魔女のお茶会-後日譚-
本編と語り口が全く違う上に短いです。
「あれぇ、あんた……生きてたの?」
空っぽのお菓子の家を訪れた女の声が、家の中に響き渡った。
甘い匂いの立ち込める、家の中。人の気配も、姿もない家の中のどこかから、返ってくるはずのない声がする。
「ふん、わざとらしいね。分かってて会いに来たんだろう?」
「さすが、お菓子のお家に住む魔女だ。なんでも、お見通し、か」
女が笑ってそう言うと、お菓子の床から、ずずず、と黒いかたまりが湧き上がった。その中から現れたのは、白い光とともに消え去った魔女であった。
ふう、と息をつくと、魔女は女に向かって口を開く。
「お茶、飲むんだろう? さっさと入って来な」
「おお、嫌だ嫌だ! こわーい魔女に、脅されてしまうだなんて!」
「ふざけてないで、早くしな」
大仰な身振り手振りでからかうような女を、魔女は一睨みすると、自らお茶を淹れはじめた。それを横目に、女は、お菓子でできた椅子に座る。すると、足を組んで魔女の様子を面白そうに眺めてはじめた。
ずうっと自身に向けられている視線に居心地の悪さを感じつつも、魔女はお茶を淹れる。お茶の入ったティーカップを二つ、持ってくると、魔女は一つを女へと差し出した。
「ほら、ありがたく飲みな」
「ほうほう、魔女が自ら淹れた魔法茶が飲めるだなんて……光栄だねぇ」
「いつもいつも煩いやつだ。それで、何の用なんだい」
女と向かい合うように魔女も椅子に座る。尋ねた後に、にんまりと女が笑みを浮かべたのを見て、それだけ魔女は露骨に嫌そうな顔をする。
「いいや? 特に用はないんだけれどね」
「では帰れ」
「話はちゃあんと聞こうよ、魔女さん?」
ひと睨み、それで魔女が返すと、女はただ肩をすくめる。そして、話を続けた。
「本来なら、火の付いたかまどに閉じ込められてしまうはずのあんたが、なんで生きているのかって……不思議に思ったから」
あんたに理由を聞こうと思って。
その女の言葉に、より一層目つきを鋭くした魔女。好奇心の塊のような笑顔で様子を見ている女に、溜息を一つ吐く。魔女は、重い口を開いた。
「……あの兄妹が、“選択”をしたことで、結末が変わったのさ」
「兄と妹が? へぇ、たったの……たったのそれだけ?」
「そう、それだけさ」
なんだ、つまんないの。女はただ、そう言うと、ティーカップを眺めた。
自分で聞いてきたくせに、先程とは一転、至極どうでも良さようになった女に、魔女はまた溜息をついた。
「……彼らが、“追い出される”と思って“先に家を出た”ことによって、物語は変化し、彼らはより“幸せな結末”を手に入れて、魔女は生き残ったんだよ」
「ふうん……なんだか、言葉にするといやに呆気ないものだねえ」
「物語なんて、人の生き様なんてのはそんなものさ」
物語が終わったあとの、密やかな魔女のお茶会。
魔女の淹れたお茶を飲んだ女は、ただ静かに笑った。
なぜなら、そのお茶は、魔女の一番好きな、一等良い茶葉を使ったものということを知っていたから。
「……でもまぁ、さ。今考えて気がついたんだけど……兄妹うんぬん以前にあんたがこの“兄と妹”っていう物語を知ってた時点で、筋書き通りになんかなってないでしょ。人喰い魔女でもない訳だし」
「まあ、確かにそうではあるな。しかし、“兄”にも“妹”にも、中々怖がられたようだったがな」
「そりゃあ、あんた。口下手で言葉足らずな上に人相が悪いから、子どもが勘違いするのは致し方ないよね」
「……煩い、帰れ」
最後までお付き合いいただき有難うございました。




