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奈帆子と雅美の推理(2)

「失踪?」

 日比野老人の意外な言葉に、奈帆子は思わず聞き返した。

 雅美も目を丸くして、座布団の上で一度座り直した。

「それはどういうことでしょうか?」

「失踪と言ったら失踪だよ。ガツさんは突然、娘と姿を消してしまったんだ」

 老人はまるで怒っているような口調だった。

「失踪した正確な日にちは分かりませんか?」

「もう三十年も前のことだから、よく覚えていないんだが、夏休み中だったことは間違いない。まだ学校が始まっていなくて、何とか9月までに新しい人を手配しなければならないと思った記憶があるから」

「どうにかして正確な日付が知りたいのです」

 奈帆子は食い下がった。この点は捜査上、とても重要な気がしたのである。

 しかし日比野は白髪に手をやって唸り声を上げるばかりだった。

「当時、それは事件として新聞で取り上げられませんでしたか?」

「いや、新聞には載らなかったと思う。というのも、失踪と断定されるのに少し時間が掛かったからね」

 それについては、直貴に頼んで調べてもらえばよい、奈帆子はそう考えた。

「あっ、思い出したぞ」

 日比野は突然大声を出した。雅美は見えない所で顔をしかめた。

「ガツさんが娘といなくなった、ちょうどその頃、新しく来た校長が列車に飛び込んで自殺を図ったんだ。そんな事件が立て続けに起こって、あの小学校は呪われているんじゃないかって噂が立ったほどだ」

「月ヶ瀬親子の失踪後に、校長は自殺を図ったということですか?」

「ああ、そうだよ」

 日比野は自信を持って答えた。

「校長が自殺したのは、用務員が失踪した責任を取ったからではないかと、みんな思っていたからね」

 奈帆子は瞬時にその考えは間違っていると思った。

 なぜなら、箕島校長は9月から正式に着任する予定だった。よって8月中はまだその小学校の校長ではない。すなわち学校で起きたことに責任を取る立場ではないのである。

 それに学校に来たばかりの箕島が、月ヶ瀬親子のことを詳しく知っていたのかどうか、それさえ怪しいではないか。

 しかし、これで失踪した日付がはっきりしたと思った。

 箕島校長の残した日誌によれば、8月7日にタイムカプセルの埋設作業があり、その時点で月ヶ瀬みなみは生存が確認されている。そして9日に箕島は自殺を図ったとされるので、それから導かれる日付は8日ということになる。

 つまりタイムカプセルを埋めた翌日、月ヶ瀬親子は失踪したことになる。

「用務員の月ヶ瀬さんが失踪した日のことを詳しく教えてもらえませんか?」

「失踪した日、と言われてもなあ」

「月ヶ瀬さんが何か書き置きを残しているとか、そういったことはなかったのでしょうか?」

「そういった類いのものは何もなかった。朝、仕事に現れないガツさんを心配して、みんなで彼の部屋へ行ってみたら、もぬけの殻だった。だが、部屋の机やタンスの引き出しが無造作に開けられていた」

「何者かが侵入したということですか?」

「いや、ガツさんが慌てて大事なものをかき集めたのかもしれない」

「現金や銀行通帳などはどうなっていたのですか?」

「金目の物がなくなっていたと聞いている」

 たまたま外部の者が小学校に押し入り、用務員親子をどこかに連れ去るとは考えにくい。やはり月ヶ瀬庄一はまとまった金を用意して、娘とともに失踪したのだろう。

 それにしても、その行動たるや、いかにも急すぎる。

 なにしろ、前日には娘のみなみがタイムカプセルのイベントに平然と参加しているのである。その翌日に失踪するとは、一体何があったというのだろうか。

「月ヶ瀬さんが失踪する理由に、何か思い当たる節はありませんか?」

「それは当時、他の教職員たちと考えてみたよ。しかしそんな理由は見当たらないのだ。借金取りに追われていた訳でもないし、誰かに狙われていたとも考えられない」

「月ヶ瀬さんの身の回りで、それまでに何も事件は起きていなかったという訳ですね?」

「そうだ」

「失踪する直前に6年生がタイムカプセルを埋めるイベントを行っています。この時、何か用務員さんが関係する事件は起きていませんか?」

「私は低学年の担任だったから、そのイベントには直接関わっていないのだが、特に何も聞かされてないね」

 奈帆子の父親もその点については何も言っていなかった。

 もし何かがあれば、白骨死体の発見を機に思い出しているはずである。しかし念のため、もう一度父親に確かめてみることにした。

 突然、日比野が手を叩いた。その大きな音に女二人は驚かされた。

「テレビのニュースでやっていた、地中から白骨死体が出てきたっていうのは、まさか月ヶ瀬さんの娘だというのかい?」

 日比野は今になって、ようやく事件と結びつけたようだった。

「それはまだ分かりません。ただその可能性があるのではないかと思っています」

「でも、そうなると、どういうことになるんだ、これは?」

 老人は再び怒り出した。

「ガツさんが娘を殺して埋めたとは考えられない。じゃあ、一体誰がそんな酷いことをしたんだ?」

 奈帆子はそんな声をよそに、一つの仮説を立ててみた。

 月ヶ瀬庄一は何らかの理由があって娘と心中することを考えた。そこで先に娘を殺し、何故か分からないが、タイムカプセルと同じ場所に埋めた。その後、どこか自殺する場所を探しに、小学校から姿を消した。

 それなら、もう一つの仮説も立てられるではないか。

 月ヶ瀬庄一は娘が誰かに殺されたことを知った。そこで一人生きていても仕方がないと考えて、失踪して人知れずどこかで自殺した。

 これらの仮説が正しければ、父親は確実に死んでいるだろう。娘が死んだ以上、父親だけがのうのうと生きているとは思えないからである。

 しかしどちらの仮説にも問題が残る。

 部屋から現金が消えていたという日比野の証言である。自殺するつもりならば、庄一は現金を持ち出す必要はない。

 さらに箕島校長の存在である。

 用務員の失踪とほぼ同時期に自殺を図る彼は、やはりこの事件と何らかの関係があると見るべきだろう。しかも日誌によれば、彼はみなみの手が土から出ていたところを目撃しているのだ。これは一体どういうことか。

 奈帆子は考えれば考えるほど、泥沼に引き込まれていくような感覚にとらわれていた。

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