第六審 長い冬を終わらせての巻
「何って...告白のチャンスですよ。近い内にオレは彼女と結婚するオレは映姫様を嫁にする。」
「え?アンタ何て言ったの。今ちょっと聞こえなかったんだけど......」
小町さんは確実にショックを受けている顔だった。無理もないだろう。入って間もない新入りが上司と結婚すると言ったのだから。
「だから......結婚するって言ったんですよ。必ずや彼女を妻に迎えてみせるj」
「本気なの?アンタ、相手わかって言ってる?」
小町さんが真面目な顔つきになって言った。
「オレが何のためにこの世界に間違って送られてきたのかわかったのよ。映姫様に会うため、そして彼女をオレの物とするためだ」
小町さんは納得した様子で、
「そう、まあガンバって。アタイは応援するよ。アンタ最初に見た時からさ、普通の人間じゃないなっておもってたのさ。何か、アンタならやれそうな、そんな気がする」
「ありがとな。さあ、早く帰ろうぜ」
地獄の船は自分の夢を乗せ進んでいる。自分には夢がある。何としてでも叶える。強い意志を持って叶えなければならないのだ。
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「映姫様、ただ今帰りました」
地獄に戻ってくると映姫様が待っていた。
「茨戸。紅魔館での出来事、全て見ていました。最後の態度は少しいただけませんでしたが、戦闘センスかなりのものを感じました。素晴らしいです」
自分は生きている時に戦闘というものを経験したわけではない。漫画とかアニメの戦いの仕方を真似ただけなのだが。自分にとってファンタジーとかSFとかの能力は現実味がありとても参考になった。能力を持っている登場人物を映画なんかで見ると、きっと自分以外にも同じように能力をもっている人がいるに違いないとよく思ったものだ。まあ、今となっては能力がない方が珍しいのだが。
「今日のところは、休んでください。仕事はまた明日頼みます」
「じゃあ四季様、アタイも休んでいいですか?」
「小町......。あなたはまだ仕事が残っているでしょ?」
「は~い。じゃあ秀クンまたあとでね」
死神というと死ぬ直前の人に現れたりとか、寿命を貰う取引をするとかいうイメージだったが、今目の前にいるのはなんてことはない、サバサバした性格でそれも女性だ。小町さんも人間の命を刈り取ったりするのだろうか。まず彼女が鎌を持っているところを見たことがない。
「そういえば、茨戸。あなたの部屋を用意しておきました。付いて来てください」
「はい。わかりました」
しばらく映姫様に告白はしない。言おうと思えばいつでも言えるが、今の自分にはあるものが欠如している。それは信頼である。信頼というのは頭がいいかとか運動ができるとかよりも大事なものだと考えている。
例えば5人のチームがあるとする。その中に1人でも信用を得られない人間がいれば、そのチームの信用を失うのだ。濡れ衣を着せられた人間の信頼を回復するというのはとても骨が折れる。それだけ信頼というものは人々に強い影響力があるものなのだ。
映姫様に付いて行くといくつか部屋があった。
「え~っと、70......11ああ、ここです」
「7011ってことは、そんなにここで働いている人がいるんスか?」
「いえ、ここ以外の人もいるので3万人はいるんじゃないでしょうか」
ドアを開けると短い廊下があった。廊下を進むと、12畳ぐらいはあるだろう居間が広がっていた。居間は台所も繋がっているつくりで対面キッチンというやつだろうか。(畳の部屋にその言い方はないけど)
「何か質問はありますか?」
「別に無いっスね。ああそれと映姫様。考えて欲しい事がありまして」
「何ですか。私にできる範囲で考えますよ」
「いや、その何ていうかですね、オレの肩書きっつーんですか?それを考えて欲しいんでスよ」
映姫様は不意を突かれた様子で、
「肩書......ですか。どうしてまた肩書なんて欲しいんですか」
映姫様の一言で少し心が折られたが、こう言い返した。
「自分の自己紹介で使うんですよ。自分の仕事は日ごとに違うし、職業名っていうのが無いんで」
「はい、わかりました。え~と、そうですね.......」
「ああ、思い浮かばないならいいですよ。自分で考えますから」
少し謙虚な姿勢を見せるのも計画の内である。(当然告白の)
「閻魔の使い。Yama Messengerというのはどうです?」
「や、やま......めっせんじゃー......。いいんじゃあないですかァー?さすが映姫様」
「そ、そうですか?気に入ったのならいいです。それでは、私は仕事が残っているので」
そう言って、映姫様はそそくさと帰っていった。
時計を見ると3時過ぎぐらいになっていた。やはり、時計は狂っているらしい。見るたびに時間が変わっている。それともこの世界には、地獄という世界には時間というものがないのだろうか。やはりこの世界では常識は通用しないな、と思いつつ、かねてから考えていたことを実行した。
考えていたことというのは武器の改造である。そのために工具も貰ってきたのだ。ボーガンとハンマーをもらったが、このままでは弱すぎる。ハンマーの改造は限界があるが、ボーガンという武器はそうではない。改造次第で矢でも鉄球でもなんでも打ち出せる。銃弾も打ち出せるように発射口を組み替える。
他にも制服にも改造を施す。布製品は合成繊維以外の絹や綿は能力は使えない。無機物を仕込めるようにするのだ。そうすれば周りに何も無くても能力を使える。ついでに、腕時計も改造した。狂わないようにしさらに一つ策を仕組んでおいた。切り札になるほどではないが武器になるだろう。
部屋に置いてあった時計は正確に時を刻んであった。この世界には時間は無いわけではないが、現実の世界とは違うらしい。時計は2つの方が良さそうだ。
改造に時間がかかりもう11時になってしまった。さすがに眠くなってきたので眠ろうと布団を敷いた。自分はベットというものをあまり好いていない。床に寝るという方が性にあうのだろうか。
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起きるともう7時半であった。出勤時間というのはわからないのだが、まあ大丈夫だろう。制服のボタンを留めていると一つかけているのに気がついた。そういえば、昨日ヘビに変えていたなぁと思いだし予備の
ボタンを縫い付けた。裁縫は得意ではないのだが、母の見よう見まねでやってみた。母は裁縫が得意でよく自分にいろんな物を作ってくれた。
出勤すると映姫様が待っていた。
「おはようございます。映姫様」
普通の挨拶をしても面白くないのだが、朝というのはどうも調子がでない。かといって自分は夜型ではないのだが。
「さっそくですが、今日の仕事です」
仕事をすれば信頼は確実に大きくなる。信頼が大きくなれば夢に一つ近づける。そう考えて自分を奮い立たせた。
「あなた冬は好きですか?」
「冬~?世間話っスか?生まれが雪国なんで好きじゃないとやってられませんでしたね」
「今の時期の幻想郷はもう雪が溶けて春になる時期なんです。それなのに雪溶けどころか凍える寒さになっているんです」
「異常気象っていうやつっスか?それならオレにもどうしようもないっスよ」
映姫様が何やら地図を開いて、
「今、この幻想郷で一つだけ季節が春の場所があります。白玉楼間違いなくこの異変の元凶はそこにあります」
「つまり......そこにだけ春が集中し、周囲の春が来ない......ということですか」
イマイチしっくりこないが、何度も奇妙な能力や吸血鬼やらに襲われたせいか信用するしか無かった。
「よし、その元凶を倒せば冬が終わって春が戻ってくるんスね。じゃあ早く倒しに行ってきますよ」
映姫様はファイルを開き、写真を出した。
「おそらくこの女性がこの事件の元凶です。名前は西行寺幽々子。彼女には幽霊を統率できるので、冥界の幽霊の管理を頼んでいます。理由はあってのことでしょうが放ってはおけません。このままでは作物は枯れ、気候も狂い始めます」
受け取った写真には和服の女性が写っていた。
「こいつのやっていることをやめさせればいいんですね。ああ、それと一つ聞きたいんですけど」
「何ですか。まだ何か?」
「映姫様は季節で何が好きなんですか?」
「ふざけてないで早く行ってきてください。怒りますよ」
やはり映姫様は真面目でいい人だと思いつつ、幻想郷への扉を開けた。振り返って映姫様の顔を見ると心なしか心配したような顔であった。それは裁判官が罪人を見る目ではなく、親が自分の子を見るような目であった。
Barato,s WEAPON
●スレッジハンマー
・柄は長く、両端は圧力がかかるように細くなっているハンマー
・柄は木材だが先は金属(鋼鉄性)なので女性でも振りやすくなっている
●アイアンボーガン
・大きめの矢も発射できるボーガン セットは簡単だが威力は凄まじい
・発射口は改造されていて鉄球やライフル弾も打てることが可能
・射程は50m程(茨戸自身の目の悪さと腕前を考えると20m程が相等)
・矢は30本 鉄球は2個 ライフル弾は12発ずつ持ち歩いている