その五
週末の最後の授業、これが終われば1日の休息日という最も弛緩に近い時間帯、何処からともなく、唐突に突然に、まるでその存在を誇示するかのように、半鐘が鳴り響く。
それ事態は珍しくもない、例えば火事が起きれば、町中に魔物が入り込めばその区画を知らせるために物見櫓や教会のそれが鳴り響く。
だが町中の鐘という鐘が、本来であれば授業の始まりと終わりを告げるためにリズムよく鳴るだけの学院の大鐘楼でさえ、デタラメに鳴り響く。
大火にしても騒々しく魔物の侵攻か、それとも何処かの国が攻めてきたのか、普通ではないと生徒と教師が気付いて、教室に居た者はせめて窓から外の様子でも確認しようと近くに居た生徒と教師が近付いたその瞬間、鐘とは比べ物にならない耳障りな甲高い音が聞こえてきた。
まるで黒板を引っ掻いたような、根元的に好ましくない音が窓ガラスを震わせる程の大音量で鳴り響く、間違いなく町中に、もしかしたら近隣の村にまで届くだろうその音の正体を町に住まう者のほぼ全員が知っていた。
その中でも実際に聞いた者は片手で足りるだろう、大半は本や吟遊詩人の詩に聞く恐怖と破滅の行進曲。
それを証明するかのように学院中庭に巨大な影が現れ、バサバサという羽音と共に屋根に腰を下ろすソレを全員が知っていた。
まるで獲物を選りごのみするかのようにキョロキョロと辺りを見回して、チロチロと舌を出して不快な鳴き声を鳴り響かせる、尾は長く、発達した後ろ足とでっぷりと肥えた下半身に貧弱な前足、下半身と相反して細くしなやかな首に頭、頭頂部の角に背中に生えた巨大な翼膜。紛れもなく、間違いなく、破壊と不条理の体現者、最強にして最恐の生物
『ドラゴン』
何処かで誰かが呻くよくに、恐れと共に、絶望と共に、その名を告げた。
だが小さい、大人のドラゴンであれば飛竜でも学院等踏み潰すくらいに大きく強大だがそこに居るのは屋根に乗って瓦を数枚砕いて屋根板を軋ませるのがやっとの子供、おそらく巣立ちして間もない若い飛竜。
ならば自分達なら、いや自分達は無理でも教師陣なら余裕で殺せると生徒達は確信していた、あのゴブリンは倒せるだろう、オークも倒せるだろう、しかしオーガには苦戦するだろう英雄でも倒せる程度の生物ならば奴より優れた技術を技を持つ自分達は、ましてやソレを教導し研ぎ澄ましている教師陣ならあの程度の若竜は容易く片付くと確信していた。
始めに動いたのは中庭で基礎魔術を学んでいた生徒と教師だった、基礎と言えどもオークくらいになら通じるしダメージにはならなくとも町の人から目線を変える牽制にはなると踏んで生徒達は各々に魔法を行使する。
教師に関しては基礎なんて生ぬるい事はしない、ソレが向いているから基礎魔術科を担当しているが本人は上級すら操る名の通った魔導師だ、生徒達とは年季が違うし使える魔法の質も段違い。