第八話 クレーム
そう言えば、紙変換した場合の説明が抜けていました。変換する紙の種類は指定してますが、紙に色々書かれているのは、変換したモノの絵と名前など識別する簡易な情報が書かれている設定です。情報を改変や確認するには、データーシートを使用する必要がある設定にしています。
屑どもに案内させて移動中だが、読者さんは、俺(紙 創平)が人でなしと思っていないだろうか?
それは違うぞ。人攫いどもにも情けをかけろとか思うかもしれないが、勇者召喚魔法陣で地球から人を攫えるなら、逆に地球に送り出す魔法が開発されないとは言えない。歴代の召喚勇者は、戻りたかっただろうが、危険性を考えて、地球への帰還魔法の開発をさせなかったのだろう。
勇者召喚魔法陣のデータシートの情報から、今の所、地球への帰還魔法は無いようだが、開発された場合、召喚勇者を送り返すだけで済むだろうか?否、地球への侵略を開始すると考えるのが現実的だ。俺が虐殺を行おうと考えたのは、召喚をさせないのもあるが、そう言うことだよ。
世界の狭間を移動時に空間から影響を受け、特殊能力を持つ集団が侵略行為をする。ぞっとするね。
歴代の召喚勇者も同様のことを考えたのだろう。大規模破壊行為は、ある種の牽制だからな。メソポ王国を滅ぼそうとしたのも、勇者召喚魔法陣の破壊の為もあったと思う。戦闘行為経験者なら当然考えるだろう。
それに、データシートの情報で確認すべき点があるのだ。
本当はこんなめんどくさい事、俺だってやりたくねーよ。小市民の暮らしを守るのに必要だから、仕方なくだ。
愚痴を言ってしまったが、警戒しないとな。
紙 『お面よ。特に攻撃してくる者や刺客も来ないが、効果範囲に怪しい奴のデータは、どうだ?』
お面 『特にありやせん。白髪頭が将軍とか呼ばれてやすが、保存データの情報だと、居るのは軍人ばっかりなので、抑えているようでやす。』
紙 『なるほど。そう言えば、治安維持の全権がどうとか言ってたな。あれか。』
お面 『恐らくは。』
紙 『わかった。引き続き頼む。』
お面 『了解でやす。』
城の中は結構広いようだ。まあ、住居と言うよりは、要塞の一種だろうから当たり前か。通路もわざと複雑にしている感じだ。
俺にとっては無駄だがね。自動マッピングと言うのをデータシートに追加してあるからな。紙製の地図はあるのだから、紙に関する能力として当然のように追加できる。千里眼的能力があれば、全体図と現在地表示も可能とは思うが、追加していない。能力を追加しすぎて、地球でボロが出るのは不味いしね。マッピングの感じだと城の中層階の奥の場所へ行くようだな。謁見の間とかではなさそうだ。そう言うのは、下層階だろうから。見栄を張るために広い部屋が必要だから、下層になると判断できる。これでも元設備工事屋だ。そのくらいは分かる。
そうそう、俺のデータシートには職業欄が無いのだが、異世界の連中には職業欄がある。日本では、農家のおっさんだが、異世界では召喚勇者という微妙な感じだからかもしれない。俺は、勇者じゃなくて被害者だと認識しているしな。保存データをお面が確認しているのは、職業欄だ。移動中に細かいチェックは出来ないから。
話がそれたが、盾にしている女に確認するか。
紙 「おい、女。俺を攫ったのは屑女一派の独断と言ったが、お前らの親玉は、勇者召喚という人攫いが実行されたことは知っているのか?」
女 「はい。報告は、父にも入っております。召喚が成功したことは、報告させました。」
紙 「ふん。報告が入っても被害者の前に現れないとは、随分と尊大だな。屑どもの親玉らしい。」
掃除していた連中に、報告させたか。
屑どもに対して、乱暴な言葉を使っているがわざとだ。意識して怒っていないと、どうでもよくなってくるんだよ。面倒ごとは、スルーする癖が付いているんでな。俺は、本来腰の低いおっさんで、乱暴な話し方はしない小市民なんだよ。
女 「申し訳ありません。父は病で動けず、兄達も国へ戻る最中である為、私のような者が代理となり、勇者様に失礼をしたこと、お詫びいたします。」
紙 「そっちの都合は、俺に関係無いことだ。会話可能なんだろうな?」
女 「小康状態ですので、大丈夫です。」
会話できないなら、意味無いからな。
色々と思うところはあるが、親玉の部屋に着いたようだ。両開きの扉の前に、護衛と思われる帯剣している者が二人いる。
白髪頭を先頭に、屑どもを引き連れているので、止められるかと思ったが追っ払われたぞ。
まあ、特殊能力の効果範囲に入った時点で隷属しているから、命令すれば問題は無いが、不測の事態と言うのは、油断した時に起こるからな。
お約束みたいにね。
さあ、屑の親玉に、ご対面といこうか。
◇◆◇◆◇◆
大人数で部屋に入れるか不明でも、気にせず無理矢理入ってやろうと思っていたが、屑の親玉は国王らしく、寝室が俺の召喚された地下室程では無いが、かなり広い。まあ、勇者召喚魔法陣は、異世界と繋ぐ為に必要なのだろう、あの広い地下室の床全体に複雑な模様が描かれていたからな。話がそれたが、部屋には、調度品があっても余裕で入れたぞ。医者か魔法使いか知らんが、白い服の連中が天蓋付きベッドの周りに3名ほどいる。
紙 「おい!そこに寝てる奴。起きろ!人攫いの親玉なんだろう?被害者様が来てやったぞ!」
気分はクレーマーである。こう言う場面では、理屈じゃなくて、ああ言う嫌がられる行動を参考にするのが正解だと思うんだ。
やってる本人も気が滅入るんだけどさ。
あの手の行為ができるタイプと精神構造が違うんだよ。
俺は、小心者だから。
白服A 「王の寝室に大人数で何事です!出ていきなさい!」
紙 「ふざけんな。てめーに発言許可は出してねぇ。白髪頭、そいつを殴れ!思い切りだ!」
白髪頭が拒否しようとしたが、白服Aは殴られて吹っ飛んだ。
ほお、床に殴りつけられたら、ゴムボールが飛び跳ねるように壁まで吹っ飛ぶとは、やはり地球とは違うな。地球で殴り合いしても、飛び跳ねるようなことは無いからな。地球だと倒れて終わりだろう。それとも魔法の受け身のような物か?
しかし、余計なことさせるなよ。めんどくさい。
紙 「屑女、てめーの不始末だ。親玉と話すから、起こせ。」
部屋には、応接セットのようなソファーとテーブルがあるが、俺は座らないし、触らない。不安要因は極力避けるぞ!
屑女がベッドへ行き、寝ていた奴の上半身を起こした。
ここは非情な対応をするべきだろう。
紙 「俺は、起こせと言った。ベッドから出てこい。人攫いが。」
白髪頭 「勇者殿、お許しを!我が王は病の為、動けません。会話は可能ですが、ベッドから動かすことは、ご容赦を。」
白髪頭が土下座し、懇願した。
紙 「そっちの都合なんぞ知るか!てめーらは、俺の都合を無視したんだ、気を使う義理は無ぇ!」
非情に言い放つと、寝ていたおっさんが、這いずりながらベッドから下りようとしている。
白服B 「陛下、ご無理はいけません!無礼者が!下がりなさい!」
そう言った瞬間、白服Bが平伏した。言動が攻撃と見なされたんだな。俺に命令したから。
しかし、状況が分からんのかね?俺に無礼者とか言うのは、不味いって考えないのかよ。
やはり、異世界人は下等と思われているって事か?
やれやれだ。
紙 「屑女!そいつの顔を踏み潰せ。立場を分からせる。」
屑女が白服Bの頭を踏み潰そうと足をあげた時、待ったがかかる。
おっさん 「待て。待つのじゃ!責任は我にある。臣下に手を出すな。」
人に頼むのに、命令口調か。救いようがねーな。まあ、後で殺すからいいけどよ。
紙 「屑女、踏み潰すのは中止だ。親玉を床に引きずり出せ。白髪頭も手伝え。人に頼み事する態度じゃねーな。流石は、屑の親玉だ。」
女 「勇者様、お許しを。我らが勇者様にしたことは、許されることではありません。ですが、ご慈悲を!」
後ろ手で縛っているから、跪こうとしたけど、ひっくり返って寝転んだみたいになってんぞ。
三文芝居って言うより、これはコントか?たらい落ちて来ねーかな?
しかし、笑うところか?コレ。
分からない時は、基本無視だよな。うん、そうしよう。
紙 「さっさと引きずり出せ。人攫いに掛ける情けは無い。」
二人に抱えられ、おっさんは床に座らされた。白服Cが寄り添っている。
紙 「さて、屑の御託を聞こうじゃねーか。話を聞くだけ、有難いと思えよ?てめーは、どう落とし前付けるつもりだ。ええ?」
おっさん 「貴殿が召喚された異世界の者か。貴殿からすれば、我らは誹りを受けて当然だ。だが、勝手な願いだが、我らに助力を願いたい。頼む。」
おいおい、謝罪も無しで協力しろとか、俺のこと下等な異世界人って思ってるよな?
情報を集める必要あるけど、やはり虐殺で良いんじゃないか?
俺や地球にとって、有害だよ。こいつら。
紙 「断る!何が召喚だ!聞こえの良い言葉を使ってんじゃねーよ!人攫い行為を正当化しているな。謝罪も無いのが、良い証拠だ。自分達の世界のことは、自分達で処理するのが筋だろ?白髪頭が異世界人の召喚はしないで、魔族対応するはずだったと証言している。禁忌というなら、何故、勇者召喚魔法陣を破壊しない?緊急事態に備えて、魔石とやらを用意していたのも聞いたぞ!てめーらは、無能で無責任な屑でしかない。そんな連中に協力する気は無い!」
おっさん 「貴殿の申すことは、もっともだ。だが、国を預かる者として、有用な物は残さねばならない。召喚と言う人攫いを行ったことについては、謝罪しよう。我が国に可能なことならば、望みは叶えよう。衣食住の保障はする。頼む!」
紙 「ふん!嫌だね。人攫いするような連中を信用できるか!可能なことならば、望みを叶えるだぁ?じゃあ、この国の連中は全員死ねと言えば、死ぬのかよ?元の世界に戻れないと思って、衣食住の保障で俺を使役できると思うな!そんなものが、人攫いの償いになるかよ。”下等な異世界人”は、使い捨て戦力だと考えているんだろう?それと勇者召喚魔法陣は、お前らの先祖が開発した物じゃねーな?メソポ王国の屑王さんよ~?てめーらの為に、命を張るわけねーだろ。どうせ用済みになれば抹殺対象に早変わりだろう?権力者のやりそうなことだ。それに嘘吐くんじゃねぇ!魔法陣は残したんじゃねぇだろ?召喚勇者でも”破壊できなかった。”だろう?」
勇者召喚魔法陣で確認したかったのは、コレだ。日本で落ち着いて確認したら、データシートに”在るモノ『クリミナル』が、異世界の存在を教え、勇者召喚魔法陣を授けた。”と記述があったのだ。
”在るモノ”ってのは、何なのか?『クリミナル』ってのが、英語の犯罪者の意味で良いのか、そこまでの情報がデータシートに無かったのだ。
魔法陣を破壊しても授けた奴がいたら、修復可能かもしれない。
それに、歴代の召喚勇者も魔法陣を破壊できなかったんだよ。正確には、”地下室に近づけなくなった。”だが。データシートには、『魔法陣を破壊しようとするものは、地下室へ行けなかった。』って、記述がある。俺は、召喚された時に魔法陣を複製して、地脈の力を根こそぎデータ保存したから、魔法陣の防御システムが無効になって、改変出来たんじゃないかと思う。そうそう、物質をデータ保存しても元の物質は残るけど、力とかは、その存在自体を保存してしまうようで、残らないんだよ。俺の特殊能力は、”在るモノ『クリミナル』”って奴の想定外のモノじゃないか?
クリミナル関係もあるので、嫌々対応中なんだよ。
勘弁して欲しい。
屑王 「何故、魔法陣のことを…。それに、我が国の名を知っておるのか?まさか、他国の間者?いや、それは無いか。貴殿は、文献にある異世界人の特徴通りだからな。…なるほど、異世界人の持つ特殊能力か。我は、貴殿ら異世界人を下等と思っておらん。我が先祖が、傲慢な態度で貴殿の同胞を扱ったことは事実だ。申し訳ないと思っておる。愚かな祖先は、貴殿の同胞から報いを受けておる。その報いは今でも続き、我が息子たちも他国で人質だ。心配せずとも、貴殿を抹殺対象にはせぬ。そのようなことをしたら、我が国どころかこの世界の者は、全員貴殿に殺されるだろう?召喚勇者は、圧倒的な力を持つからな。我らは無能だが、そこまで愚かでは無いぞ。貴殿を騙すつもりは無かったが、魔法陣に関しては機密事項になっている為、他の者がいるこの場で話すわけにはいかなかったのだ。すまぬ。」
ほお、特殊能力と判断したか。白髪頭が、俺が最初から国名を知っていたことを屑王に説明した時点で、特殊能力と判断するとは、娘の屑女と違って、多少は頭が回るようだな。
だが、疑問には回答しないぜ。
しかし、良く口が回るな。何が騙すつもりがねーだよ。権力者ってのは、平気で嘘を吐きやがるぜ。禁忌なら、魔石を用意してんじゃねーよ!突っ込みどころ満載だ。それに、都合の悪い俺の要求”死ね”は、無視か。普通に話す為に、隷属しているとは言え、ハッキリと命令しないと従わないようにしているからな。人間性が良く分かるぜ。上から目線で尊大だ。まあ、俺に対して攻撃は出来ないから、負け惜しみになるけどね。
グダグダ話して、時間を稼いだが、データはどうだ?
紙 『お面よ。屑王のデータはチェック出来たか?』
お面 『必要な部分は、できやした。こいつの病は、伝染病じゃねーです。呪いの類ですぜ、旦那。』
紙 『呪い?どんな呪いだ?』
お面 『データシートによれば、”人面瘡”ってなってやす。魔物に襲われた傷が原因の様でやすよ。徐々に肉体を弱体化する様でやす。”呪われた武器”ってのがあるようで、魔物がそれを使ったんでやすよ。』
紙 『人面瘡か。俺ならデータシート改変で、治療可能か?必要ないから、別に治さんけど。』
お面 『勿論、一瞬でやすよ。データシートの”人面瘡”の部分を削除するだけでやすから。』
紙 『なるほどね。引き続き警戒を頼む。』
お面 『了解しやした。』
さて、誠意が見られない屑どもに、さらなる文句を言ってやろう。
人を貶したりするのは、好きでは無いんだがな。小市民な俺は、自分の身の程をわきまえているからさ。
俺は、聖人君子では無いし、人より特に何かが優れているとかは無い、普通のおっさんだから。
紙 「お前らの都合や言い訳は、俺には関係無い。大体、禁忌である勇者召喚を行った連中を、処刑するという発言が無いのは何故だ?まずは、責任を取らせるのが筋だろう。俺に指摘されなければ、うやむやにするつもりなのだろう?屑女は、第一王女とか言ったからな。娘を処刑するのは、拒否するってか。なあ?」
屑王 「責任は取らせる。我が娘もそうだが、協力した者も全てな。貴殿が断罪しろと言うなら、従おう。協力した貴族その他の生命財産は、貴殿が好きにすると良い。貴殿には、その権利がある。我が王家の財産その他も差し出そう。だが、勇者召喚に関しては、各国に説明する必要がある。罰するのは、それまで待って欲しい。」
紙 「言ったはずだ。てめーらの都合や言い訳は、俺には関係無いと。見える形で責任を取らせろ、今すぐにだ。問題を先送りするのは、屑のやる常套手段だからな。時間経過で責任をうやむやにする。舐めるなよ。おっさん何でな、伊達に余計に生きていないんだよ。ごまかしは効かねーぜ。ああ、そうだ。言っておくが、屑どもに責任を取らせても、俺に対して落とし前を付けたことにはならんからな。この世界の者は、俺に対して、どう償うつもりだ?答えろ!」
屑王 「・・・・・。」
答えに窮するか。まあ、そうなるように話したんだがな。
暫く睨んでいると、外から部屋に向かって走ってくる気配がある。
勢いよく、部屋の扉が開けられた。
? 「父上!!ご無事ですか。…む!貴様、父上に何をした!不埒な賊めが!!成敗してくれる!」
お約束の登場したアホが、腰の剣に手を掛けた瞬間、前転するような形で平伏した。
スタイリッシュ土下座ならぬ、アクロバティック平伏だな。
これも笑いを取ろうとしているんだろうか?
真面目にやってるんだから、空気読めや!
データから金たらいを複製して、それを上から落としてやる。この野郎!
ガン!
上から金たらいが降ってきて、アホの頭に直撃した。
余計なことさせるなよ。
考えている物を文章にすると、違う物になってしまう。
困った。どうしましょう?