その四
それでもアルフレッド・カラスは、目の前で詐欺師と言われようと、噂をされようと、全く変わらず朝と昼一番の授業時間になれば誰も居ない教室で教壇に立ち、暇つぶしなのか本を読みながら過ごす。
給料泥棒と罵られ、剣術科の教授に嘲笑され、魔術科の教授に疎まれ、生徒から舐められ、それでもそんな事には頓着しないとでも言いたげに生徒が居るなら竜の生態について教え、居ないなら座って本を読み、それ以外の時間は他の授業を見回って戦技や魔法を学ぶ。これでは金を払ってお荷物な生徒を一人抱えているような物だと学院長に教師から生徒から理事から話が行くがその度に『王命である』その一言で封殺され、ならばと自らの家を犠牲にする覚悟で王に聞いても『必要な事』とにべもない。
そうこうして時間が過ぎ去る中で時おり、年に一度か二度、学院にやって来た騎士によってアルフレッド・カラスは何処かに行き、早ければ10日後には何処かで竜が討伐されたと聞こえてくる、そうして一月もしないうちにまた学院に戻ってきて教壇に立つ。
まるでそれしか知らないとでも言うように決められた動きを決められたタイミングで決められた手順で決められたように行うかのように淡々と日々を過ごす。
相変わらず安売り品と思われる剣を腰に帯び、古着屋で買ってきたのかと言いたくなるような着古した服を着て、覇気もなく、雰囲気もオーラもなく、授業内容を変える事も無ければ生徒を呼び込むように努力もしない、来るものは拒まず、事情も聞かずに教壇に立ち、去るものは追わず気にも止めない、それどころか生徒はもちろん同僚の教師の名前を覚えもしないし食事に誘う事もなく誘っても断る。
空いた時間は気の向くままに授業を端の方で受け、もはや空気のようにそこに居るだけの物に、居るのに居ない、そんな者に成り下がっても気にも止めずに日々を暮らす。
世界で知らぬ者等居ないとまで名の知れた英雄である筈の男は、冒険者も騎士も憧れるような英雄譚を持つ男は、どこ吹く風で日々を謳歌する。
2年が過ぎ3年が過ぎ、その間に四度は竜を討伐したと言うのにそのあり方は変わる事なく評判は最悪、もはや新入生ですら寄り付かなくなり、単位とテストの点が欲しいだけの生徒が希に受講する程度の授業となっていた。
学院お荷物、汚点、その英雄譚ですらプロパガンダか何かで名の知れた強者を用意する事ができないから平凡な男に金と地位と道具を与えただけの張り子、そんな風に言われようと教壇に立ち続ける、面の皮が厚く鉄面皮すら越える厚みと硬さはそれだけで称賛に値するなんて皮肉すら通じず、評判も評価も噂も気にしないで露骨な追い出し行為すら無視し、邪魔だから失せろと言われても気にも止めずに、教室に、運動場に、訓練場に居る、もはや愚かなのかすら解らないそんな存在になっていた。