濯物の入ったカゴを牛の背中から取るとカゴをもって川辺に降りると、カゴから石鹸と洗濯物を取り出していつも洗濯板代わりに使っている平たい大きな石に近づく。
するとそこには、黒い髪鬼のような二本の角、鋭い牙が口元から僅かに顔をのぞかせている、ボロボロの服を着た若い男性が倒れていた。
「お兄さん大丈夫ですか?!」
ユイはあわてて男性に駆け寄り体を揺さぶる
が、男性は目を閉じたまま動かない。
ユイは男性の胸に耳を当てると心臓は動いており、口元もよくみると弱々(よわよわ)しいが息もしている。
「よかった、まだ生きてる...」
ユイは安心して胸を撫で下ろすとクロを呼び男性をクロ背中に頑張って乗せて家に向かった。
「うっ...ううっ...んっあああ!!っあ、はぁ...はぁ...はぁ..」
魔王は目が覚めて上半身を勢い良く起こすとそこはボロボロのベッドの上で何故か小さな女の子がベッドの隣で自分の手を握り眠っている。
「ここは?...」
魔王は自分のいる部屋をキョロキョロと渡すと、部屋はお世辞にも綺麗とはいえず所々(ところどころ)
壁や天井には穴が空いており、今にも崩れそうな部屋だった。
しかし、そんな見た目には反してクモの巣や埃はほとんどなくきちんと掃除された部屋でもあった。
「う~ん、パパ...ママ...大好き...」
「危ない!!」
ちょうどそのとき、女の子の体がベッドからズレて床に倒れそうになり、魔王は握られていた手を引寄せて女の子をベッドの上に乗せる。
「ああビックリした!!」
女の子は蒼瞳を見開き魔王の金色の瞳をじっと見つめる。
「大丈夫かい?」
「あっ、ありがとうございます!!」
女の子は慌ててお礼を言うと、ペコリと頭を、下げた。
そして自分が魔王の足に乗っている事に気付く
とベッドから飛び降り「ごめんなさい、ごめんなさい」と頭を勢い良く下げたり上げたりしている。
「ふふっ...」
魔王は女の子の愛くるしい姿に思わず笑みと笑いがこぼれた。
「何かおかしかったてしょうか?」
女の子が不思議そうに顔を覗かせると魔王は微笑みながら言う。
「ゴメン、あまりにも君が可愛かったつい、笑ってしまったのだよ」
「そっ、そんな可愛だなんて...誉めても何も出ないですよ!!」
女の子は顔を赤らめながら、照れ隠しに後ろを向く。
「ああ、別に何か欲しくて言った訳じゃない、ただ本当の事を、言っただけだよ。
それと助けてくれてありがとう...」
女の子は誉められることに慣れていないのか更に顔を赤らめ、両手で顔を隠してしまう。
ドンドン!!、
そのとき、ドアをノックする音が聞こえ、女の子は「はーい」と返事をしてドアを開けた。
すると、見るからに裕福そうな格好の太った男の子が嫌な笑顔で立っていた。
「やあ、ユイ...金は用意してあるんだろうなぁ」
「レノン様?!、今日はこんなボロ屋にお出でいただき恐縮でございーー」
バン!!
ユイと言われた女の子が言葉をいい終える前に
レノンと言われた男の子はドアを強く叩き、ユイは身を縮め怯える。
「僕ちんはそんなことを聞きに来たわけじゃないんだなぁ~ユイちゃ~ん、僕がユイちゃんに貸してあげた金貨百枚を返してもらいに来たんだよ」
「レノン様ちょっと待って下さい?!、確かにレノン様から金貨をお借りいたしましたが、お借りした金貨は一枚だったはずですぅ!!」
ユイは必死に訴えるがレノンは取り合わず、部下らしき男性を呼び契約書を持って来させた。
「ユイちゃ~ん、これを見てもまだ金貨一枚と言うの?」
レノンが広げて見せた契約書には間違いなく金貨百枚となっていた。
しかし、まるで後からゼロを付け足した様に書いてあるが...
「そんなぁ...」
ユイは膝から崩れ落ち涙を浮かべる。
「あの~お取り込み中すみませんがその契約書どっからどうみても後でゼロ書いてますよね?」
魔王は契約書を指差して、太った男の子に言った。
「貴様!!、この領地の息子であるレノン様が嘘ついていると言う「そうです」」
レノンがいい終える前に魔王は断言した。
「お前らこの不届者を捕らえろ!!」
「ハッ!!」
レノン部下と見られる兵士達が魔王を捕らえようと掴み掛かってくるが魔王の目にはあくびがするほど遅く見え、ヒラリ、ヒラリ、と水を掴むようにすり抜ける。
「ええい!!構わず殺せ!!」
レノンの命令に兵士達は剣を抜き魔王に斬りかかるが、魔王は剣を、かすらせる事なく避けきり兵士達を家から外へ追い出した。
「何をもたもたしておる!!、そうだ魔法だ、魔法の使用を許可する。
早くアイツを殺せ!!」
兵士達が魔王から距離をおき、後ろにいる兵士が呪文を、唱え魔王もろとも、ユイ自身も、巻き込む火の玉を放った。
「ユイちゃんで合っているのかな?、僕の後ろに下がっていて危ないから」
魔王は優しい声でユイ言うと手で後押しするように家の中へユイを押す。
「この程度の魔法で僕の守りは破れないよ」
魔王は手の平を兵士達に向け不可視の壁を作り魔法を防ぐとお返しに倍の数の火の玉を作り出し放った。
ドドドドドドドドッ!!
おびただしい数の爆発が起きて土煙が辺りに立ち込める。
「あのお、殺しちゃったのですか?」
ユイが恐る恐る魔王に訪ねた。
「いや、脅しただけだよ」
土煙が風に流されて周囲の景色が鮮明になると、まるで魂が抜けたように兵士が口をポカーンと開けて立っていた。
魔王は馬車に、隠れて震えているレノンに近くと土を被った契約書を拾い上げる。
「レノンとやら、契約書に書かれた金貨は必ず用意する。
だから今後一切俺のユイに関わるな、いいな?」
「はいぃぃぃぃ!!」
レノンは涙と鼻水で顔を濡らしながら従者を蹴り起こして蜘蛛の子散らす勢いで逃げ帰って行った。
「ふぅ~、これでよし!」
魔王はまるでゴミの掃除が終わったように言うと、少し困った
顔でユイを見る。
「少し怖がらせてしまったね、ユイちゃん。
僕を助けてくれてありがとう、お礼と言って難だけどこの契約書は僕がもらって行くね」
魔王は最後笑顔でユイに言うと。まるでそれが当たり前のように踵を返し歩く。
一歩また一歩と歩く度に火の玉によって削れた地面が元に戻っていく。
「待って下さい!!」
ユイは魔王に飛び付き行かないでと歩みを止めさせる。
「私、まだお礼言ってません。
私、まだあなたの名前聞いてません!
私、私...」
魔王はユイと向き合い優しくユイの頭をなで、困った顔をする。
「僕は自分の名前が分からないんだ、それに僕は魔族だ」
ユイが涙目で魔王の顔を見ると、いつの間にか消えていた角や牙が生えて川で拾ったときの姿に変わった。
「ええ、分かっています...
分かっていてあなたを助けました」
「何故ですか?!、僕はユイちゃん達人間の敵なんですよ?!」
魔王は驚いて腰を落とし視線をユイに合わせる。
「私は、今は天国にいるパパとママにもし困った人が例え何処の誰であろうと助けるように教わりました。
あなたをただ助けたかった、それだけじゃダメですか?」
ユイは上目ずかいで魔王を見る。
ユイの可愛姿に、魔王は頬を赤らめそっぽを向く。
「改めて言うけど、僕は魔族だよ」
「はい!」
「記憶無いんだよ」
「はい!」
「記憶戻ったらユイちゃんを殺すかも知れないんだよ」
「そんなことは無いです、だってさっきも私を助けてくれたではありませんか?、それに...」
ユイは振り返り一歩一歩跳ぶ様に歩くとお尻の前で手首を握って振り返り。
「私、魔族のあなた嫌いじゃ無いですよ」
まるで背後に花が咲くような可愛い笑顔を魔王に向ける。
「よ~ぉし、そこまで言われちゃこのまま去る訳には行かない。
僕にユイちゃんを守らせてくれ、あと僕に名前を付けてくれないかな。
例え記憶が戻ってもユイちゃんの思う僕であるように」
ユイは人差し指を唇に当てて少し考えると、一人で頷き視線を向ける。
「じゃあ、今日からあなたの名前はシンでお願いします。
例えシンさんが、凶暴な魔族になっても私はあなたが優しシンさんに戻って来れるようにシンじているっと言う意味を込めて」
「そうかぁ...シンが僕の名前なんだね...
じゃあ僕も誓うよ、例え僕の記憶が戻っても、ユイちゃんのシンじるシンであり続けると」
こうして村の外れに魔王と少女の不思議な生活が始まったのだった。
しかし、そんな魔王と少女の生活は長くは続かなかった。
「一、二、三、四、五、っとよしっ、これが今回の魔物討伐の金貨五枚だ」
「ありがとうございます」
シンはここ数ヶ月村の周囲に出る魔物を狩ってレノンの詐欺とも言える借金を返していた。
シンは受付におかれた金貨を懐に仕舞って元気のいい気さくなオッサンに礼を言うと受付を後にして今日の金貨五枚でユイの借金が無くなるこのときに最悪の事態が起きた。
「みんな大変だぁ!!」
体のあちこちから血を流した兵士が建物の中に跳び込んできた。
「その怪我はどうした、ジョン!!」
受付のオッサンにジョンと言われた兵士は息を切らせながら訴える。
「ま、魔族が...魔族が攻めてきたああああ!!」
兵士は言い終わると力尽きたように気を失って倒れた。
「「「「うぁあああ!!!」」」」
兵士が倒れた瞬間に人々(ひとびと)はパニックになり、出口に我先にと押し掛ける。
「おちつけぇぇえええ!!」
シンは耳を塞ぎたくなるような大きな声で叫び、人々に冷静さが戻った。
「オッサン、このジョンは何処の守りを担当していたんだ?」
「確かジョンは東の森付近だったと思うけど...まさかシン...行く気か?」
「ああ...どのみち魔族は倒さないといけないし、東の森にはユイちゃんがいる!!」
シンは目にも止まらぬ速さで村を駆け抜け、ユイの元に向かった。
「あっ、あったぁ!!」
ユイは東の森の中で最近発覚したシンの大好物シュカの実を探していた。
シュカの実はリンゴ程のサイズの黄色い果物で味はブドウに近く、偶然見つけたシュカの実をシンに食べてもらった所、シンの味覚に大当たりしシンの大好物になった。
ユイは木に登り必死になってシュカの実に手を伸ばすが後少し届かず宙を過ぎるだけに終わる。
「あとちょっと...」
「これが欲しいのか?」
突然何者かの声が聞こえて目の前のシュカの実をちぎりとる。
「ありがと「グシャ!!」」
ユイが礼を言うと何者かはシュカの実を握り潰した。
「ごめんごめん、つい力が入ってしまってね」
ユイが声の方に顔を向けるとコウモリの翼を生やし、
竜の尻尾ぶら下げた魔族の男が不自然なほど細い枝に立っていた。
「おっと、足が滑ってしまった」
魔族の男は足で太いシュカの木をへし折り、ユイは地面まっ逆さまに落ちた。
「きゃぁぁぁぁああああ!!」
「ユイぃぃぃぃいいいい!!」
シンはユイを地面すれすれでキャッチし背中から地面を削るように滑って奥の木に衝突してやっと止まった。
「ユイちゃん大丈夫か?」
「シンさん...怖かったよおおお!!」
ユイはシンの胸に顔を埋めて泣く。
「よ~し、よし、怖くない、怖くない、僕がユイちゃんを守るからね」
シンがユイの頭をなでていると、魔族の男がシンめがけて蹴りを打ってくる。
シンは空いている手で蹴りを受け止めるとそのまま地面に叩きつけ、魔族を中心にすり鉢状に地面が陥没した。
「ユイちゃんに手を出す奴は許さねえ」
シンはユイを抱えて立ち上がり、魔族から距離をとる。
「ユイ、この東の森から村に向けて魔族が攻めてきているらしい。
ユイは村に避難して待っててくれ」
「私は「ユイ、出来るな...」」
シンはユイにその続きの言葉言わせないように強く言った。
「分かりました...シンさん、必ず生きて私の元に帰って来て」
ユイはシンの頬にキスをし村へ向かって走る。
「ヒュウー、ヒュウー、熱い事で、俺はそんなお前を生かして帰す気はねえがなぁ」
シンは刀を鞘から抜き魔族の男向けて構えた。
「ユイちゃん、いやユイにキスされたからにはお前を倒し、攻めてきた魔族、魔物、全て倒して村を守る!!」
「やれるものならやってみな、俺は新魔王陛下の右腕ラード!!。
世界征服の初めとしてこの村を破壊しつくしてやる!!」
シンとラードの戦いは一方的だった。
シンは魔法で牽制しながらラードの隙をうかがい切り込んでいくが、ラードは新魔王の右腕を名乗るだけあり、シンの牽制程度の魔法じゃ傷一つ付けられず、わざと両手を広げかかって来いと言い、挑発に乗ったシンの全力の斬撃は薄皮一枚切ることなく刀が折れた。
「さぁ、さぁ、どおした人間!!、この程度なのか?」
ラードは砕散った刀が舞う空間でシンの胸ぐらを掴み自分がやられたときの培以上の力で地面に叩きつけた。
「グァァァアア!!」
シンが口から血を吐き刹那の間をおいて地面がすり鉢状に陥没する。
「もう終わりですか?、口ほどにない」
ラードは動かなくなったシンを見下ろし唾を吐き捨てた。
「さ~て、あのユイっていう子にこいつの首を持って行ったらどんな反応するのかなぁ~、泣き叫ぶかなぁ~怒って向かってくるかなぁ~。
た・の・し・み 」
ラードがわくわくしながらシンの死体に近づくと突然死体が起き上がりラードの胸ぐらを掴んでラードにやられた更に培以上の力で叩きつけた。
もはやその衝撃は地面を陥没させるだけにとどまらす村に届く程の地震となった。
「きゃぁぁぁぁああああ!!」
「何が起こってるんだ?!」
「神の逆鱗じゃぁあああ!!」
「大丈夫です!!」
緊急避難所の村役場で子供たちやお年寄りが騒ぎ立てる中ユイだけは冷静に場をなだめてた。
「皆さん大丈夫です、この衝撃はきっとシンさんが魔族や魔物と戦っているから揺れているだけです」
「ユイちゃん、ここから東の森は近くはない。
ここまで衝撃がくるってことは、魔族はかなり強いって事だ、しかも聞いた話だと魔族は一人じゃない。
さすがにもうシンさんは「パシッ!!」」
弱音をはいた少年にユイは容赦なく平手打ちをかました。
「死んでない、シンさんは強いもん。死なないもん!!」
ユイは目を真っ赤にして涙をながしながら訴えた。
その気迫と少年が言ったとおりシンの生存を絶望視する村人は目を伏せ諦めの空気が漂う中村役場の扉が大きく開く。
「まだ諦めるのは早い!!」
太陽の光を背に受けながら一人の少年が力強く宣言する。
「俺達は魔王討伐を掲げる勇者だ!!。
早速聞こう、魔族どうだって?」
シンはラードを一撃で倒したあと森の中にいる魔族、魔物、を狩り尽くして行った。
「みんな逃げろ、旧魔王陛下だぁ!!
グァァァアア!!」
ギロ!!
シンは完全な魔王の姿で新魔王軍を殲滅していく。
「グァァァアア!!」
「助けてくれ!!」
「死にたくない!!」
様々な、悲鳴が聞こえるがお構い無しに倒し、蹂躙する。
「やはりノースだったか...」
シンは勇者に倒されず逃げのびた旧魔王軍四武将の一人、黒龍人のノースを金の瞳で睨み付けた。
「我は逃げたのでない勝機を伺っていただけだ、お主こそ勇者に敗れ敗走した弱者ではないか」
ノースはシンを指差して蔑み罵る。
「そうだ、あのとき魔王だった俺は何も分かっちゃい弱者だったのさ。
俺は勇者に負けて当然さ」
ノースは驚きあまりたじろぐ。
あのプライドの塊とも言って良いほど他者を見下していた魔王が自分が間違っていたと認めたからだ。
「認めるな...認めるなぁァァアアア!!」
ノースから黒い魔力が溢れだし巨大な竜となった。
「貴様の気まぐれてどれだけの部下が死んだと思ってやがる!!
貴様の退屈凌ぎて我の息子は死に、貴様の命令で妻は死んだ!!
死んで行ったもの達は無駄死にだったと貴様本人が認める気かァァアアア!!」
ノースは怒りを地面にぶつけ地面にいくつも大穴が空く。
「許さん、許さんぞ魔王!!
貴様を倒して、いや殺して世界を支配して亡き者達に捧げる贄にしてやるわぁァァアアア」
ノースの咆哮は大地を揺らし風を起こしまるで天変地異のような景色を作りだす。
「ノース...憐れだな...自分がしたことはと言え怒りで己を見失うなど憐れとしか言いようがない。
死んではやれぬがせめてもの償いにお前の攻撃は全て避けない!!」
「グァァァアア!!」
ノースが吠え前足をシンに振り下ろす。
シンは一切防御せず受け頭から血が流れる。
「次はこっちの番だ!!」
シンはノースの頭まで飛び地面に叩きつけ、また一つ大きな穴が地面に空く。
「ギシャャャャァァアアアア!!」
ノースはシンを尻尾で掴み地面に何度も叩きつけると上空に放り投げ炎のブレス吐いた。
「グォォォオオオオオ」
赤い極太の炎が空を真っ赤に染め上げ遥か彼方の山脈が真っ二つに別れる。
「痛ってえ...ノース、悪いがこれ以上受けてはやれない俺の勇者に使えなかった切り札で終わらせてやる」
シンはノースのブレスで無くなった左腕と左足に魔力を注いで再生させると手のひらを胸のまえで合わせ合掌すると手の隙間から黒い光がこぼれ手の隙を広げるにつれて玉の形となりソフトボール位の大きさになるとノースに向けて放った。
「サヨナラノース...」
【”タルタロス”】
黒い光の玉はノースに近づき突然ノースを飲み込む程のおおきさになり、ノースは黒い光へ飲み込まれると玉は急速に縮み小さな点となって消えた。
「これで終わったか「グサッ」」
地面に降りて安心したシンを背後から勇者が聖剣で貫いた。
「おまえは...そうか...」
シンは怒りの表情で聖剣を突き刺している勇者をみて自分の終わりを悟る。
「(今までたまった付けの精算するときがきたか...)」
シンは最後の力を振り絞り自分の体から聖剣を抜くと近くの木に背を預けて座り込む。
「なあ、勇者...二つだけ、頼みを聞いちゃくれねえか?」
「見逃せって言うなら無理な話し出ぞ!!」
勇者は怒りと憎しみの目をシンに向ける。
「チゲエよ...今まで俺が殺したすべての命の冥福を祈グァァァアア!!」
勇者はシンの肩に聖剣を突き刺した。
「お前がそれを言うなァァアアア!!
お前が遊びで殺した人達の冥福なんざ祈るんじゃねえ!!」
勇者は聖剣でシンと後ろの木を刺し止めるとシンを力一杯殴った。
両手で何度も何度も殴った。
そして肩で息をし小さな声で「いうな...」っと呟く。
「これくらいでぇ...お前達の気がすんだとは...思っていない...
俺は...それだけ許さねえ事...を...してきたからなぁ...はぁ...はぁ...はぁ...」
シンは腫れ上がった顔で無理やり笑顔を作ると目を閉じる。
「もし...村で...ユイ...っていう女の子に出会ったら...いっといてくれねえか?...シン罪を償う旅に出たと...そしてその...罪を償ってまた会いに行くと...愛してる
ユイ「バサバサバサバサ!!」」
シンが言い終わると同時に勇者はシン首を跳ね、音を書き消すように一羽の鳥が夕暮れの大空へ羽ばたいた。
その後勇者達一行は村に攻めてきた魔族と魔王を倒したと村人に報告すると、魔王討伐に、村人の歓喜の声が響く中、一人の女の子が勇者に「シンさんは?」っと訪ね魔族と魔物の大群が迫る中一人だけ逃げずに戦ったゆ勇者の生死に村人の歓喜の声は収まった。
「旧魔王...いや、勇者シンは旅に出た、過去の記憶を取り戻し自分が犯した罪を償うために旅にでたーー」
勇者は話した、シンが旧魔王であること、そして新魔王と戦いこの村だけでなく世界を救った事。
村人達は驚いた、記憶がなかったとは言えあの優しいシンが残虐非道と言われた魔王であり自らの非道と過ちを認め償うと言ったことに。
後日東の森を調査した調査団は驚いたと言う。
勇者達の報告では森は完全に破壊されており再生は難しい事と言われていたのにそこには前よりも、もっと豊かな森林が広がっておりあの戦いの痕跡は一切無かったのだ。
そして。時が流れるにつれシンは残虐非道の魔王としてはなく、魔王から世界を救った勇者として語り継がれて行くことになる。
十五年後...
「「「「ユイさん結婚してください」」」」
すっかり美しく成長したユイに平民、貴族、少年、青年、紳士問わずユイはプロポーズされていた。
「ごめんなさい...私には好きな人がいるのだからあなた達の気持ちには答えられないの」
ユイわ胸まえで祈る様に手を結び答える。
「「「「(ズキューーン!!)」」」」
そんなユイの姿に男たちはまた惚れ直すのであった。
「ユイちゃん、また男を振ったんだって?」
場所は変わり、ユイが働いている居酒屋でマスターがユイに話しかけた。
「はい、マスター、私はもう十年近く前から好きな人がいるとアピールしているのまだ懲りずに結婚しようとか、妾に、なれとか、何番目の妻にするとか言って来るのですよ」
「まあ、君のような、美人には当たり前の事だと思うがね、むしろ二十五歳なって結婚せずに男達からモテモテのユイさんが凄いと思うけどなぁ~」
カランカラン♪
「「いらっしゃい~」ませ~」
「ユイ!!、どうしても俺と結婚しないなら...
死ねぇえええ!!」
ユイ達が出入口に振り向くと刃物を持った男がユイに降られた腹いせ殺そうと押し掛けて来た。
「うおおおおおお!!」
「助けて!!シンさん!!」
男がユイに刃物を振りかざしきりユイは思わず目を閉じると、いつまでも痛みが襲いかからないことに疑問を持ち恐る恐る目を開けると、一人の十代半ばのフードで顔を隠した少年が刃物を持った男の腕を掴み止めている。
「やれやれずいぶんと人気者になってしまったなユイちゃん」
フードを、被った少年は素早く男の腹を殴り気絶させるとドアの外に放り投げた。
「久しぶりだねユイちゃん、僕が誰だかわかるかな?」
少年はフードをとり顔を露にすると十五年前に比べて多少幼さなさが残るが紛れもなくシンだった。
「シ~~~ン!!」
ユイは涙を流しながらシンに飛び付き、数回足を浮かせて回ると小さな声で何度も何度も「会いたかった」、「本当に会いたかった」と呟く。
「ユイ、僕は罪を償ったあと神様頼んでまた君のいる世界に生まれたんだよ、十五年も待たせてごめんね」
シンはユイから離れると片膝をつきユイの蒼瞳を真っ直ぐ見る。
「ユイ、僕と結婚してください!!」
シンはポケットユイの瞳と同じ色の宝石が付いた指輪を取り出しプロポーズする。
「はい...こちらこそよろしくお願いいたします」
ユイは涙を流しながら最高の笑顔で答え、シンに口付けする。
「遅すぎよ!!」
初の短編小説書ききったことに凄い達成感を感じております。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。