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その一

 ドラゴン、世界に最たる強さを知らしめる生物の頂点して世界最大の脅威、並みいる豪傑も名工によって鍛練されたオリハルコンの剣も、人知を尽くした魔法も、果ては自然現象でさえその身にほんの僅かな傷を着ける事すら叶わず、ただ羽ばたくだけで、その吐息で、その叫び一つで堅固な砦も壮麗な都も消し去る事ができてしまう化け物の中の化け物、怪物の中の怪物。

 寿命と同族殺し以外で命が消える事がないとまで言われる程に強い、そんなドラゴンがたった一人の人間の手によって討伐された、そんな噂が飛び交ったのは10年も前の事。人々は口々に『そんな馬鹿な話が有るわけがない』と言い、世迷言の風聞にもならない戯れ言と決めつけた。

だがその一人は一頭を、いや鱗一つ傷付けただけで英雄と言われる程の化け物を幾度となく討伐し、その名を世界に轟かせる。


 曰く【竜殺し】曰く【神の御使い】曰く【英雄の中の英雄】様々な二つ名と共に世界を駆け抜け、竜を討伐した一人の男、その名を『アルフレッド・カラス』

 空を飛ぶ飛竜を、海を泳ぐ水竜を、地竜を走竜を火竜を、大小問わずに狩って狩って、ある時は町を襲った竜を、ある時は森に住まう竜を、ある時は山で、海で、国中の至るところに住まう竜を殺して殺して、他国にまで名が知れ渡る頃には100を越える竜を殺した男。

目の眩むような報奨に爵位、領地、万人が想像しうる以上の物を手にした男が王命を受けて魔術戦技学院に教員として派遣される。


 そんな噂が飛び交い、それが事実であると知れ渡ると世界中が蜂の巣を突いたように騒がしくなった。

 その武技を、知識を、姿を、一目見て学ぼうと適齢の物を学院に送り出し、卒業者は学院に戻りたいと、卒業予定の者は残りたいと懇願し、老いも若きも男も女も上からしたまで諸人かその授業を受けたいと学院を目指す。


 英雄の行う初めての授業、教室には我先にと群がった生徒が犇めき合い、座れなかった者が後ろや窓際に立っていても入りきれず声だけでも聞こうと廊下にまで列を連ねる。

 自由受講とは言えここまで集まるかと言う程に集まっている、教師としても自分も見たい聞きたい受講したいと思っているため何も言えず、とうとうその時間がやってきた。


 吟遊詩人の歌なら身の丈程の大剣を背負う大男、いや双剣を巧みに操る小男、その魔法は数多の魔術師が裸足で逃げ出すとも、魔法は一切使わないとも、数多の戦いの傷で一目と見れない醜い顔、いや一目で女を落とす美丈夫とも歌われその姿形がハッキリしない。

 現れたのは中肉中背、醜くもなく美しくもなく、腰に帯びた剣は明らかな安物で着ている服も貴族に名を連ねるというのに平民の着るような刷りきれたズボンとシャツ、鎧はおろか兜すら脚絆すら身に付けていない。

町中に、それこそ市場に混じれば意識して追わない限り数分で紛れてしまいそうな、駆け出しの冒険者と言われれば納得しそうな、そんな男であった。


 だが、ある意味で納得する、ドラゴンを切り裂くどんな名剣名刀を持っているにしても日常的に身に付ける筈もない、皮鎧ならまだしも金属鎧を普段から着ているのは勤務中の騎士くらいのものだ、成り上がり者と口汚く言う輩も居るなかで貴族然とした服装は顰蹙を買いかねないし着なれた服の方が動きやすい。

 それらを防ぐ意味でもその風体は完璧ではないし憧れるような物ではないが納得はできた。

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