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第四話 徹の苦悩

ブックマークしてくれた方、誠にありがとうございます。



「さて、何か言い訳はあるクマ?」


 『異境者ストレンジャー』撃墜作戦が終わり、作戦会議室に帰還した俺とドレッドノート。

 それで、『バベル』に向かって戦艦武蔵のフルファイアを浴びせた釈明をせまられているんだが……。


「むしゃくしゃしてやりました。後悔はしていません」


 誰かこいつを止めてくれ。お願いだから。


「貴様は軽犯罪を犯した学生か?若いからって何でも許されるのは義務教育までクマ」


「いや、私は十五だからギリギリ義務教育……」


「言い訳は聞きたくないクマ」


 いや、さっきあんだが言い訳はあるかって聞いたんだろ。

 いやしかし、実際今回に限っては十割こちらが悪い。こちらっていうかドレッドノート一人が悪い。

 そう、俺は悪くない。世間が悪い。


「ですがシオン中将。今回武蔵を操作したのはドレッドノートです。なので俺はわるくないはずです!」


「あっ!朝夜艦長、私一人のせいにつもり!?」


 うるせぇ!実際お前一人だけ悪いんだよ!

 俺は聖人君子でも何でもないからな、助かるためなら女でも平気で利用するぞ!


「朝夜大尉」


「何ですか?」


「連帯責任って言葉を知ってるクマ?」


 この世には神も仏もないのか!

 だがしかし、俺は諦めんぞ。


「勿論知っています。ですが今回、俺は艦に乗っていただけです。攻撃の指示はもちろん、艦の操作など、何一つこの件に関与していません!」


 そうだ!俺は今回巻き込まれただけ。

 これなら例え裁判でも勝てる!

 異議ありだろうがそれは違うよだろうが全て叩き潰してくれるわ!


「そうか。今回の件について、自分は何も悪くないと。ドレッドノート一人だけ悪いとそう言いたいクマ?」


「その通りです」


「朝夜大尉」


「何ですか?」


「組織で何か事件が起きた時、裁かれるのは勿論それを引き起こした犯人だ。だがその責任は最終的に誰に向かうと思うクマ?」


 いきなり何だ?藪から棒に。そんなもん決まってるだろ。


「そりゃ、組織レベルに大きくなれば、物事の責任は最終的に組織の責任……者。え、もしかして」


 おいおい、嘘だと言ってよバーニー。

 え、マジで?


「さて、戦艦武蔵の責任者は一体誰なんだろうなぁ。なあ?『朝夜艦長』殿?」


 ギラリと、つぶらな瞳が光ったような気がした。


「いやいや、そんな。シオン中将、それは理不尽ってものじゃ……。艦長って言っても、なったのはついさっきの事ですよ?」


 そうだ。正式な就任書類なんて貰ってないし、ただ命じられただけの、ほとんど口約束みたいなもののはずだ!


「だが、私はしっかりと命じたクマ。往生際が悪いクマよ?」


 くそっ!何か、何ないのか!

 唯一俺を弁護してくれそうなドレッドノートは携帯端末を持ってなんかしてるし!

 お前一応今、上司から説教食らってる途中だぞ!?

 何か……、形勢逆転の魔手を!


「……っそうだ。最終的に責任を取るのが責任者ってことは、今作戦の責任者はシオン中将、あなたですよね?」


 見つけたぞ、この状況を打破する手段を!


「それがどうしたクマ?」


「確かに武蔵の責任者は俺かも知れません。ですが!その作戦を指示、また指揮をとったのはシオン中将、あなたです!」


 ビシーと、決まった。


「そ、そんな、まさか貴様!?」


「そう、確かに艦長である俺は裁かれるかもしれない。百本譲ってそれは認めましょう。ですが!それはあなたも道ずれだぁ!」


 死なば諸共。人を呪わば穴二つだ!


「う、うわぁー!……とでもいうと思ったクマ?」


 え?


「どんな言い訳が出てくるかと思って茶番に付き合ってみたクマが、そんなこと百も承知クマ。どこの世界に部下一人だけに責任を押し付ける上司がいるクマ」


「え、じゃあ……」


「勿論貴様には懲罰を与える。が、それは私も一緒クマ。罰の内容は追って伝えるが、今は……」


 ポンと、モコモコの手が俺の頭に乗せられた。

 同時に、フッと、キグルミの表情が少しだけやわらいだような気がする。

 

「よく『異境者ストレンジャー』を撃退してくれた。朝夜大尉、貴様は『バベル』に住む六百の命を救ったのだ。よくやってくれた。胸をはれ。貴様は英雄だ」


 ……本当に、ずるいと思う。

 こういうとこがあるから、このキグルミは嫌いになれないのだ。


 ま、真面目な雰囲気になるとクマ語じゃなくなるのは、いつかツッコませてもらうけどな!


「よーっし、じゃあ話も終わったみたいだし、朝夜艦長、祝勝会と行こうか!何せ久方ぶりの武蔵の出陣だったからね、飲まないとやってられないよ!」


「ドレッドノート大尉、主犯格である貴様にはもっと重い罰をくれてやるクマ。ちょっと残れ」


「What!?」


「貴様には前々から言いたいことがあったクマ。これを気に、すこしはまともな発明をしてもらうクマ」


「何おう!?我が英智の結晶達らガラクタと申すか!……あ、朝夜大尉どこに行く!?相棒の私を置いていくの!?あ、ちょ。待って、ストープ!」

 

 後ろの声を聞かなかったことにして、オレは作戦会議室を後にした。

 いや、決してめんどくさかったとかそういうのじゃないからね?

 ただ相手をするのがだるかっただけだから。うん。え?意味同じだって?ナンノコトカワラナイニコー。





 ****





「それで自堕落兄さんは逃げ帰ってきたわけですか。艦長として乗組員を助けようとは思わなかったのですか? 」


「乗組員って言ってもお前、昨日今日の話だぞ?そんな感慨わくかよ」


 時刻は二十時。

 俺は『バベル』の中にある民間居住空間の我が家に帰ってきていた。二つ下の妹、薫の姿もある。

 薫がエプロンを付けて晩御飯を作っているのをリビングのソファーから眺めながら、今日の愚痴を披露していく。


 あれだな。家族の団欒ってやつだな。

 朝は妹が起こしてくれ、妹が作ってくれた朝食を食べる。昼は妹が作ってくれた弁当をおいしく食べて、夜は妹が用意してくれた晩御飯を食べる。


 うん。これぞ完璧な家族。まごうことのない美しき兄弟愛。別にヒモではないぞ?俺はちゃんと軍で働いてるし、給料だって何割かは妹銀行に振り込んでいる。そう、だから俺はヒモではない(確信)。


「現実逃避しているところ悪いのですが、ご飯できましたよ」


「お、いつも悪いねー」


「兄さん、それは言わない約束ですよ?」


 うん。この調子だとまだまだ兄離れの心配はないな。

 そのうち『兄さんのものと一緒に私の服洗濯しないで!』とか言われちゃうのかなぁ。……あ、だめだ。想像しただけで死ねるわこれ。つまり兄離れの時が俺の寿命だな。


「しっかし、何で俺が武蔵の艦長なんかに……」


 薫が作ってくれたビーフシチューを口に運びながら、またもや愚痴る。

 あれだ、愚痴は社会人にとっての呼吸のようなものだから仕方ないのだ。


「現在この『バベル』にいる魔力供給用の男性は兄さん含めたった三人。武蔵は後期ナンバーの中でも特に魔力効率の悪い大和型の機体ですからね。魔力容量だけ見るならバケモノの兄さんが乗組員に選ばれるのは当然かと。まあ、何故艦長なのかは分かりませんが」


「はは、史上最年少で将官になったお前がわからないんじゃお手上げだよ」


 ビーフシチューを食べながら、思考を巡らせる。

 かつてこの世界は魔法主体の時代だったが、メンズ・パニックにより機械主体の時代に逆戻りした。


 だが、それでも魔法の力は大きかった。

 どんな技術よりも、どんな燃料よりも物事の運用効率が段違いだったからだ。

 そりゃそうだ。何かを燃やしたりして燃料を作る文明と、人間の身一つで何百世帯分もの資源を作れる魔力の力、つまりは魔法の文明。その差は歴然だった。


 だからこそ、出生率がひどく低下したこの時代において、未知の生物との戦争中であっても何人かの男性は最前線の基地にいる。

 地球の資源は有限。だが男性の魔力は休息さえとれば理論上無限に使える。男性保護法とか、そんなことを気にしている場合ではないのだ。なにせ戦争中になのだから。


「だからって、艦長になる必要はないよなぁ……」


 魔力を武蔵に供給するだけならただの乗組員でいいはずなのに。上の考えることは理解出来ん。あれだ、JK風に言うなら、マジで意味不明何ですけどー、だ。

 ナウでヤングには理解できない事象なのだ。


「ま、私には兄さんがそこらで野垂れ死にしようとどうでもいいのですが……」


 あ、だめだ。今の冷たい言葉で泣きそうだ。兄にとって妹の罵倒は、ナイフとか銃弾と一緒なのだ。


「せいぜい、私よりも先に死ぬのはやめてくださいね?葬式や墓石の手続きが面倒なので」


 お、おう。何今の?妹なりの愛情なの?デレ?デレなの?

 もしかして徹くん大勝利な展開あったりするの?


 そんな馬鹿な考えに思考を向けていると、ピンポーン!と、家の中にインターホンの音が響き渡った。


「こんな時間に来客?珍しいですね」


「あー、俺が出てくるからお前は飯食ってていいぞ。どうせ『バベル』伝令役かなんかだろ」


 椅子から腰を浮かせかけていた薫をなだめ、俺は玄関へと向かう。

 おのれ、妹との時間を邪魔しよって、どうしてくれようか!


「はいはーいどなたですかーっと」


 ドアの除き口から来客が誰か確かめようとした、その瞬間だった。


「ハローグッモーニン!いや、今は夜だからこんばんはかな?じゃあ仕切り直して、ハロー、こんばんはー!みんなのアイドル、ミリア・ドレッドノートですよー!」


 鍵がかかっていたはずのドアは開け放たれ、そこから金髪の悪魔、ドレッドノートが出現した。


 あの、セールスとか新聞勧誘とかはお断りなんで、帰ってもらっていいですか?


「お、朝夜艦長。お出迎えとはいいね!そんなに私が来たのが嬉しかったのかな?」


 はいはい。嬉しいです。だから早く帰ってくれないかな?何か嫌な予感がするんだよ。


「おま、何で……」


「いやー、あのクマからやっと解放されてね!それで、そのクマから君への懲罰内容を伝えに来たよ!」


「は?懲罰内容?」


 だめだいや予感しかしない。早く帰ろう。あ、ダメだ。ここが家だった。


「朝夜艦長……」


 やめろ!その口を開くなぁ!

 そんな俺の願いは届くはずもなく、ドレッドノートは声を大にして叫んだ。


「……私と、付き合ってくれないかな?」


 


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