童謡しゃぼん玉
シャボン玉飛んだ。
半透明の球体は陽光を反射しながら、ふわりと舞い上がった。それは優しくなった風に乗り、吹き抜けの天井をゆるゆると昇っていく。
屋根まで飛んだ。
自然とそれを追いかけると、見上げた秋空は昨日と打って変わった、爽やかな群青の広がり。容器に差したストローを咥える。もう一度吹いてみる。埋もれた残りから出てきた、いつ買ったのだろう、懐かしき玩具セット。作業の手を止めて、そぞろ興じる。
屋根まで飛んで。
ゆっくりと、口を細めながら空気を送り込んでいく。ごちゃごちゃ、散乱した、こんがらがる瓦礫と頭の中を、一時的にでも空っぽにならないかして。ストローの先端の一際大きな泡玉は膨らみを増し、ある時点でプツン、放たれる。そして、数拍後に迎える物理の限界、儚い消失。
壊れて消えた。
上空の青が澄み渡る。ただ綺麗、ただ々々綺麗。綺麗なだけの虚ろ。
風々吹くな。
台風一過。飛んでいった何もかも、漠然として。浮かぶ虹色の球体をぼんやりと、消えては再び。たゆたいながら、今暫く時間が必要に思えた。動揺を口ずさむ。
シャボン玉飛ばそう。