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その七

 自らの剣を見る、ドワーフがその長い寿命を、生涯を使って一本の竜の肋を削り出した芯材にオリハルコンと魔鉄を使った合金で包んで鍛練した、現存する剣の中でも一二を争う業物にして最高の武器。

 自らを(かえり)みる、幾多の修羅場を越え、幾千の魔物を屠ってきた、肉体も万全、戦技も高位の物さえ容易く扱える。

状況を確認する、足元は悪いがこの程度は軽い、相手は自分より大きいがもっと大きな魔物を倒した事もある、相手は強いが自分より弱い相手とばかり戦ってきた覚えは一切ない。


 【コメットカット】

 空から降り注いだ隕石すら切り裂いたと言われる剣を使った接近戦なら最上級の戦技の中でも、自らが最も多用してきたソレを走りながら発動し。

刃にその力が染み渡ったその瞬間、首は高過ぎ足だと意味がないと判断して、とりあえず飛ばさないようにと翼の付け根に剣を振り下ろす。


 おかしな感触だった、使いなれた剣と使いなれた戦技、双方が揃えば分厚い鉄の板ですら紙のように切り裂けるしゴーレムすら真っ二つだ。

 だと言うのに、まるでナマクラで地面をぶっ叩いたように腕が痺れて、まるで木の棒のように愛剣はへし折れた。

それはあり得ない光景、世界でも五指に入る剣の腕と世界でも一二を争う業物が全くこれっぽっちも通用しない。

切り落とすどころか傷一つ、濃い紫の鱗一枚剥がす事もできずに終わる、そんな事があり得て良い筈がないのに確かに現実として起こっている。


 笑う事すらできない、嘆く事すらできない、何が起こったのか理解できず悪夢かなにかとしか思えない、これが喜劇なら劇作家は断筆した方が良いし悲劇ならあまりにも惨い。

 叫びたかった、怒りたかった、誰彼構わず責任を押し付けて、子供のように身勝手に暴れまわりたかった、良い大人とか、尊敬を集める学院の教師だとか、そんな物はかなぐり捨ててそうしようと、指先が動くより先に、下半身を残して竜の腹の中に収まった。


 恐怖はゆっくりとやってきた、足音を少しずつ大きくしながらゆっくりゆっくり、まるで一歩一歩を確かめるように慎重に慎重に歩みを進めて、中庭に居た生徒が教師が、窓から様子を見ていた者達が、その光景を正しく理解するほんの四半秒を楽しむかのようにゆっくりゆっくりとやってきた。

 呆然自失から戻ってきて、恐怖の吐息を耳元で受けて、その先に待っているのは我先にの逃亡劇、窓から少しでも離れようと、竜の視界から少しでも外れようと、建物の中に、木の影に、或いはその場に(うずくま)って身を潜めようと、あの暴虐の化け物から一歩でも遠ざかろうと皆が皆、全てを見ていた全員が一斉に逃げ惑う。

本来であれば現れたその瞬間に、その姿と意味を理解した瞬間に起こる筈だったソレは、今回に限ってほんの1分と少し、そんな僅かな時間だけ遅れて起こった。

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