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ユウタとカナエのクロニクル  作者: 燈夜
第一章 夢に向かって
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呼び声と共に

異世界転生物ファンタジー戦記。書き溜めていた第二話です。エタらないように頑張って書きますんで宜しくお願いします。もしかすると、後日途中で間に一エピソード入れるかもしれません。が、宜しくお付き合いください。

ユウタは『角岩』と呼んでいる垂直に切り立った岩の上に立ち、カナエを待つ。緑の風が心地よい。ここ東部辺境の森林地帯はユウタら山の民にとって絶好の狩場だった。ただ、ここのところ魔獣による被害が多くて辟易している。一般の狩人には不評の狩場となりつつあった。現にこうして、ユウタとカナエは魔獣を間引きに来ているのだから。暴れまわる魔獣が居るとの話を聞いた。だから、こうして二人でこの場所に出向いたのだ。


 ──ん? 来たか?

 ユウタは風の異変を聞いた気がした。


 森が切れる丘の向こうに土煙が見える。予想通りだ。原因は風を切り裂き走り込む見慣れた細い人影が一つと、その後ろに予想を遥かに上回る大きさを誇る四足獣の突進の引き起こす多重土煙だった。人影。胸のふくらみと体つきからそれが少女のものである事がわかる。すらりとしたその身を包むのは魔獣の革から作った革鎧。ユウタが今着ている革鎧とお揃いの、カナエお手製の皮鎧だった。


「ユウタ。ユウタ!」


 確かにカナエの声だ。ユウタはもう一度目を見開き観察する。カナエがその長い黒髪を風に靡かせて、息を切らして走り込んで来ていた。


「ユウタ! 魔獣!! 大物居た! 釣って来た!!」


 茶色の剛毛をなびかせユウタの立つ『角岩』に突進する獣。それは巨大な猪めいた獣だった。瘴気に当てられたのか、それとも魔化した岩でも齧ったのかは判らないが、どう見ても正気とは遠い存在なのが判る。あの赤く輝く目がその証拠だ。魔素にやられている。良くない傾向だ。


「ユウタ、ちょっと大き過ぎた! どうする!?」


 ショートスピアを握るカナエが駆けて来る。そしてその直ぐ後ろを轟音を上げて走り込んで来ている巨大な魔獣の影。追い込み猟のつもりが逆に追い込まれている状態だ。

 だが、ユウタにはそれでも勝算がある。その秘策とはこのカナエの目前に直立する大岩たる『角岩』そのものだ。ユウタ『角岩』の上に立ち叫ぶ。この程度、誤差の範囲だ。ユウタは冷静に状況を考えて、一つの結論を下した。


「カナエ、跳べ!」

「うん!」


 カナエが『角岩』に足をかける。瞬間、カナエの長い漆黒の髪が舞う。カナエは大きく跳んだ。『角岩』はゆうに二回建てのビルほどはあるだろう。だが、その距離と高度をカナエは一気に飛び越えたのだ。ユウタは人間離れした身体能力を見せ付けてくれたカナエを両腕でしっかりと抱きとめる。柔らかい肉の感触。カナエの首に下げられたお守り袋が揺れていた。ここまでは若干の作戦変更はあったものの、概ね作戦通りだったと言える。

 魔獣の怒りの突進。今にも『角岩』に激突しようかとする魔獣がいた。だが、激突の前に大きく魔獣はバランスを崩した。落とし穴である。だが想定外に魔獣が大きく、その下の槍衾もイマイチ効果が薄かったようだ。落とし穴は魔獣の勢いを殺し切れず、魔獣はそのまま『角岩』に激突する。『角岩』を揺るがす凄まじい振動がユウタとカナエを襲ったかに見えた。だがユウタはカナエを抱えたまま軽く跳びその振動を殺す。


「カナエ、仕留めるぞ!」

「うん!」


 そしてユウタは衝突の衝撃によろめく魔獣の眉間目掛けて舞い降りた。もちろんカナエを連れてだ。


「カナエは右目を狙え!」

「判った!」


 二人は息もぴったりに目標を追い二手に分かれる。『角岩』の側面を蹴ったユウタは言うが早いか、魔獣の眉間目掛けて元傭兵から譲り受けた鋼の剣の切っ先を深々と突き刺していた。魔獣は怒りの咆哮を上げようと身を捩る。だが、そんな魔獣にはユウタと同じく岩を蹴ったカナエの短槍が迫っていた。そしてカナエの槍は魔獣の目を正確に貫く。

 轟く悲鳴。雲を切り裂くような甲高い魔獣の悲鳴だった。魔獣がさらに暴れる。それは痛いに決まっている。カナエは振り回される前に槍を引き抜き跳び退いていた。後ろに一回転しつつ跳ぶ。そして華麗に足から地上に飛び降りる。着地。これが戦闘中で無ければユウタはカナエに見とれていたであろう。それほどまでに見事な軽業であった。


「ユウタ!」


 カナエが暴れる魔獣に取り付くユウタを心配し声を張り上げる。


「カナエ、今度は左目だ!」

「うん!」


 ユウタはカナエに指示を出しつつ、自分は魔獣の眉間に刺さった剣をさらに押し込む。


「おおおおおおお!」


 ユウタが力を込めるたび、魔獣は苦しげに暴れる。最期の力を振り絞り、理不尽から暴れる魔獣がいた。だがユウタは喰らい付いたまま剣を離さない。ユウタの体が動くたび、その剣は左右、前後に揺れてじわじわと剣が魔獣の眉間深く埋まってゆく。魔獣の動きが次第に鈍くなる。

 そんな時、頃合を見計らったようにカナエが再び地を蹴った。そしてその槍は狙い過たず見事に魔獣の残る左目を貫く。よろめく魔獣。そしてユウタが足に力を込めて魔獣の眉間から剣を引き抜いた時、魔獣の赤い血が舞っっていた。草原が赤に染まる。


 大地が轟き、どうと倒れ伏す魔獣。魔獣はしばらく痙攣していたが、やがてそれも止んでいた。魔獣から赤い粒子が立ち上る。おそらくは宿主を失った魔素が抜けているのだろう。詳しい事はわからない。村の誰もその答えを知らなかった。


「今日はお肉だね、ユウタ」

「……そうだな。カナエ」


 カナエの満面の笑みに同じく笑顔で応えるユウタ。ユウタには村のみんなの喜ぶ顔が見えた。これでしばらくは食うに困らないだろうと思われる。余った分は干し肉にでも加工しよう。


「ユウタ、今日もユウタは強かった」

「カナエこそ凄かった。……怖かっただろ?」

「そんな事はない。ユウタがいてくれたから」


 カナエが多少土に汚れた顔を見せ、はにかんだ笑みを浮かべて目を伏せる。ユウタは少し恥ずかしい。あの自分がここまでカナエに慕われている。満足だった。


 彼らの武技の師はこの山村に流れ着いた傭兵上がりの男であり、辺境の村に派遣されていた唯一の衛視だった。また村唯一の教会に居る老神父からは文字も教わった。王国に関する知りうる限りの知識も聞いていた。ユウタはもっと多くのことを学びたかったが、学ぶにしてもこの辺境地ではこれが限界だった。後は、こうして大自然が師となっている。とはいえユウタは幸せだ。何せ今のユウタにはカナエがいる。いつも一緒だ。青い宝石をその手に持ってユウタと同じ日にこの世界へ生まれ出でた少女。同じく神童と呼ばれているユウタは赤い宝石を持って生まれて来た。二人は特別なのだ。世界を超えた二人。少なくともユウタはそう運命を感じていた。これが偶然であろうはずは無い。少なくともユウタにはそう思えた。

 カナエは美形である。カナエは成長するに従い、あの結城叶にそっくりの風貌となっていた。だが不思議な事にカナエには前世の記憶はないという。結城叶はキャンディーが好きだった。カナエは結城叶と同じく甘いものが好き。とはいえ、ユウタが前世の話を振っても言葉を濁し、そんなユウタに済まなさそうに首を振る。そこがちょっとだけユウタには不満だった。だが、今はそれでも良いと思える。カナエはいつもこうしてユウタの傍で、微笑んでくれるのだから。ユウタは今、幸せだ。


「甘茶が飲みたい。蔓を取って帰ろうユウタ」

「ああ、判った。そうするか」


 ユウタトカナエは巨大な魔獣の死骸を抱える。一抱え……いや、明らかに巨大な大物だ。化け物と呼ぶのが相応しい。だがユウタとカナエはそれを二人で協力して軽々と持ち上げる。自分たちが特別である事を感じさせられる一コマだった。


「大物だ、ユウタ」


 カナエが仕留めた魔獣を指して笑う。


「そうだな。みんな喜ぶ」

「うん!」


 カナエが微笑んでいた。

 ユウタには自分達二人が特別だと判っていた。ユウタには前世の記憶があるのだ。それに世界を渡ったユウタ達には何の恩恵か、明らかに他の村人の枠内では納まらり切れない戦闘力が付与されていたからだ。奇跡はあるのだ。あったのだ。

 前の世界では誰からも疎ましがられた勇太だが、この世界ではユウタは村のみんなに受け入れられている。みんなに必要とされている。村の皆が大事にしてくれた。そして現に今のユウタの傍には見目麗しい少女、ユウタの相棒としてカナエがいつも付き添ってくれている。これに勝る喜びは無かった。

つたない点、至らぬ点など色々あると思います。構わずご指摘下さい。反応があると作者が喜びます。

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