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ユウタとカナエのクロニクル  作者: 燈夜
第六章 仲間
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伯爵と共に

「ユウタ……髪も、目も青い」


 赤い目、赤い髪の少女カナエ。カナエから言われて始めて気付く。ユウタは自分の体を見る。皮膚に変な文様が浮き出ていた。それはカナエの体に浮き出た文様と酷似している。


「カナエ。お前の目、髪……赤い」

「"石"の、色だね」

「ああ」


 確かに"石"の力だ。

 そしてそれは、『剣』が教えてくれた知識。


 棺から足を踏み出した伯爵を前に、ユウタたちは自分達の状態を確認しあう。

 ユウタは不思議と恐怖が湧いて来ない。

 人間は限界を超えた恐怖の前では感情が暴走するのだろうか。それとも麻痺?

 ユウタには良くわからない。


「かかって来い。小僧ども。我こそは『古代の遺産』の正当な後継者。お前達を倒す。そして我が寵臣スクアーへの手向けとし、王国を我が物とするとしよう」

「あなたは仲間を見捨て、多くの人を殺した」

「王国なんて既に無い! それに『古代の遺産』……過去の遺物!!」


『あれは危険だぞ。我を使え』


 ユウタの脳裏に『声』が響く。


 ──信じよう。『剣』を。

 謎の力。謎の声。でも、この『剣』はユウタ達に力を与えてくれた。


「カナエ。守りは任せた。俺が攻撃する」

「判ったユウタ。ユウタは私が守る」


 動きから判る。伯爵はまた右一閃。但し、今度はこちら側を舐めてない。

 伯爵が踏み出す。

 ユウタは先じて避ける。伯爵の右手が頭上を掠めた。

 カナエが槍を繰り出す。伯爵が受ける。


 伯爵はカナエに二突き。足払い。裏拳……。

 カナエは下がる。跳ぶ。大きく後ろに跳躍する。


「大丈夫かカナエ! 俺が相手だ!!」


 ユウタは上段に剣を振りかぶる。


「小僧……!」


 伯爵は両手で顔をガード……ならば!

 ユウタは力技で胴を薙ぎに剣を持ってゆく。

 舞う血飛沫。だが浅い。

 狙いが僅かに逸れたのだ。


「甘い!」


 来る。ユウタは直感する。首を薙ぎに来る。左手。そして胸へ右手!


「ユウタ!」


 カナエの槍が伯爵の左手を防ぐ。続いた伯爵の右手をユウタは脇に抱えた。

 ユウタの剣が走る。


 肩口に一撃。

 だが、これも浅い。


「貴様ら小僧ども。調子に乗ってくれる……!」


 赤い魔素が伯爵の体を再び覆う。

 するといかなる事か、伯爵の体に付いた傷が塞がってゆく。

 その速度は先ほどの数倍だ。

 拙い。

 時間をかければ掛けるほどに、目の前の化け物は力を強くする?


「そんな!」

「ユウタ……」


 ユウタは探す。頭の中を、周囲を必死に探す。

 何か良いアイデアは?

 どうすると倒せる。どうするとみんなの仇が討てる?


 今までの『遺産』にはすべて核があった。ならば、伯爵を名乗る目の前の化け物にもそれがあるに違いない。

 体に埋め込んでいるのか? 

 それとも、別のどこかに……。


『そうだ。良く気付いた。核を探せ。急げ。奴が完全体になる前に』


 言われなくても判ってる。

 ユウタは右に左に伯爵の攻撃を防ぎながら必死に考える。


 伯爵の拳に殴られ、頭がふらふらする。

 だが、ここで倒れるわけにはいかない。

 みんな死んでしまった。

 ザンナ。ヴォルペ。そしてアークィ。

 このままだとユウタ達も、何よりカナエが死ぬ。


 ──そんな事は許さない。

 認められないんだ!


 そこだ、どこだ、どこだ。

 伯爵の体のどこを切っても体は赤い霧で元に戻る。

 いつまでたってもきりが無い。


 広間は今も『棺』から漏れ出る赤い飛沫、濃密な魔素で覆われている。

 『棺』から漏れ出る……『棺』!?


「カナエ、『棺』だ!」

「『棺』!?」


 カナエが聞き返す。


「『棺』!?」

「そうだ、赤い霧の出ている『棺』を壊すんだ!」

「判った!」


 カナエが走る。


「どこへ行く、小娘」

「もちろんあなたを滅ぼすため!」

「させるわけが無いだろう」


 だが伯爵に防がれる。カナエは転んだ。

 そしてそのまま足首を捕まれ、壁に叩きつけられる。


「ぐっ……!」


 カナエが呻く。

 伯爵の動きは恐ろしく早い。そして棺から離す様にオレ達に攻撃を繰り出してくる。


『棺』だ。絶対に『棺』が怪しい。


 だが、ユウタ達の目の前に立ちふさがる壁、伯爵は余りにも強大だ。

 埒が明かない……。


「諦めろ」

「嫌よ!」

「そうとも!」


 カナエは槍で受ける。伯爵の手刀を受ける、蹴りを逸らす。

 脇にユウタが出ようとすると、そこに伯爵の蹴りが、手刀が飛んでくる。

 読めない……いや、読みが追いつかない!?

 伯爵……この怪物、動きが早くなっている!

 これが『完全体』という奴なのだろうか。

 ユウタ達の手に負えない化け物に近づいている!?

 ユウタは思う。

 自分にアークィの大胆さがあったなら。

 自分にヴォルベの勇敢さがあったなら。

 自分にザンナの俊敏さがあったなら。


 ユウタは思うのだ。

 どうして俺とカナエなのだろう。

 どうして俺とカナエが"石"に選ばれた?


 ──だけど、彼らはもういない。


 そしてユウタ達は壁まで追い詰められる。


「どうした、後が無いぞ?」


 『棺』は部屋の奥。そして今、ユウタ達は壁際。

 絶望の帳が落ちる。


 何か、何か手はないのか──。


「無駄な足掻きだったな。"石"などと言っていたか? たいした技能タレントじゃないか。髪や目の色まで変えて。皮膚に刺青まで彫って。そんな姿でこれからどう生きる。生きていけまい? ならばここで殺してやろう。貴様らは我の王国には必要ない」


 ユウタの頭に血が上る。


「黙れ! この"石"はカナエの大切な"石"だ! 俺とカナエとの大切な絆だ!!」

「では、その大切な絆を抱えて死ね!」


 伯爵の周りに赤い霧が舞う。伯爵の傷をまた消し去る。


『そうだ。絆を信じろ』

「絆!?」


 そうだ。

 諦めちゃだめだ。

 カナエを信じよう。


「カナエ、俺達の絆を信じよう!」

「絆……ユウタ!」

「二人でこいつを倒すんだ! オレが隙を作る、だからその隙に──」


 カナエの目に光が戻る。

 カナエが槍を振るう。赤い血が飛び散るが、伯爵の傷は見る見る塞がる。

 ユウタが剣を振るう。だが、それもカナエのときと結果は一緒だった。


「たいした作戦だ」


 ユウタは『剣』を信じて振りかぶる。

 カナエを信じて大きく振りかぶる。


「はははははは! 言うな小僧! 文字通り隙だらけだぞ!? 褒めてやろう! 望みどおり死ね!!」


 伯爵の拳がユウタの腹を目掛けて振り下ろされる。


「オレはカナエを信じる! カナエとの絆を!!」


 ユウタが伯爵の頭目掛けて剣を振り下ろす。

 伯爵の拳は明らかにユウタの腹を抉るだろう。


「ユウタ!」


 だが、決死の覚悟で涙目のカナエが『棺』に向けて駆け出そうとする──。


 そんなときだ。

 ユウタは耳を疑った。


「そうね、あたしも絆を抱えて死ぬわ……」


 ──それは、聞き覚えのある声。


「え?」

「何!?」


 瞬間、広間が白い閃光に包まれる。

 膨大な光の奔流が赤く煙る『棺』を融かしてゆく。そして、轟音と共に白い光が全てを覆う。

 ユウタはその中に見慣れた青い髪の少女を見た気がした。


「ぐぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ユウタが頭をかち割ったためではない。腹を抉られたはずのユウタの絶叫でもなかった。

 獣の咆哮が目の前で聞こえる。

 白い閃光は赤い霧を広間ごと全て吹き飛ばす。

 伯爵は筋肉と脂肪を剥き出しにしにされていた。再び見る化け物の姿。

 雨が皆を打ち付ける。激しい雷鳴が轟く。


「カナエ!」

「ユウタ!!」


 ユウタは今一度大上段に振りかぶる。カナエは左側面から薙ぎにかかる。

 雷光が光った。


「Groooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!」


 バリバリという雷鳴と共に、再び轟く獣の咆哮。

 ユウタとカナエの斬撃は、不死の化け物を四つに引き裂いた。

 そして稲妻が四つに分かれた化け物の体に降り注ぐ。

 焼ける肉の臭い。

 そしてそれは、粗く肩で息をし呆然とそれを見詰めるユウタとカナエの目の前でドロドロと融けてゆく。

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