第三審 ナイフに能力を、人の話に耳を、の巻
Barato,sPROFILE
茨戸 秀 (15歳)
●さそり座 ●A型 ●学歴・・・中学校中退(中退理由:死亡)
●日本人の父とドイツ人(日本人とのハーフ)の母を持つ
●瞳の色・・・黒 ●趣味 漫画を見ること
●好きな映画・・・007 ●好きな色・・・灰色
●性格・・・軽い性格だが真面目な部分があり、自分の役割は
きちんと果たそうとする。
人の名前とかもちゃんと覚えてたりする。
考察や考えることが好きで、いつも考察する癖がある。
●好きな女性のタイプ・・・真面目で大人しい子が好きらしい
●能力・・・触れたものに生命を与える程度の能力
・一度も生きていない固体の物質(ちゃんとした形のあるもの)を植物や動物に変える事ができる。
・小さめの動物や植物なら一瞬で変えられる。逆に、大きい動物は時間がかかる。
・質量保存の法則があるので、生み出した生き物の重さは元の物質と同じ。
・生み出した生物の成長は自由(この場合質量はその生物そのものが成長し増えるので質量は変わる。)
・生み出した生物の寿命は自由にできる。(寿命が経つと元の物質に戻る。)
・生み出した生物に簡単な命令をすることができる。(口で言う必要はない。)
・怪我の治療はできるが、医学知識は無いので適当になる。
・生まれつき持っていた能力で、生前は誰にも能力のことを言っていなかった。
「さて、それではあなたの最初の仕事を言い渡します」
手続きはあっけなく終わり、すぐに仕事をすることになった。仕事をするのは制服でと言われて、地獄の制服というものを着させられた。その割には小町さんも映姫様もこの制服ではないのだが。まあ、映姫様は閻魔大王であるし特別なんだろうとか思ったが、小町さんの方は納得がいかない。
「茨戸、話を聞いているのですか」
部下となったのも関係なしに冷徹な視線を向ける。
「はい......すいませんでした」
「まったく、あなたという人は......生前人の話はしっかり聞くように言われなかったのですか?」
今にも説教が始まりそうだ。この人の話はまともでとてもためになるのだが、どうも説教が趣味みたいな部分があの人にはあるようだ。この人は、見た目は同い年ぐらいに見えるが実際はどのくらいなのだろうか。この地獄で何十年、何千年と生きてきたんだろうか(地獄で生きてきたというのも変だが)。
こう考えている間も説教を続けている映姫様を見て、とても残念に感じた。真面目で冷静で割りと好みの女性だからだ。生前自分の周りにいた女の子というのは、ケバケバした感じの服を着たりだとか、派手なメイクをして褒めてもらおうとしたりとか、わけのわからん言葉を使って注目を浴びようとか、イケメンを見てキャ~キャ~騒ぎ立てたりする奴らばかりで、とても好きになれる人はいなかった。自分は昼休みとかに本を読みふけっていたりする大人しい子が良いとよく思った。確かに映姫様は口うるさいところがあるかもしれないが、綺麗な宝石のような目をしていて整った顔である。短めの髪もみずみずしい植物のような緑色をしていて、とても可愛らしい女の子だと思う。
「まあ、まあそんなことより初仕事っスよ!はやく命令を!」
「ああ、はい。コホン。最初の仕事は紅魔館の主に会ってもらいます」
「こーまかん......はい。それで、その主っつーのは何つー名前なんスか?」
「レミリア・スカーレット。通称スカーレットデビル」
仏教の塊のような閻魔が英語を使っているとすこし変に感じた。幻想郷には外人も住んでいるのか。
「紅い悪魔ってことっスか。悪魔にこんにちは~とでもしろっつーんですか」
「彼女は悪魔などではありません。むしろ悪魔を従える事ができる種族です」
自分はすこし恐怖を感じながら聞いた。
「じゃあ、何者なんスか?」
「吸血鬼です」
「吸血鬼!オイオイオイ、そんなバケモノがいるんスか!幻想郷ってのは!」
自分の言葉を受け流し映姫様は続けた。
「彼女へ挨拶をしてもらうだけです。あそこには、図書館があり、そこが使えればとても役に立ちます」
「図書館スかァ~?オレ活字とかニガテなんだよネ」
「別に文学に励みなさいを言っているのではありません。異変が起こった際に便利だから使う許可をもらうだけです。これが地図です。戦わざるをえない場合もありますがそこは臨機応変に対応してください」
「は~わかりました。それじゃいって参ります!」
幻想郷へ行くにはドアを通るだけでいい。ドアと言っても昔の戸といったようなものだが。行き先は一つのドアに一つだけである。ドアはいくつもあってみんな違う場所に通じている。こういうドアがあるということは、自分のような職業の人が前にもいたんだろうか。戸に手を掛けてみると、しばらく使われなかったようであったが、新品のような感じであった。
引き戸をずらすとそこには、赤いレンガで作られた屋敷があった。中央には時計台があり今の時を刻んでいる。1時48分くらいでまだ日も高い。できれば吸血鬼の出る夜になる前に帰りたいと思う。時計台というと故郷を思い出す。たしか生まれた街に時計台があって、12時なると、大きな鐘を鳴らしていた。
「さてと......はやく挨拶して帰ろう。もう一回死ぬなんてのはゴメンだぜ」
大きな塀が建っていて入るところは正面の門しかなく、近くには湖があり敵の侵入を防ぐようなつくりで、おまけに霧まで立ち込めている。
門の前に来てみると、一人門番らしき人物が立っていた。小町さんと同じような赤い髪で背の高い女性である。しかし、どうしたことかこの女性も寝ているのである。服装や肌の色顔立ちから判断すると東アジアの中国人らしい雰囲気である。中国語を喋れるとか喋れない以前にこの門の先に通してくれるとは思えない。よく考えてみると自分は侵入しようとするものであり、それを防ぐのが門番である(だろうと思う)彼女の役割だろう。
「よし、じゃあ起こさないように入るしかないな」
門から離れ自分は石を探した。砂利ぐらいの大きさでいい。見つかりさえすれば塀を越えられる。別に石じゃなくてもいいのだが、生命を与えやすいのだ。
「これで......いいか。形が悪いだのとか言ってらんねぇからな」
石を木の種に変えた。自分のこの能力を見るたびに命とは何なのかということを考える。今のように、命を軽々しく生み出して良いのだろうか。生前は誰にもこの能力の事を誰にも喋らなかった。友達は当然、親にも兄弟にも教えることも無かった。生まれてから隠し続けてきたこの能力を人の(閻魔の)ために使うなどとは考えもしなかった。
自分が生み出した生物は生死や成長を自由にできる。植物ならすぐに花や樹木にできる。これを利用して塀を登ろうという訳だ。種をすぐに成長させ木にし、枝に足を掛けて登った。塀の上に上がると広い中庭があった。
「間抜けだった。降りる方法を考えてなかったぜ。この高さ......ゆうに4、5メートルはあるか。飛び降りたら、粉砕骨折ほぼ確定だぜ。このまま塀の上を歩いて行くしか方法はなさそうだな」
塀の上と屋敷の奥は繋がっている。裏庭は無いのから多分そうだろう。今思うと他にも侵入の方法はあったのではないかと思う。思いついただけでも、レンガの一つをカエルに変える(洒落を言いたいわけではない)案か、穴を掘って入る案が出てきた。正面玄関から入らないなんてのは、もうお客ではなく侵入者である。誤解を招くなんてのは確実だろう。
やっとの事で屋敷の屋根に着いた。困ったのはどうやって屋根から入るかである。もう客人ではなくなっているので割りきってしまおうか。窓を割って入るかとう言うのも考えたのだが、流石に映姫様に怒られそうでやめた。
結局のところ屋根を伝って歩いて、時計台の文字盤のところに行くことにした。故郷の時計台には文字盤のところに扉があり、中に入れるようになっている。ここも例外ではないはずだ。
着いてみると扉とたくさんのナイフがあった。置いてあるというのではなく屋根や文字盤に刺さっているのだ。手にとって見ると、軽いが切れ味は良さそうである。
「ナイフ......か?しかもリンゴの皮を剥くとかに使う形じゃあないぞ。投げたり、手に持って使う戦闘用の形状だ。いったい何が?」
振り向くとビュッという音とともにナイフが飛んできた。さっきのナイフと同じ種類である。
「何ィー!どこから投げてきたんだ?屋根かッ?」
「今のナイフは警告です。今すぐここから立ち去りなさい」
自分の背後にいつの間にかメイド服を着た銀髪の女性が立っていた。手の指と指の間にナイフの持ち手を鋏持っている。
「いや、あんたたちを攻撃しようとかじゃあなくて、ただレミリア・スカーレットさんに会いに来たんだ。あんたここの人間か?」
「お嬢様は招かれざる客は喜びません。帰る気がないならここで殺します」
ナイフの束が飛んできた。かろうじて避けきれたが、全く想定外だった。まさか吸血鬼に殺されると思っていたのが、人間に殺されようとしているとは。
「いや、確かに招かれたもらったわけじゃあないんだがね。上司の命令なんだ。会わないと自分が説教されてしまうんだ......。だからな、良いだろう?」
女は口も聞かずにナイフを飛ばしてくる。結局、屋根を飛び降りる事になったが、落下中さっき拾っていたナイフを地面に投げそれを、木に変えた。多少のクッションにはなったがやはり、生身の人間には響く。女は高低差なんてのは気にせずに飛び降りてきた。その間絶え間なくナイフが突っ込んでくる。
「確かさっきの門、金属だったはずだ。それならッ!」
門を開ける必要はない。一度も生きてない無機物ならば能力を使える。命を与えるのは一瞬だ。
「この門をツル植物に変えた。二秒も経てばもとの門に戻るだろうぜ」
ツルで絡まりながらも通り抜けることができた。あいつは、門をわざわざ開けなくてはならない。時間稼ぎ程度にはなるはずである。
なんとか湖のほとりには逃げてこれたが、あの女はなんとしてでも追ってくるだろう。何か対策を考えなくては。
「やはりこの霧のせいで自分の位置がわかりにくくなっているようだ」自分も相手の位置は掴めないが、ナイフさえ避けてしまえば、直接的戦闘能力は男女の差があり勝てる見込みはある。
「気がかりなのは奴の能力だ。最初にナイフを投げたのもあいつなら、どうやって自分の背後に回りこんだんだ?ナイフ使いが何人もいないと出来ないはずだ。でも、追ってきていたメイドはたった一人。あれを一人でやるなんて普通じゃない!奴の能力を理解しなければ......勝てない」
考えていると突然左手が地面に叩きつけられた。まさかもう追いついてきたのか。左手を見てみるとさっきまで投げられていたナイフと同じものが手の甲に突き刺さり手のひらにまで貫いていた。
「うわああああ......うおおお畜生、一体どうやったんだッ!」
顔を上げると目の前に今まで投げてきた三倍はあるナイフの束が飛んできた。
「野郎、慈悲も全く無え!動けなくしてから、オレを仕留める気だッ!」
地面を必死になって見た。石つぶてを右手でいくつか拾い、カエルに変えてナイフに向かって投げた。
何発かのナイフはカエルで防げたが何本かのナイフが体を刺した。脚に2本、肩と腹に1本。かっこわるいが、カエルで防いでなかったらと思うとゾッとした。
「この左手のナイフを...引き抜かなくては......」
「また逃げると面倒なので動けなくしました。」
また一瞬のうちに現れた。左手のナイフを上から脚で押さえている。
「おい、おねえちゃん。その足どけてくれないかな?オレはこのナイフを抜かなくてはならないんだよ......」
メイドはあざ笑いながらナイフをさらに深く突き刺した。
「ダメです。あなたはここで殺します」
「そいつはゴメンだ!早くその足どけやがれッ!」
女は何も言わずナイフをもっと地面に突き刺した。
「なるほどね。それならこっちにも考えがあんのよ。オレはもうナイフを抜かねえ。左手をこのまま!自由になる作戦よッ!」
女は呆れた顔で自分を見下ろす。
「恐怖で気でも違ったんですか。あなたの手は私の靴の下ですよ」
自分は肩に刺さったナイフを引き抜き、それで手首を掻っ切った。耐え難い激痛と出血が手首を襲った。涙が溢れてくる。
「なるほど。手だけにそういう手がありましたか。しかし片手を失って不利になったのはあなたの方ではないのですか」
「あんた何もわかってねえようだな......。今なぜオレが手首を切り落としたのかの2つの理由がな」
「......2つ?」
「一つは自由の身になるため。もう一つは、これからあんたを倒すのに片手で十分だからさ......」
女は笑いながら自分を追ってくる。
「あなたのその覚悟。とても感心しました。ですが、さきほどの攻撃で足を刺されて歩けず、地面に這いつくばってまで逃げようとするその無様な姿。さっきまでの威勢の良さはどこへ言ったのですか?」
自分は今逃げることしか出来ない。圧倒的に力が違いすぎる。この足で逃げられるのは15mくらいだろうしスピードも勝てない。
しかし今、自分は生きるために逃げているのではない。あの女に勝つために逃げているのだ。
「う...ぐあ......。もう限界だ...。出血が多...すぎ...る」
後から女が手にナイフを持って付いてきて来ていた。
「さて、鬼ごっこは終わりですか?」
自分は笑顔で女に言い放った。
「ああ...終わりだな。あんたを倒してゲームは終了だ」
女は呆れた顔で言った。
「あなた...瀕死の重傷でよくそんなことが言えますね...。」
自分は大きく息を吸い込んだ。
「あんたはまだ自分が負けたことがわからない?さっきオレが左手を切り落としたとき、もう勝負はついてたのよ」
「ハッタリはもう結構。もうその口が二度ときけないようにしてあげます。」
女がナイフを自分の首に刺そうとした。
「今オレを殺したら、二人共ここで死ぬぜ。それでもいいのかい?」
表情には出さなかったが女はいらついているようであった。
「良いでしょう。あんたの口がきけなくなるのも時間の問題。それまで話しに付き合ってあげましょう」
内心ホッとしつつ、話を続けた。
「あんた、オレの能力を理解してるか?」
「物を生き物に変える程度の能力かしら?」
なんだかんだ言いながら、女は話に乗ってきた。
「無機物をが無いが、良いだろう。十分だ。それと、あんた理科は好きか?特に物理科は?」
「この世界には法則や定理は無意味なので」
涼しげな顔で女は言う。
「『質量保存の法則』ってあるよなぁ。形や見た目を変えても重さはそのままなんだ」
「それが?どうかしたんですか」
「オレが生み出す生き物も例外じゃあねえんだ。さっき門を植物に変えたがツルの一本一本が重かった」
白い目で女は聞く。
「それが、何の関係があるんですか?」
「今、言ったこの2つ。この2つで今からあんたを倒すのよ」
女は強い口調で、
「あなたは今、土の上に仰向けになっているのです。できるわけがないでしょう」
「まーだわかんないの?最後のヒントだ。左の手首から流れている血の流れの先に何がある?能力の話に戻るが、この能力を使うにはオレの体が直接触れないといけない。そして、血は自分の体の一部分なのよ!」
女は懐中時計を見ている。
「あなたが左手を切り落としてから1分近く経ちました。もうあなたの命はありません」
自分は喜びながら、
「もうそんなに経ったか。じゃあ......あんたの負けだ」
ドゴォと音を立て小さな鳥が女の背中に激突した。鳥はなおそのまま前に進もうとしている。
「何...この鳥は......。」
「やっぱり話を聞いておくべきだったなぁ。その鳥はさっきまで、オレの左手に刺さっていたナイフよ。 手首の血の流れを通じて生命を与えておいた。ナイフの重さはそのまま、鳥はツバメぐらいの大きさのものでも40km/hで飛ぶ。死にはしないが、意識を保てるかな!間抜けッ!」
「こ、こいつ...」
女はその場に倒れこんだ。自分は女の持っていた懐中時計を見ながら立ち上がった。2時10分。この世界に来た途端にこんな戦いになるとは思わなかった。女はまだ息はある。殺しても良かったが、そうなると映姫様がうるさい。自分は治療を行うために立ち上がった。霧はすこし薄くなっていたようであった。