第六話 情報の突合せ
紙 創平は、元工事屋なので、段取りを重視します。
異世界では、味方がお面しかいませんから。
深呼吸した所で、ゆっくりと行動開始だ。
警戒は緩めずにな。
紙 「ふう~。黙って聞いてりゃあ、好き勝手言ってくれるなぁ~。ええ?おい!」
そう言って、屑女を指差す。
王族だろうから、こんな言葉や指差されるような行為は、初めてなんだろう。
びっくりしたような、面食らった顔をしている。
全く、こんな芝居のようなことは、嫌いなんだがな。
紙 「下等な異世界人とか抜かしてくれたな。てめーらは、その下等な異世界人を頼らなければならない能無しなんだろう?この人攫いの屑どもが!」
そう言うと帯剣している者達が、剣を抜こうとしたが、その瞬間跪いた。
お面を疑っていたわけでは無いが、データシート改変で隷属させたのは、機能するようだな。
次元転移門を何時でも起動して、逃げれるようにしていたんだが、大丈夫そうだ。
何せ特殊能力があるとはいえ、実績があるわけでは無いからな。冷や汗もんだ。
今の所、実績があるのは、紙変換のみだし。
小市民な俺にとって、啖呵を切るという行為は、かなり度胸のいる行為だ。
自分を褒めてやりたいね。
屑女 「お前たち何をしておる!無礼な異世界人を取り押さえよ!」
そう言った瞬間、屑女は跪き、平伏した。
屑女 「何故、高貴な私が、このようなことを?くっ、体が言うことを聞かない!」
隷属状態に逆らおうとしているのだろう。力んでいるのか、ブルブルと体が震えている。
紙 「おい!屑ども。立場をわきまえろ!異世界人が下等だと?自分達よりも高等な存在を呼び出す可能性を考えない時点で、てめーらは、間抜けなんだよ!洗脳しやすい青少年を拉致するつもりだったようだが、生憎だったな?俺のようなおっさんでよ。奴隷にするつもりだったようだが、隷属するのは、てめーらだ!平伏しろ!」
そう言うと、部屋にいる者達は、一斉に平伏した。四つん這いの所謂、土下座の格好だ。
こちらが知らないはずの情報を出したんだが、気付いていないようだな。平伏状態で反応できないのか?発言可能にはしているんだが…。
まあ、良いだろう。
ゆっくりと屑女に近づき、その背にどっかりと座る。
屑女 「ぶ、無礼者がー!何をするか!」
紙 「黙れ!発言は許可していない。」
そう言うと即座に黙る。抵抗しているんだろう、唇から血が滲んでいる。
一瞬、ハリセンで、屑女の尻でも叩こうかと思ったが、なるだけ特殊能力は知られない方が良いからな。我慢した。あ、特殊能力で紙を創り出すことは可能だから。
しかしまあ、”ねぇどんな気持ち?”が、やりたくなる状況だよな。やらないけどさ。
紙 「さて、そこの白髪頭。お前は、屑の中でも話が出来そうだ。状況は、判断できるだろう?発言を許可するから、説明してみろ。ああ、その前に、全員の武装を解除させろ。話はそれからだ。」
そう言うと白髪頭が武装を解除させ、武器を俺の前に置き、距離を取った。
武器は、剣とナイフに、魔法使いみたいなのが持っていた杖?か。杖と言っても、ステッキとか歩く時に老人なんかが使う感じのじゃなくて、30cm位の変な形の木の棒だけど。
紙 「これで、全員丸腰か?」
白髪頭 「はい。勇者殿。」
紙 「俺は勇者じゃない。お前らに拉致された被害者だ!ここは、メソポ王国のネンドバーンだったか?白髪頭よ。」
本来知らないはずの情報を口に出すことで、警戒させ、侮られないようにする。
さっきは、スルーされたけど、どうだ?
白髪頭 「何故、王国名と王都の名を…。まさか他国の間者。」
紙 「はっ。俺は、説明しろと言ったはずだ。一応教えてやる。俺は、まぎれもない異世界人だ。服装や肌の色を見れば分かるだろう?お前らが下等と侮った、異世界人を舐めるなよ。」
ここにいる異世界の連中は、白人だ。欧米系白人に似てるな。地球と違うのは、原色の髪色の者がいる。染めているわけではなさそうだ。肌が褐色の者もいるが、インドや中東あたりの人種みたいな感じで、黒人や黄色人種って感じじゃない。
あ、今の俺は、動きやすいよう作業服を着ている。尻剥き出しの時はジャージだったんだが、そこまで観察力がある連中では無いようだな。
白髪頭 「失礼しました。それでは、何からご説明すれば?」
紙 「まずは、この床の模様だ。見ていて不愉快になる。俺は、いきなり目の前が真っ白になったら、こいつの真ん中にいた。尻剥き出しでな!これは何だ?召喚とか聞こえの良い言葉を使ってたが、人攫いの模様か?それと俺を攫った理由と、この世界の説明をしろ。客観的にな。お前の主観はいらないぞ。白髪頭。」
そう言って説明させる。主観はいらないと言っても、確認しないで情報を鵜呑みにするほど馬鹿じゃないからな。
床の模様に関しては、データシートにあった情報通りだ。むしろ少ない。データシートの方が詳細情報があるようだな。
これにより、データシートの情報確度は高いことが分かった。
俺を攫った理由だが、屑女一派が焦って行ったことらしい。この世界は、魔法が存在し、魔物や魔族と言った生命体がいるそうだ。
魔物は、肉体を持ち魔石(魔力の塊だそう。)を心臓の中に持っているのだが、魔族に関しては、魔石と外殻は持っているが、肉体がある場合と無い場合があるそうだ。人や獣は、魔石を持っていない。
肉体が無い場合は、外殻を傷つけても魔力の煙のようなものが漏れるだけで、血や骨、肉と言ったものが無いらしい。
外見は人型で、倒す場合は魔石以外に核と言う物を持っており、核を破壊するか魔石を破壊して、魔力を枯渇させる必要があるようだ。肉体を持つ場合は、普通に殺せば大丈夫らしい。
魔族は知能が高く、魔法を使い、力も強いそう。話を聞く限り、魔族は、地球で言う生物では無いかも知れない。
歴代の召喚勇者は、人攫いを信用すること無く、洗脳されたフリをして他国へ亡命したらしい。
何でも魔族は、周期的(約500年周期)に大規模に人間を襲ってくる存在(周期以外でも突発的な攻撃はある。)で、その防衛戦力として、異世界人が召喚されるそうだ。
歴代の召喚勇者は、その防衛戦でメソポ王国以外の者(他国の王族や偉いさん。)を救った縁で、亡命先を確保して、余生を静かに暮らしたそうだ。
この関係で、メソポ王国は人攫いで、恩人を奴隷にする屑国家とされ、代々王族は、各国へ人質に出されているそうだ。(召喚勇者が亡命先と共謀して、人攫い屑国家のメソポ王国を滅ぼそうとしたが、メソポ王国は、人質を出すことで存続が許されている。)
国土の西側が、どうとか言っていたが、召喚勇者の中に魔法適性が、神話クラスの者が一人いて(2回目の召喚勇者だ。『特殊能力:魔神』と言うのを持っていたらしい。)、亡命時に、大規模破壊魔法を使って、穀倉地帯だった場所を不毛の荒野に変えたそうだ。
説明から判断すると、恐らく召喚勇者は全員日本人だ。この世界には、召喚勇者以外に黄色人種はいないと言ったぞ。他国に子孫もいるようだが、因子が薄れて、見た目は、この世界の連中と同化しているらしい。特殊能力の継承も無いようだ。これは私見だが、一度、日本と魔法陣が繋がった関係で、日本人が召喚されるような道のようなものが、出来たんではなかろうか?
話がそれたが、今回、禁忌とされている勇者召喚を行って、俺を攫ったのは、国王が体を壊し、王子が人質になってる国からメソポ王国に戻っている最中なのだが、魔族が襲ってくる周期に当たってしまい(通常よりも短い周期で、攻撃してきたらしい)、禁忌ではあるが、緊急事態に備えて、勇者召喚ができるように用意していた魔石を使用して、儀式を屑女たちが行ってしまったそうだ。条件が揃っていれば、比較的魔力は少なくて済むそうだが、無理に儀式を行う場合は、無茶苦茶大量の魔力(データシートの情報にもあったが、条件が揃った時の3倍以上の魔力)が必要になる。その為、用意していた魔石以外に、国中の魔石をかき集めて、儀式を強行したそうだ。軍などは阻止しようとしたようだが、不安を煽られた貴族が屑女どもに協力したらしい。白髪頭は、言っていないが、特殊能力の継承が無いのも召喚する理由の一つだろうな。
青少年では無く、おっさんの俺が召喚されたのは、無理矢理儀式を行った影響もあるのだろう。
流石に三度も召喚を行っているので、土地に悪影響や疫病の流行などが起こるのは、経験上分かっている為、各国と協力して防衛戦を行うはずだったのだが、屑女一派がやらかしたと。
魔族が一部の国へ攻撃を開始していることで、焦ったようだ。2か国以上同じ時期に攻撃をした場合、魔族の攻撃周期と判断できるそうだ。突発的な攻撃は、2か国以上に同時攻撃はしてこないらしい。
勇者召喚は最後の手段なので、各国と協議の上実行することになっているそうだ。経験上、土地への影響は、ネンドバーン周辺のみだが、疫病はかなり広範囲に出るそうだ。
…だけど疫病って、地球の細菌とかウイルスじゃねーかな?地球人の俺らにとっては無害でも、異世界人には害になりそうだしな。俺は、日本に戻るのに想定して対策したけど。この仮定があっているなら、異世界の科学水準は、低いかも知れん。まだ、断定できんが。
あと、魔族はある程度虐殺を行うだけで、領土侵略をするわけでは無いそうだ。大体一年程度防衛すれば、暗黒大陸という住処に帰るみたいだな。普段から人目に付かない場所にいたり、人に偽装している場合もあるらしいけど。
魔法の道具として、魔道具があることも白髪頭は説明した。この部屋の照明は、魔道具だそう。
その他、隷属させる魔道具の存在も隠さなかった。
これにより、データシート改変の隷属は、問題無く機能すると判断しても良いだろう。
自分達に不利になる情報も話したからな。全面的に信用するわけではないがね。
しかし、そこまで聞いて、文句を言うのを我慢できなかった。
紙 「で?聞いた限りだと、異世界人の俺に、全く関係ない話だよな?要は、魔族って言うのは、嵐みたいなもんで、通り過ぎるのを我慢すれば良いだけじゃねーか!攻撃してくるのが分かっていて、準備や対策してねーのかよ?無責任すぎるぞ。この世界の連中は、異世界人を元の世界に戻れないことを交渉材料にして、使役しているな?舐めるなよ。俺にそんな交渉は、通用しないと思え!おい!魔道具とやらも出せ。奴隷にするための道具を用意してあるんだろう?とぼけるなら即座に殺す!」
そう言って、没収した剣を抜き、屑女の首に当てる。
剣など使ったことは無いが、刃物は引くか押すかすれば切れるからな。異世界だろうと物理法則は、それほど変わらんだろう。見た感じ、この剣も普通に刃物だし。
人間を殺すのは気が進まんが、この世界の連中は、単なる人型の肉だと思うことにした。既に罪悪感などは無い。データシート改変で対策済みだ。虐殺予定だから、こういったことも想定済みなのだよ。
次元転移門は秘密だが、俺は日本に戻れるから、衣食住の保障は、取引材料にならない。
嘘は言っていないので、挙動不審にならないよ。胃に来るけどさ。データシート改変して、対策しておいて良かったよ。
屑女が「ひっ。」と悲鳴を上げる。
白髪頭 「お待ち下さい。魔道具も取り上げますので。」
そう言って、白髪頭が回収したのは、首輪型の魔道具とやらだ。首輪と言うより、アクセサリーのチョーカーってのに似てるな。勤め人だった時、女性社員が付けていて、『特殊な趣味なの?』って聞いたら、怒られたよ。だって見た目が、犬が付けてる首輪そっくりだったからさ。アレは、狙ってると思うんだ。
話がそれたな。そう言えば、武装解除を命令したが、魔道具を取り上げなかったのは、武器扱いでは無いと言うことか?
やはり、異世界の情報を集めない限り、判断ミスが出るな。武器になったり、俺の隷属を解除するような魔道具がある可能性もある。慎重に行こう。
紙 「これ一つだけか?」
そう言いつつ、データ保存と複製を行う。まあ、この部屋に入ってきた時点で、自動でデータ保存はしているんだが、一応ね。
魔道具などが、俺に使われたとしても効果が無いように、データシート改変で対策はしてある。
これは、魔法陣のデータを保存することで、地脈の力も奪ったので、魔法も魔道具も魔法陣も魔法自体の力自体は変わらず、方向性を持たせることで効果が変わるだけなのは、日本で確認済みなので、対策したのだ。イメージとしては、魔法の力(魔力)は、電気みたいなもんだ。用途に応じて、照明になったり、モータなどの動力源になったりするようなもんだ。
あ、地脈の力と言うのは、惑星の生命力みたいなものらしい。大地に流れが川のようにあるようだ。魔法で魔力に変換して利用することが可能とデータシートに記述があった。
この魔道具もデータシートを確認すれば、使い方などの詳細も分かるのだが、この場は説明させよう。
俺の情報は、なるだけ渡さない様にしないとね。
一応、部屋にいる連中その他のデータを更新しておく。自動更新できるか、後でお面に確認しよう。
白髪頭 「それだけです。」
観察するフリをして、お面と念話する。
紙 『データを更新したが、問題になる物はあったか?』
お面 『特にありやせん。旦那が時間を稼いだお陰で、データをチェックできやした。フードの付いた服装の連中は、魔法使いのようです。魔法を使うには、呪文とか言うのを唱える必要があるようですぜ。高位の使い手は、無詠唱で使えるようですが、ここの連中は、出来ねーようでげす。』
紙 『わかった。隷属した連中のデータは、自動更新できるか?』
お面 『出来やすが、旦那のデータシートを改変する必要がありやす。いじるのは、日本に戻ってからが、良いと思いやす。』
紙 『そうだな。その方向で行動する。魔道具の使い方などの情報はどうだ?』
お面 『チェックできやした。説明させれば、情報の突合せが出来やす。』
俺もお面もデータシートの情報を信用はしているが(地球の製品でチェックしたからな。)、異世界においても、問題無く機能するか確証が無いため、手間のかかる確認をしている。
武装解除の例もあるからな。
何事も情報収集や確認と言った、段取りが重要だ。
その後、白髪頭に魔道具の説明をさせ、データシートの情報に間違いが無い事を確認した。
紙 「なるほど。白髪頭の情報が嘘では無い事を確認しよう。」
そう言って、屑女に魔道具を使用する。反応を見るために、発言可能にしてある。
屑女 「止めろ!止めてくれ!止めてください!嫌ーー!」
三段活用みたいな感じの拒否の仕方だな。
無視して、装備させる。
…大人しくなった。
紙 「これで屑女は、俺に対して、絶対服従になったのか?」
まあ、データシート改変で逆らえなくなってはいるが、反応を見るために従順にはしていない。
魔道具は、従順にする機能があるようだが、どうだ?
屑女 「ご主人様、何なりとお申し付けくださいませ。」
跪いて、頭を下げたぞ。
なるほどね。
さて、色々確認も出来たし、次の行動へ移るか。
結構時間はかかったが、仕方がない。
人払いをしているようで、邪魔されないで助かった。
勝手がわからん異世界では、慎重すぎるというのは無いだろうからな。
想定通りに進めよう。
確実にね。
小市民な俺には、結構きついが、頑張ろう!
早くギャグに持って行きたいです。