兄妹と魔女
グレーテルは、ぱちり、と目をさましました。おきあがって、あくびをすると、まわりを見わたします。
「あれ、……お兄ちゃん?」
そこで、いっしょにねていたはずの、ヘンゼルの姿が無いことに気がつきました。
そこで、しらない人の声が聞こえてきました。
「起きたか、子ども」
声のする方を見ると、真っ黒なふくをきた、真っ黒な女の人が立っていました。目がつり上がった、こわい顔をしています。
「……だれっ?! お兄ちゃんはどこ?」
「暴れたから、別の場所に閉じこめたんだよ。この私の、魔女の家をかじって、中に入るだなんて」
「ま、まじょ……?!」
なんと、ヘンゼルとグレーテルが入ったお菓子の家には、魔女が住んでいたのです!
どうやら、ヘンゼルとグレーテルが家に入りこんだことに、怒っているようでした。そして、ヘンゼルは魔女によって、どこかに閉じ込められてしまったようです。
魔女は、グレーテルにこう命じます。
「いいか、お前は料理を作るんだ。おいしい料理を。さもないと、……分かっているだろうな」
おそろしい魔女の言葉に、グレーテルは泣きそうになりながこたえます。
「作ります、作りますから……! お兄ちゃんには何もしないで!」
「ふん、どうするかは私が決めることだがね。せいぜいしっかり作るんだな」
そうして、グレーテルは魔女のために、おいしい料理を作ることになりました。
それから、グレーテルは何日ものあいだ、魔女のために料理を作りつづけました。朝も、昼も、夜も、魔女に怒られないように、ヘンゼルのために、といっしょうけんめいに作りつづけたのです。
どれだけ大変でも、つかれても、グレーテルは作りつづけたのです。
そして、ある日のことでした。
料理を作っていたグレーテルを、魔女が呼びつけたのです。
「おい、子ども。それは何だ?」
「それって、な、何……?」
「とぼけるな。その、首にかけているもののことだ」
そう言って、魔女はグレーテルの首を指さしました。そこには、母からもらったペンダントのついた、ひもが。
「見せろ」
「い、嫌っ!」
ちかづいて来る魔女に、グレーテルはにげまわります。しかし、すぐにつかまってしまいました。
魔女がひもをひっぱると、グレーテルのふくの下からペンダントが出てきます。きれいな、赤い石のペンダントです。
「ふうん、きれいだな」
「やめて! かえしてっ!」
グレーテルからうばって、魔女はペンダントをながめます。必死にグレーテルはとりかえそうと手をのばしますが、魔女の手元にとどくことはありません。
「これは子どもにはもったいないな。預かっておくことにしよう」
「いや! やめて! ……それは、お母さまがくれた、だいじなものなの!」
グレーテルが、そう叫んだそのときでした。




