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ユウタとカナエのクロニクル  作者: 燈夜
第三章 戦場で
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傷と共に

 ここは街道沿いの一角。敵軍を追い払ったユウタらは進軍を停止している。全てはザンナの判断だ。


「どうしてここで一度友軍との合流を?」


 ユウタはバカ正直に聞く。


「敵の戦力を見ただろう? それにあれが全軍だとは思わない方が良い。どちらにせよ、あたいら……いや、革命軍は公爵邸へ乗り込む事になる。なに。そう遠くない未来の話だ」


 頭の側面に結んだ金髪の双房を揺らしつつ口走るザンナの言葉はどうにもユウタには伝わらない。ユウタは納得がいかないのだ。


「革命軍? どういうことだ? 俺達遊撃隊の出番だろ? ザンナ隊長が自分で言っていたじゃないか。『遺産』の相手こそが俺達の、遊撃隊の出番なんだって」


 そう。ユウタは聞いた。『遺産持ち』の相手こそ遊撃隊の出番だと。


「そうともユウタ。だがな、勇気と蛮勇は違う。……それとだ。ヴォルペ、聞いているか? お前には存分に暴れさせてやるから安心しろヴォルペ」

「そいつは勘弁」


 おとなしく剣の手入れをしていたヴォルペが肩を軽く竦めて見せる。ユウタはザンナに話を逸らされたようで面白くない。


「聞けユウタ。やる事は簡単だ。例の化け物共『古代の遺産』を扱う連中をおびき出し、本隊に公爵邸を制圧して貰う」

「やっぱり俺達の出番なんだザンナ隊長!」


 出撃の予感にユウタの心は浮つく。その隣のカナエは黙って立つ。ユウタとカナエの表情は対照的だ。目を輝かせるユウタに、目の色を失いつつあるカナエ。

 だが、ザンナはそんなカナエを無視しユウタに言い含めるように言葉を選ぶ。


「その通りだユウタ。それがあたいらの出番ってわけ」

「囮ね。本当に優雅じゃない役回りだこと」

「……なるほど。俺達に似合いの仕事だな」


 同じく銃の手入れをしていたアークィが吐き捨て、視線も合わせずヴォルペが悪態を吐く。囮とアークィが口にしたところでカナエは身を振るわせる。


「アークィの言うとおり、詰まるところの囮だ。アークィにヴォルペ、不満か? 転属願いはいつでも受理するが」

「結構です隊長」

「俺はそいつも勘弁」


 アークィとヴォルペは即答し、ザンナの言葉は軽く二人に流される。まるで冗談の様に。


「ザンナ隊長、勝算は?」


 興奮冷めやらぬユウタはザンナに食い下がる。カナエは相変わらずユウタの傍に寄り添うように、ただ突っ立ったままだ。


「お前は負けたいのかユウタ?」

「いえ、そんな事は。……武功もまだだし」


 そう。ユウタの望みは軍で出世する事。報奨金を稼ぐ事。そのためには、敵を確実に仕留めないと。今回のような綱渡りのような戦いでは危ない。それはユウタにも充分判っている。だからこその皆との連携だ。


「そうだろうな。強くなれ、ユウタ。そして今度こそカナエを守って見せろ。……とはいっても、命令はアークィの護衛が第一だからな? そこを忘れるなよユウタ」


 ユウタはカナエの体がまた震えるのを見る。


「うん、判ってるよザンナ隊長!」


 だが、そんなカナエを他所にユウタは返事だけは気合を入れる。そして怯える自分にも気合を入れたのだ。よし。……次も負けない。生き残る。ユウタはそう念じる。


「苛烈な戦いになる。今は体を休めていろ。判ったな?」


 ザンナの言葉はそれだけだった。






 後続部隊は程なくやって来た。これが革命軍の本隊だと言う。軽装歩兵を中心としている。気のせいか、それなりに新兵も多いように見える。ユウタにも皆、若く見えるのだ。若い兵は何も自分たちだけではなかったらしい。アークィの話も当てにはならないものだとユウタは一人、呟く。


「誰の話が当てにならないですって?」

「アークィ! いや、あの、これは……」

「ああ、もしかしてカナエちゃんの傷の具合が気になっていちゃったり?」


 身を屈めたアークィが、気のせいかユウタを上目づかいに見上げる。


「そ、そんな事は無いよ!」

「またまた。顔に書いてあるわよ? ユウタ」


 アークィはユウタをからかいつつ、一つの天幕に目をやる。カナエの消えた救護用の天幕だ。

 その中でカナエは今、傷の治療をしているはずだ。ユウタはカナエと共に天幕の中に入ろうとしたが血相を変えた女性仕官から追い出された。そんなユウタは今、その天幕からカナエが出てくるまで待ちぼうけとなっている。そこをアークィに見つかったのだ。


「ほら、出てきたわよ? あら、カナエちゃんってば思ったより元気そうじゃない」


 アークィの言うとおり、カナエがユウタの予想よりもしっかりとした足取りで天幕から出てきていた。


「カナエ! もう傷は平気なのか!?」

「ユウタ!」


 心からのユウタの呼びかけにカナエの笑顔が弾ける。カナエはあれから本格的な傷の治療をしてもらっていたようだ。とはいえ、体に薄く傷痕は残るだろうと思うとユウタは気が気でない。


「うん、大丈夫」

「そっか。それなら良いんだ」

「うん。心配してくれてありがと」


 口ではそう言うが、ユウタは無言でカナエに謝る。カナエを守ると約束しておきながら、そのカナエに無数の傷を負わせてしまった。自分の力が及ばぬばかりに。実に口惜しい。


「カナエ……」

「大丈夫だよ、ユウタ」

「カナエ、どうだその槍。使えそうか?」

「……うん新品の槍。これならいけそう」


 カナエは新しく受け取った槍を手に言う。

 そんなユウタの気分を知っては知らずか、カナエは相変わらずユウタに向けて微笑みを返してくれる。


「あなた達二人、本当に仲が良いわね」

「幼馴染なんだ。当然だろ?」


 呆れ顔のアークィにユウタは切り返す。


「ふーん。そう。幼馴染ねぇ」


 そう呟くアークィは、ユウタにはなんだか面白くなさそうに見えた。






 ユウタ達は公爵邸に向けて馬車を走らせる。道は森の中の一本道だ。いつ襲撃されてもおかしくは無い。……もちろん、それを狙っての先行行為ではあるのだが。詰まるところの陽動だ。


「ザンナ隊長、友軍は何処から進軍しているんだ?」


 ユウタはザンナに声をかける。


「森だ。森の中を徒歩で進軍している。森の中であの八本足の魔道機は使いづらいだろうからな。あたいらは囮だ。先行して目立ち、敵の主力を惹きつける」

「……確かに」


 ザンナが答えるよりも早く、アークィが口を挟む。


「どの道あたしたちの出番よ。一般兵には任せられないわ」

「そりゃそうだ」


 アークィの言葉に、ヴォルペが軽く返す。


「でも、あの魔素の塊……魔物めいた騎士の成れの果ては何だったんだろうな」

「魔道機が暴走でもしたんんでしょ」


 それはユウタならずも誰もが思う疑問と言える。


「不良品?」

「試験品?」


 アークィとヴォルペは自分達の予想に自分達で驚いている。


「恐ろしい話だな」

「本当にね」


 古代の遺産。それはユウタが思う以上に深い意味での恐ろしい存在なのかもしれなかった。

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