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ユウタとカナエのクロニクル  作者: 燈夜
第四章 遺跡
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進言と共に

 旧公爵領には遺跡がある。古代の遺産を掘り出したと思しき遺跡だ。他ならぬザンナの口からその話を耳にしたユウタは椅子に座るザンナ本人に食い下がる。


「遺跡の調査だと?」

「俺に合う剣が見つかるかもしれないだろ? もしくは、カナエに合う槍があるかもしれないし!」


 ユウタは本気だ。戦力の強化。体を鍛えるのは当然としても、武装の強化も重要だと思う。ロールプレイングゲームなどにもある、チートな武器で今までの強敵が雑魚になる話。ユウタはそれを期待した。だからユウタは強硬に主張する。


「あの八脚の魔道機を掘り出した遺跡だぞ? 残り物があると思うのか?」


 だが、組んだ両手の指に顎を乗せ、机に肘を突いたままで答えるザンナの口調は冷淡そのもの。まるで興味なさげ。


「行ってみなきゃわからないじゃないか!」


 ユウタはむくれる。ちょっと拗ねてみた。子供かよ俺は、と自分で思わなくも無いユウタだったが、自分の感情は止められない。ユウタには力への渇望があるのだ。


「……ヴォルペ、どう思う?」


 ザンナは脇に控える二刀の剣士、ヴォルペに話を振る。


「可能性の問題じゃないですかね、隊長」


 そんなヴォルペの意見はそっけない。いや、顔だけは何が面白いのかニヤニヤしている。


「ふむ。アークィ、意見を聞かせてくれ」


 こんどは同じく脇に控える銃士、アークィに話を振る。


「あたしは反対。だって遺跡って無意味に危険だもの」

「ふむ。そうかアークィ」


 アークィの意見もそっけない。ただ、こちらは少し不機嫌な香りがする答えだ。


「ええ、そうよ」


 ザンナは指を顎に当て考える。……おそらく考えていると思われた。少なくともユウタはそう思いたい。


「そうだな……ヴォルペ。もう一度聞く。ユウタの意見に耳を傾ける価値があると思うか? あたいはこの調査に少しばかり意味を見出せはするが」

「意味、ですかい?」


 ザンナの問いに、ヴォルペの目が一瞬細まる。時々鋭いヴォルペ。そんなヴォルペの顔だ。


「そうだ。一つは遺産発見の可能性、もう一つはユウタとカナエの経験だ」

「なるほど。経験ですか」


 我が意を得たりとユウタはザンナに畳み掛ける。


「そうだよ! 俺は経験不足なんだ。この前の戦闘ではっきりした。俺を鍛えてくれ! 何事も経験なんだ!」


 だが、それでもザンナは顔色一つ変えない。


「カナエにも聞こう。……おまえはどう思う?」


 伏せていた瞼を片目だけ開けて、カナエに問う。


「……私……ですか?」

「そうだ」

「私は、ユウタがそれが良いと思うなら手伝いたいと思います。出来る限り、力に……役に立ちたいんです」


 いかにも自信なさげにカナエがぼそぼそと続ける。でも、本心は……ユウタには聞かなくても判る。『行きたくない』。カナエはおそらくそう言っている。


「正直に言おう。ユウタ。カナエ。お前達二人は力不足だ。武者修行をかねて遺跡潜りでもした方が良いのかも知れん。だが戦況は流動的だ。そう時間は割けないだろう。それに戦力もだ。遊撃隊のみでの調査となる」


 ザンナは溜息を一つついた後、そう続ける。ユウタの顔に光が宿る。


「それじゃ……ザンナ!」

「そうだ。良いだろう。遺跡とやら、調査しようじゃないか」


 ザンナの笑み。ユウタは満面の笑みで迎えた。ヴォルペとアークィは半ば呆れ顔。カナエに至っては勇ましい言葉と裏腹に蒼白だ。


「え? ザンナ隊長、本当に良いんですかい?」


 ヴォルペの確認。いかにも意外そうな、本気の問いに聞こえる。


「実の話、調査依頼を本部から受けていた」


 ザンナの答えはケロッとしたものだ。


「え!? 芝居だったのかザンナ!?」


 ユウタは思わず呻く。


「そうだ。一芝居打った。皆の意見を吸い上げ、本心を探るのも上官の務めだ」

「ちぇ」


 ユウタにはそれが面白くない。年上ぶる、上官ぶるザンナの態度が癪に障る。大人が子供をからかって遊んでいる……ユウタにはそう思える。


「なら止めるか? 遺跡調査。本部に断れば済む話だ」


 ザンナは再びカラカラと笑う。


「いや、そこは調査しようよ! いや、ザンナ隊長、そんな事言わないで! 是非お願いします!」


 冗談じゃないとユウタは思う。唾を飛ばしてザンナに平伏してみせる。


「ふむ。カナエ、ユウタはこう言っているが」

「……私からもお願いします。正直、私自身も力不足を感じていましたので」


 少し時間を置いてからの、言葉を選んだらしき回答。やっぱりカナエは嫌なのだろうか。ユウタには判らない。いや、判りたくないと自分を誤魔化す。


「そうか。アークィ?」

「行くんでしょ? そうなんでしょ? あたしの力が必要なら必要って言えば良いじゃないのザンナ隊長! 命令しなさいよ!?」


 アークィは即答だ。この遊撃隊の立場をよく理解している回答。いわゆる、便利屋。雑用係。


「いや、判っているならそれで良い」

「拒否権がない事ぐらい知ってるわよ、もう!」

「いや、あくまで『依頼』だからな。降りても良いんだぞ?」

「行くわよ! でも、どうせなら敵を殺したかったわ。あたしは王党派の連中の悲鳴が聞きたいの!」

「そうか」


 ザンナはアークィを追い込んでからかっているのだ。ザンナの暖かい視線とアークィの子供のような態度からユウタにはそう思える。


「はいはい。全く血の気の多いお嬢さんだな」

「うるさいわねヴォルペ!」


 二人はいつもの罵り合いを始めた。もうこうなると、会議も何もあったものではなくなる。

 ザンナが顎の下に組んでいた手をばらす。そしてやおら立ち上がり決断を下した。


「皆の意見はわかった。あたいら遊撃隊は旧公爵領の遺跡の調査に向かう。なんらかの収穫がある事を期待したいところだな」

「ですね、隊長」


 不敵に笑みを浮かべるザンナと、同じく苦笑するヴォルペ。


「はぁ、あたしは遺跡潜りよりも見せしめのための王党派貴族の暗殺の方が面白いと思うんだけどなぁ」

「我慢しろアークィ」

「はーい」


 不穏なアークィの言葉をザンナはやんわりとたしなめる。対するあーくいの生返事は、反省などしていない証拠に違いない。

 ともかく、ユウタの心は躍る。


 ──古代の遺産が手に入るかもしれない……そんな期待に胸を膨らませて。

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