俺はナニモノ?
二進数に囲まれた世界に、俺はいた。
何故そんなところに自分がいるのか、分からない。
一番新しく、また鮮明に覚えていることと言えば、底なしの穴に落下して死んだことくらいだ。
それだけしか、分からない。
どうしてそんな穴に落ち――というよりどうしてそんな穴があるところに自分が行ったのか分からない。
二進数に囲まれているということは、ここはプログラムの空間なのだろうか。
少なくともこの世界が死後の世界で無いことは明確だ。
それより思い出したいことが一つある。
俺は誰? どんな顔で、どんな性格で、どんな職で、どんな風に育ってきたのか。
思い出したいことが一つからどんどん増えていく。
そろそろ脳の処理が追いつかなくなりそうだ。
下を見る。自分の体が二進数のノイズに隠れて見えない。
別の場所に動こうとしてみる。どこへ進んでも二進数の空間が、続いている――というより同じ場所で足踏みをしているような感覚が続くだけだ。
声を出そうとしてみる。口が開く感覚はしたが、声は出ない。
自分の体を触ろうとしてみる。腕も、頭も、脚も、自分の手をすり抜ける。片方の手でもう片方の手を触ろうとしてもダメだった。
そんな時。新たな二進数の影が現れた。
その二進数は周りや自分を覆う水色の奴とは違い、朱色をしている。
その影の形は、まるで少年のよう。
その少年の影が、オレンジの光球に変形し、俺に流れ込んでくる。
俺の視界が真っ白に染まった。
その後すぐに、新しい景色が俺の視界に映る。
俺の記憶に無い――または忘れてしまった景色だろうか。
その景色に、少年が一人。
ツンツンした黒髪に、白いTシャツを着て一人で遊んでいる。
すぐに他の子供――の形をした黒い影も現れた。
気付いて欲しがっているようにも見える少年には目もくれず、黒い影は黒い影達だけで遊んでいる。
そして遊ぶのをやめた少年が、俺に近付いてきた。
俺は後ずさろうとしたが、何故か体が固まって動かない。
近付く少年は、光に包まれ、姿を変えた。
黒いツンツンした髪は変わらない。ただ身長が自分と同じくらいに伸びた気がする。服装も黒いシャツから、白いワイシャツと黒いネクタイ、黒いスラックスに変わった。
その青年を見た瞬間、自分の脳にチクリと痛みが走り。
新しい記憶が再生された。
目の前の青年と、見覚えの無い少女が言い争い――そして青年は剣で、少女は素手で戦うという記憶。
次にその少女を守る為、青年が別の少年と戦う記憶。
最後に、その二人が穴に落下する記憶。
俺の目の前にいる青年は言う。
「今思い出したのは死ぬ前にお前が経験したこと。
そして今見たのは、お前が四歳の時に殺されなけば歩むべきだった日常。
つまり俺は、四歳で死ななかった場合のお前だ。
幸せな世界は、俺のもの。
お前の居場所はここには無い。
あの二進数の世界が、お前の居場所。
死の世界へ行くことも叶いはしない。何故ならお前は作られた存在なのだから。
作られた存在は、死の世界へは行けない」
わけの分からない事を、青年は言い続ける。
俺はナニモノ?
こいつはナニモノ?
どれが俺?
混乱した思考のまま、考え続ける。
二進数の雨が降り注ぐ。
その内俺の思考が崩壊しt・・・・・・
「ァァァァァァァァァァァァァ!」
二進数のノイズを纏う青年が消えた。
実体のある青年は含み笑いをする。
終わり・・・・・・。
松野心夜です。自分でも何でこんな話を書いたのか分からないですが、息抜きの短編です。
青年の正体ですが、あのデスゲームを読んでくれている貴方なら分かりますよね?
それでは、次回は浅井三姉妹のコラボを書きたいと思います。
汝は裏切り者なりや?3は現在グランプリ用の短編で忙しい為一時休んでおります。
グランプリが終わったら投稿を再開させると共に、新作を書きたいと思います。
それでは、また。