その十三
「さてここに有るのは、普通の人、つまり俺以外にとっては鉄より切れない特性を持った素材で作った服と盾だ、これをそこにある数打ちの剣で切るには教えた事を実戦するだけでいい、ついでに言えばこれが実技試験の課題でもあるから言わば予習みたいな物だ」
「切ったり傷付けたところで弁償しろなんて言わないから安心して切りかかると良い、ただし言っておくがそこに用意した剣は別だ、一人二本くらいまでは学院も問題ないと言っているがソレ以上は使い潰せばその分だけ月末の請求書の額が跳ね上がる、と言っても見ての通り数打ちでしかもその中でも使い減りした奴を見繕ったから湯水のように使わない限りはなんとかなるだろう」
竜の素材から作られた防具、それを切ったとなればそれだけでも大騒ぎで、しかもこんな数打ちの使い減りした剣でとなるともはや伝説級の難事となるが、それをさも造作もないとアルフレッド・カラスは言外に言い、同時にお前達では不可能だと確信しているようにも見えた。
事実として用意された防具5つ、それらを使って順番に剣を振るうが、誰一人として切り落とす事はできず、ほんの少し引っ掻き傷のような物を着けるのが精一杯で、剣術を教える教師に至っては自らの愛剣を抜いて戦技を使うまでしたが意味は全くなく、人形を揺らして倒すだけとなる。
無心にさえなれば簡単に切れるというし、全員がソレを理解して無心で振っていても傷すら着かない、これならまだ堅牢な城門に切りかかる方がまだ成果も有ろうという程に全く、これっぽっちも揺るがない。
休息日を挟んで翌日、やはり午後の授業もまた同じくで、大量に用意されていた筈の剣は消えてなくなり、新たに用意された真新しい物を使っても切れる者は現れない、無心で切っている筈だと憤る者も居たし口にする者も居たが
「その心の動きすら必要ない、力を込める必要もないし刃筋剣筋を気にする必要もない、栄光も虚栄も復讐心も何もかも必要ない、それを理解する頭すらな、ただ無心で切るだけだ」
簡単だろうと言いたげに封殺して、手本とばかりに折れた剣先で服の端を切り裂いてみせる、あれほど小さいと力を込めるのは不可能に近いし刃筋も剣筋も有ったものではない、片手間に切り落とされた切れ端が目の前の男との差をこれでもかと叩き付けてきて、これほどの男を侮っていた自分達が情けなくて仕方がない。
「ああ、そうだ、大事な事を言い忘れていたな、これを切ったところで竜を相手に、あの化け物を前にして同じ事ができるかと言ったらそれは別問題だ、実際問題として、考えるのも面倒になるくらい打ち込めばこんな服擬きは誰でも切れる、だがだから竜が切れるってのは飛躍しすぎだ、アレを前にして恐怖してもダメ、自分を鼓舞して奮い立たせてもダメ、服が切れたんだからと増長してもダメ、それでもまぁ万人教えて一人切れる奴が居たなら、その一人が万人居て竜を前にして同じ事ができる奴が居たなら、それで良いと陛下はお考えだ、望むならお前たちが万分の一であることを願う」
それはプレッシャー以外の何物でもない言葉で、本当にそう願っているのか、むしろ邪魔をしているだけではないかと、残り少ない時間を必死に足掻きながら剣を振るう全員が思う。
だが、アルフレッド・カラスはそれ以上の物を背負って生きている、一度目は何もなく切った、二度目は男爵の地位を持ち、三度目は邸宅を四度目は子爵を、回数を重ねる度に背負う物は大きく重くなり、他者から向けられる目も変わってくる、その中で『もし、もう切れなくなっていたら、無心になれなかったら』そんなプレッシャーを感じて、それでもそれすら無視してこの場で教えている、先程の例で言うなら億分の一の竜を殺せる者が万人居たとして、その中のたった一人でも継続して殺し続ける事ができたならそれこそ彼をここに遣わせた国としては御の字だ。




