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東方創生判  作者: オリーブ油
彼岸編
2/38

第二審 かわいい裁判官のお誘いの巻

「......勝手にはいりますけど構いませんねー!」

 閻魔がいるという建物、いや砦とか言ったほうがいいのか。どんどん中に入っていった。中は暗くとても良い雰囲気とは言えないものである。蝋燭が点々と置いてありいかにも死後の世界という感じである。常識が麻痺して気にも留めなかったが、人類の語る死後の世界というのは本当にあったことに気が付いた。この事を生きている人々に伝えられるはずはないが今もこの謎を研究している学者たちが必死になって解き明かそうとしているのを考えると少し優越感を覚えた。 しかし歩けども、歩けども長い廊下が続くばかりで、閻魔大王の影も形も見えない。それらしい部屋も見えてこない。死神が騙したのではないかと少しばかりあの女の子を疑ったが、とてもそんなことをするような子には見えなかったし、何よりあの子は話が面白かったというだけで金を要らないと言ったのだ。そんな優しい子を疑ってしまった自分が憎い。

「だれですか?神聖な裁きの場をうろついているのは?」

 不意に背後から声が聞こえた。振り向くとそこには自分と背の高さが同じぐらいの少女が立っていた。艶やかな緑色の髪をしていて手には平安時代の貴族のような笏を持っている。

「いや、あのですね......そう、裁き!裁きを受けに来たんスよ」

 少女は疑いの眼差しを私に向けながら、

「そうですか......それなら私に付いてきてください。法廷はこっちです」

「あ、はい(何だぁこの女?今の冷ややかな目つきといい、そっけない態度はまるで機械だぜ。ちょっと可愛い顔してるだけなおさら、腹が立つネ。)

 少女に付いて行くとさっき何もなかったと思ったところにもはや門というべき扉があった。

「裁きはこの部屋で行います。えっとあなた名前は?」

「え?ああ、茨戸秀です。茨の戸って書きます。秀は優秀の秀です」

 自分の名前を聞かれたら言い方は違えどこんな風に言うようにしている。生前、何かで苗字には意味がありその人の住む場所や身分などを表しているらしい。茨戸にもきっと由来があったのだろうが全く見当がつかない。茨というのはバラのことだとか戸は何かの比喩だとかたまに考えることはあったが答えは出なかった。姓について考えていると、少女の口が開いた。

「さて、それではこの私四季映姫(しきえいき)があなたが天国へ行くべきかの裁きを行います」

 少女はそう言うと扉の奥にある法廷の裁判官席に向かっていった。

「え?何だ?今なんて言ったんだ?誰が裁くって?」

少女は呆れ顔で、

「同じことを何度も言わせないでください。閻魔である私があなたの前世の行いを裁くと言ったのです」

「にゃんだとーッ!じゃあ、あんたが地獄の閻魔大王なのかァーッ!」

 自分が驚いているのをよそに少女は古めかしい本を開いて掲げた。

「これは、閻魔帳といってここへくるもの、つまりは死者の前世の様子が書かれています。たしか名前は、茨戸と言いましたね」

 今、この少女はよく出来た閻魔だと思った。微塵も自分を警戒させず、名前を聞き出し、一つの無駄もなく裁判を行おうとしているのだから。きっと彼女は生真面目な性格なのであろう。この建物に入ってからまだほんの3分ほどしか経っていない。だがこの裁判が終わるのにその半分の時間もかからないだろう。

「......え、いや、そんなはずは......」

 少女の顔つきが変わった。さっきまで全てを計算して行動している顔つきであったが、今はまるで、親を見失った子供のように慌てている顔だ。すると、少女が目を見開き、

「あなたは本当に死んだのですか?」

 自分が答えようとしたときに、後ろから声が聞こえた。さっきの死神もとい小町さんである。

「その人はマジに死んでますよ。さっき話聞きましたから」

 さっきまでの自分に対する態度より真面目に喋った。

「じゃあ、なぜ彼の名前が閻魔帳に載っていないのです!」

 小町さんは困った様子であった。

「アタイは何も知りませんてば!」

「閻魔帳には幻想郷(げんそうきょう)で死んだ生き物の名前がすべて載っているのです。例外はありません」

「ゲンソーキョー......?あんたらいったい何を話してんだ?」

 2人共目を丸くして自分を見た。

「え?アンタこの世界の人間じゃないのかい?」

 小町さんが詰め寄る。

「やめなさい、小町。すこし本部に問い合わせてきます」

 そう言うと、少女の閻魔は法廷を出て行った。

「なあ、小町さん。あんたらが話してた幻想郷ってのは何だ?」

 状況が飲み込めない自分には頼る人は小町さんしかいなかった。

「幻想郷ってのは人々から忘れ去られたものが集まる世界。アタイはこの世界の生まれだからわからないけどさ。」

「つまり......ここは、オレの生まれた世界と違う世界ってことか?」

 そう言った瞬間に少女の閻魔が帰って来た。なにやら書類を手に持っている。

「本部に問い合わせて見てわかりました。外の世界の人間が一人彼岸に来ていないことがわかりました」

「つまりあなたのことです。何の因果かこちらの世界に流れ着いたということでしょうか」

 少女の閻魔は鋭い眼差しで書類を見つめている。

「じゃあ、オレを外の世界の彼岸に連れてってくださいよ。これ以上あんたらに迷惑はかけませんからね」

 そういうと、2人共顔を見合わせてしまった。何かいけないことでもいっただろうか。

「......一度あの世に来た生き物はこの世には戻れないんだよ。違う彼岸に行くにはあの川を渡らなくてはならないんだ。つまり......アタイらはどうすることもできないんだ」

 小町さんはさっきまでの明るい表情とは明らかに違う、助けられない乞食を見るようなやるせない表情だった。

「じゃあ、この際違う世界の地獄だっていいさ。あんた閻魔なんだろ?早く判決を出してくれよ!」

 少女の閻魔も同じで、苦渋の表情を浮かべている。裁判官は情に流されてはいけないのだろうが自分の立場を思いやる女性が持つ母性が勝っていたようであった。

「......私はこの世界の閻魔です。違う世界の死者は裁けない決まりになっているのです」

 自分は声を大にして叫んだ。

「じゃあ......オレはこれからどうすればいいんだァーッ!」

 静まり返っていた。誰も声を上げなかった。重い空気が自分にのしかかり、その重さがすべてを物語っていた。永遠にも感じる静寂は少女の一言で破られた。

「あなた、私の部下になりませんか?」

 突拍子もなく言い出した一言に、驚きを隠せなかった。正直に言えば、こんな雰囲気に仕事の勧誘をするなんて気でも違ったのかとまで考えた。

「オイオイオイオイ。あんた頭オカシイんじゃあねーのかァーッ!こんなときに人をバイトに誘ってんじゃあねーぜッ!」

「話は最後まで聞きなさい。いいですか。あなたは、これから極楽どころか地獄にも行けずに彼岸をさまようことになります。しかしです。私の部下になればこちらの世界、つまり幻想郷のこの世に行けます。悪い話ではないと思うのですが」

 上司の言葉に部下が口を開いた。

「四季様!お言葉ですが彼は生身の人間です。幻想郷には妖怪とか妖精とかが四六時中徘徊しているんです。とても、一般人が立ち入れる世界ではありません!」

 小町さんがそう言うと、少女の閻魔が呆れた顔で言う。

「......小町。あなた気づきませんでしたか。私達と同じように彼も能力を持っているのを」

「オイ、テメーらだけで話してんじゃあねーぜ。まだ部下になるって決めたわけじゃねーぞ」

 少女の閻魔が表情を冷ややかなものに変え、

「では、あなたは永遠に、この無限に続く彼岸をさまよう気ですか」

 反論が思い付かない。この女に良いように使われるのもゴメンだが、限りない退屈と比べられるとすこしだけ良いように思えてしまう。

「もし、オレが部下になったら何をするんだ。それだけ教えてもらいたいな」

「幻想郷ではたびたび異変が起こり住人たちを困らせています。その異変を解決するというのはどうでしょう」

「その異変を解決したら何か自分に見返りがあるのか?」

「それは、あなたの働きぶり次第です。見返りを求めるにはそれと同じくらいの行動が必要です」

 自分は学生の身分で死んだので、働くということはよくわからない。しかし、今の自分の答えは一つだった。

「ふ~、わかりました。あんたの下で働きまスよ。え~っと、四季......映姫様」

 小町さんが駆け寄る。

「あんた、ほんとに良かったのかい?」

「ああ、退屈は嫌いなんでな。自分の生まれた世界と違う世界を生きるなんてなんつーかスッゲーだろ?」

 正直に言えば最初からそういうつもりだった。地獄だとか天国に行くよりもずっと楽しいはずだ。そんなことよりもさっき映姫様(四季様のほうがいいんだろうか)が言っていた能力の話だ。あの時映姫様は私達と言っていた。つまり彼女らも能力を持っているはずだ。そしてその事を当然のことのように話していた。今から住む幻想郷というのは能力を持った者ばかりだろう。

「さて、今からあなたを正式に私の部下として迎えるための手続きをするので付いてきてください」

 自分は意気揚々と付いて行った。ここならば、前世で叶えられなかった夢が叶えられるはずだ。幸せに過ごすという夢。ここで、仕事を生きがいにその夢が叶うかもしれない。自分は生きていた時よりも鼓動を高鳴らせた。

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