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アフター・ウォー  ー世界に背きし黒き神ー  作者: 椋木弓
第一章 拳は掌に敵わない ―黒の闘神編―
7/34

看破

「トーリ!こっちを手伝ってくれ!」


「りょーかい。」


トーリはダンに呼ばれ、来たる盗賊団アジトの一斉検挙に備え、武器の補充やら薬品の整理を手伝っていた。これも立派な下っ端の働きであり、主な役目なのだ。


「いくら強くても新人は新人だからな。」


「わかってますよ、先輩方。」


まあ、今更外で素振り等の基礎訓練を行うよりはいくらかマシな仕事ではあるし、こんな仕事もなかなか新鮮で少し楽しくなっていた。


「なら口ではなく手を動かしなさい。」


シエルは相変わらず機嫌悪そうに男二人を叱りつける。


「あ、はい。」


思わず固い返事を返してしまう。


「ふんっ。」


それにしてもなぜ彼女は自分にあんなに当たりがきついのだろうか。そんな怒らせるようなことをしたのだろうかと頭を捻っても答えには行きつかなかった。そうでなくてもルナにはあんなに優しいのに。


「ルーシー?喉乾いてない?飲み物ここに置いておくわね。」


「あ、ありがとう…。」


女子同士の会話が聞こえてくる。ルナの方は心なしか、しおらしい声を出している。まあ、無理もあるまい。彼女は同年代の女子とはほとんど喋ったことなんてなかったのだから、どんな態度をとっていいのか迷っているのだろう。しかし、シエルを見ていると誰かに似ている気がしてくる。


「先輩、シエルっていつもあんな感じなのか。」


「ダンでいい。先輩ってなんか言い慣れてなさそうだしな。」


「そうか。なら、ダン。シエルっていつもあんな感じなのか。」


「順応性早いな、お前。まあ、いいけどよ。そうだな。俺には特に厳しいな。あと、お前にもな。」


「俺、なんかしたかな。」


「それはわからん。」


話し声を聞きつけすぐさまシエルが戻ってきた。


「そこっ、口を慎め!」


「なあ、聞きたいことがあるんだが。」


「なんだ。」


「なんでそんな当たりが強いんだ?もしかして男嫌いってやつか?」


トーリの言葉に、ダンは何を言い出すんだという顔を向ける。トーリ自身、基本的にルナといることが多く、それ以外に近しい年代の女性と関わった事がなかったため上手く距離感をつかめずにいた結果だ。


「ああ、嫌いだとも。見ているだけで気分が悪くなる。」


シエルは即答。ここまできっぱり相対した者に嫌いと言えるのはすごいことなのかもしれない、がそうなるとトーリの頭には一つの疑問が浮かんでくる。


「じゃあ、ルクルスはいいのか?『でもでもルクルス様はー』って…。」


「な、何を言い出すんだ貴様!」


トーリは驚いた。シエルはこの瞬間、今までになかった顔を見せたのだ。顔を真っ赤に染めあげ、口をパクパクしている。そしてまた、彼女も同様に驚いていた。あのとき誰かに聞かれるほど大きな声は出していないのになぜ、トーリはそのことを知っているのかと。


「だ、なんで、くっ…。

そ、そうだ。あの人は特別だっ。

人として尊敬に値するお人なのだっ。」


「そ、そうなのか…。」


「そうだ。」


そういうとぷいっとそっぽを向いてしまい、歩き去ってしまった。


「女性というのは難しいものなのだな。」


「お前…。なんかすごいな。」


呆れて何も言えなくなったダンとトーリは、以降一言も発することなく作業を続けることになった。



気づけば日が落ちるころ。戦闘訓練が終わった団員たちが次から次へとぞろぞろ帰ってきた。そうかと思えば、素早く身支度を終わらせると順次家路につく者が多く、しばらくの間、本拠地内は土や男たちの汗の臭い、愚痴や笑い声などで騒がしく居心地の悪いものになった。しかし、彼らの中には「お疲れさま」と声をかけて帰る者もいて、言い表しようもなく落ち着かない気持ちにもなってしまった。そうして、ひと際大きな一群が帰っていくと本拠地内には数えられるほどの人しか残っていなかった。その中でも目についたのは幼い少女。なぜ傭兵団に幼女が、というのは当然の疑問だろう。


「ダン。彼女は?」


「ああ、彼女ね。後方支援のリンだ。」


彼女、で通じるくらいにはダンもリンと呼ばれる少女がこの場にいるという違和感は自覚しているのだろう。彼女が肩にはタキシードを着て口ひげを生やした小さな紳士が座っていた。小人、というわけではなく細い枝のような木でできた人形だ。


「リン、あれを見せてやってくれないか。」


ダンがそういうと、リンはこくっとうなずいて目を閉じると肩に座っていた紳士人形が机に飛び乗り、奇妙なダンスを始めた。鶏の真似のように手を腰に、頭の位置を動かさずに歩いて見せたり、その頭をぐるぐるとまわして見せたりと様々な動きを再現していく。


「なるほど。『念動型』の魔法使いか。」


魔力には大きく分けて三つのタイプが存在すると言われている。精霊との契約などいわゆる属性が付与される「精霊型」、既存の物質、物体を動かすことのできる「念動型」、無の状態からあらゆる物質、物体を作り出す「創造型」である。どのタイプの魔法が使えるかは遺伝によるところが大きいと言われているが、詳しい解明には至っていない。特に三つ目なんかはほとんど生まれることはないとされている。何千、何万年とある歴史の中で片手で数えるほどしか報告されていないのだ。現段階では「念動型」「精霊型」のみが研究対象とされている。そしてほとんどの人が何れか一つを潜在的に持っているとされているが、そもそも魔力自体が発現する確率自体が極めて低く、故に魔法を使える者は国にも重宝されている。ちなみに先のオルゴの強化系魔法は「念動型」の初期段階に属している。


「しかし、これほど繊細に念動型を使えるやつはそうはいないだろうな…。」


人形紳士の見事なダンスに拍手を送るとリンは恥ずかしそうに両膝をすり合わせ、俯いてしまった。


「じゃあ、そこの二人は?」


今のやり取りをずっと見ていた歳にしてルナと変わらなそうな男女を指し、ダンに尋ねた。二人の身長はルナとさして変わらない。子供のあどけなさを残す二人もリンほどではないが傭兵団には似つかわしくないように思える。


「ああ、兄のレッカ、妹のスイだ。一応双子な。」


「あんまり似てないな。」


トーリがそういうとレッカと呼ばれる少年はつかつかと目の前まで来た。握手でも求めてくるものだと思ったがどうやらそうではないらしい。

 

「新入りか…。ん?」


レッカがトーリをじっと観察するように見つめると、

何かを思い出したかのように目を見開いた。


「その黒服といい、お前まさかっ…。」



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