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ユウタとカナエのクロニクル  作者: 燈夜
第五章 陰謀
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影と共に

 都。兵舎の一角、遊撃隊の本部にてザンナが皆へ新たな作戦の説明をしている。都に戻ったユウタ達を待っていたのは新たなる任務だった。


「諜報員からの話でペステ伯爵の所在が掴めた。あたいらはそこを急襲する。狙うはペステ伯爵の首だ」


 ぺステ伯爵。確かあのスクアーという女騎士が口にしていた名だ。


「伯爵?」

「ペステ伯爵。北部辺境の王党派の首魁と目される人物だ。領民をいたぶり、血税と生き血を啜って私服を肥やす悪党中の悪党だ。ああ、ちなみに顔も悪党面をしているんで直ぐわかると思うぜ?」


 ザンナの代わりにユウタの問いに答えたのはヴォルペだ。かつて、そのスクアーとは同じ王国四騎士として同僚だったという。


「悪党なのか!?」


 とんでもない悪党だなと、ユウタは思う。こうして淡々と聞かされるだけでも、伯爵への怒りがふつふつと湧いて来る。


「そうだ。必ず息の根を止めろ」


 ザンナの冷たい視線がユウタの視線に被る。


「判った」


 頷くユウタ。

 鼓動。ユウタの胸でそれが疼く。カナエがユウタの袖を引いている。ユウタはそれに気付かない。


「この峡谷に王党派の巣食う振るい古城がある。伯爵は今、ここに逗留しているらしい」


 ザンナは地図を広げる。峡谷の崖上にある堅牢な要塞だ。


「物見遊山ですかい? このご時勢に」


 ヴォルペはあくまでおどけてみせる。


「さぁな。ただ、例の騎士共を連れているらしい。彼らはどうも、元々ペステ伯爵の息のかかった者達だったらしいな」

「スクアーか」


 王国四騎士の一角、スクアー。その生き残り。黒き剣を持ち、恐るべき手練。彼女は──強かった。


「あたいらは少人数で繰り出す。少数精鋭……判っているとは思うが、時間が肝となる」


 ザンナの声は相変わらず心強い。


「伯爵に撤退の隙を与えるな。兵は迅速を尊ぶ。アークィは城の外で万が一に備えろ。残りの者は潜入だ」

「判ったわ。城を出る者は一人の残らず狙撃して良いのね?」

「ああ。構わん。カナエを護衛につける」


 カナエとは別行動……一瞬ユウタの頭に不安が過ぎるが、それも一瞬の事だ。重大な任務。敵の首魁、ペステ伯爵を討つんだ!


「良いな、カナエ?」

「はい」


 カナエは静かに頷いた。


「アークィもそれで良いな?」

「問題ないわ」


 聞くまでもない、といった態度のアークィ。いつも通り、ちょっと拗ねているようにも見える掴みどころのない彼女だ。


「しかし、この城は厄介だ。どうしても行くんですかい、隊長?」


 地図を眺めながらヴォルペはまだ思案している。


「厄介だからこそあたいら遊撃隊に仕事が回って来た。怖気付いたかヴォルペ?」


 ザンナの目は鋭い。


「いえいえ。滅相もない」

「ならば直ぐにも出立する。各員、準備は出来ているな!?」


 ザンナの号令は降る。

 もちろんだ。ユウタにはとっくにその準備は出来ている。






 ザンナを先頭にユウタ達は馬を並べて走らせる。一路、目指すは古城の聳える峡谷だ。馬の蹄の音と、ガチャガチャと鳴る装備の音が交じり合う。


「ペステ伯爵。……一体どんな男なの?」

「残忍で狡猾。しかも卑劣。絵に描いたような悪党さ」


 アークィがヴォルペの馬に寄せていた。


「殺しがいがありそうな男ね」

「……そうでもない。この前のエダ公爵と同じで、選民思想の塊のような男だからな」

「そうなんだ?」

「それに、俺と違ってブ男だ」


 どうやらペステ公爵は面相が不自由らしい。貴族マニアのヴォルペが言うのだ~間違いではないのだろう。


「ヴォルペ、あなたと比べてブ男というのなら、それはそれは可愛そうなお顔をしてあるのね」

「どういう意味だよ」

「……別に?」

「なんだよそれ」

「どうせ殺すなら美男子の方が良いでしょ?」


 意味がわからない。それに、なぜか夢見がちな顔をしているアークィ。ますます意味が判らない。


「二人とも。いい加減にしろ。こうしている間にも街道の影からこの前の魔道機が出てくるかも知れん」

「へいへい」

「……そうね。隊長の言うとおりだわ」


 ザンナの叱責が跳ぶ。


「よくわからない基準だな、それ」

「醜いものは見たくない。……ただそれだけよ」


 それだけ言うと、もう言いたいことは言い尽くしたのか二人はようやく押し黙った。

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