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ユウタとカナエのクロニクル  作者: 燈夜
第六章 仲間
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輝きと共に

 スクアー。王国四騎士の一人の剣がついにザンナの肩口を捕らえる。朱が舞った。

 どくどくと血が流れ出る。ザンナにはわかる。深手だ。


「死ね、死ね、死ねぇ! よくも閣下を!!」


 執拗な追撃にかわす脚もふらつく。だが、何とか踏みとどまる。

 しかし終にザンナは顔を顰め、疎なまま蹲る。

 ザンナはせめて最後の一撃をと拳に力を込めた。

 紫電を腕に纏わり付かせる。そしてスクアーの一撃を待つ。決定的なチャンスを。


「ザンナ!」

「小僧!」


 ザンナへの勝利を確信したスクアーがユウタに反応する。

 隙。

 だが、ザンナは急激に力が自分から抜け出ていくのを感じる。

 まだだ、まだ。もっと決定的な隙を……。


 しかしユウタはザンナへ駆け寄ろうとし、動かない自分に気付く。


「ぇ?」


 ユウタは見る。首のない裸の男が、ユウタの足首を掴んでいるのだ。

 赤い霧が密度を増す。


「お、俺の足が!!」

「ユウタ!」


 ザンナの助けにはいろうとしたヴォルペだったが、ユウタを掴む腕を見て目標を変える。

 ヴォルペがその不気味な腕を切り飛ばす。赤い筋肉を剥き出しにした腕は千切れ跳んだ。


 ユウタは刺す、狂ったように刺す!

 男の体を、首無し男の体を。

 贅肉など無く、見事に引き締まり、均整の取れた体を。ユウタの剣は見事な仕立ての服を破り、赤い血を噴出させ、爆ぜる肉に食い込み、切り裂き……骨を断ち、金の髪も麗しい美男の首を刎ね……って……。


 ユウタの剣は貴族の礼装に身を包んだ男の胸に食い込んでいる。カナエの槍は男の腹に。駆け寄って来たヴォルペの剣は男の左右の肩口に。


「伯爵閣下! ペステ伯爵閣下!!」


 ザンナは待つのを止めている。

 このままではいけない。気を失う。気を失っては終わりだ。

 そう、この一瞬に掛ける!

 目の前に隙を見せるスクアーがいるのだ。

 だが、渾身の力を込めて繰り出したザンナの一撃は余りに弱々しいもの。

 ザンナの爪を振り払いスクアーが上げるのは歓喜の声だ。

 ザンナは己の腕が払われたことすら気づかなかった。


「見事だスクアー。我が寵臣よ」

「勿体無きお言葉!」


 スクアーが伯爵の美声に涙を流す。

 そしてザンナの胸に黒いサーベルを突き降ろす。

 ザンナは口から大量の赤い血を吐き、そのまま崩れ落ちる。


「ザンナぁ!」


 ザンナの目に少年少女の姿が焼きついた。

 ユウタは声を上げる。だが、ザンナは動けない。

 いや。……ザンナはもう動かない。


「ば、化け物……!」


 ヴォルペが剣を振り抜く。

 そして伯爵の首目掛けて剣を薙ぐ!


 一閃。


 伯爵の右手が一閃した。

 ヴォルペの双剣は見事に伯爵の首を捕らえて首筋に食い込み、そしてそこで止まっている。

 剣を振りぬこうとするヴォルペ。

 ヴォルペの筋肉が震える。


 だが、首は落ちた。

 切り口から鮮血が吹き上がる。

 

 ──誰の?

 

 ……ヴォルペの。

 

「ヴォルペ!」


 ヴォルペの剣が転がり落ち、そのヴォルペの体は広間に力なく倒れ伏す。遅れて首が転がった。


「あ、あ……」


 カナエが引き抜いた槍を手に、一歩二歩と下がる。

 絶望と共に下がり行く。

 目の前にいるのは間違いなく化け物だ。

 かつての肥え太った伯爵の姿はどこにも無い。

 いるのは部屋中を覆うこの赤い霧に相応しい吸血鬼めいた化け物。

 ユウタは余りの事に声も出なかった。


「どうした。もう終わりか?」


 伯爵が笑う。いや、伯爵だった何かが。


「伯爵閣下! ここは私に!」

「いや、この体の能力を試したい」

「は!」


 剣を収めるスクアー。その足元にはザンナの動かぬ体があった。


「嫌ァああああああああああああああああああああああ!!」


カナエの金切り声。耳を押さえ、目の前の現実から目を背け、混乱しきっているようだ。


 ──どうする? 

 どうする!?

 ユウタは焦る。焦るが良い知恵は浮かばない。


『"石"を呑め』


!!


 ユウタが伯爵と目が合うのと、脳裏に閃いたその『声』に従いユウタが実行したのは同時だった。

 迷いはない。迷っている暇などない。


 一閃。ヴォルペのときと同じだ。

 そう、同じ。

 "石"を飲み込んだ瞬間、ユウタの鼓動がはねる。

 視界が一瞬、朱に染まる。

 鮮血が迸った。


 ユウタは……首と体は繋がっている。カナエから預かった青い石を守り袋ごと呑み込み、剣を真っ直ぐに構えていた。


 ──だから当然……。


「バカな!」

「伯爵閣下!」


 麗しき伯爵の声だった。

 見れば、伯爵の右手が落ちている。


「き、貴様……その剣か……? いや違う! 貴様が、そもそも貴様か!!」

「カナエ! "石"を呑め! 飲み込むんだ!! 俺が渡した赤い"石"!」

「え? ぁ、うん!」


 カナエが赤い石を取り出し、飲み込むのを見る。

 瞬間、カナエの体がビクンと撥ねる。


「"石"、だと……? 何だそれは!」


 カナエの目が、髪が、赤に染まる。呪言のような文様が皮膚に浮かび上がる。

 カナエの姿が変わってゆく。赤く、赤く変わってゆく──。


「みんなの仇!」


 カナエが繰り出した白い槍。伯爵は跳び退って避ける。それが振るわれるたびに赤い霧、魔素が揺らぐ。そして薄れてゆく。

 そしてカナエの槍は真っ直ぐに伯爵の胸を貫く!


 ──いや、貫こうとした。


「伯爵閣下!」


 割り混んだのはスクアーだ。伯爵とカナエの間に身を挟み、自らの胸を貫かれている。槍の柄を握り、カナエの動きを止めている。


「小娘ぇ!」


 スクアーが吼える。

 カナエが飛びのく。赤い髪が揺れる。輝く赤い瞳が尾を引いた。


 すらりとサーベルを抜刀したスクアーの連撃。三つ。予想される軌跡は右、左、中央だ。そして突進し足払い。

 カナエはかわす。ひらりとかわす。

 右、左。そして中央。で、跳んだ。

 カナエは舞う。宙に舞う。今までとは比較にならないほど早く。鋭く。……そして美しく。


「なっ!?」

「これで決める!」


 余裕を無くしたスクアーの上方から肩口に一撃。鮮血が舞った。

 カナエが床に降り立つ。


「ば、バカな、この私が……この私が、貴様如きに……!」


 スクアーは膝をつき、歯を食いしばる。口の端から鮮血が垂れている。


「これで済むと思うなよ!?」

「思ってない!」


 容赦ないカナエの追撃。スクアーの剣は力強さを失っていない。黒く霧を纏った右からの一閃。カナエの槍は払われる。


「死ぬのはお前だ小娘!」

「まだ死ねない!」


 スクアーの剣がカナエの首筋を這う。

 だが、それは今のカナエにとって余りに遅い一撃でしかない。

 裂ける皮一枚。

 カナエは身を滑らせるとそれを避け、今度こそスクアーに致命的な一撃を叩き込む。

 赤い軌跡を描き、カナエの槍はスクアーの胸に吸い込まれる。

 スクアーは再度、胸を槍に貫かれていた。


「がっ……」

 

 カナエが槍を引き抜く。


「みんなの、仇!」


 カナエは止めとばかりにスクアーに槍を振るった。

 赤い軌跡。


「バカ……な……」


スクアーはどさりと床に伏す。


「くふふ、ふはは!」


 伯爵は笑う。今、たった今寵臣と呼んだ相手の死を目の前に。


「中々やるではないか小娘」

「あなた、その手……」


 シュウシュウと煙を上げている右手。ユウタが切り飛ばしたはずの右手だ。

 右手が再生している。いや、すべての傷が再生しているのだ。


「これか? 便利なものだろう。これが『遺産』だよ。真実のな!」

「なっ!?」

「武具だの道具だの、そんなものなど何の価値も無い。『古代の遺産』。不老不死、加えて不死身だ……だが、そこの小僧は我を傷つける事ができるようだが……それもどこまで持つかな? さぁ、絶望を知れ、小僧ども!」


 伯爵は高らかに笑う。

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