その十一
そんな気概なんて知ったことかとばかりに相変わらず基礎の基礎、基本の基本から初めて竜の種族と生体に10回、逃げ方隠れ方に3回、見かけた際の対処や万が一敵対視された時の正しい行動に3回、17度目の授業を迎えたその日
「えー、では今日からいよいよ竜の殺し方について教えていく」
と聞きたかった言葉が、受けたかった授業が始まった。
「まず基本のお復習だが、竜に生半可な武器なんぞ通用しない、天下の名剣もアレを前にしたらナマクラだ、とは言え武器無しだとおそらく俺でも殺せないな」
「必要となる道具は剣が二本から三本、最悪を想定して四本は居る、逆に一本だけだとどうしようもないな、理由は後で話すが品質は最悪でも良い、要は切れるなら包丁でもなんでも良い、まずは気を付ける事として飛べる奴は翼を片方で良いから切り落とせ、これで剣を一本使い潰す」
「お次は尾だ、後で話すがブレスは無視して良いが尾の一撃は洒落にならないから切り落とすと良い、地竜と水竜ならここで一本使い潰す、お次は後ろ足だがこれはどちらでも良い動きを完全に封じたいなら切り落とせばいいしそうでないならそのまま最後の仕上げ、首を落とせ」
まるで何事もないかのように、簡単だろうと言いたげに話すがそれができた人間が歴史上一人しか居ないからこの場に居るのだと、あの日あそこまでの被害が無かったのだと言いたかったが堪えて続きを待つ。
竜を殺す方法を、切るときに刃に魔力を流すのか、それとも呼吸を読むのか、刃を入れる角度か、或いはもっと特別な方法か、それが明かされるその瞬間を待つ。
「さて、いよいよ核心だが、竜を殺す方法、そしてブレスを防ぐには『無心』この一言に限る」
「例えば俺は竜を殺して伯爵になったが、鱗を切っただけでも男爵くらいにはなれるだろうさ、だけどそんな栄光を掴みたいなんて気持ちは捨てろ、例えば俺は竜を殺して女に言い寄られるようになったがそんな未来は捨てろ、恐怖も要らない、殺気も要らない、怒りも悲しみも喜びも要らない、復讐心なんざ必要ない、なにも考えず、なにも思わず、無心であれば奴らのブレスは肌を撫でるそよ風でしかないし奴らの鱗は紙っぺら一枚だ」
何を言っているのか理解できない、フザケルナと、そんなに簡単な筈がないと、心持ち一つであんな化け物が殺せる筈がないと叫んで、お前は嘘吐きだと言ってやりたかった、だが現実に純然たる事実として目の前の男は容易く竜を殺せる男で、今日という日までに数十数百は殺してきた男だ。
「例え目の前で親を食われようが、恋人が犯されようが、友人が泣きわめこうが、手前の手足が引きちぎれていようが、ひたすら無心なら、良いか、無心なら尾で殴られる、爪で引っ掻かれる、食われる乗し掛かれる以外の攻撃は全く問題ならない、唯一飛ばれたら厄介ってだけだ」
「良いか、例え無心でも矢と投げた剣による攻撃は通じない、戦技で刃筋を飛ばすか魔法以外に空を飛ばれた時の対処は不可能だ、だから絶対に飛ばすな、奴らは自分達が強いと知っているから基本的に攻撃を避けようともしないし面倒になるとその巨体で押し潰そうとする、それを理解していれば地面に居る間に翼を切れるし、飛ばれても挑発して向かってきた瞬間に攻撃を当てる事ができる」
一言を告げる毎に興奮して語気を荒らげるなんて事はないがそれでも語尾が強まるくらいには興奮していく姿は真実味に溢れ、そこには事実しか無いのだと理解してしまう、なまじ今日まで一流と学んだせいで目を見れば嘘を着いているかくらいは理解できてしまう。こんなどうしようもない事実を、こんな救いようのない結末を、こんな絶望的なお話を嘘偽りのない真実であると理解してしまう。




