四騎士と共に
ユウタ達は今は革命軍の駐屯地となっている公爵邸に腰を落ち着けていた。ユウタはカナエと背中合わせでぐったりとしている。背中からはカナエの小さな寝息が聞こえて来ている。色々と限界だったのだろう。それも仕方の無い事だとユウタには思える。
「スクアーか。かつて王国四騎士の一人に数えられた凄腕だな。いや、最強の一人か」
ザンナの遠い目。
「あいつ、生きてたんだな」
ヴォルペの顔に浮かぶのは感傷だろう。
「ヴォルペは面識があるんだ?」
ユウタは問う。
「俺も四騎士の一人だったからな」
「え!?」
ユウタは驚愕する。今知らされる新事実。まさか、ヴォルペがそこまで強い騎士様だったなんて。いつもアークィとやりあう姿からは想像できない。ユウタにとって騎士とはもっとお堅いものだと思っていたのだから。
「意外か?」
「はい」
「普段が普段だからね。ヴォルペいつも弛んでるしぃ?」
当然のようにアークィが割って入って来る。
「はぁ、アークィにまでばれていたか」
「バレバレよ。今更何言ってるのよバカ」
アークィは心底バカにしているとしか思えない口調でそう言った。
「四騎士って、滅茶苦茶強い人に付けられる称号じゃないの?」
「そうだがどうした」
ユウタの問いに、全く動じないヴォルペ。そう思うと、やはり凄い人なのかなのかなとも思えてくる。
「そうだがって……凄いじゃないか! なのに将軍でもなくて遊撃隊の一隊員だなんて……」
「意外か?」
「はい」
意外などというものではない。むしろ、おかしいと思う。一軍を率いていてもおかしくないはずなのだから。
「現場が一番だ。上に立つなんて真っ平なんだよ」
「おかげであたいの苦労ばかりが増える」
ヴォルペの言葉にザンナがぼやく。
「すみませんね、隊長」
「いや別に。大きな独り言だからな」
ヴォルペ。実は凄い人だったらしい。ユウタは妙に感心する。肩書きだけで、人は変わって見えるものなのだな、と。
「しかしスクアーか……ペステ伯爵の客将となっていたとは厄介な」
ペステ伯爵。なんでもヴォルペの言葉によると、奸臣中の奸臣で辺境で自堕落な生活を送っている王党派の貴族だとか。
「好い女ですからね」
あの恐るべき髪の騎士スクアー。彼女はそのペステ伯爵の元に身を寄せているらしい。
「顔は関係ない」
「でも、好い女ですぜ? 抱き心地もきっと良い……」
ユウタには、とてもそんな観察する余裕は無かった。
「黙れ。体も関係ない」
「でも……」
だけど美人ではあった。これは間違いない事実。
「やかましいヴォルペ。かつての同僚は斬れないか?」
「出来れば、あいつの相手だけはしたくない」
ヴォルペが肩をすくめる。
「好い女だからか?」
「違いますよ、あいつは強い。正攻法で戦うなんてバカげてますぜ」
強い。いや、強すぎた。実際に刃を交えたユウタだからわかる。とんでもない強さだった。
「ふむ。やっとヴォルペの口から建設的な意見が出たな」
「お前ならどう攻める? ヴォルペ」
ザンナは問う。
「口説き落とします。……なるべく穏便に」
「……お前に期待したあたいがバカだった。アークィ、お前ならどうする?」
「え!? あ、あたし!?」
「そうだ」
「あたしは……暗殺かな、やっぱり。あの綺麗な顔に出来るだけ傷をつけないように、首だけ頂くの」
ユウタの背筋が寒くなる。アークィ。冗談にしては真に迫っている。
「……お前達に期待したあたいがバカだった。ユウタ、お前ならどうする」
「正々堂々と勝負します!」
当然だ。あんな強敵、いや、強敵だからこそ正面から打ち破ってこそ意味がある。ユウタにはそう思える。
「……ふ……ふはははは! 揃いも揃ってバカしかいないとは! まぁ、かくいうあたしも嫌いではないが」
ユウタは思う。正々堂々と戦って倒してこそ名声を得られるものだ。卑怯な手段で倒したところで、ユウタの名は上がらない。倒せば軍から褒章は得られるだろう。だが、それだけだ。でも、正々堂々と渡り合った上で倒せば、民衆が喝采してくれる。ユウタの目的は名声を得て皆を見返すことだ。どうせならそちらの方が良い。そして、そのためには……。
ユウタは腰に佩いた新たな剣を擦る。
遺跡で見つけた魔剣。あれ以来、魔剣の『声』を聞いていないのだけれど、ユウタにはこの剣があれば不可能な事など無い気がするのだ。
すぅすぅ……。
ユウタは背中でカナエの寝息を聞く。
ほんのりと暖かい、カナエの体だった。