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ユウタとカナエのクロニクル  作者: 燈夜
第三章 戦場で
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残骸と共に

 ユウタらが破壊した魔道機。その残骸からは魔獣と同じく魔素の赤い煙が立ち昇り、空気に拡散しているかに見える。


「皆、見てみろ」


 ザンナがその内の一体を指差す。


「ん?」

「どれどれ?」


 ユウタとヴォルペはザンナの話に首を突っこむ。アークィは自分の武器の手入れで忙しい。カナエはカナエで敵の得物、使えそうな槍を物色しているようだ。


「魔道機の装甲が自己修復している……だけど、核を破壊したから……ほら、崩れた」


 魔道機の装甲が蘇ろうとして、ボロボロと崩れ落ちる様をユウタは見る。


「どうしてこんな事に?」

「お前がこの魔道機の核を破壊したからだ」

「核?」

「ああ。魔道機の『心臓』のようなものだ。ここを破壊しない限り、魔道機はいつまでも再生する。ユウタが破壊したのだぞ?」


 ザンナは微笑を浮かべつつ、ユウタに色々な事を教えてくれる。


「拙かった?」

「いや。お前は良くやったユウタ。良くぞ倒した」


 ザンナの真っ直ぐで澄んだ青い瞳。褒められてユウタは少し嬉しい。


「魔道機の動力源はどうやら『魔素』のようだな。魔道機の背嚢に『魔素』が詰まっているようだ」

「どうやって魔素を集める事ができたんだ敵さんは?」


 ヴォルペが尋ねる。


「判らない。我々の知らない技術で作られている。それだけは確かだろう。しかしこれこそが『古代文明の遺産』の証拠なのだろうな」

「魔獣の魔素と関係があるの?」

「それはどうだか。ユウタ、重ね重ね悪いがあたいにも判らない。もしかするとだが、この魔道機そのものが空気中から魔素を勝手に回収していたのかもしれない」


 ザンナの話は歯切れが悪い。それだけ不確かな情報なのだろう。それでもユウタはその話に聞き入る。初めての知識、見知らぬ事柄。その全てが新鮮だ。






 ──その時、ユウタの視界の片隅で何かが動いた気がした。ちょうどカナエが漁っている魔道機の残骸近くだ。ユウタの背筋に戦慄が走る。魔道機の残骸から伸びる線。ユウタにはありえない線が見えた。


「カナエ、離れろ! そいつまだ生きてる!」

「え!?」


 カナエはとっさにその残骸から跳び退るも、一歩遅れる。カナエの腕から血飛沫が舞う。


「カナエ!」


 カナエが血の滴る腕を押さえて蹲る。ユウタは駆ける。カナエの傍へ駆ける。


「カナエ!」

「だ、大丈夫」


 カナエは気丈にも微笑む。だが、その笑顔はどこか痛々しい。


「大丈夫ってこんなに血が! 待って、今止血するから」

「ありがとうユウタ……」


 ──残骸。

 いや、その中から一つの影が揺らめいた。首筋を貫かれた騎士。赤い魔素に纏わり着かれたその体。それはゆっくりと人型から形を変えてゆく。肉が盛り上がり首の傷が塞がる。筋肉が隆起する。骨格が変貌する。金属鎧が外骨格に変じて行く。表面を血管めいた生物器官が覆う。最早それは人間ではありえない。それは冒涜的な何かだった。赤い目を爛々と光らせたそれ。むき出しの乱杭歯。かつて騎士だったそれにはかつての騎士の面影は無い。


「Graaaaaaaaaaaaaaaaa!」


 その黒い存在は雄叫びを上げる。口をはち切れんまでに開けて叫び抜く。それは血を凍らせるような叫び。ユウタにはそれが世界を呪い抜いた叫びに聞こえる。


「バカな……蘇生した?」


 さすがのザンナもこれには驚いているようだった。


「そんな柔なものじゃないだろアレは!」

「そうよ、怪物よ怪物!」


 口々に叫ぶヴォルペとアークィ。ヴォルペは両手に剣を抜く。アークィは銃を構えて周囲の警戒に入る。同時に動いたのはザンナとヴォルペ。接近するや、敵に動きすら与えず手に雷光を纏わせたザンナと双剣を振りかざしたヴォルペは雷撃と二連斬をその騎士の体に叩き込む。

 影が揺れた。


「何!?」

「バカな!」


 騎士は二人の攻撃を恐るべき速度で回避すると、お返しとばかりにその拳でザンナへ痛打をお見舞いする。腹に剥き出しの拳を喰らったザンナは思わずよろめく。


「ちぃ、重い……! こいつ、あたいを怒らせたらどうなるか!」

「隊長!」


 ザンナは怒りに任せて吼える。


「あたいの事は良い! ヴォルペ! とにかくこいつを倒せ!!」

「言われなくても! 本気で行くぜ!」


 二条の斬撃が走る。続いて再び紫電が舞う。数撃の乱舞。紫に赤、そして青。それに黒い赤みがかったもやが何度も繰り出され、何合もそれは繰り返された。

 だが、それも数合の事だ。ザンナが騎士に遅れとったのは最初の一撃だけ。眼光に鋭さを増したザンナとヴォルペに敵はいない。今の二人に隙は無かった。二人掛りの連撃に黒い異形の騎士はついに崩れ落ちる。


 その亡骸から赤い魔素が宙に昇華してゆく。今度こそ崩れ落ちた黒き騎士のその体から魔素が抜ける切ると共に、その赤い目は急速に光を失っていた。


「何よ今の……」

「あの化け物は何だ。俺には人間が変化しているように見えたぞ?」


 アークィの掠れ声に答えるのはヴォルペだった。


「あたいにもそう見えた。大方、『魔素』が関係しているようだが……なんとも言えん。判らない事が多すぎる。しかし、今のはらしくない痛撃だった。今の戦闘補助に感謝するぞヴォルペ」

「いや、当然の事を下までだ。それよりどうするよ、隊長」

「確かな事はエダ公爵がこの『古代文明の遺産』を大量に発掘し運用しつつあると言うことだ。この魔道機が不良品かどうかはこの際関係ない。これは拙いことになる。いや、もうそうなっているのか……」


 ザンナの迷い。それはユウタらに伝染するかに見えた。


「だがあたいらはただ、革命に仇なす敵を滅するのみ。判っているな? ヴォルペ。アークィ」

「もちろんだ隊長」

「あたしもよ」


 だが、それは杞憂だ。ユウタ安心する。それはヴォルペとアークィの瞳に迷いが無いと見えたからだ。


「ユウタ、カナエ。お前達もだ。不測の事態はいつでも起こりうる」

「はい……」


 カナエは弱々しくもそう答える。

 傷が痛むのだろう。ユウタは急いで止血したが、カナエは随分と痛そうなのだ。もう少し早く自分が気付いていればとユウタは呪う。


「大丈夫だから、ユウタ」


 カナエは再びユウタに微笑を見せる。その痛々しい微笑を見て、ユウタは胸が痛くなる。


「ヴォルペ。念のために他の死体も確認してくれるか? 死者には気の毒だが、念のために四肢を切り刻んでおけ」


 ザンナは非常な命令を下す。両手には未だに紫電が纏わり付いていた。その目は魔道機の残骸をそれぞれ追っている。続いて現れるかも知れない影の姿を警戒しているのだろう。


「あいよ。汚れ仕事は慣れてる」

「ヴォルペ。それは自慢にならないんじゃない?」


 ヴォルペの投げやりな言い分にアークィがすかさず噛み付く。


「アークィ。お前さんが焼いてくれても良いんだぞ?」

「もうちょっと銃の機関部を冷やさないとね」


 アークィは言葉で逃げる。


「使えねぇ……」

「はぁ? 今、何か言ったヴォルペ」


 と、思えばいつもの喧嘩腰がアークィに戻っている。


「いいや何にも。アークィお嬢様」

「あっそ」


 アークィは既にヴォルペを見ていない。とっくに銃の手入れに戻っていた。

 やれやれ。ユウタは思う。この二人、こう見えて結構仲が良いのかもしれない。とはいえ、今はカナエが心配だ。


「追撃は中止だ。カナエの容態を見つつ、ここで本隊の到着を待つ」


 ザンナはそう宣言する。

 とりあえずは休息だ。良かった。


 ユウタの緊張の糸が切れる。自分は何もできなかったと言うのに緊張していたのだ。そんなユウタの隣では、カナエがユウタに寄り添い眠るように崩れ落ちていた。

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