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ユウタとカナエのクロニクル  作者: 燈夜
第一章 夢に向かって
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夢と共に

 ユウタとカナエは十五歳になった。その前の年、村は豪雪の上に凶作だった。二人は口減らしのため、村を出ることにする。


 ──これが表向きの理由だ。


 ユウタには別の思惑がある。(みやこ)に行き剣の腕で皆を認めさせ、名声を得る。自分なら……ユウタとカナエの二人ならできるとの確信があった。都には色々な人々が居るだろう。ユウタ達よりも強い人材が多く居るかもしれない。だが、ユウタにはそれに埋もれない自信がある。かつての自分、勇太には無かったもの。それがこの自信だ。そして何よりもユウタを影から表から支えてくれるカナエの存在。

 この二つが今のユウタにはある。ユウタには今、自分が何でもできる超人だと思えていた。だから、ユウタは志願した。村長に直談判したのだ。


「俺達が都で金を稼いで来る、この貧乏な村を救ってみせる」、と。


 ユウタは思う。どうせ一度は失った命。今度こそ俺は成功して見せるんだ。この気概が今のユウタには存在していた。


 ユウタがカナエにこの話を切り出そうと考えを巡らせた時、ユウタは正直不安に駆られている。

 ──断られるかもしれない。カナエが、もしもユウタの話に聞く耳を持たなかったら? 大反対したならば? ユウタは思考停止する。それ以上のことは考えたくも無い。やっと掴んだ幸せが逃げて行く。そんな事はもう沢山だ。

 何度も何度も繰り返される思いがユウタの頭を過ぎって行く。ユウタは考えに考える。結局ユウタは三日三晩眠れなかった。

 だがついに彼は決める。そして言った。ユウタはカナエを広場で見つけると、目の前で直球勝負にかける。ユウタは自身の熱い思いのたけをカナエにそのままぶつけていた。


 時は朝。天気は快晴。場所は村の中央広場だ。まだ人通りも少ない中央広場。そんな早朝から挨拶代わりにユウタはカナエにぶち上げる。


「カナエ、村を出よう。このままじゃこの村はやって行けない。若い俺達が稼ぐんだ。首都で革命軍に入る。そして出世してお金を稼いで村に送ろう!」


 そのときのカナエの驚きようと来たらない。ユウタの一言はカナエにとって、きっと物凄い衝撃だったのであろう。ユウタをまじまじと凝視するカナエ。「おはよう、ユウタ」と言いかけたカナエは文字通り固まった。目をまん丸と開け、顔を白くし、そして仕舞いには俯き加減に赤くなっている。


「カナエも知ってるだろ? 腐った貴族のせいで俺達は重税に苦しんで来た。でも、革命軍が勝った。だけどまだこの国には王国の残党が居る。今も国内各地で反抗の狼煙を上げ続けているんだ」

「ちょっと待ってユウタ。何をいきなり。それに私、話が難しすぎて判らない」


 いきなり朝も早くから熱弁をふるい始めたユウタを前に、カナエは困っている様子だ。その証拠に、目が伏目がちになっている。ユウタにもカナエのその様子は判っていた。だが、ユウタの説得は続く。


「軍に入るんだ」

「軍!?」


 カナエはユウタの言葉に明らかに驚いている。


「革命の火を消しちゃいけない。俺達も立ち上がるんだ。……俺達は特別だ。判るだろう?」

「もう、朝一番から何。ユウタが言っているのは戦争? そんなの、危ない……」


 ユウタにしてみれば危ないのは百も承知だ。だって戦争なんだ。そんなの危ないに決まっている。軍に入る。それはすなわち命のやり取りをするという事なのだから。カナエはただ、それを端的に指摘したに過ぎない。


「うん。危ない」

「え?」


 カナエの目が再び見開かれる。黒い瞳孔が濡れていた。カナエはユウタの割り切りに面食らう。驚きに驚きを重ねている。ユウタの正気を疑う目だった。


「いくら他の人とは違う力を持っているとは言ったって、俺一人じゃ正直危なっかしい。だからカナエ、俺にはお前の助けが必要なんだ。俺はお前に手伝って欲しい。俺もお前も特別だ」

「特別なのは……判る。判る……けど……」


 ユウタは思う。神童と呼ばれ、元傭兵の小父さんや衛視の小父さんよりも今では遥かに腕の立つ自分達二人。ユウタ達二人には日々山歩きをする猟師などには負けない体力と持久力がある。いや、常人とは比べることすらおこがましい程の超人的な能力をユウタとカナエは持っている。

 だけど同時にユウタには、カナエがそれに納得がいかないのも判っていた。話があまりにも現実離れしていると自分でも思うからだ。だけど、ユウタはこのままこの村で一生暮らすのは真っ平だった。今のユウタには、かつての勇太なら考えも及ばないような夢がある。もっと自分にはできる事があると、心の底から思えるのだ。そのためにはどうしてもカナエの力が必要だった。カナエの協力は欠かせない。少なくともユウタはそう考える。


「無茶はしない。二人でお金を稼ごう? それには軍に志願するのが一番なんだ。二人の力で村を豊かにしよう? そうしたら、村の皆が笑って暮らせるようになる。皆がお腹を空かせて寒さに震え、家族で身を寄せ合って寒さに耐えるような事も少なくなるんだ」

「ユウタ……」


 ユウタにしてみれば本心だ。こんな辺鄙な村に未来は無い。だから自分たちがこの村に未来を作る。それが一番なのだと。カナエが心配するのはわかる。だが、だからこそユウタはそれこそカナエに判って欲しかった。だからなおもユウタは言葉を重ねる。


「だから頼むよカナエ。俺はカナエ、お前に手伝って欲しいんだ」

「ユウタ」


 だが、カナエのユウタの名を呼ぶ声は硬い。


「……ダメ、か?」

「私は……嫌」


 カナエは言った。はっきりとユウタに告げる。こわばり、今にも泣きそうな表情で。ユウタはそんなカナエの顔を見たくはなかった。だから三日三晩も迷ったのだ。……だが、その結果がこれだ。皮肉といえよう。ユウタはさっと目を伏せる。ユウタは自分の心の内をカナエに見られたくはなかった。


「そっか」


 ユウタは感想を一言で決した。吐き捨てた言葉の後、ユウタの顔が見る見る曇る。目を伏せていたとしても、それがカナエにどう思われるのか判っていたはずなのに。

 だが落ち込む一方でユウタは思う。それはそれで仕方ない事かも知れない。カナエにはカナエの人生があるのだ。カナエは前世の記憶を持っていない。だから今のカナエにとって、カナエ自身の人生は一度きり。死んだら終わりの死生観しか持っていない。当然といえば当然の反応なんだ。

 ユウタもカナエもそれきり動かない。何も言葉を発しない。

 静寂は永遠に続くかと思われた。


 ──しかし、突然ユウタは動く。

 ユウタは決める。ユウタには諦めきれないものがあるのだ。世界の壁を越えても忘れられない慟哭、怒り、絶望。ユウタはもう、そんな蔑まれるばかりの人生は真っ平だった。かといってこのまま村に残り、神童と崇め奉られてお山の大将でも終わりたくもない。ユウタはもっと多くの人に認められたいと思う。自分の価値を知って欲しい。ユウタは勇気ある者、太く生きる者になりたかった。

 そうとも。今のユウタには無限の可能性があるのだから。

 だからユウタは心の涙を拭きながら、カナエに告げる。それは微かに震える決意した男の声そのものだ。


「俺、それでも行くよ? 都へ」

「ユウタ……」


 ユウタは見る。カナエの顔が蒼白になるのを。きっとカナエはユウタの思いが本物である事に思い至ったのだ。だから今もカナエの両の目尻からは涙が溢れ流れて零れ落ちているのだろう。


「だからカナエ、もし俺が……もし俺がこの村に戻って来れなくても……泣くなよ?」


 既にカナエは泣き出しているのに、俺は何を言っているのだろうとユウタは思う。それでもユウタは臭い台詞を吐き続ける。カナエとはせっかく一緒にこの世界へ転生を果たした。それ故に憧れが憧れのまま終わる事を残念に思う心もある。この世界で生きた、これまでのカナエのユウタに対する態度を見ればユウタにとってこの思いは決して自惚れでも何でもないはずだ。仲の良い幼馴染以上の絆。その別れに相応しい言葉だったと思う。


 ──だが、無常にも結果は出る。

 カナエは別れを選んだのだ。ユウタとの決別を。

 ユウタが身を翻す。そう。もうユウタは泣かない。心の中でも泣かない。

 

 ──ユウタはそう決めた。それは、そんな時だった。


「ユウタ!」


 ユウタはカナエの叫びを聞く。同時にカナエに腕を掴まれた。それは凄い力だ。ユウタは掴まれた腕に痛みを覚え顔を顰める。


「何だよカナエ」

「ううん。止めてもユウタは行くんでしょ? だったら、私がユウタの事を守る!」


 カナエは泣いている。滂沱と涙を流しつつ、それでも掴んだ腕を離さない。


「……カナエ? 考え直してくれたのか?」


 ユウタの心に希望の息吹が火を灯す。


「私の考えは変わらない。危険な事はしたくない。だけど、ユウタが私を必要だって言ってくれたから……大事だと思ってくれているから……」


 カナエの声が細くなる。カナエの腕の力が抜けた。カナエはユウタの腕から手を離す。


「俺がカナエを守るよ! 約束する!」

「ユウタ……」


 ユウタの笑みに、カナエは泣き笑いで応える。


「カナエ、ありがとう!」

「仕方ないよ」


 カナエは笑う。笑って見せている。カナエにとってはいつもの事なのだろう。カナエは嫌と言うほど知っているのだ。幼馴染として過ごしてきた今までの時間。ユウタの無茶は今に始まった事ではないのだから。それを察せ無いユウタではない。


「ごめん」

「もう。『ごめん』だなんて言わないでユウタ。仕方ないから。本当に仕方ないからなんだよ? 良い? ユウタ。私が危ないときは本当にユウタが私の事を守ってくれる?」


 頭を下げ、これ以上ない感謝の意を示すユウタにカナエは頬を赤く染めつつも本心を吐露する。おそらく無意識のなせる業だったのだろう。

 とはいえ、そんなカナエの心の機微に肝心のユウタが気付いたかどうか。それは判らない。


「もちろん! もちろんそうするさカナエ!!」


 ユウタは強く断言する。

 カナエは泣く。そして笑う。


 今日は晴れ。二人が旅立ちを決めた日。


 ──ユウタの野望が始まる。

 その一歩が今、この戦乱からはまだ遠い大地に刻まれようとしていた。

 

つたない点、至らぬ点など色々あると思います。構わずご指摘下さい。反応があると作者が喜びます。

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