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ユウタとカナエのクロニクル  作者: 燈夜
プロローグ
1/35

爆炎と共に

苛められっ子、児玉勇太。彼はその名に似合わず勇気も無ければ図太い神経も持ち合わせてはいなかった。今日も母の財布から抜いたお金を不良共のために懐に忍ばせる。だがそんな日の朝、その彼に悲惨な人生の最期において運命の転機が訪れようとしていた。


異世界転生物ファンタジー戦記。開幕します。エタらないように頑張って書きますんで宜しくお願いします。

 児玉勇太(こだまゆうた)は高校二年生の男子だ。どうしていきなりこんな人物の自己紹介を始めているのか。それにはれっきとした訳がある。彼がこれから関わるであろう数多の数奇な運命の話をする前に、まず彼の奇矯なる話をしなければならないのだ。読者様には、とりあえずお付き合い願いたい。


 勇太はその朝、お金を用意していた。彼がこっそりと──バレていたのかもしれないが──母の財布から抜いたお金だ。勇太が不良に渡す金勇太はになる。母親からは叱られるだろう。それもきつく。だがこればかりは仕方が無い。お金を盗む事。不良どもにお金を渡す事。それは悪である。悪ではあるが、仕方のない事なのだ。勇太は言い訳がましく自分で自分の心を慰める。彼の心は灰色だ。だけど勇太は判っている。全ては言い訳なのだ。だが勇太に何が出来るだろう。勇太は教室の連中からは白い目で見られていた。女子からは毎日のように笑われている。先生からも陰湿な虐めを無視されていた。勇太は彼らを呪う。だが、その呪いは彼らに届かない。だから勇太はこの世界が嫌いだ。大嫌いだった。


 勇太の足は自然と早足になっていた。何もかも早く終わらせたい。その思いからだ。この嫌なお使いも。陰気で灰色の通学も。むしろ勇太は自身の人生すらも、早く終わらせたいと彼は願っていた。

 彼の親は名付けたのだ。勇太に『勇気ある人たれ』と。『強く太く生きよ』と。

 だが。現実は勇太に厳しく圧し掛かる。


 ──そんなある日、勇太に人生最大の転機が訪れた。


 それは突然の事だ。強い脇腹への衝撃と共に勇太の体が宙に浮く。ある朝の通学路。勇太にとっては冴えない朝の通学路での出来事だ。勇太の憧れの女の子、もちろん会話すらした事のないクラスメイトであり高嶺の花、学年一の美少女と名高い結城叶(ゆうきかなえ)と勇太がすれ違った時にそれは起きた。


「危ない児玉君!」


 勇太はそんな結城叶の声をまじかに聞く。勇太は確かに結城叶のサラリとした長い黒髪を見る。いつも遠目でしか見る事の許されなかった麗しい黒髪のストレートだ。それに彼女の手から零れる沢山の赤と青の飴玉を目にする。それはキラキラと輝いて。なぜか刹那の一瞬、それが勇太の目に焼きつく。


 勇太は今更ながらに驚いた。結城叶がいきなり勇太を道路に突き飛ばした。クラスで見せる優しい笑みを今は必死の形相に変えて。いや、違う……。雄太は思う。結城叶は勇太を突き飛ばしてなどいない。むしろありえない事態に勇太は困惑する。なぜか勇太は結城叶から、その体をきつく抱き締められていていた。それは結城叶の自身の身を挺した体当たりに近い。

 

 暗転する視界。勇太の全身を激しい痛みが襲う。続くブレーキ音と轟音、たちまち匂う油の匂い、世界を切り裂く誰かの長い長い悲鳴。


「車が歩道に!」

「学生が何人か撥ねられたぞ!」

「救急車だ、救急車……」

「そんな事より逃げろ! ガソリンが漏れてる!」


 勇太はなんとなく理解する。理解したくは無い。だが失われつつある勇太の理性が事実を冷酷に告げていつ。赤いものがベロリと見えた。白い筋。ぐしゃっと滴る見てはいけないものだ。勇太はその現実を信じたくない。だけど、勇太は信じるしかない。


『結城さん──』


 勇太は声を出そうとするも声が出ない。それに勇太の体もまた動かなかった。勇太の憧れだった黒髪の少女はしっかりと勇太を捕らえて離さないのに。その柔らかな胸の谷間を楽しむ余裕もある。だが、世は無常と言えた。


 轟!


 爆音と共に炎が舞う。

 勇太の五体は千切れ飛ぶ。痛みなど感じる暇も無い。住宅街に爆発音が轟く。重なる悲鳴。勇太は結城叶もろとも炎に消える。


 ピーポーピーポー、ピーポーピーポー、ウゥーウ……


 勇太が救急車の白い車体と赤色灯を目にし、その音を聴くことは今生では最早、永遠にありえなかった。


 ◇


「ぎゃぁああああああ!」


 勇太は粗末な小屋の中で悲鳴を上げる。熱い! 痛い! 苦しい! 誰か助けて!! と。

 勇太は思い出す。熱い、痛い、苦しい!! 誰か! 結城さん!! と。

 最早炎に巻かれ、見る影も無く無残な姿を晒していたクラスメイトに助けを求めて力の限り呻く。


「ぎゃぁああああああ!」

「おお、元気な男の子じゃて」


 おかしい。勇太にとって何もかもがおかしい。白髪の老婆の大きな顔が視界を埋め尽くしている。その木製の小屋らしき場所で、白髪の老婆が勇太を腕に抱えているのだ。巨人か何かなのだろうか。皺くちゃな老婆。勇太にはもちろん見覚えの無い人物だ。老婆は軽々と勇太を抱え上げ、そのまま老婆の傍にいた中年の女に渡す。今度はこれまた見知らぬ女の腕に抱かれる勇太。老婆と同様、女の顔も体もとてつもなく大きい。勇太は暴れる。力の限り暴れた。勇太は困惑の度合いを強める。この事態、誰が平静でいられようか。


「本当。元気な男の子」


 暴れる勇太をものともせず、女は勇太を湯船に浸し、手ぬぐいで血を拭う。赤い血が湯船を染め上げる。その女の力は鬼のような強力……いや、勇太が自身の体を上手く操れなかったのだ。考えてみれば当然だ。勇太の体は全身を強く打ち、さらに爆発四散したはずなのだから。だが、これは一体どういうことなのだろう。これが死後の世界と言うものなのだろうか。彼は思う。思いながらも勇太は、もう一度周囲を見回そうとして己を包む温い液体に目を向けてしまう。それは木製の桶に漂う赤い液体……。


 ──赤。赤い血。


「ぎゃぁああああああ!」


 それを見た勇太はまたも悲鳴を上げる。まさに火のついたように鳴き声をあげた。頭に響くブレーキ音。心に焼きついた高嶺の花、結城叶の無残な屍の幻視する。たちまち勇太の心は赤に染まった。


「ぎゃぁああああああ!」

「これは……?」


 勇太は手に違和感がるのを知る。勇太は何だか硬いものを手に握り締めている自分に気付く。なんだろうと思いつつも、勇太は体の操作がおぼつかない。それは自分の体だというのに。そんな勇太戸惑いも知らず、女は勇太の手を開く。勇太がその手に硬く握り締めていたもの。それは赤く輝く宝石だった。


「お婆様、これは……この赤く輝くものは……宝石?」

「このような事、初めてじゃ……」


 老婆──産婆──の驚愕をよそに小屋の入り口らしき、むしろが巻かれる。勇太は見た。見知らぬ大男だ。しかもその男、これまた巨人だ。NHKの大河ドラマでしか見た事のないようなボロを着ている。明らかに農民としかみえない。


「婆さんすまないがこっちにも来てくれ! ミノリが……イオリさん所の嫁が急に産気づいた!」

「なんじゃと!?」


 勇太を取り上げた老婆はむしろの奥へ走って去る。今にして思えば、老婆の姿も勇太を抱える女の着ている服もやけに時代がかっているボロではないか。これはもしかして……助かった? 勇太は悟る。勇太は世界に一筋の光明が見えた気がする。そして天啓のように閃く。老婆や中年女、大男が巨人なわけではない。勇太自身が小さくなった……赤子となっているのだと。


 勇太は叫ぶのを止める。痛くない。熱くない。苦しくもない。むしろ、ほど良い温度のお湯が気持ち良い──。


 勇太は笑う。

 生きている。俺は生きているんだ。


「おぎゃぁあああああ!」


 俺は生きているぞ!! 勇太はどことなく見知らぬ小屋の中で、これまた見知らぬ人々の温かい目に囲まれながら心の限り叫ぶ。


「おぎゃぁあああああ!」


 勇太は叫ぶ。喜びの声を何度も叫ぶ。

 転生だ。勇太は自覚する。俺は転生を果たしたのだと。あのクソッタレな世界とおさらばしたのだ。

 後はこの新しき新天地が彼にとってバラ色だと祈るだけだ。

 とはいえ、勇太は思う。例えバラ色でなくとも、この俺がバラ色に変えてみせる。俺には記憶が、知識があるのだ。これは大きなアドバンテージ。俺は絶対にこの世界で幸せになってやる。今度こそ、今度こそだ!


 それから間もなく。勇太は遠くで赤子の産声を耳にする。勇太にはそれが誰の産声なのか、なんとなく判った気がした。

つたない点、至らぬ点など色々あると思います。構わずご指摘下さい。反応があると作者が喜びます。

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