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ユウタとカナエのクロニクル  作者: 燈夜
第六章 仲間
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石と共に

 都の有様は惨憺たるものだった。まるで革命時の戦乱が舞い戻ってきたかのよう。

 やっと復興しつつあった街並みが、またも焼け崩れていたのだ。

 そして昇る煙は遺体を焼く煙。

 所々に残る染みは赤黒い血の跡。

 全て、王党派の残した傷痕だ。


 ◇


  探した。見つけてみれば、兵舎の庭でカナエが白い槍を振っている。

 振り、突き、払い、薙ぐ。その繰り返し。

 カナエの細い体が舞う。黒い髪が舞う。

 カナエの体から汗が飛び散る。

 春も終わり、夏が近づこうとしていた。


「カナエ!」


 ユウタはカナエを呼ぶ。

 汗を見せつつカナエが振り向く。


「ユウタ」


 手拭で汗を拭きつつ、カナエが優しく名を呼ぶ。


「こんなところに居たんだ? 探したよ」

「ごめんなさい。少しでも強くなりたいと思って」

「そっか」


 カナエの目は真剣だった。槍を手に入れた。カナエは少しでもそれを早く使いこなしたいのだろう。だが、ユウタもそれは同じだ。ユウタも剣を手に入れた。時々語りかけてくる不思議な魔剣。ユウタの今の相棒だ。


「それよりユウタ。ヴォルペさんは大丈夫なの? あれから熱を出したって聞いたけれど……」


 ヴォルペは白い槍の騎士、コルノとの戦いで重傷を負った。傷は本人が言っていたよりも遥かに深く、あれから気を失ってくれたときには驚いた。殺しても死なないと思っていたヴォルペがああもやられるなんて。

 そんあヴォルペをそこまで追い込んだコルノ。コルノの仕えるスクアー。その強さが半端ではない事をユウタは身を持って知っている。ザンナと一緒に行動したときにスクアーと出会った時は多くの幸運が味方をしてくれた。だが、次は? スクアーを倒すことはユウタの目標ではある。だが、スクアーのあの強さ。冗談抜きで強すぎる。とても相手にしていられない。スクアーを倒したいのは山々だが、なにせ相手の次元が違うのだ。

 ……それを考えると、おちおち夜も眠れない。ユウタは自分の手で倒したい。だが、とても技量が追いつかない。

 ユウタもカナエと同じだ。

 自分の無力を痛感している。


「そうなんだ。でも大丈夫だよ。アークィが見てる」

「アークィさん、付きっ切りなんでしょ? 酷い怪我だったし」


 アークィは文句をたらたら流しつつも、甲斐甲斐しく看病をしている。ああ見えて結構世話好きなのかもしれない。


「まぁね。ヴォルペ、散々やられてたから」

「全身を刻まれていたものね」


 思い出したくもない、血塗れのあの戦場。煙と魔素と、血と肉が焦げる臭いの充満するあの戦場だ。


「ねぇユウタ、まだあんな戦いが続くのかな」

「そうだね、たぶん」


 戦場を思う。賞金目当てで軍に憧れ村を飛び出した頃の自分達がやけに眩しく思える。実際の戦場は自分達の思い描いていたものとは随分と違っていたから。


「ユウタ、これ、持ってて?」


 カナエはそう言うと、自分の首に下げている守り袋をユウタに渡す。


「これお前、お前の青い石……」


 それはカナエが生まれたときに手に握り締めていたと言ういわく付きの宝石。


「そう。私のお守り。ユウタが持ってて? だってユウタ、いつも危なっかしいんだもん」

「そうかな」

「そうよ」


 ユウタは鼎から青い石の入ったお守り袋を受け取る。そして、ユウタにも一つ閃く事があった。


「カナエ、俺からもお前に渡すものがあるんだ」

「え?」


 ユウタは自分が首から提げているお守り袋を外すと、カナエに握らせる。


「ユウタ、これ……」

「そう。赤い石さ。お前が持ってろよ。カナエこそ見ていて危なっかしいし」

「もう!」

「おあいこだろ?」

「そうね」


 お互いにお守り袋を交換する。カナエの青い石とユウタの赤い石。ユウタは青い石を、カナエは赤い石をそれぞれの手に広げてみせる。

 赤と青。それは深く静かに煌いている。


「これって一体なんなんだろうな?」

「どうなんでしょうね。私たちが生まれたときに握っていた石って聞いたわ」

「俺もだ」

「何か意味があるのだとは思うけど……」


 意味はあるのだろう。ユウタとカナエがほぼ同時にこの世界に生れ落ちた。そして赤子の二人ともが石を握って生まれて来た。……何の意味もないわけがない。


「俺には難しい事、判らないや」

「私も。うふふ。でもユウタは私の知らないこと、沢山知ってるんでしょ? そう……『前世』」


『前世』の知識。何か役に立てようと頑張った時期も子供の頃にはあったけれども、今となってはただの思い出。あれこそ幻ではなかったのかと言う思い。複雑だ。


「あはは! そうだな。『前世』か。ちっとも役に立たない知識だけどな!」


 ユウタは正直に笑い飛ばしてみせる。


「そんな事ないよ。だってユウタ、時々私の知らない言葉使うもん。ザンナ隊長達だって不思議がってた」

「あ……俺、そんな事を言っちゃってた?」


 そんな事があったのだろうか。ユウタは思う。


「気付いてなかったの?」

「全然」


 あったらしい。ユウタが自分で気付いていないだけなのだ。


「ユウタらしいわね」

「悪かったな」

「あはは」


 ユウタは青い石を守り袋に仕舞い、自分の首にかける。


「じゃあ、借りておくからな」


 ユウタはカナエに礼を言う。


「うん。ユウタ、私もユウタの石、借りておくね?」

「ああ!」


 カナエもユウタの守り袋を自分の首にかけた。守り袋、石の交換。

 何も不思議な事など起こりはしない、ユウタとカナエだけの知る秘密の儀式。

 ただ、二人の心だけが温まるやり取りだった。

16/09/11 度忘れしていた都の現状を追記。

16/09/18 スクアーについて記述追加

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