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ユウタとカナエのクロニクル  作者: 燈夜
第四章 遺跡
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侵入者と共に

 遺跡は広大だった。金属とも岩ともつかない壁と天井に床。それに明らかに人の手が入った扉。もうかなり歩いた。通路を抜け、幾つもの部屋を潜り、階段を降り。


 始めは『魔剣を見つけてやるぜ!』とヤル気に満ち溢れていたユウタも正直飽きていた。なにせ、もう何時間も同じことの繰り返しなのだから。そして何より気がかりな事がある。カナエの様子だ。カナエがどうしたか。始めは気合の入っていたカナエも緊張が過ぎたのか、顔が白くなり、赤くなり、今は青い顔をしている。

 そして今、ユウタはカナエの背中をさすっていた。カナエは先ほどから胃の内容物を部屋の隅で何度も戻していた。目の前の光景──血飛沫の飛び散った、肉片のこびり付いた光景が余程堪えているらしい。それにこの同じような閉鎖空間の連続。カナエはかなり精神をすり減らしているのだろう。本当を言えば、ユウタもカナエに倣い食べた物を戻したい気分だったが、そこはカナエの手前、我慢する。貰いゲロをしないで済んでいる自分を褒めたい。本当に拍手したい。


「こういった遺跡にはね、侵入者用の罠がつき物なのよ」


 ユウタは感心する。アークィは手馴れたものだ。慎重に、しかし素早く近づいた扉に油を垂らし、自前の専用器具で慎重に錠前を探り。本職が盗賊なのではないかと思えるほどだ。


「探索済みの遺跡なんだろ隊長?」

「そうだヴォルペ。あの騎士はそう言っていたな」


 屋敷突入前に捕らえた騎士を尋問して聞きだした情報だ。おそらく彼は今、公爵と共に都送りになっているはずである。


「だから言ったのよ。わたしは『反対だ』って」


 アークィのイライラは相当な段階に達していそうだ。


「彼らの仲間、誰かがこの遺跡に潜伏している可能性は?」


 ザンナがアークィに答えを求める。彼ら。それは壁に張り付いたり、床に千切れて転がっている死体の事なのだろう。ザンナのその目がはっきりとそれを語っている。


「薄い薄い。この死骸も軽く二週間は前のものだし、足跡も……無い事はないけれど誰ががこの場所にいるなんて考えられないわ」


 しかし、対するアークィの答えはその不機嫌さもあって実に冷淡なものだ。


「しかし、一々扉に鍵がかかっていたが」

「自動で鍵が閉まる仕掛けなんでしょ、きっと。機械なのよ、機械仕掛け」

「機械、ねぇ」

「そう。機械。古代文明の遺跡ではこういった仕掛けが多いわね……っと、開いたわ」


 そして体を次の部屋に滑り込ませるアークィ。そして手招き一つ。


「どうぞみんな。入って良いわ。大丈夫そう。……だけど、覚悟して。また酷い事になってたから」


 酷い事。大体予想がつく。この部屋のように破壊されているか、死体が転がっているか。そのどちらか、あるいは両方なのだろう。奥の部屋もきっと似たような状況にあるのだろうと思えた。


「魔道機の類は大方持ち去られているわね。それに、書物の類も。どの部屋も同じね。ザンナ隊長、どうする? まだ調べる?」


 カナエは目の前に広がる凄惨な光景を見てふらついている。ユウタはそれをまた支える。


「大丈夫かカナエ?」

「う、うん……なんとか」


 全然大丈夫そうではない顔をして弱々しくカナエが答える。カナエはふらつき、壁に寄りかかる。


「カナエ!」

「……ごめん」


「隊長、そろそろ引き上げますかい? 嬢ちゃんが限界みたいですぜ?」

「カナエとユウタをここに残しもう少し調べたいところだが……」


 ザンナは何か確信でもあるのだろうか。ユウタが言えた義理ではないが、彼女もこの遺跡の調査に随分と未練があるようなのだ。


「……成果の見込みも薄いと思いますがね」

「断定は出来まい。これだけの広大な遺跡なのだ。何かひとつくらい残っているはずだ」

「それはそうでしょうけどね」


 ヴォルペの何もかもを諦めたかのような声。それは彼が飽き飽きしている証拠だと思える。


「アークィ。まだ奥はあるのか?」

「そろそろ最深部ね。すり鉢状になっているみたいだし」

「一応、調べてみるか。カナエ、ユウタ。ここで待っているか?」


 ザンナの提案だ。


「カナエ、どうする?」


 ユウタは青い顔をしたカナエに尋ねる。


「ユウタと行く」


 細い声が伝わってくる。


「一人にしないで」


 袖を引かれた。気持ちは判る。赤黒い肉の破片が転がり、異臭漂う部屋の中で一人取り残されたくは無いのだろう。それはユウタだって同じだ。


「いきます隊長」

「……そうか。アークィ!」

「はい?」

「最深部に頼む」

「はいはい」


 そしてアークィは部屋の奥の扉にまた張り付く。行う作業は先ほどと変わらない地味なものだ。


「なぁユウタ」

「なんですかヴォルペさん」

「……残念だったな、まぁ遺跡調査なんてものは大半がこんな地味なものさ」

「でしょうね」


 どこぞのロールプレイングゲームのように敵がいて、宝箱が出てきて。……そんなご都合主義的な話の方が変なのだ。第一ここは公爵一味が散々探索した遺跡。たいした物が残っているはずも無い。脅威は無いがお宝も無い。当たり前といえば当たり前の事といえる。


「アークィ。まだか?」

「ちょっと待ってザンナ隊長。そんな急かさないで……」

「……すまない」


 何とか立ち上がるカナエ。脇からそれをそっと支えるユウタ。そんな時、カナエが壁にまた寄りかかった。


「カナエ!」

「……うっ!」


 壁に手を突きカナエが咽る。

 また戻すのか、とユウタが思ったときだ。

 部屋の中に青白い光が走る。


 シュン、と音がしたかと思うとカナエの横の壁が無くなっていた。


「隊長! みんな!」

「何だよユウタ……通路?」


 ザンナが驚いている。


「隠し通路だな」

「え? ……何々、そんなもの見つけちゃった訳?」


 ヴォルペの呟きと、アークィの呆れ顔。

 そして隠し通路を偶然にも発見したカナエはその青い顔を白くして固まっている。


「アークィ。そちらは中止だ。ここでいったん休憩を取る。カナエの回復を待って深部の探索を行う」

「はいーはい」


 ザンナはそう言うとヴォルペと共に床に座り込み、さっさと携帯食料を取り出していた。


「何をしているユウタ? 聞こえなかったのか、休憩だ」

「は、はいザンナ隊長。でも隊長、この通路……」

「隠し通路だ。奴らも発見できなかった、な。アークィ、どう思う?」

「ちょっと待って」


 アークィが足音もさせずにそれに近づき調べる。


「そうね。手付かずの通路でしょう。足跡が無いわ」

「奥はどうなっていると思う? 何か『居る』可能性は?」


 ザンナが目を細める。鋭い視線をアークィに向けた。


「零じゃない……だけど、やっぱり遭遇の可能性は極低い」

「どうしてそう思う?」

「隠し通路がこの遺跡を作った者たちにとって『隠し』ではない可能性もあるから」

「そうか。だが、調査するぞ?」

「だからそれは判ったってば、ザンナ隊長」

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