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アフター・ウォー  ー世界に背きし黒き神ー  作者: 椋木弓
第一章 拳は掌に敵わない ―黒の闘神編―
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転機

第1章は「二度読んで面白い」を目指しました。良ければ是非。

「せっかく住み慣れてきたってのに悪いな。久しぶりに手ごたえのありそうなやつがいてついはしゃいじまった。」


「昔を思い出した?」


「まあ、ちょっとだけな。」


「でも私はトーリと一緒だったらどこでもいいよ?」


昼下がり、二人は馬車に揺られていた。

先日ドゥーガと戦ったことで村人に正体を勘付かれた可能性があったため、もう何度目かの引っ越しをする羽目になったのだ。ルナに申し訳なさを感じつつも、なんとも思っていないような彼女の姿を見てその変わらなさに安堵した。しばらく黙って時間をつぶしていると薄暗い森に入り、何もないところで馬車が急に止まってしまった。


「どうした?」


気づけば馬の手綱を握っているはずの馭者が姿を消していたのだ。トーリはなんとなく悪い想像を働かせるとある考えに至った。


「この場合、連れ込まれたというのが妥当だろうな。全く、どいつもこいつもまっとうに働こうって意思はないのかね。」


トーリがそう呟くと予想通り周りの草むらから何人もの物騒な恰好をした連中がぞろぞろと姿を現した。馭者が山賊と手を結んでいたのだろう。どこにでもいるような山賊の中でもリーダー格らしき男が前へ出てくる。


「なあ、兄ちゃん。言いてぇことはわかるよなあ。」


「ピクニックのお誘いか?」


「ちげぇ!」


「違うのか…。ああ、わかった。道に迷ったんだな。それならそこの獣道をまっすぐ行けば崖があるんだが、そこからダイブすればまっすぐあの世にいけるぜ。来世では道を踏み外すなよ?」


「てめえ、いい加減にしろよ!ふざけてんのか!」


トーリが親切にも(ちゃっかり自殺への)道を教えてやったにもかかわらず、山賊のリーダーは短気を起こしてしまったので、トーリは仕方なくそいつのユーモアの通じなさに憐れみを抱きながら本題に入ってやった。


「あぁ、はいはい、金ならもってねえぞ?」


「そんな嘘が通じるわきゃねえだろ。

命が惜しけりゃ金目のものは全部と…そうだな…。」


額に血管浮き上がらせながら下衆な笑みを浮かべるという器用さを見せながら、ルナをなめまわすように見ると次のセリフを続けた。


「その女を置いていけ。そうしたら命だけは助けてやるぜ。」


なんとも小者感あふれる言葉を吐く。


「俺たちにも後で貸してくださいよ、お頭。こんな上玉なかなかお目にかかれるもんじゃねえんで。」

「げへへ、今晩が楽しみだぜ。」

「どうせこの男、泣きながら命乞いでもするんだぜ。」


後のことを想像して楽し気に笑う取り巻き…。トーリは山賊の下品な言葉の中でも、ルナを侮辱する言葉にピクリと反応すると鬼の形相を見せ始めたのだが、彼らはそんなこと気にも留めない。


「貴様ら…。」


次の言葉を続けようとしたとき、ルナがその細い片腕で制止した。ルナを見るとその瞳には決して自分には向けられたくない、軽蔑と憎悪の感情がこもったその目はまっすぐに山賊をとらえていた。


「あら、あなた方も命乞いをするなら今しかないわよ。これ以上、私の機嫌を損ねない方が賢明…。とは言ってもこの言葉を理解する脳みそはどうやらあなた方の頭には入ってないようですし、残念ながら私はそんな生物を人間とは認めていません。すぐにでも私の視界から消えなさい。目障りよ。」


予想外すぎる言葉に山賊どもは言葉を失っており、山賊の頭首なんかはアホ面をさらしていた。彼女が本気で言っているかどうかはともかくとして、その意図はキレかかったトーリを落ち着けるところにあることをトーリ自身は自覚していた。彼女の「トーリにこれ以上人を殺して欲しくない」という想いが垣間見えた気がしたのだ。


「うぬぬ、ごめん。」


トーリは己の精神の脆さにを反省しながら呻いた。頭に血が上ってしまうと、自分でも抑えられなくなる

自分の性分を恨めしくさえ思ってしまう。


「いいよ。だって私のためでしょ?」


トーリに向けられたその声と表情からは全面的な信頼が見て取れる。


「ああ?ふざけてんのか、この女ああ。」


我に返りルナの言葉を思い出したのか山賊の中の一人が声を荒げてルナに迫っていった。その拍子にトーリの体は無意識かつ自然に動いた。啖呵を切って、ルナに乱暴に伸ばされた山賊の腕をトーリが掴むとまるでバットをもってフルスイングするようにその男を投げ飛ばした。


「よいしょー!」


「あ?んああああーっ。」


彼の体は木に強く叩きつけられてそのまま気を失った。


「彼女に指一本でも触れてみろ。

貴様らの腕ごと消し飛ばしてやる。」


仲間がやられるや否や集団は一斉にトーリに襲い掛かってきた。そのあとの光景はもう地獄絵図のようであった。頻繁に痛々しく骨の砕かれる音と男たちの悲鳴が飛び交い、地面はだんだんと彼らの倒れた体で埋め尽くされていった。集団の中心で暴れる黒服の男の姿はまさに闘神の姿そのまま。敵対するだけで相手の戦意をそぎ落とすその姿はかつて戦場で恐れられていたそれそのものだった。終わってみればあっけないもので、女性には刺激の強い惨状ではあったのだがルナはけろりとしていた、というよりは熱心にトーリばかりを見ていたものだから周りがどういう状況になっているかわかっていないようにも見える。

ほんの一分足らずだっただろうか、お頭と呼ばれる男以外を叩きのめすと、トーリは指をポキポキと鳴らしながらリーダー格の男のもとに歩み寄っていった。


「それでー?なーんて言ってたっけなあ?もう一回言ってくれないか。さっきはよく聞こえなかったんだが。」


「ひっ。」


リーダーらしき男は終始仲間がやられるのを見ていただけで最後の一人になったとき、ようやく自らが置かれている状況に気づいたようだ。一人で立ち向かっても勝てるわけないと判断したのか、血相を変えて後ずさる。腰でも抜けたのか依然と立ち上がろうとはしない。


「命が惜しければなんだって?」


「た、たすけてくれっ。」


「そうじゃあ、ないんだよ。なあ、わかってるんだろ?

命が惜しければー?」


「ひやああああああああ。」


彼はすぐさま全裸になってあろうことか背を向けて逃げ去ってしまった。逃げ足はというとトーリが驚くほど速く、その滑稽さに追撃する意思をそがれてしまった。


「まあ、一人くらいいいか。」


「相変わらず、かっこよしっ。」


「まあな。しかし…。」


視線を後方に向けるとトーリが山賊をぶん投げた先に馬車があったのだろう、木製の物は例外なく木っ端に成り代わっていた。いつの間にか馬もどこかへ走り去ってしまった後のことだった。


―お頭が脱いでいった服にはいくら金目の物があってもわずかでも触りたくないし。…汚らわしいので。


「が、これは…。」


トーリは生活に必要な物がすべて地面に転がり土まみれになっている光景を眺めながらほんの数か月ほど前のことを思い出していた。そして何かを決意したかのように頷くとその口を開いた。


「なあ、ルナ。」


「なんでしょう?」


彼女はきょとんとした表情で呼びかけに答える。


「俺たちは今、行く当てがない。」


「そうね。」


「そして家具もこの様だ。」


「…?そうね。」


何が言いたいのかわからないといったような顔でかわいらしく小首を傾げている。


「ちょうどいい機会だからこの前の

あいつの申し出を受けようかと思っている。」


「あー、うん?もしかしてあれ?」


「そう、あれ。」


「でも、ほんっっっとうに危なくない?」


「信じてないのか?」


トーリとルナは目を合わせると、そのまま数秒がたつ。

彼女の目はまっすぐにトーリの目を見つめ、

彼のすべてを見透かしたように笑った。


「いいよ。わかった。」


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